使用者(会社)と労働者の間で結ばれる雇用契約(労働契約)には「期間の定めのない雇用契約」と「期間の定めのある雇用契約」の2種類が存在しています。
このうち「期間の定めのない雇用契約」とは、文字どおり雇用期間に一定の期間が定められていない雇用契約のことをいい、一般的には終身雇用制を採用している会社の正社員がこれに該当することになりますが、アルバイトやパート従業員であっても契約期間が定められていない場合には「期間の定めのない雇用契約」となります。
一方、「期間の定めのある雇用契約」とは、たとえば「〇年○月から〇年○月まで」とか「〇年ごとに契約を更新する」などとその就労する期間が一定の期間に限定されている雇用契約のことをいい、契約社員やアルバイト、パートなどで多く見られる雇用形態といえますが、正社員として採用された場合であってもこのように就労する期間が一定の期間に限定されているような場合には「期間の定めのある雇用契約」となります(※正社員が「期間の定めのある雇用契約」で雇われる場合は「契約社員」と呼ばれるのが一般的です)。
ところで、この2種類の雇用契約(労働契約)のうち「期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)」で会社から雇用された場合には、その契約期間が満了する1か月ほど前に会社側から契約更新の有無が通知されるのが一般的ですが、場合によっては会社が契約更新の有無を全く通知しないまま契約期間が満了してしまうことがあります。
このような場合、その満了した有期雇用契約はその期間が満了した時点で強制的に雇止め(解雇)となってしまうのでしょうか?、それとも自動更新となって引き続き働き続けることが出来るのでしょうか?
有期雇用契約の契約期間が満了しても自動的に契約が更新されるわけではない
前述したように、有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)の計約期間が満了した場合に使用者(会社)側が契約更新の有無を労働者に対して全く通知しない場合がありますが、このような場合に自動的に雇用契約が更新というわけではありません。
なぜなら、有期雇用契約が満了した時点で雇用主が更新を拒否しない場合に契約が自動更新されると定めた法律がないからです。
もちろん、契約の当初に「期間満了時に異議がない場合は自動的に更新される」などといった条項が契約に盛り込まれている場合には自動更新されることが労働条件の一つとなっていますので自動的に契約が更新されることになりますが、そのような契約になっていない場合には法律の規定で判断されることになり、法律の規定がない以上、自動的に更新されるわけではないことになります。
もっとも、だからといって契約期間が満了した時点で自動的に雇止め(解雇)になるわけではありません。
次のような事実がある場合には「黙示の更新」と判断されて、使用者(会社)側が更新をする旨の意思表示をしていない場合であっても雇用契約が自動的に更新されることになります。
「黙示の更新」があったと判断される場合
前述したように、有期雇用契約(契約期間の定めのある雇用契約)の計約期間が満了した時点で使用者(会社)側が契約の更新について何ら通知しない場合であっても自動的に契約が更新されるわけではありません。
しかし、その契約期間が満了した後に労働者が引き続きその職場で就労を継続し、使用者(会社)がそのことを知りながら黙認していた場合には、契約が更新されたものとして扱われることになります(民法第629条1項)。
雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。
このように、有期雇用契約の契約期間が満了した場合において労働者が引き続き就労を継続しているのを使用者(会社)側が認識しておきながらそれに異議をとなえない場合には、使用者(会社)側においてその労働者を継続して雇用しても良いという判断があったものと解されますから、たとえ契約を更新したという事実がない場合であっても契約を更新することについて黙示的に承認を与えたということができますので、黙示の更新があったと推定されることにされているのです。
たとえば、「契約期間1年」「時給1000円」の労働条件で働いているAさんが、契約期間満了日までに会社から契約更新の有無について何ら連絡されなかったため契約期間が満了した日の翌日もそれまでと同様に出社し会社から特に何も言われずそれまでどおり勤務を継続したような場合には、そのAさんは契約期間満了後も「時給1000円」の労働条件で雇用契約が更新(黙示の更新)されたものと判断されることになります。
「黙示の更新」後の契約は「期間の定めのある雇用契約」になるか「期間の定めのない雇用契約」になるか
前述したように、有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)の契約期間が満了した後に労働者が引き続きその職場で就労を継続し使用者(会社)がそれを知りながら異議を述べない場合には、「黙示の更新」があったものとして「従前の雇用と同一の条件」で契約が更新されたものとして扱われることになります(民法第629条1項)。
この場合、「黙示の更新」があった後の契約がどのような契約になるのか、つまり「黙示の行使」があったと判断されて雇用契約が継続された場合、その黙示の更新後は「期間の定めのある雇用契約」として継続されるのかそれとも「期間の定めのない雇用契約」として継続されるのか、という点が問題となります。
なぜなら、有期雇用契約の期間満了後の黙示の更新を規定した民法第629条1項の”前段”では「従前の雇用と同一の条件で更に雇用を更新したものと推定する」と規定されていますので、一見すると「従前の雇用と同一の条件」という部分を「従前の有期雇用契約と同一の条件」と理解して「黙示の更新」以降は「期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)」として契約が更新されるというよう見えますが、同条同項の”後段”では「第627条の規定により解約の申入れをすることができる」と規定されており「民法の第627条」が「期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約」を規定した条文であることを考えれば「黙示の更新」以降は「期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)」として契約が更新されたと解釈することができると考えられるからです。
この点の判断については過去の裁判例もその判断が分かれているようですので必ずしも明確な答えを導き出すことはできませんが、通説や過去の裁判例の多くは「黙示の更新」があった後の契約は「期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)」として継続されるものと判断されているようです(日本労働弁護団著:労働相談実践マニュアルVer.5:296頁参照)。
そのため、たとえば「契約期間1年」「時給1000円」という労働条件で働いているAさんが契約期間満了日までに会社から契約更新の有無について何ら連絡されなかったため契約期間が満了した日の翌日もそれまでと同様に出社し会社から特に何も言われずそれまでどおり勤務を継続できたような場合には、そのAさんは「黙示の更新」がなされたものとしてそれ以後も働き続けることができますが、その「黙示の更新」がなされた以降の契約は「時給1000円」という労働条件に変わりはありませんが「契約期間1年」の契約となるのではなく「期間の定めのない雇用契約」となります。
なお、一般的には「期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)」で雇用されるのはアルバイトやパート、契約社員といったいわゆる「非正規労働者」で、「期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)で雇用されるのは「正社員(正規労働者)」であることが多いと思われますが、有期雇用契約である「非正規従業員」が契約期間を満了して「黙示の更新」として契約が継続された場合、それ以降は「期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)」として契約が継続されることになりますから、「黙示の更新」によってアルバイトやパート、契約社員といったいわゆる「非正規労働者」から「正社員(正規労働者)」に雇用形態が変更されるということになります。
会社側が「黙示の更新」を認めない場合の対処法
なお、会社側が「黙示の更新」を認めずに雇止め(解雇)をしてきたり、「黙示の更新」がなされた後に「有期雇用契約」で再契約するよう迫ってきた場合の対処法などについてはこちらのページを参考にしてください。
▶ 「黙示の更新」後に有期雇用契約で再契約するよう迫られた場合