セクハラの被害に遭った場合の対処法についてはこのサイトでも詳細に解説していますので、勤務先の会社で上司や同僚からセクハラをされて困っている場合にどのような行動をとればよいかについてはある程度理解してもらえたのではないかと思います。
※まだ読んでいないという人はこちらのページをご覧ください→セクハラに遭った場合の対処法
もっとも、このページで解説しているのは勤務先の「上司」や「同僚(部下も含む)」からセクハラを受けた場合の対処法であって、勤務先の会社を訪れる「お客(顧客)」や「取引先の社員(従業員)」からセクハラを受けた場合の対処法については一切触れていませんでした。
そこで今回は、勤務先の会社で「お客」や「取引先の社員」など、その勤務している会社以外の人物からセクハラを受けた場合にはどのような対処をとればよいか、という点について考えてみることにいたしましょう。
※なお、お客や取引先の社員などから「イジメ」を受けている場合の対処法については『お客や違う会社の社員からいじめを受けている場合の対処法』のページを参考にしてください。
「お客」や「取引先の社員」からセクハラを受けている場合も、勤務先の上司や同僚からセクハラを受けている場合と同様に会社は適切に対処する義務がある
労働契約法第5条における義務
自分が勤務している会社に勤務している従業員ではない「お客」や「取引先の社員」からセクハラを受けた場合の対処法も、基本的には勤務先の上司や同僚からセクハラを受けた場合と特に変わりはありません。
会社(雇い主)は、その雇い入れた従業員がその会社(仕事場)で労働をするに際しては、その労働者が精神的にも肉体的にも安全に労働ができるように必要な配慮をすることが法律上求められています(労働契約法第5条)。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
そのため、仮に会社が雇用している従業員から「お客から性的な嫌がらせをされている」とか「取引先の担当者からセクハラを受けている」などと相談があった場合には、会社(雇い主)はそれを放置することは法律的に許されません。
仮に、会社(雇い主)が、その従業員から「お客」や「取引先の従業員」からセクハラを受けているという相談や報告があったにもかかわらず、それを放置して何らの対処もとらなかった場合には、その会社(雇い主)は労働契約法第5条違反となります。
男女雇用機会均等法第11条における義務
また、会社(雇い主)は職場における性的な言動によってその性的な言動を受けている労働者の労働環境が害されている場合には、その性的な言動の被害を受けているセクハラの被害者からの相談に応じ、またセクハラが起きないように適切な体制の整備等をしなければなりません(男女雇用機会均等法第11条第1項)。
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
そのため、仮に労働者が「お客」や「取引先の社員」などからセクハラを受けている場合において、会社(雇い主)が従業員からそのセクハラ被害の相談を受けた場合には、その会社(雇い主)はその「お客」や「取引先の社員」などが行っているセクハラ行為を止めさせるよう必要な措置をとることが義務付けられることになります。
仮に、会社がこの法律に違反して、「お客」や「取引先の社員」などのセクハラを黙認したり放置した場合には、会社(雇い主)がこの法律(男女雇用機会均等法第11条)に違反していることを原因としてセクハラの被害を受けているということになりますから、その「お客」や「取引先の社員」などからセクハラの被害を受けている従業員は勤務している会社(雇い主)に対して損害賠償の請求をすることも可能ということになります。
この場合、勤務している会社(雇い主)はセクハラの直接的な加害者ではありませんが、「セクハラを放置した」ということ自体が法律違反となり損害賠償の対象となるのです。
このように、勤務している会社の「上司」や「同僚」ではない、「お客」や「取引先の社員」からセクハラを受けた場合にも、その勤務している会社(雇い主)としては、社内の人間が加害者となっているセクハラの場合と同様に、そのセクハラを止めさせる(またはセクハラの被害者がセクハラに遭わないように必要な措置を講ずる)義務がありますので、セクハラの被害を受けている被害者の立場にすると、その加害者が同じ会社に勤務する「上司」や「同僚」であるか、「お客」や「取引先の社員」であるかに拘わらず、勤務している会社(雇い主)に対して「セクハラを止めさせろ!」と要求していくことが可能になるのです。
