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不況や経営環境の悪化を理由に内定を取り消された場合


採用内定を取り消されるというトラブルについては、学生さんであれば一度は見聞きしたことがあるのではないかと思われます。

この採用内定の取消に関する取消事由としては、特段の理由なしに一方的に内定取消通知書が送られてくることが多いようですが、会社の経営環境の悪化や社会的な不況が原因として内定取消を行う企業も少なからずあるようです。

しかし、自ら求人を行い募集を掛けて採用通知を出しておきながら、そのわずか数か月後に「不況になったから採用を取消します」とか「会社の業績が悪化したから内定を取り消します」といって内定を反故にしてしまうのはあまりにも勝手すぎますし、そのような不況や経営状況の悪化が理由であるならば、そもそも初めから新入社員の募集など掛けなければ良いのです。

仮に求人を掛けた後に急激に社会情勢や経営状態が悪化することになったとしても、そのような将来的な見通しは企業として当然予測しておくべきですから、その判断を誤ったことによって生じる不利益を内定取消によって学生側に転嫁するのは企業側の横暴であり、求職する機会を喪失してしまった学生側(求職者側)にあまりにも酷な結果となり不都合でしょう。

そこで今回は、不況や経営状況の悪化を理由として企業が内定を取り消すことに問題はないのか、また不況や経営状況の悪化を理由に内定先の企業から内定取り消しを受けた場合には具体的にどのように対処すればよいかといった点について考えてみることにいたしましょう。

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「不況」や「経営状況の悪化」を理由にした内定取消は権利の濫用として無効

最高裁判所の判例では”内定”とは「入社予定日を就労開始日とする解約権留保付きの労働契約(雇用契約)」であると考えられていますから、仮に内定取消事由が発生したとしても、その内定取消事由が採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、その内定取消事由となった理由(事実)が客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と認められるものでない限り、その内定取消は無効と判断されるのが通常です(大日本印刷事件:最高裁昭和54年7月20日)。

そのため、不況や経営状況の悪化が内定取消の理由である場合には、その不況や経営状況の悪化によって内定者の内定を取消すことが「客観的に合理的」で「社会通念上相当」といえるかが重要な判断基準となります。

この点、不況や経営状況の悪化が生じたことで採用が困難になったのが真実であれば内定を取り消すこともやむを得ないと考えられますから、一見すると内定者の内定を取り消すことも「合理的」と判断されるような気もします。

しかし、前述したように、そのような社会の経済状況の将来的な推移や自社の経営状況の見通しは常識的に考えれば本来企業の側で慎重に判断しておかなければならない事項なのであって、そのような経済状況や経営判断を見誤ったことによる責任は企業側が自ら負担するのが当然でしょう。

それにもかかわらず、その責任を何の落ち度もない内定者に内定取消という措置で負担させるのは公平ではありませんし、あまりにも内定取り消しを受けた学生に酷な結果となってしまいます。

このように考えると、企業側の立場から見れば不況や経営状況の悪化を理由として内定取消を行うことも「主観的には合理的」といえるかもしれませんが、第三者的な立場(客観的な立場)から見ればとても合理的とは言えませんから、不況や経営状況の悪化を理由に内定を取り消すことは「客観的合理的」とは言えないでしょう。

また、仮に不況や経営状況の悪化が真実であり、内定を取り消さなければ会社の存続が危ぶまれるなど内定を取り消さなければならないことに客観的合理的な理由があると判断できるとしても、やはりそのような原因を作ったのは社会状況の見通しや会社の経営判断を誤った事業主自身にあるといえるのですから、そのような判断の過ちによって発生した不利益を内定取消という形で何の落ち度もない内定者(学生)に転嫁してしまうのは社会通念上相当とは言えないはずです。

以上のように、不況や経営状況の悪化を理由に内定を取り消すことは最高裁判所の判例の判断基準に当てはめれば客観的合理的な理由はなく社会通念上ともいえませんから、そのような理由による内定の取消は解雇権の濫用として無効になると考えられます。

厚生労働省の指針でも「採用内定取り消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずる」ことが求められている

前述したように不況や経営状況の悪化を理由に内定(又は内々定)を取り消すことは権利の濫用として無効と判断されるのが通常ですが、不況や経営状況の悪化を理由に内定を取り消しを行わないことについては厚生労働省の指針においても明確に規定されています(新規学校卒業者の採用に関する指針)。

内定を受けた学生は通常、就職活動を終了するのが一般的ですから、就職活動が終わったあとに内定を取り消されてしまってはその年度内の新卒採用には応募できないことになり、翌年まで浪人して新卒として就職活動をやり直すか第二新卒や中途採用としてしか就職することが出来なくなるため学生に与える影響は甚大といえます。

そのため、厚生労働省は新規学校卒業者の募集をする企業に対して「新規学校卒業者の採用に関する指針」を策定して、たとえ不況や経営状況の悪化が生じた場合であっても企業が無秩序に採用内定の取消を行わないよう注意を与えているのです。

