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「黙示の更新」後に有期雇用契約で再契約するよう迫られた場合

契約期間満了後に更新されない場合は雇止め?それとも自動更新?』のページでも詳しく解説していますが、期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)の契約期間が満了した後に労働者が引き続きその職場で就労を継続し、使用者(会社)がそのことを知りながら異議を述べなかったとき(契約期間経過後も働いていることを会社が黙認していた場合)には、「黙示の更新」として引き続き契約が更新されたものとして扱われることになります(民法第629条1項)。

【民法第629条第1項】
雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。

たとえば、「契約期間1年」「時給800円」の契約でコンビニで働いているアルバイトのAさんが契約期間の最終日になっても店長から何も言われないので期間満了日の翌日もそれまでと同様にコンビニに出勤して働き、それをコンビニの経営者や店長が特に咎めることなく就労させていたような場合には、「黙示の更新」として、そのアルバイトのAさんは従前の労働条件(時給800円)と同一の労働条件で契約が更新されているものとして扱われることになるのです。

しかし、悪質な会社ではそのような「黙示の更新」が認められる事情があり契約が更新されたと判断できる状況であるにもかかわらず、その「黙示の更新」によって契約が更新された労働者に対して「黙示の更新によって契約が更新されていることを隠して」あるいは「黙示の更新を認めず」に労働者に対して新たな「有期雇用契約」を結びなおさせて、会社側の都合の良い時期に解雇(雇止め)するケースも少なからず存在しているようです。

そこで今回は、有期雇用契約の契約期間が満了し「黙示の更新」として契約が更新されている事情があるにもかかわらず、会社側から新たに有期雇用契約で再契約するよう迫られた場合には具体的にどのように対処すればよいのか、という点について考えてみることにいたしましょう。

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「黙示の更新」後の契約は「期間の定めのない雇用契約」になる

前述したように、悪質な会社では「黙示の更新」で契約が更新されていると認められる事情が存在しているにもかかわらず、労働者に対して「黙示の更新によって契約が更新されていることを隠して」あるいは「黙示の更新を認めず」に新たな「有期雇用契約」を結びなおさせて、会社側の都合の良い時期に解雇(雇止め)するケースがあるわけですが、なぜこのような会社の行為が問題になるかというと、「黙示の更新」によって契約が更新された後の雇用契約は「期間の定めのない雇用(無期雇用契約)」として継続されることになるからです。

この点、契約期間が満了するまでは「有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)」であったのになぜ「黙示の更新」によって「無期雇用契約(期間の定めのない雇用)」に変更されるのかという点に疑問を持つ人も多いかもしれませんが、法律上は「黙示の更新」によって更新される契約は「無期雇用契約(期間の定めのない雇用)」であると解釈されるのが通説・多数説となっています(※この点の詳細については『契約期間満了後に更新されない場合は雇止め?それとも自動更新?』のページで詳しく解説しています)。

前述したコンビニのアルバイトの例でたとえると、「時給800円」で「1年」という「有期雇用契約」の期間が満了したAさんがコンビニの店長が黙認している状況で契約期間満了後もそれまでどおり出勤して就労していた場合には「黙示の更新」として「従前の労働条件と同一の条件」つまり「時給800円」という労働条件で契約が更新されることになりますが、「黙示の更新」によって更新された後の契約は「契約期間1年」の「有期労働契約」になるのではなく「無期雇用契約」として継続されることになりますので、この場合のAさんは「黙示の更新」として更新された後は「期間の定めがない」契約で雇用されるといういわゆる「終身雇用」されるということになるのです。

そして、「無期雇用契約(期間の定めのない雇用)」の一番のメリットは「有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)」のように「契約期間の満了によって雇止めされるリスク」がなくなる点にありますから、「黙示の更新」で「無期雇用契約(期間の定めのない雇用)」として契約が更新されているにもかかわらず、会社から「有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)」で再契約するよう迫られた場合には、その「契約期間の満了によって雇止めされるリスク」を再び負担しなければならないことになりますので、労働者にとっては不利益な結果につながることになり問題が生じることになります。

「黙示の更新」の後に会社から「有期雇用契約」で再契約するよう迫られる状況は「労働条件の不利益変更の強制」にあたる

以上で説明したように、有期雇用契約の契約期間が満了し「黙示の更新」として契約が更新されている場合にはその後の契約は「無期雇用契約(期間の定めのない雇用)」として存続することになりますから、それにもかかわらず会社側が「有期雇用契約」で再契約するよう迫ってくる場合にはその行為は労働者に対する「労働条件の不利益変更」を強制しているか、もしくは「労働条件の不利益変更」に同意するよう迫っているということになります。

なぜなら、「無期雇用契約(期間の定めのない雇用)」の場合には「契約期間の満了」という概念がないため懲戒事由に該当するような非違行為をするか整理解雇が必要となるような経営環境の悪化でも発生しない限り会社を解雇されることは通常ありませんが、「有期雇用契約(期間の定めのない雇用)」の場合にはその定められた契約期間の満了し契約が更新されない場合には「雇止め」として会社から解雇される可能性があるからです。

このように、「有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)」の場合には「契約期間の満了によって雇止めされるリスク」が労働者に発生することになりますから、「黙示の更新」によって「無期雇用契約(期間の定めのない雇用)」として契約が更新されているにもかかわらず会社側が「有期雇用契約」で再契約するよう迫る状況は、労働者に対する「労働条件の不利益変更」を強制しているか、もしくは「労働条件の不利益変更」に同意するよう迫っているということになるのです。

