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面接と違う内容の労働条件が雇用契約書に記載されている場合

労働者が使用者との間で労働契約を結ぶ場合、面接で説明を受けた内容が記載された労働契約書(雇用契約書)にサインをし、その控えを受け取るのが一般的です。

しかし、ブラック企業などでは面接の際に説明した労働条件とは異なる労働条件を労働契約書(雇用契約書※会社によっては労働条件通知書だけを交付する場合もあります)に記載して雇い入れようとする求職者にサインを求める事例が多くあるようです。

面接先の企業から労働契約書を提示された場合、面接で説明された内容がそこに記載されていると考えるのが通常の感覚ですから、あらためて労働契約書(雇用契約書※会社によっては労働条件通知書だけを交付する場合もあります)を隅から隅まで事細かくチェックしてからサインする人はあまり多くないでしょう。

そのため、実際に働き始めた後に実際に支給された給料や休日の日数が少ないことに疑問を感じ労働契約書を確認してみたところ、面接の際に受けた内容と違う労働条件が労働契約書(雇用契約書)に記載されていたことに初めて気づいた…といったようなトラブルが発生してしまうのです。

そこで今回は、面接で説明された労働条件と異なる労働条件が労働契約書(雇用契約書※会社によっては労働条件通知書だけを交付する場合もあります)に記載され、面接の際の説明より低い賃金や休日などしか与えられない場合の具体的な対処法について考えてみることにいたしましょう。

※なお、面接の際に説明を受けた労働条件や待遇が労働契約書(雇用契約書※会社によっては労働条件通知書だけを交付する場合もあります)にきちんと記載されてはいるものの、実際に働き始めてみるとそれよりも低い労働条件や待遇で働かされてしまっているというような場合の対処法については『実際の賃金・休日等が面接や労働契約書の内容と異なる場合』のページで解説しています。

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面接で説明された労働条件と異なる労働条件が労働契約書(労働条件通知書)に記載されている場合、法律上どのような問題があるといえるか

前述したように、ブラック企業などでは、面接で説明した労働条件よりも低い労働条件を労働契約書(労働条件通知書)に記載し、その低い労働条件で労働者を働かさせるという行為が稀に見られるようです。

この場合、法律上どのような違反があるかという点が問題となりますが、このように面接で説明された労働条件よりも低い労働条件が労働契約書(労働条件通知書)に記載されているよう事案については、使用者における「労働契約の内容の理解促進義務」に違反する可能性があるという点が考えられます。

常識的に考えれば、一般の労働者と使用者(会社・雇い主)との間ではその交渉力に差があるのが通常ですので、採用時の面接や労働条件を決める交渉の際に労働者を保護することが必要になります。

そのため、労働契約法(労働基準法ではありません)という法律では「労働契約の内容の理解促進義務」の規定を設けて、使用者側が労働者を雇い入れる際にその労働条件を書面で提示して労働者の理解を深めることを求めています(労働契約法第4条)。

【労働契約法第4条】
第1項 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
第2項 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

この点、前述したように労働者が面接の際に説明を受けた労働条件より低い労働条件が記載された労働契約書にサインをしてしまい、その低い労働条件で働くことを強制されているという状況は、労働者が書面で提示された労働条件について十分に理解できていなかったと判断されますから、使用者側はこの「労働契約の内容を理解促進させる義務」を怠ったと考えることが可能です。

したがって、使用者が「面接で説明した労働条件よりも低い労働条件を労働契約書に記載し、その低い労働条件で労働者を働かさせる」という行為は労働契約法第4条に規定される「労働契約の内容の理解促進義務」に違反する違法な行為であるということができます。

違法だがその違法性を証明するのは困難

前述したように、使用者が「面接で説明した労働条件よりも低い労働条件を労働契約書に記載し、その低い労働条件で労働者を働かさせる」のは労働契約法第4条に違反する違法な行為であるといえます。

しかし、この労働契約法第4条の規定はあくまでも「訓示規定」であって単なる努力義務に過ぎませんから、この労働契約法第4条の規定を根拠として「契約書の内容を面接のときに説明していた内容に修正しろ」と請求するには少々難しいものがあります。

