社内でセクハラに遭った場合、皆さんはどのような対応をとっている(またはとるつもり)でしょうか?
気の強い人であれば、毅然とした態度でセクハラを行う相手に対して抗議の声を上げる場合もあるでしょう。
しかし、多くの人(多くの場合は女性)は、恥ずかしさなどから抗議することを躊躇したり、後の報復(嫌がらせ)への不安から泣き寝入りしているのが現状ではないでしょうか?
また、そもそもセクハラを受けた場合に、どこに相談に行き、どのような対応をとれば良いか分からない人も多いと思います。
そこで今回は、セクハラを受けた場合の対処法などについて考えてみることにいたしましょう。
まず、自分が「セクハラを受けている」と自覚することが必要
セクハラを受けた場合の対処法を考える前提として、まず自分が「セクハラを受けている」ということを自覚している必要があります。
上司や同僚から性的な言動を受けたとしても、それを自分が「セクハラ」と認識していない場合は、そもそもそれに対して何らかの対応をするという必要性すら感じないでしょう。
そのため、まずは自分が上司や同僚から受けている「性的な言動」がセクハラなのかセクハラではないのかを判断する基準を知っておく必要があるのです。
どのような行為がセクハラになるかという点を明確に規定している法律というものはありませんが、厚生労働省が出している「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(厚生労働省の告示(平成18年厚生労働省告示第615号))にその判断基準が示されています。
厚生労働省の指針では、セクハラは「労働者の意に反する性的な言動により労働者の労働環境に支障が出たり不利益な取り扱いを受けること」と規定されています。
分かりやすく言うと、性的な言動を受けた側の労働者が、それに対して「嫌」だと不快に思うのであれば、その受けた性的な言動は全てセクハラということになります。
セクハラについては、「性的な言動」を受ける側個人の感覚で判断されますので、例えば従業員AとBの2人に同じエッチな言葉を言った場合にAが「嫌」と思わなくても、Bが「嫌」と思うのであれば、そのエッチな言葉はAに対するセクハラにはなりませんが、Bに対してはセクハラに該当することになります。
このように、セクハラとは、「性的な言動」を受け取る側が「セクハラ」と感じれば、それは「セクハラ」になるということになります。
なお、セクハラの判断基準についてはこちらのページで詳細に解説していますので参考にしてください。
会社はセクハラに対応しなければならない義務がある
男女雇用機会均等法(※正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」)の第11条では、事業主がセクハラの相談を受けた場合には相談に応じるとともに、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないと規定されています(男女雇用機会均等法第11条第1項)。
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
そのため、使用者(会社・雇い主)は、労働者(従業員)からセクハラの報告があった場合には、必ずその労働者からの相談に応じなければなりません。
会社側にセクハラがあったことを報告しても会社側が何らの相談にも応じない場合は、その会社は法律違反を犯しているということ(正確には「厚生労働省の告示に違反している」ということ)になりますので、通常の会社であればセクハラに遭った事実を報告すれば何らかの対応をしてもらえるはずです。
ですから、セクハラの被害にあった場合は、まず会社に対してセクハラをやめさせるよう相談することが必要でしょう。
(※相談の相手方としては通常は直属の上司となるでしょうが、その上司がセクハラを行っているような場合は他の部署の上司に相談したり、セクハラの相談窓口がある場合はその部署に、無い場合は総務や適当な部署に相談するしかないでしょう。どうしても相談する場所がない場合は社長に直接手紙を書くとかでもいいでしょう。)
なお、セクハラの被害を会社に申告する場合は、後日裁判などに移行する場合も想定し、文書を送付する方が良いと思います。
文書でセクハラの中止を要請する場合は、後日証拠として利用できるようにするため、その申し入れ書を内容証明郵便で送付するかコピーを取ったうえで特定記録郵便などで送付するよう心掛けましょう。
なお、この場合に会社に対して送付する申入書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。
労働局で紛争解決援助の申立を行う
全国の労働局長は、セクハラの相談があった場合には、そのセクハラについて助言・指導・勧告を出さなければならないと規定されています(男女雇用機会均等法17条1項)。
都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
そのため、もしも会社に対してセクハラの相談を行っても会社が何らの対応もしてくれないような場合には、最寄の労働局に行ってセクハラの事実を申告し相談してみるのも一つの方法です。