「労働条件の不利益変更」は労働者の同意がない限り無効

以上で説明したように、有期雇用契約の契約期間が満了し民法第629条1項によって「黙示の更新」が認められる事実がある場合には従前の労働条件と同一の契約が「無期雇用契約(期間の定めのない雇用)」として継続されることになりますから、これを会社が「有期雇用契約(期間の定めのある雇用)」に変更しようとしている場合には、その会社の行為は「労働条件の不利益変更」を強制または同意を迫っているということになります。

この点、労働者の側がそのような「有期雇用契約(期間の定めのある雇用)」への契約変更に応じなければならないかが問題になりますが、労働契約法の第3条1項では労働契約の変更は使用者と労働者の合意に基づいて変更すべき旨が定められ、また労働条件の変更についても労働契約法第8条において使用者と労働者の合意が必要であると規定されていますので、会社からそのような労働条件の変更を求められたとしてもそれに応じる必要はありません。

【労働契約法第3条1項】
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
【労働契約法第8条】
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

仮に会社側が労働者の合意(同意)を得ずにそのような労働条件の変更を行った場合にはその変更は労働契約法に違反し権利の濫用として無効なものと判断されることになります(労働契約法の第3条5項)。

【労働契約法第3条1項】
労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

したがって、有期雇用契約の契約期間が満了し「黙示の更新」により「無期雇用契約(期間の定めのない雇用)」として契約が更新されているにもかかわらず、会社側から「有期雇用契約で再契約しなさい」と迫られた場合であってもそれに応じなければならない義務はありませんし、仮に会社側が強制的に「有期雇用契約(期間の定めのある雇用)」に契約を変更してしまった場合には、その行為は「労働者の同意のない労働条件の不利益変更」となり労働契約法第3条1項及び同条8条に違反する無効なものと判断されますので、その無効を主張して撤回を求めることも可能となります。

「黙示の更新」後に有期雇用契約で再契約するよう迫られた場合の対処法

以上のように、有期雇用契約の契約期間が満了し「黙示の更新」によって契約が更新されたものと判断できる事情がある場合には、その「黙示の更新」によって更新された契約は「期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)」となりますので、仮に会社から「有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)」に変更するよう求められたとしてもそれを拒否してかまいませんし、会社側が強制的に「有期雇用契約」に変更するような場合にはその無効を主張してその撤回を求めることも可能となります。

なお、会社側が執拗に「有期雇用契約」に変更することに同意を求めて来たり、強制的に「有期雇用契約」に変更してしまった場合には、具体的に次のような方法を用いて対抗することが必要になると思われます。

(1)申入書(通知書)を送付する

「黙示の更新」によって「無期雇用契約(期間の定めのない雇用契約)」として契約が更新されているにもかかわらず、会社が「有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)」に契約を変更するよう求めて来たり、「有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)」に強制的に変更されてしまった場合には、「黙示の更新によって無期雇用契約として契約が更新されていること」を記載した「通知書(申入書)」を作成したり、「契約の変更の撤回を求める申入書(通知書)」を作成して、「書面(文書)」という形で会社に通知してみるのも一つの方法として有効です。

口頭で「黙示の更新で無期雇用契約として更新されている!」とか「同意のない有期雇用契約への変更を撤回しろ!」と請求して埒が明かない場合であっても、文書(書面)という形で改めて正式に通知すれば、会社側が「なんか面倒なことになりそう」とか「裁判を起こされるんじゃないだろうか」と考えて有期雇用契約への変更を求めることをあきらめたり、同意を得ず一方的に有期雇用契約に変更した契約を撤回して無期雇用契約に戻すことも考えられますから、申入書(通知書)という書面(文書)の形で通知することも一定の効果があると思われます。

なお、この場合に会社に送付する申入書(通知書)の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

黙示の更新後の有期雇用契約への変更を拒否する旨の通知書

▶ 黙示の更新後の有期雇用契約への変更の撤回を求める申入書

(2)労働局に紛争解決援助の申立を行う

全国に設置されている労働局では、労働者と事業主の間に発生した紛争を解決するための”助言”や”指導”、または”あっせん(裁判所の調停のような手続)”を行うことが可能です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第1項)。

【個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条1項】
都道府県労働局長は(省略)個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該個別労働関係紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができる。

この点、有期雇用契約の契約期間が満了し「黙示の更新」が認められる事情があったことによって「期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)」として契約が更新されているにもかかわらず、会社側が有期雇用契約への変更や再契約を求めていたり、労働者側の同意を得ないまま一方的に有期労働契約に契約を変更してしまった場合にも、「黙示の更新によって無期雇用契約として契約が更新されている」ことを根拠として「有期雇用契約への変更に同意しない」労働者と、「有期雇用契約への契約の変更」に同意を迫ったり「労働者の同意を得ないまま一方的に有期雇用契約に更新を変更」してしまった会社側との間に”紛争”が発生しているということになりますので、労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能になると考えられます。

労働局に紛争解決援助の申立を行えば、労働局から必要な”助言”や”指導”がなされたり、”あっせん案”が提示されることになりますので、事業主側が労働局の指導等に従うようであれば、使用者(会社)側がそれまでの態度を改めて違法な「有期雇用契約への変更」への同意を求めることを止めたり、同意を得ずになされた有期雇用契約への変更を撤回する可能性も期待できるでしょう。

なお、この場合に労働局に提出する紛争解決援助申立書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 黙示の更新後の有期雇用契約への変更に関する労働局の申立書

(3)弁護士などに依頼し裁判や調停を行う

上記のような手段を用いても解決しなかったり、最初から裁判所の手続きを利用したいと思うような場合には弁護士や司法書士に依頼して裁判や調停を申し立てるしかないでしょう。

弁護士などに依頼するとそれなりの費用が必要ですが、法律の素人が中途半端な知識で交渉しても自分が不利になるだけの場合も有りますので、早めに弁護士や司法書士に相談することも事案によっては必要になるかと思われます。