妊娠したことが判明した場合、産休(産前休暇)の取得を考える人も多いのではないでしょうか?
この点、産休(産前休暇)は母子の健康のために必要不可欠なものと言えますから、法律でも明確にその取得が認められています。
具体的には、労働基準法という法律では最低でも6週間(双子以上の場合は14週間)以内に出産する予定のある女性が休業を申し出た場合にはその女性を働かせてはならないと規定されていますので、最低でも6週間の産前休暇を取得することができるのは明らかでしょう(労働基準法の65条1項)。
使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
しかし、ブラックな企業においては、産休(産前休暇)を出産日の直近まで与えなかったり、産休を申し出た女性労働者に減給や降格など不利益な処分を下すなど、法律に違反する行為をとる企業も少なくないようです。
そこで今回は、勤務先の会社から産休(産前休暇)の取得を拒否されたり、産休を取得したことで減給や降格などの不利益な処分を受けた場合の対処法などについて考えてみることにいたしましょう。
▶ 「育児休業(育児休暇)はとれない」と言われたら?
また、産休や育休を申請し又は取得したことを理由として減給や降格、配置転換(配転)などの不利益な取り扱いを受けた場合の具体的な対処法についてはこちらのページを参考にしてください。
▶ 産休や育児休業を理由に給料やボーナスを下げられた場合
▶ 産休や育休の取得を理由に降格や配置転換を命じられた場合
法律で産休(産前休暇)の取得が認められていることを説明する
勤務先の会社から産休(産前休暇)の取得を拒否された場合には、まず会社の上司に対して前述したように労働基準法で産前休暇や産休(産後休暇)の取得が認められていることを説明するようにしましょう。
会社や上司によっては、法律で産休(産前休暇)を与えなければならないことを知らない場合もありますので(※勿論、本来は知っておくべきことなのですが・・・)、とりあえず説明して産休(産前休暇)を認めてもらえるよう説得してみましょう。
普通の会社であれば「ごめん、そんな法律があるなんて知らなかった、すぐに産休がとれるように取り計らうよ」ということになると思いますから、まともな会社であれば意外と簡単に解決する場合もあるでしょう。
会社に産休(産前休暇)を請求する申入書(通知書)を郵送する
会社や上司に説得を試みても解決しない場合には、法律で産休(産前休暇)の取得が認められていることを書面にしたため、文書を郵送する方法で産休(産前休暇)を与えるよう要請しましょう。
口頭で説得してらちが明かない場合であっても、書面で通知すれば会社側も「これを無視して休暇を与えないとなんかやばいことになりそうだぞ」と考えて、休暇を認めることも多いです。
また、書面で通知しておけば、後日裁判などになった際に、その書面を証拠として裁判に提出することが出来ますから、その意味でも文書を作成して郵送する必要性はあるといえます。
(※但し、証拠として利用する場合は内容証明郵便で郵送しておく必要があるでしょう)
労働基準監督署に違法行為の是正申告を行う
労働者(社員・従業員)は、使用者(会社・雇い主)が労働基準法に違反する行為を行っている場合には、労働基準監督署に対して違法行為の申告を行うことができます。
事業場に、この法律又はこの法律に基づいて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督署に申告することができる。
行政官庁は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、または出頭を命ずることができる。
労働者から違法行為の申告があった場合には、労働基準監督署はその違法性の程度によって会社に対して報告を求めたり出頭を求めて調査を行い、違反行為に対する是正勧告や検察への刑事告発を行う場合があります。
前述したとおり、産前産後の休暇を与えない会社は労働基準法違反となりますので、その事実を労働基準監督署に申告することによって、監督署の調査や是正勧告を促すことができます。
労働基準監督署から是正勧告などの行政指導が行われる場合には、会社としてもそのまま放置することはできませんから、通常であれば産休(産前休暇)の取得を認めることになるでしょう。
なお、労働基準監督署に違法行為を申告する際に提出する「違法行為の申告書」に定型の書式はありませんので、ワードなどの文書作成ソフトで適宜に作成すればよいと思います。
もっとも、作成方法が分からないという人もいると思いますので、そういった場合はこちらのページに記載したものを参考にして下さい。
労働局に個別紛争解決の援助を申し込む
労働者と事業主の間に紛争が生じた場合には、各都道府県に設置されている労働局に対して「個別労働関係紛争の援助の申し込み」をすることが可能です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条)。
この点、会社が産休(産前休暇)を与えてくれないという場合も、労働者と事業主の間に「紛争」が生じているということができますから、労働局に対して「会社が法律に違反して産前産後の休暇を与えてくれないんです、何とかしてください!」と「個別労働関係紛争の援助の申し込み」を行うことができます。
援助の申し込み(申立)を受けた労働局は、必要に応じて労働者や事業主に対して助言や指導を行いますし、それでも解決しない場合には紛争解決の”あっせん”の制度も利用できますので、会社側が労働局の助言や指導に従うようであれば比較的早期に産前休暇を取得することもできるかもしれません。
なお、「個別労働関係紛争の援助の申し込み」は労働局に出向いて口頭で行うことも可能ですが、事実関係を正確に伝えるために書面を提出して申立を行べきだと思います。
労働局への援助申立で使用する申立書に定型の書式はありませんのでワードなどの文書作成ソフトで適宜な書面を作成してかまいませんが(都道府県の各労働局で様式が異なっています)、東京労働局のサイトから東京労働局で使用されている援助申立書の様式をダウンロードすることも可能ですのでそちらの書式を使用しても良いでしょう(※東京以外でもこの様式を使用して申し立てを行っても問題ないと思います)。
もっとも、何をどう書けばよいか分からない人もいると思いますので、次のページに掲載した雛形を参考にしてください。
≫産前休業(産休)に関する労働局への紛争解決援助の申立書の記載例
なお、この労働局に対する援助の申し込み(申立)に費用は必要ありません(無料)ので、気軽に利用できると思います。
ちなみに、「個別労働関係紛争の援助の申し込み」の援助の申立書(申込書)の書き方がどうしてもわからないという人は、最寄の労働局に行けば丁寧に教えてもらえると思います。
弁護士などの法律専門家に相談する
以上のような対処法をとって問題が解決しない場合や、上司が怖くて会社と交渉したり文書を郵送することもできないというような場合には、なるべく早い段階で弁護士などの法律専門家に相談することも必要です。
弁護士か司法書士であれば、前述した労働基準監督署や労働局に対する援助の申し込みについても、相談に行けば最善の解決方法を教えてもらえますし、裁判になった場合には代理人となって解決に導いてくれるでしょう。