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求人票に記載された給料と実際の給料が異なる場合の対処法

「ハローワークの求人票や求人雑誌で見た給与の金額は多かったのに、実際に務めてみるとそんなにもらえなかった」

というような経験はないでしょうか?

 「ネットの求人サイトで見た時は自給1000円と書いてあったのに面接に行ったら自給900円と言われた」とか、「求人票では『週休2日』と書かれていたのに、実際に務めてみると土曜は隔週でしか休みにならなかった」とかいった経験は誰しも一度はあると思います。

しかし、このような求人票にウソの待遇を書いて行う求人方法は全く問題とならないのでしょうか?

そこで、ここでは求人票などに記載されている労働条件と実際の労働条件が異なる場合の対処法などについて考えてみることにいたしましょう。

なお、面接の際に説明を受けた内容と異なる労働条件や待遇が労働契約書に記載され、それに気づかずに契約書にサインしてしまいその労働契約書に記載された労働条件や待遇で就労させられているというような場合の対処法については『面接と違う内容の労働条件が雇用契約書に記載されている場合』のページで、また、面接の際に説明を受けた労働条件や待遇が労働契約書(雇用契約書)にきちんと記載されてはいるものの、実際に働き始めてみるとそれよりも低い労働条件や待遇で働かされてしまっているというような場合の対処法については『実際の賃金・休日等が面接や労働契約書の内容と異なる場合』のページで解説しています。

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求人票に記載された賃金や労働時間などの労働条件がそのまま採用時の労働条件となるか?

求人票などに記載されている給与額や勤務時間などの労働条件は、企業側が求職者に対し「この労働条件で働きませんか?」と問いかける「申し込みの誘引」に当たります。

すなわち、求人票に「時給1000円」と記載されている場合は、募集する企業側は「時給1000円で働きたい人は就職を申し込んでください」と求職者を「誘引」していることになるのです。

このように、求人票に記載された労働条件は、あくまでも求職者を「誘引」するために提示する労働条件にすぎませんから、誘因に応じた求職者と企業の間で後日、当初提示されていた労働条件と異なる労働条件で雇用契約を結ぶことも可能です。

そのため、求人票に記載している時給や勤務時間(労働条件)と異なる労働条件を採用面接などの際に企業側が説明し、求職者側がこれに応じたような場合には、求人票に記載されている時給や労働時間(労働条件)と異なる時給や労働時間(労働条件)で労働契約が結ばれることになります。

たとえば求人票に「時給1000円」と記載されていたのに、面接の際に「求人票には1000円と書いていたけれども950円でもかまわない?」と問われて「950円でもかまいません」と応じたような場合には、時給950円の労働契約が結ばれることになります。

なお、求人広告に実際とは異なる虚偽の労働条件を掲載したり労働者の募集を行った企業に対しては6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性(職業安定法第65条)があるため事業主が事実と異なる求人を出すこと自体に問題はありますが、そのような刑事的な問題はあるとしても、求人広告の労働条件と実際の労働条件が異なっている場合には当事者間で合意した労働条件が実際の労働契約の内容となります。

【職業安定法第65条】
次の各号のいずれかに該当する者は、これを六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
第1~7号(省略)
第8号 虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を呈示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者
第9号(省略)

求人票記載の賃金より実際の賃金が著しく低い場合には差額を請求できる可能性もある

前述したように、求人票に記載されている労働条件と実際の労働条件が異なる場合に、その求人票に記載されている条件とは異なる労働条件で労働契約を結んだ場合には、その求人票とは異なる労働条件が労働契約の内容となります。

しかし、その実際の労働条件が求人票に記載されている労働条件を著しく下回る場合には、求人票と実際の労働条件の違いが問題となる場合があります。

たとえば、求人票には「時給1000円」と記載されていたのに、実際に面接を受けてみると「うちの時給は650円なんだよね」と言われるような場合には、たとえ「650円でも大丈夫です」と求職者が応じた場合であっても、求人票に時給1000円と記載していた企業の側に法的な問題が発生する余地が生じます。