この場合、労働者としては「面接の時に説明していた内容と違うじゃないか」と抗議することは差し支えありませんが、会社側から「そんな説明していませんよ、契約書にもそんな労働条件は書かれていないでしょ」「労働契約書に記載されている条件を確認してサインしたんでしょ?、納得できないならサインしなけりゃよかったんじゃないの?」と反論されてしまうと、労働者の側としては面接の際の会話を録音でもしておかない限り、会社側の反論を覆すのはかなり難しいと思われます。

裁判に訴えたとしても、「その事実があった」という証拠を提出できない限り裁判所は「その事実はなかった」と判断するのが通常ですから、面接の際に説明を受けた内容が記載されている労働契約書が存在していないこのような事案では、「面接の際に説明を受けた内容の労働契約が結ばれた」ということを立証していくのは極めて困難な作業になるでしょう。

そのため、このように面接で説明された労働条件よりも低い労働条件を労働契約書に記載されてしまったというような事案では、その使用者側の行為は違法ではあるものの「その労働契約書に記載されている内容の労働条件は事実とは異なる労働条件だ」という主張を展開していくことは難しいのではないかと思われます。

面接で説明された労働条件と異なる労働条件が労働契約書(労働条件通知書)に記載されている場合の対処法

(1)会社を辞める場合

面接で説明された労働条件と異なる労働条件が労働契約書(労働条件通知書)に記載され、面接の際に受けた説明よりも低い労働条件に基づく待遇しか受けられないような場合の対処法としては、退職するのが一番良い方法ではないかと思われます。

このような詐欺的な手法で労働者を雇い入れている企業で働き続けたとしても、遅かれ早かれ何らかのトラブルが発生してしまうのは避けられないと思いますので、早めに縁を切った方が無難でしょう。

なお、退職する場合仮に契約期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合には契約期間の途中で退職することになるため形式的には契約違反となりますが、それを根拠に損害賠償請求などをされたとしてもその損害額はたかが知れていますし、ブラック企業が訴えを起こすことは通常考えられませんから、有期雇用契約であっても退職して問題ないのではないかと思います。

▶ 契約期間の途中でもバイトやパートを辞めることはできる?

仮に裁判を起こされた場合は、面接時の内容と異なる内容の労働条件で契約書が作成されたことを裁判官に説明していくほかないと思います。

なお、会社が退職を妨害するような場合についてはこちらのページを参考に対処法を検討してください。

▶ 会社を辞めたいのに辞めさせてくれないときの対処法

※ 労働基準法第15条2項の規定を使って退職できるか?

なお、面接で説明された労働条件と異なる労働条件が労働契約書(労働条件通知書)に記載され、面接の際に受けた説明よりも低い労働条件に基づく待遇しか受けられないような場合に労働基準法第15条2項の規定を利用して退職することが出来ないかという点が問題となります(労働基準法第15条2項)。

【労働基準法第15条】
第1項 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
第2項 前項の規定に従って明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

しかし、この労働基準法第15条2項の規定は、面接の際に説明され労働契約書に明示された労働条件が実際の労働条件と異なる場合に労働者が即時に退職することを認めた規定であって、「労働契約書に記載された労働条件と実際の労働条件」が異なる場合の救済策を定めたものと解されます。

一方、このページで問題となっているのは、面接で説明された賃金や休日などと異なる労働条件が労働契約書(労働条件通知書)に記載され面接の際に説明された内容よりも低い労働条件で働かされている場合の話であって「面接の際に説明された労働条件と実際の労働条件」が異なっている場合の話であり、「労働契約書に記載された労働条件と実際の労働条件」は一致しているわけですから、この労働基準法第15条2項の規定を持ち出して即時に退職するのは難しいのではないかと思われます。

なお、面接の際に説明され労働契約書に明示された労働条件が実際の労働条件と異なる場合の対処法については『実際の賃金・休日等が面接や労働契約書の内容と異なる場合』のページで解説しています。

