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妊娠を理由に違法な休職を命じられた場合の対処法

労働基準法では妊娠した女性労働者や生まれてくる子の生命・健康等を保護するために、妊娠した女性労働者が一定の期間就労することを禁止していますし(労働基準法の65条)、また労働契約法や労働安全衛生法では会社(使用者)側に労働者の健康や安全を確保することが法律上義務付けられていますから(労働契約法第5条、労働安全衛生法第3条第1項)、それらの法律で許容される範囲において会社が妊娠した女性労働者に対して休職を命じることも可能となります。

しかし、『妊娠したものの働ける状態なのに休職を命じられた場合』のページでも詳しく解説しているとおり、そのような法律上で義務付けられた範囲を逸脱した休職の命令については、たとえ会社側が「健康や安全等を考慮して休職させなければならない必要性がある」と判断していたとしても「権利の濫用」として違法(無効)と判断されるのが一般的です。

もっとも、仮に妊娠した女性労働者に対する休職の命令が「権利の濫用」として違法(無効)と判断される場合であっても、実際にその休職命令を受けた女性労働者が具体的にどのような対処を取れば良いかという点を理解しておかなければ会社に対してその違法(無効)な休職命令を撤回させるのは困難でしょう。

そこで今回は、妊娠した女性労働者が会社から権利の濫用と判断できるような違法(無効)な休職命令を受けた場合には、具体的にどのような対処をとればよいかといった点について解説してみることにいたしましょう。

※なお、具体的にどのような休職命令が「権利の濫用」として無効と判断されるのかという点についてはこちらのページで解説しています。
▶ 妊娠したものの働ける状態なのに休職を命じられた場合

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休職命令が権利の濫用として無効と判断される場合にはその休職期間中の賃金を請求できる

妊娠した女性労働者が違法な休職命令を受けた場合の対処法を考える前提として、まず休職命令が権利の濫用として無効とされる場合にはその休職を命じられた期間の賃金はどうなるのか、という点を理解しておく必要があります。

なぜなら、仮に会社から命じられた休職命令が権利の濫用として無効と判断される場合にその休職期間中の賃金を請求できるのであれば、違法な休職命令を受けた場合の対処法も「その休職命令の撤回を求める方法」と「休職命令を受けた後にその休職期間中の賃金を請求する方法」の2つの方法を選択することが出来るからです。

この点、妊娠した女性労働者に対する休職命令が権利の濫用として違法(無効)と判断される場合には、その休職した期間については「休職させる法律上の権限がないのに会社が勝手に休職させた」ということになりますので「会社の都合による休業によって休職した」のと同じ状態になりますが、「会社の都合による休業」の場合には、休職させられた労働者は民法536条2項の規定によってその休業期間中(休職期間中)の賃金(平均賃金)を請求する権利を失わないません(民法第536条第2項前段)。

【民法第536条第2項】
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。(以下省略)

したがって、妊娠した女性労働者に対する休職命令が権利の濫用として違法(無効)と判断される場合にも、その休職させられた女性労働者はその休職期間中の賃金を受ける権利を失わないことになりますから、その女性労働者は会社に対してその休職させられた期間の賃金(平均賃金)の全額を請求できることになります。

なお、この場合労働基準法の第26条の休業手当の規定(休業の場合は平均賃金の60%を支払わなければならないという規定)との関係性が問題となりますが、労働基準法26条の規定は平均賃金の60%の支払いを罰則をもって確保するために規定された条項であり民法第536条の規定の責任を軽減する趣旨の規定ではないと考えられていますので、妊娠した女性労働者が権利の濫用と判断される休職命令によって会社を休まなければならなくなった場合には、その休職期間中の平均賃金の100%の支払いを求めることが可能となります。

(※なおこの論点については『会社の都合による休業日、その日の賃金を請求できる?』のページで詳しく解説しています)

妊娠した女性労働者が権利の濫用と判断される休職を命じられた場合の対処法

前述したように、妊娠した女性労働者に対する休職命令が権利の濫用と判断される場合には、その休職命令に応じて休職した期間中の賃金を会社に対して請求することが出来ます。

したがって、妊娠した女性労働者が権利の濫用と判断される休職を命じられた場合の対処法も「不当な休職の撤回を求める」場合と「不当な休職命令によって休職した期間中の賃金を求める」場合の2つに分かれることになります。

もっとも、実際に会社から不当な休職命令を受けた場合には、まず「不当な休職の撤回を求める」方法を取ったうえで、それでも違法な休職命令が撤回されない場合に会社の不当な休職命令にとりあえず従った後で「不当な休職命令によって休職した期間中の賃金を求める」ことになろうかと思われます。

なお、具体的な対処法としては次のようなものが考えられます。

(1)申入書(通知書)や請求書を送付する

会社が妊娠した女性労働者に対して権利の濫用と判断されるような休職を命じたり、その結果として休職期間中の賃金を受け取れなかったような場合には、違法な休職命令の撤回を求める申入書(通知書)を送付したり、違法な休職期間中の賃金を支払うよう求める請求書を作成し「文書」という形で通知するのも一つの方法として有効です。

