インターネットの普及した現在では、勤務先の会社でも一人一台ずつパソコンが与えられているところも多いでしょう。
そして、日常的にパソコンを使う業務に就いている場合は、ついつい会社のパソコンを使用して私的なメールを送受信するなんていうことも、時にはあり得る話です。
しかし、社内で各社員に与えられたPCは、本来業務上必要な場合に限って使うことが認められているものであり、これを業務以外の私的な目的で使用することは、会社に対する背信行為であり、減給や解雇などの懲戒処分に処せられても文句が言えないのではないかという気がしないでもありません。
そこで今回は、会社で与えられているPCを利用し、私的なメールを送受信することは許容されるか?という問題について考えてみることにいたしましょう。
会社のPCを私的に利用することは何が問題か
会社のPCを私的に利用することは、就業規則でPCの私的利用が禁止されているかいないかにかかわらず、労働契約法3条4項に定められた職務専念義務違反に該当します。
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
そのため、たとえ就業規則で「PCの私的利用」が禁止されていない場合であっても、会社のPCを使って私用メールを送受信することは会社に対する背信行為とみなされるのが原則です。
就業規則で「PCの私的利用」が禁止されていなくても基本的に私的利用は禁止される
前述したとおり、社内のPCを私的な目的のために使用することは、基本的に職務専念義務違反となります。
そのため、就業規則に「PCの私的利用を禁止する」という規定が定められていない場合であっても、社内のPCを私的に利用することは基本的に禁止されることになります。
もっとも、就業規則に「PCの私的利用を禁止する」という規定が定められている場合と、そのような規定が定められていない場合とでは、私的利用の範囲に少なからず違いは出てくるでしょう。
一般的には、就業規則で私的利用が禁止されている場合はその定められた範囲内での私的利用が禁止されますが、就業規則に禁止規定がない場合には「社会通念上相当な範囲」を越えた私的利用が禁止されるものと考えられます。
ただし、就業規則で私的利用が禁止されている場合であっても、「社会通念上許容される範囲を超えない程度」の私的利用は認められる場合もありますので(北沢産業事件・東京地裁平成19年9月18日)、就業規則に禁止規定があるか無いかにかかわらず、その私的利用が「社会通念上相当」と認められる範囲か否かが判断の基準になると思われます。
社内PCの私的利用が「社会通念上相当」と認められる範囲
前述したように、会社のパソコンを使用して私用メールを送受信する場合であっても、その私的利用が「社会通念上許容される範囲内」である場合は、職務専念義務違反に問われることはありません。
もっとも、この「社会通念上許容できる範囲」については、その私的利用を行った各事案によって異なってきますので、ケースバイケースで判断するしかないでしょう。
なお、過去の裁判例では次のような判断がされています。
私用メールが1か月あたり2~3通
解雇された理由の一つに社内PCを使用した私的メールの送受信が含まれていた事案では、私用メールの送受信も「世間で一般的に行われていることであり、業務上の円滑な人間形成と維持のために必要という側面もある」ことから、その頻度が1か月あたり2~3通である場合には職務専念義務違反とはならないと判断されました。
参考判例:北沢産業事件(東京地裁平成19年9月18日)
私用メールが1日あたり2通程度
上司を誹謗中傷する社内メールなどを1日あたり2通程度送信した事案では、社会通念上相当な範囲にとどまるとして職務専念義務違反とはいえないと判断されました。
参考判例:グレイワールドワイド事件(東京地裁平成15年9月22日)
IPメッセンジャーで使用メールを頻繁に送受信
勤務時間中にIPメッセンジャーで頻繁に私用メールを送受信していた会社員が解雇された事案では、頻繁な私用メールの送受信は職務規律違反に該当すると言えるものの解雇に相当するような重大な違反とは認められないとして、解雇が無効と判断されました。
参考判例:トラストシステム事件(東京地裁平成19年6月22日)
出会い系サイトに登録し大量の私的メールを送受信
専門学校の講師が学校から支給されたPCを使って出会い系サイトに登録し知り合った女性と大量の私用メールを送受信していた事例では、服務規則に定める懲戒解雇事由に該当するとして解雇されたことは妥当と判断されました。
参考判例:K工業技術専門学校事件(福岡高裁平成17年9月14日)
「常識の範囲内」で考える
以上のように、会社のPCを使用した使用メールの送受信は基本的にNGですが、それが社会通念上許容される範囲内である場合、言い換えれば「常識の範囲内」であれば、特段の問題はないと思われます。
もっとも、常識の範囲でOKということであっても、基本的にはNGなのですから、私的な理由での使用は極力避けるべきでしょう。