(2)会社を辞めない場合

前述したように、面接で説明された労働条件と異なる労働条件が労働契約書(雇用契約書)に記載され、面接の際に受けた説明よりも低い労働条件に基づく待遇しか受けられないような場合には、退職してしまうのが一番手っ取り早いのではないかと個人的には考えますが、どうしても退職したくない場合は他の方法を検討する必要があります。

このような事案で取り得る方法はあまり多くないと思われますが、事案によっては解決が図れるケースもあるかもしれませんので以下にその解決方法を検討してみます。

① 労働局に違法行為の是正申告を行う

全国に設置されている労働局では、労働者と事業主の間に発生した紛争を解決するための”助言”や”指導”、”あっせん(裁判所の調停のような手続)”を行うことが可能です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第1項)。

この点、前述したように面接で説明を受けた労働条件よりも低い労働条件を労働契約書(労働条件通知書)に記載されてしまい、それに気づかずにサインをしてしまったような場合にも「面接の際に説明を受けた内容の労働条件を求める労働者」と「労働契約書に記載された労働条件での就労を求める使用者」の間に紛争が発生しているということになりますので、労働局に紛争解決援助の申立を行うことが出来るものと考えられます。

前述したように、使用者が面接で説明した労働条件よりも低い労働条件を労働契約書に記載してその低い労働条件で労働者を働かさせる行為を裁判によって改善させるのは難しいものがありますが、労働局の紛争解決援助は労働局が指導や助言を行うのが基本的な手続きであって(※場合によってはあっせんという調停のような手続にも移行できます)、裁判所における裁判とは異なり自分の主張を裏付ける証拠がなくても申立をすることは可能ですから、「面接の際に説明を受けた内容と労働契約書の内容が違う」ということを労働局側に説明して理解を得られるようであれば、労働局から必要な指導や助言をしてもらうことで問題が解決する可能性もあるでしょう。

もっとも、労働局の紛争解決援助手続は裁判所における裁判とは異なり強制力はありませんから、使用者側が労働局の助言等に従わない場合には解決には至らないこともありますので注意が必要です。

なお、この場合に労働局に提出する紛争解決援助申立書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 面接と異なる労働条件が雇用契約書に記載された場合の労働局の申立書

② 弁護士会や司法書士会などが主催するADRを利用する

ADRとは「Alternative Dispute Resolution」の略省で、裁判外紛争処理手続のことをいい、弁護士など法律の専門家が中立的な立場で紛争当事者の間に関与することで両者の話し合いを促す調停のような手続きになります。

ADRは単なる「話し合いの場」が提供されるだけの手続きですが、当事者同士での話し合いで解決しないような問題でも中立的な第三者が間に入ることにより紛争解決へ向けた要点の絞られた話し合いが可能となりますし、弁護士や司法書士など法律の専門家が関与することによって法律に違反する解決策が提示される問題も発生しなくなるというメリットがあります。

手続きの費用が数千円から数万円で利用できることから、弁護士や司法書士に個別に依頼して裁判を行うよりも格段に少ない費用負担で紛争解決が望める点もADRの利点として挙げられるでしょう。

ADRも前述した労働局の紛争解決援助の手続きと同様に強制力はありませんが、会社側が話し合いに応じてくれるような場合(例えば面接の際の説明の行き違いで労働者と使用者の間で労働条件の理解に齟齬があるような場合)にはADRの話し合いで解決が図れる可能性もあるのではないかと思います。

なお、ADRの利用については主催している弁護士会や司法書士会などで教えてもらえますので興味がある方は最寄りの弁護士会や司法書士会に問い合わせしてください。

【法律専門家が主催しているADR】

 ③ 弁護士に依頼し示談交渉や調停を行ってもらう

上記のような手段を用いても解決しなかったり、最初から裁判所の手続きを利用したいと思うような場合には弁護士に依頼して示談交渉をしてもらうか、裁判所の調停などを申し立てるしかないでしょう。

弁護士やに依頼するとそれなりの費用が必要ですが、法律の素人が中途半端な知識で交渉しても自分が不利になるだけの場合も有りますので、早めに弁護士に相談することも事案によっては必要になるかと思われます。