この点、この指針の第4項には「採用内定取消し等の防止」として「事業主が採用内定を取り消さないこと」や企業の採用内定取消しを防止するために事業主が最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずること」が明確に明記されています。

【新規学校卒業者の採用に関する指針(抄)】
4 採用内定取消等の防止
(中略)事業主は、次の事項について十分留意すべきです。
① 事業主は、採用内定を取り消さないものとする。
② 事業主は、採用内定取り消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずるものとする。
 なお、採用内定者について労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定取消しは無効とされることについて、事業主は十分に留意するものとする。
③ 事業主は、やむを得ない事情により、どうしても採用内定取消し又は入社時期の繰り下げを検討しなければならない場合には(中略)、採用内定取消の対象となった学生・生徒の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、採用内定取消し又は入社時期繰下げを受けた学生・生徒からの補償等の要求には誠意をもって対応するものとする。
(※厚生労働省:新規学校卒業者の採用に関する指針より引用)

会社は内定取消回避する最大限の努力義務を負う

指針の上記②の「採用内定取り消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずる」とは、具体的には、いったん採用を出した事業主においては仮に不況や経営状況の悪化が生じた場合であっても内定取り消しを回避するような努力を最大限行わなければならないことを意味します。

この「内定取り消しを回避するような努力」とは、具体的には整理解雇の場合に議論されるいわゆる「整理解雇の4要件」を行っているかが問題となりますから、内定取消を行う前に次の4つの要件について十分に議論が尽くされ、適正に措置が取られていない限り「内定取り消しを回避するような努力を最大限に行った」ことにはならないことになります。

【整理解雇の四要件】
(1)人員削減の必要性…人員削減の必要性が十分にありまたやむを得ないといえるかが議論されていること。
(2)解雇回避努力義務…内定取消を回避するために必要な努力、たとえば役員報酬の減額や賃金カット、遊休資産の売却や不採算事業からの撤退、希望退職者の募集などがなされていること。
(3)人選の適合性…内定者と既存の他の社員とを比較して内定者を解雇(内定取消)することに合理性があること。
(4)説明・協議義務…学生に対し内定取消の必要性・適法性を十分に説明し、協議していること。

上記の4つの要件のうち一つでも企業の側に不十分なものがある場合には、その企業の行った内定の取消はたとえ不況や経営状況の悪化によりやむを得ない事情としてどうしても必要であったとしてても、その内定の取消は権利の濫用として無効と判断されることになるでしょう。

(たとえば、仮に会社が役員報酬や従業員のカット、不採算事業からの撤退を行っても内定取り消しを行わなければ会社の存続が危ぶまれる状況であったとしても、そのことを内定者に十分に説明していないような場合には、上記の(4)の要件を満たしていないためその内定取消は無効と判断されます)

(※なお、この整理解雇の4要件による判断基準は前述した最高裁の判例における解雇権濫用の法理の中にも包括されていますので、仮にこの指針がなかったとしても企業が不況や経営状況の悪化を理由として内定を取り消す場合には、この4つの要件全てを適正に満たしていない限りその内定の取消は権利の濫用として無効と判断されます。)

仮に内定取消が適法であったとしても、学生からの補償の要求に誠意をもって対応しなければならない

また、この厚生労働省の指針では、「学生・生徒からの補償等の要求には誠意をもって対応する」ことが明確に規定されていますので、仮に上記の最高裁判所の判例(整理解雇の4要件)の判断基準に従って内定の取消が適法と判断される場合であっても、事業主には学生に対して誠実に補償等を行っていくことが求められているといえます。

前述したように、採用内定の取消は学生にとって新卒というブランド(※新卒採用だけが重要視される現行の就職活動に問題はありますが…)を失い、就職活動を行う貴重な機会を逸失してしまうことになりますから、もし仮に不況や経営状況の悪化を理由とした内定の取消を受けた場合には、会社に対して補償を求めることは正当な権利といえますし、この指針に記載されているとおり、会社側は学生からの補償の要求には誠実に対応しなければならないでしょう。

このように厚生労働省が出している指針でも、企業が内定を取り消すことは否定されていますし、仮に不況や経営状況の悪化を理由として内定の取消が必要な場合であって、かつその内定取消に客観的合理的理由があり社会通念上必要と判断される場合であっても、その学生に真摯に補償することが義務付けられているといえます。

不況や経営状況の悪化を理由として内定を取り消された場合の具体的な対処法

以上で解説したように、不況や経営状況の悪化を理由として内定を取消された場合には、最高裁判所の判例に沿って考えればその取消は解雇権の濫用であり違法(無効)と判断される可能性が高いのではないかと思われます。

また、厚生労働省の指針においても内定の取消は明確に否定されていますから、そのような不当な理由で内定や内々定を取消された場合には、その違法性(解雇権の濫用であること)を会社側に主張して内定や内々定の取り消しの撤回を求めていく必要があるといえるでしょう。

なお、このように不況や経営状況の悪化を理由として内定を取り消された場合の具体的な対処法についてはこちらのページで解説していますので参考にしてください。

▶ 採用内定を取り消されたときの対処方法とは?

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