労働者からセクハラの相談を受けた労働局(労働局長)は、そのセクハラ被害に対して助言・指導・勧告を出さなければなりませんので、労働局長の名前で会社に対して指導や是正勧告が出される場合には、セクハラの改善が望めるでしょう。
ちなみに、労働局に紛争解決の援助の手続きは無料で行うことができますので、経済的に余裕のない人でも安心して利用することができるでしょう。
なお、労働局に対してセクハラの被害に関する紛争解決援助を求める場合の申立書の記載例についてはこちらのページでご確認ください。
企業名が公表されることもある
なお、会社側が労働局から出された助言・指導・勧告に従わずセクハラを放置した場合には、労働局がそのセクハラを放置している企業の名前を公表することができます(男女雇用機会均等法29条及び同法30条、男女雇用機会均等法規則14条)。
厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
厚生労働大臣は、(省略)の規定に違反している事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
そのため、労働局に相談に言った場合に、労働局から助言・指導・勧告が出される場合には、会社側が企業名の公表を嫌ってセクハラの改善に本腰を入れるということも期待できるかもしれません。
労働局の調停を利用する
また、全国の労働局では、労働者からセクハラの相談があった場合において、当事者の一方から申請があったときには、紛争調停委員会による調停を行うことができます(男女雇用機会均等法第18条第1項)。
都道府県労働局長は、第十六条に規定する紛争(省略)について、当該紛争の当事者(省略)の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、(省略)紛争調整委員会(省略)に調停を行わせるものとする。
この調停は裁判所ではなく労働局が行う紛争解決手続きですが、必要がある場合には会社の責任者やセクハラの加害者の出頭を求めたりすることもできる比較的強力な手続きです(男女雇用機会均等法第20条第1項)。
委員会は、調停のため必要があると認めるときは、関係当事者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。
調停が整えば、労働局の方からセクハラを是正するような調停案が会社に出されることもありますので、会社と話し合いをしてもセクハラが改善しないような場合には利用してみるのも良いでしょう。
ちなみに、この労働局で行われる調停の手続きも無料で利用することができますので、経済的に余裕のない人でも安心して利用することができると思います(※裁判所で行われる調停は裁判所に納める費用が発生します)。
なお、調停の申請書は厚生労働省のサイトからダウンロードすることが可能です。
裁判を行う
会社にセクハラの報告をしても、労働局に相談に行ってもセクハラに改善が見られない場合は、弁護士などの法律専門家に裁判を依頼することも検討する必要があります。
裁判には、裁判所で行われる調停のほか、不法行為に基づく損害賠償請求などもありますし、訴訟の形式でも通常の裁判意外に労働審判などもありますので、この辺は依頼する弁護士などの法律専門家と相談して決める方が良いでしょう。
▶ 弁護士?司法書士?社労士?労働トラブルの最適な相談先とは?
警察に相談に行く
会社で行われているセクハラが、刑事事件になるようなものである場合は警察に被害届を出すのも一つの方法です。
たとえば、無理やり体を触られるのは強制わいせつ罪(警報176条)になりますし、その他にも何らかの行為を強制させられている場合には強要罪(刑法223条)に、ひどい場合には強姦罪(刑法177条)に該当する場合もあるでしょう。
▶ セクハラと強制わいせつ、軽犯罪法、迷惑防止条例違反の違いは?
会社内でのセクハラが強制わいせつや軽犯罪法に違反するケースというのは通常あまり考えられませんが、仮にそのような悪質性の高いセクハラであるようなセクハラの場合には、警察に相談することで解決するものも事案によってはあり得るのではないかと思われます。
セクハラの証拠を保存しておくこと
以上のように、セクハラの対処法としては会社に報告することの他に労働局に相談や調停の申請をしたり、民事裁判を行う方法などがあります。
これらすべての場合に共通することですが、セクハラに対処する場合には、必ずセクハラの証拠となる者を抑えておくことが肝要となります。
会社だけでなく、労働局や裁判所にセクハラを訴える場合であっても、そのセクハラがあったという証拠を示さない限り、まず話を聞いてもらえることはないでしょう。
そのため、セクハラに遭った場合には、まずそのセクハラの証拠となるようなものを保存しておくよう努めてください。
セクハラの証拠となるものは例えば
・セクハラの現場を撮影した動画やビデオテープ
・セクハラの現場で録音した音声記録
・セクハラの言動が記されている手紙やメール
などが代表的ですが、これらの記録が採れないような場合には、毎日日記をつけてその日記にセクハラの状況を記録しておくなどで対処するしかないでしょう。