口頭で「違法な休職命令を撤回しろ!」とか「無効な休職命令によって休まなければならなかった休業期間中の賃金を支払え!」と要求して会社側が応じない場合であっても、文書(書面)という形で改めて通知すれば、雇い主側としても「なんか面倒なことになりそう」と考える可能性がありますし、内容証明郵便で送付すれば「裁判を起こされるんじゃないだろうか」というプレッシャーになりますので、改めて申入書(通知書)や請求書という文書(書面)の形で通知することもやってみる価値はあるでしょう。

なお、この場合に会社に通知する申入書(通知書)の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 妊娠を理由とした休職命令の撤回を求める申入書の記載例

▶ 妊娠を理由とする違法な休職期間中の賃金の支払いを求める申入書

(2)労働基準監督署に違法行為の是正申告を行う

使用者(会社※個人事業主も含む)が労働基準法に違反している場合には、労働者は労働基準監督署に対して違法行為の是正申告を行うことが可能で(労働基準法第104条第1項)、労働者から違法行為の是正申告が行われた場合には、労働基準監督署は必要に応じて臨検や調査を行うのが基本的な取り扱いとなっています(労働基準法101条ないし104条の2)。

【労働基準法第104条第1項】
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

この点、前述したように権利の濫用判断されるような休職を会社が命じたことにより休職期間中の賃金が支払われなかった場合には、少なくとも使用者の責めに帰すべき理由による休業期間中の休業手当の支払義務を規定した労働基準法第26条の規定に違反するということになりますから、違法な休職命令によって休職が命じられ、その休職期間中の賃金が支払われていないような場合はその会社は労働基準法違反ということになり、労働基準監督署に対して違法行為の是正申告を行うことが出来るということになります。

※違法な休職命令の場合に労働基準法26条に規定された平均賃金の60%の休業手当を会社が支払えば会社の責任は免除されるという意味ではありません。違法な休職命令の場合はその休職期間中における平均賃金の100%の賃金を支払わなければなりませんが、休職期間中の賃金を支払っていない場合には労働基準法26条の規定にも違反することになるという意味です。

※ただし、この場合に労働基準監督署に申し立てができるのはあくまでも「休業期間中の賃金が支払われなかった」ことを理由とする場合に限られますから、「違法な休職命令が出されたこと」そのものを理由として「違法な休職命令の撤回を求めるため」に労働基準監督署に違法行為の是正申告を行うことはできないことに注意してください。

労働基準監督署に違法行為の是正申告を行うことによって監督署が会社に立入調査や臨検を行うことになれば、使用者側が休職命令に合理性がなかった(権利の濫用があった)ことを認識し、その違法性を認めて不必要な休職期間中の賃金の支払に応じることもありますので、労働基準監督署に違法行為の是正申告をすることによって間接的に違法な休職命令が撤回される可能性もあるということですので誤解のないようにしてください。

※「妊娠した女性労働者に対して違法な休職命令を出すこと」自体は直接労働基準法に違反するものではない(※「権利の濫用」は労働基準法ではなく(労働契約法の第3条4項ないし5項や民法の第1条2項ないし3項に規定されています)のでその命令そのものの撤回を求めるために労働基準監督署に申告することはできません。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する違法行為の是正申告書の記載例についてはこちらのページに掲載しています。

▶ 妊娠を理由とした休職命令と賃金不払に関する労基署の申告書

ちなみに、労働基準法第26条に違反する使用者に対しては、労働基準法第120条により30万円以下の罰金に処せられることになっていますので(労働基準法第120条)、違法な休職命令を出して不必要な休職を命じる行為は犯罪ということになります。

(3)労働局に紛争解決の援助の申立を行う

労働者と事業主(会社・雇い主)との間で紛争が発生している場合には、その労働者または事業主の一方は、労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能です。

この点、妊娠した女性労働者が会社からその必要性がないのに休職を命じられたり、合理的でない休職命令によって会社を休まなければならなくなったためその休職期間中の賃金を受け取ることが出来なくなったような場合には、そのような違法(無効)な休職命令によって不利益を受けた労働者と事業主との間で”紛争”が発生しているということになりますので、その労働者は労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能となります(男女雇用機会均等法第17条)。

【男女雇用機会均等法第17条】
第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

労働局に紛争解決援助の申立を行えば、労働局から必要な助言や指導がなされたり、あっせんの手続きを利用する場合は紛争解決に向けたあっせん案が提示されることになりますので、会社(使用者)側が労働局の指導等に従うようであれば、会社が違法な休職命令を撤回したり、違法な休職命令によって休職させられた休職期間中の賃金を支払うことも期待できると思われます。

なお、この場合に労働局に提出する紛争解決援助の申立書の記載例についてはこちらのページに掲載しています。

▶ 妊娠を理由とした休職命令の撤回に関する労働局の申立書の記載例

▶ 妊娠を理由とする不当な休職期間中の賃金に関する労働局の申立書

(4)弁護士または司法書士に依頼する

前述した申入書(通知書)や請求書を送付する方法や労働基準監督署に対する違法行為の是正申告、労働局に対する紛争解決援助の申立を行っても使用者が違法な休職命令を撤回しなかったり、違法な休職期間中の賃金を支払わないような場合には、弁護士や司法書士に依頼して示談交渉で休職命令の撤回や休職期間中の賃金の支払いを求めたり、裁判などを利用してこちらの正当性を訴えていくしかないでしょう。