なぜなら、労働者と使用者の間で結ばれる労働契約のルールを定めている「労働契約法」では、「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。(労働契約法3条4項)」と「信義誠実の原則」を規定しており、それに反する行為を取ることが法的に許されないと判断されることがあるからです。

この事例のように実際の時給が「650円」であるにもかかわらず、「時給1000円」という金額を提示して求職者を誘引する行為(求人票に記載されている金額を著しく下回る金額で働かせようとする企業側(使用者側)の行為)は「信義誠実の原則」に反すると判断される余地がありますので、仮に「時給1000円」という求人票を見て採用試験に応募し面接で「時給650円」との説明を受けて採用され働き出したとしても、その後に裁判を起こして裁判官が「信義誠実の原則」に反すると判断するような場合には、その差額の賃金(この事例では350円)について「払え」という判決が出される可能性もあるということになります。

そのため、たとえ面接時に「求人票には時給1000円と書いてあったけれども実際は650円なんだよね」という説明を受けて「分かりました。時給650円で構いません」と返答して「時給650円」で働き出したとしても、後日裁判を起こした際に入社時から裁判までの日数に応じた差額の350円の請求が認められる可能性もあるということになります。

もっとも、どのような場合に「信義誠実の原則」に反すると判断されるかどうかはケースバイケースなので(一概に1000円と650円の差で信義誠実の原則に反すると判断されるものでもない)、その事例に応じて個別に弁護士などに相談するしかないでしょう。

八州測量事件(東京高裁昭和58年12月19日:労判421号)とはハローワークの求人票に記載されていた賃金よりも低い賃金を入社時に確定された労働者が、求人票記載の賃金と実際の賃金の差額を請求した事件のことをいいます。この裁判では、裁判所は「求人票記載の賃金見込み額より著しく低い金額で賃金額を確定させる行為は信義誠実の原則(民法1条2項)に反する」という趣旨の判事を行いましたが、この案件においてはもろもろの事情から「入社時に決定された賃金額が実際の賃金額である」として請求は認められませんでした。

ハローワークの求人票にウソがある場合の対処法

ハローワーク(旧職業安定所)で公開されている求人票に記載されている時給や労働時間などの労働条件が、実際に面接に行った際に説明を受けた労働条件と異なるような場合には、ハローワークの相談窓口に申告して指導してもらうように申し出るのも一つの方法として有効です。

ハローワークでは、当然ながら実際の労働条件と異なる労働条件を求人票に記載することを認めていませんから、「求人票に〇〇と書かれてあったから面接に行ったけど、実際は〇〇と説明を受けました。これってルール違反ではないのですか?」とハローワークに苦情を申し入れると、ハローワークからその企業に対して指導の連絡が入ったりする場合もあります。

一般の求人誌や求人サイトの求人欄に実際の労働条件とは異なる労働条件が記載されている場合

一般の求人誌や求人サイトの求人欄に実際の労働条件とは異なる労働条件が記載されている場合は、その求人誌や求人サイトの管理会社などに苦情を申し入れるのも一つの方法として有効でしょう。

しかし、求人雑誌や求人サイトの管理会社は一般企業ですから、公的機関のハローワークなどとは異なり、苦情を申し入れても対応してくれる範囲も限定される可能性もあります。

親切な管理会社なら真摯に受け止めて対処してくれることもあると思いますが、場合によっては放置されることもあるかもしれません。

求人票記載の給料より低い賃金で働くことに同意してしまった場合の対処法

前述したように、実際の賃金が求人票に記載されたものよりも著しく低い場合には、求人票に記載されている賃金との差額を会社に対して請求できる場合もあります。

しかし、採用面接の際に会社の説明に同意して求人票に記載されている給料よりも低い賃金で働くことに同意してしまっている場合には、いくら会社に「求人票に記載している賃金との差額を支払え」といったとしても「面接のときに説明してあなたも同意してるでしょ?」と相手にしてもらえないことも多いです。

このように、面接の際に求人票記載の給料よりも低い給料で働くことに同意してしまっている場合には、以下の方法によって給料を求人票記載の給料に訂正させること(または求人票記載の給料との差額を請求すること)ができる可能性があります。