まずは勤務先の会社(上司など)に相談する
上記で説明したように、勤務している会社(雇い主)の従業員ではない「お客」や「取引先の社員」からセクハラを受けている場合にも、その勤務している会社(雇い主)の従業員(上司や同僚・部下など)からセクハラを受けている場合と同様に、その勤務している会社(雇い主)に対して『お客から受けているセクハラをどうにかしてください』とか『取引先の社員から受けている性的な嫌がらせを止めさせてください』と、自分が勤務している会社(雇い主)に対して要求することが出来ます。
たとえば、Xという会社に勤務しているAさんが、そのXの顧客としてXの店舗を訪れてくるBさんという顧客から性的な言動を受けて困っている場合(たとえばAさんがお客であるBさんに執拗にデートに誘われたり、おしりを触られたりしている場合)には、Aさんは勤務しているXに対して『Bさんのセクハラを止めさせてください』と要求することが出来ます。
また、たとえばXという会社に勤務しているAさんがX社の取引先であるY社の担当者であるCさんから性的な言動を受けて困っている場合(たとえばAさんがY社の担当者であるCさんからエッチな画像のメールを送信されたり、体を触られたりしている場合)には、Aさんは勤務しているX社に対して『Cさんのセクハラを止めさせてください』と要求することができます。
前述したように、従業員からセクハラの相談を受けた会社(雇い主)は、たとえそのセクハラの加害者がその会社の従業員ではない「お客」や「取引先の社員」であったとしても、そのセクハラ被害を放置することは法律上許されませんから、その勤務している会社(雇い主)がまともな会社であれば、セクハラの被害を相談(報告)することによってセクハラがなくなるよう適切な措置が取られるのが通常です。
勤務している会社(雇い主)が「お客」や「取引先の社員」のセクハラについて適切に対処しない場合の対処法
前述したように、会社(雇い主)はその雇い入れた従業員が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をすることが求められていますが、会社によってはこのような法律上の義務に反して、従業員からセクハラの被害の報告や相談を受けた場合であっても、適切な措置を取らず、または不十分な措置しかとらないためにセクハラの被害が止まない可能性があります。
特に、そのセクハラの加害者が「お客」や「取引先の社員」などである場合には、勤務先の会社(雇い主)が自社の利益や評判を優先して「お客」や「取引先」に対して毅然とした対応を取らないということも考えられますから、そのような場合にはどのように対処すればよいかが問題となります。
(1)労働局に紛争解決援助の申立を行う
労働者と事業主(会社・雇い主)との間で紛争が発生している場合には、その労働者または事業主の一方は、労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能です。
この点、労働者が「お客」や「取引先の社員」などからセクハラを受けている場合に、雇い主(会社)がそのセクハラを止めさせるような適切な対処を取らない場合にも、労働者と事業主(会社・雇い主)との間に紛争が発生しているということになりますから、そのセクハラの被害に遭っている労働者は労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能となります(男女雇用機会均等法第17条)。
都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
この労働局の紛争解決援助の申立を行った場合には、労働局から助言や指導、勧告が出されるのが通常ですので、仮に「お客」や「取引先の社員」などからのセクハラ行為に対して会社が何らの対応も採らなかったり、仮に何らかの対処を取ったとしてもその措置が不十分であるような場合には、労働局からの助言・指導・勧告によって会社が適切な措置をとることが期待できます。
ちなみに、この場合に労働局に提出する申立書の記載例はこちらのページに掲載していますので参考にしてください。
▶ 会社外部の人からのセクハラに関する労働局の援助申立書の記載例