(1)労働局に紛争解決援助の申立を行う

全国の各都道府県に設置されている労働局では、事業主(雇い主)と労働者(従業員)の間で発生した紛争に対し、当事者のどちらか一方からの申立があれば、その紛争に関する助言や指導を行うことが可能です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条)。

この点、求人票に記載されていた給料と実際に受け取っている給料に著しい差があるという場合も、労働者と事業主に「紛争」が生じているということができますから、労働局に対して「会社が求人票の金額よりも少ない賃金しか支払わないんです、何とかしてください!」と「援助の申し込み」を行うことが可能となります。

労働局に援助の申立を行い、労働局から会社に対して「求人票記載の給料支払われていないのは法律に違反するんじゃないですか」と助言や指導がなされれば、会社側が態度を改める場合もありますので、労働局に援助の申立を行うことによって早期の解決が図れる場合もあります。

ただし、労働局の助言や指導は裁判所の判決とは異なり強制力はありませんので、会社側が労働局の助言や指導に従わない場合には、後述する弁護士などを利用した裁判手続きなどを考える必要もあるでしょう。

なお、この労働局の紛争解決援助の手続きは裁判などと異なり無料で利用することができますので、経済的に余裕のない人でも安心して申し立てることできます。

もちろん、正社員だけでなくアルバイトやパート、派遣社員や契約社員であっても自由に利用することができます。

なお、この場合に労働局に提出する紛争解決援助申立書の記載例についてはこちらのページに掲載しています。

≫ 求人票より実際の給料が低い場合の労働局の援助申立書の記載例

(2)ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する

ADRとは、弁護士など法律専門家が紛争の当事者の間に立って中立的な立場で両者の話し合いを促す調停のような手続のことをいいます。

裁判とは異なり、あくまでも当事者間の話し合いを促進させるための手続きになりますので、裁判のように大げさな争いに発展させたくない労使間の争いを解決するには非常に適した解決手段といえます。

また、安価な費用で利用できるのも大きなメリットで、ADRの調停役になる弁護士などに支払う手数料が数千円~数万円程度必要ですが経済的な負担はそれほど感じないでしょう。

なお、ADRの利用はADRを主催している各弁護士会や司法書士会、社会保険労務士会に連絡すると詳細を教えてくれると思いますので、興味のある方は電話で聞いてみたらよいと思います。

(3)弁護士などの専門家に相談する

会社との話し合いや、労働局に対する紛争解決援助の申し立てを行っても解決しない場合には、弁護士などの法律専門家に相談するしかありません。

労働者個人での話し合いには応じない会社であっても、弁護士が代理人となって示談交渉すると話し合いに応じる場合もありますし、民事訴訟や労働審判、調停といった裁判手続を利用して解決を図ることも可能ですから、会社との話し合いで解決しないような場合は早めに弁護士などの法律専門家に相談に行くことも選択肢の一つとして考えておいた方が良いでしょう。

求人票などは保管しておく方が良い

採用面接を受けた際に「求人票に書かれてあったことと違う」と感じる場合であっても、「それでもその会社で働きたい」と思うこともあると思います。

そのような場合は、その会社で働くこともいいと思いますが、後日のことも考えてその採用時の求人票や求人サイトのWEBページをプリントアウトしたものを保管しておくようにしましょう。

求人票に記載されているものと異なる労働条件を提示して雇用契約を結ぶような会社は、通常は「あまり良い会社ではない」と考えられると思います。

このようなモラルの低い会社は業績が良いときは問題がなくても、ひとたび業績に陰りが見えてきた場合には従業員のことなどお構いなしに給料のカットや支払い遅延、雇止めや解雇などを行うことが多いです。

そのような場合に、会社を相手取って裁判を起こすということも将来的にはあり得る話でしょう。

しかし、いざ裁判を起こす段階になり「求人の際にウソの求人票を出していたことを主張しよう」と思っても「証拠がない」ということになっては自分の主張を裁判官に認めてもらうこともままなりませんから、求人票や求人サイトのWEBページのプリントアウトなどは保管しておいた方が良いと思います。