なお、この労働局の紛争解決援助の申立は、「労働者」と「事業主」との間に生じている紛争を解決することを目的としていますので、この場合にセクハラの原因(加害者)である「お客」や「取引先の社員」についてはこの労働局の手続きの当事者とはなりません。
あくまでもその社外の人間のセクハラ行為を放置している”勤務先の会社(雇い主)”を相手方として申立を行うことになりますので誤解のないようにしてください。
(2)弁護士会などの主催するADRを利用する
ADRとは「Alternative Dispute Resolution(裁判外紛争処理手続)」の略省で、弁護士など法律の専門家が紛争の当事者の間に立ち、中立的な立場で両者の話し合いを促す調停のような手続きのことをいいます。
当事者同士での話し合いで解決しないような問題でも、当事者以外の第三者が間に入ることによって冷静な話し合いができるとともに要点の絞られた議論ができますし、弁護士など法律の専門家が関与することによって法律的に正当な解決策が提示される安心な面もあります。
また、裁判とは異なるため裁判費用や弁護士に依頼する弁護士報酬なども発生しませんので(ただし、間に立つ弁護士などの法律専門家に対して数千円~数万円の手数料が必要となる)、安価な費用で問題解決が図れるのが最大のメリットです。
また、セクハラなど会社内での労働トラブルは、解決後もその会社で働き続けることが前提となるのが一般的ですから、セクハラに適切に対処しない会社側と裁判で言い争いをするのは会社との関係性で溝を作ってしまい、その後の勤務にも少なからず影響が出てくる懸念があります。
しかし、ADRは裁判と異なり、あくまでも「当事者間の話し合いの場に弁護士などの第三者が同席する」という体裁で行われる手続ですので、セクハラというようなあまり事を荒立てたくない一面を持っている問題については、ADRという裁判外の手続を利用することも考えてみる必要があると思います。
ただし、このADR手続きは裁判などと異なり強制力はありませんので、ADRの相手方がADRの参加を拒否する場合には利用できませんので注意が必要です。
なお、このADRにおける話し合いの相手方としては、前述した労働局の紛争解決援助の申立の場合と同様に、セクハラに適切に対処しない勤務先の会社を相手方としてADRを行う場合(「セクハラ被害者」と「勤務先の会社」で話し合う場合)の他に、セクハラの加害者本人を相手方としてADRを行う(「セクハラ被害者」と「セクハラの加害者(お客や取引先の社員)」で話し合う場合)ことや、セクハラの加害者の勤務する会社(「セクハラ被害者」と「セクハラの加害者が勤務している取引先の会社(の責任者)」を相手方としてADRを行うことも可能です。
ちなみに、弁護士会などの主催するADRの詳細については各地の弁護士会や司法書士会に問い合わせてください。
(3)弁護士に依頼して裁判や調停などを利用する
上記のような方法でもセクハラが解決しなかったり、勤務先の会社が適切な対応を取らない場合には、弁護士に依頼して裁判や調停などの手続きで問題解決を図る必要もあるかもしれません。
裁判の場合には、「セクハラに適切に対処しない勤務先を相手取って慰謝料等の支払いを求める方法」(この場合の被告は勤務先の会社となる)の他に、「セクハラ行ったお客や取引先の社員本人を相手取って損害賠償を請求するものや差し止めを求める方法」、「セクハラをしている社員が勤務している取引先の会社に対して損害賠償を請求する方法」など様々な方法がありますので、相談する弁護士と十分に話し合いを行い、そのセクハラの状況に応じて適切な対処をとることができるでしょう。
あとがき
以上のように、セクハラの被害に遭っている場合には、たとえそのセクハラの加害者が同じ会社に勤務している従業員でなくても、そのセクハラの被害者が勤務している会社はそのセクハラ被害に適切に対処しなければならない法律上の義務がありますから、適切な対処をとることによってセクハラ行為を止めさせることは可能です。
実際にセクハラの被害に遭っている方にとっては、セクハラの被害に遭っていることそのものを相談すること自体がかなりハードルの高いことかもしれませんが、放置していても解決はしない場合が多いと思いますので、勇気をもって勤務先の上司や社内に設置された相談室に、それでも解決しない場合には労働局や弁護士等に相談することが必要かと思います。