このページでは、妊娠したものの通常どおりの職務に従事することが可能であるにもかかわらず会社から不当に休職を命じられた場合に、その休職期間中の賃金の支払いを求めるため労働局に紛争解決援助の申立をする場合の申立書の記載例(ひな形・書式)を公開しています。
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通常どおり就労することに支障がないにもかかわらず妊娠したことを理由に休職を命じられた場合に、その休職期間中の賃金の支払いを求めるため労働局に紛争解決援助の申立を行う場合の申立書の記載例
〇〇労働局長 殿
個別労働関係紛争の解決に関する援助申立書
(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第17条に基づく)
平成〇年〇月〇日
申立人(労働者)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
住所 大阪市阿倍野区〇〇三丁目〇番〇号〇〇マンション〇号室
氏名 畑良玖乃
電話番号 080-****-****
被申立人(事業主)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
所在地 大阪市中央区〇〇三丁目〇番〇号
名称 株式会社ノーモア・マタニティー
代表者 安万甲斐
電話番号 06-****-****
1 紛争解決の援助を求める事項
休職期間中の賃金を支払うよう事業主に対する助言・指導を求める。
2 援助を求める理由
被申立人は、柿の種のあられとピーナッツの個数を自動的に計算するスマートフォン向けアプリ「柿の種チェッカー」を開発及び配信する従業員77名の株式会社である。
申立人は、平成〇年〇月にプログラマーとして入社し、本社営業所においてアプリケーション開発業務に従事しているが、平成○年○月ごろ、妊娠したことが判明したことから上司にその旨の報告を行ったところ、その数日後の〇月下旬、申告者は会議室に呼び出され、違反者の幹部数人から「妊娠した場合は健康上の心配もあるから、明日から出産後半年が経過するまでの期間について産前産後の休職をとるように」と告知されて休職を命じられた。
しかしながら、労働基準法第65条で産前産後の就労が禁止されている期間を除き、妊娠した女性労働者が希望する場合にはこれを就労させることは問題ないはずであり、仮に労働契約法第5条や労働安全衛生法第3条第1項などの規定に基づいて使用者に労働者の身体・健康等への安全配慮義務が生じるとしても、その妊娠した女性労働者を休職させなければならない合理的な存在がない限り、その休職命令は権利の濫用として無効になると考えるべきである(労働契約法第3条4項ないし5項、民法第1条2項ないし3項)。
この点、当該休職命令を受けた当時、申立人が妊娠した事実はあるものの従来の職務を遂行するのに何ら支障はなかったから、被申立人が申立人に対して休職を命じることにつき合理的な理由は存在しなかったといえる。
したがって、申立人が被申立人の命令に従って休職した期間については、申立人の希望による休職ではなく、「被申立人の都合による休業」であったと考えられるが、そうであれば、民法536条2項の規定により、申立人はその休業期間中における賃金の請求権を失わないものと考えられるところ、被申立人はその休業期間中の賃金を一切支払っていない。
したがって、当該休職期間中の賃金を支払わない被申立人には法令上の違反があるといえる。
3 紛争の経過
申立人は平成○年○月ごろ、妊娠したことが判明したことから上司の〇〇にその旨の報告を行ったが、その数日後の〇月下旬に会議室に呼び出され、違反者の幹部数人から「妊娠した場合は健康上の心配もあるから、明日から出産後半年が経過するまでの期間について産前産後の休職をとるように」と告知されて休職を命じられた。
この休職命令に対して申立人は妊娠したものの従事している業務に特段の支障はなかったことから出産予定日の〇月ごろまでは働きたい旨申し入れたが「会議で決まったことだから」と回答するのみで一切聞き入れられることはなく、事実上強制的に同期間について休職を命じられた。
申立人は休職の命令について不本意ではあったが抵抗することもできなかったため渋々命令に従い、その翌日から産後半年が経過するまでの期間について休職した。
その後申立人は出産後の平成〇年○月に復職したが、その休業期間中の賃金が一切支払われなかったことから上司の〇〇に抗議したものの「休職はお前の妊娠が原因だから給料が出るわけないだろう」と回答するのみで一切取り合ってもらえなかった。
そのため申立人は平成○年○月○日付の「休職期間中の賃金の支払いを求める申入書」を作成して被申立人に送付したが、現在に至るまでその休業期間中の賃金は一切支払われていない。
4 添付資料
・休職を命じた辞令書の写し 1通
・休職期間中の給与明細書の写し 1通
・休職期間中の賃金の支払いを求める申入書の写し 1通
以上
※官公庁ではすべての書類をA4で統一していますので、A4用紙でプリントアウトするようにしてください。
※「援助を求める理由」の欄について
援助を求める理由の欄には、会社側がどのような法律違反行為を起こしていて、どのような解決方法を求めているのか、といったことを記載します。
上記の事例では、妊娠した女性労働者が出産予定日までは勤務する意思があったにもかかわらず会社から強制的に休職を命じられその休職期間中の賃金をうけとることができなかったたことが問題となっていますので、その問題の違法性を法律の条文を交えて説明する文章にしています。
具体的には、女性労働者が妊娠した場合にはその母体と子を保護する必要性から労働基準法第65条で産前産後の一定期間就労させることに制限がなされていますが、妊娠した女性労働者が就労することを望んでいる場合には労働基準法第65条に抵触しない範囲で休職を認めるべきであって、合理的な理由がないの休職を命令することは権利の濫用を禁止する「労働契約法第3条4項ないし5項」や「民法第1条2項ないし3項」に違反すること、また、会社の休職命令が権利の濫用として違法(無効)と判断される場合には、その休職期間は会社が会社側の都合で休職させたということになり「使用者の都合による休業」として民法第536条2項により労働者はその休業期間の賃金の支払いを求めることが出来ると考えられることから、その休業期間中の賃金を支払っていない上記の事例の会社は法律に違反して支払わなければならない賃金を支払っていないということになる、というようなことを記載しています。
なお、この妊娠を理由に不当な休職を命じられその休業期間中の賃金を受け取れなかった問題についてはこちらのページで詳細に解説していますので参考にしてください。
※「紛争の経緯」の欄について
紛争の経緯の欄には、会社との間に発生した紛争がどのようなきっかけで発生し、会社とどのような交渉を行ってきたのか、ということを記載します。
上記の事例では、妊娠したことを上司に報告したところ会社幹部から会議室に呼び出されて休職を命じられたこと、それに抗議したが相手にされなかったこと、その休職が明けた後に上司に休業期間中の賃金の支払いを求めたが拒否されたこと、その後書面で休職期間中の賃金の支払いを求めたが現在に至るまで一切休業期間中の賃金が支払われていないことなどを時系列で簡単に記載しています。
※「添付書類」の欄について
添付書類の欄には、会社との間で発生している紛争の内容を証明するような資料があれば、その資料を記載します。
上記の事例では、「会社から休職命令を受けたこと」を明らかにするために「休職を命じた辞令書」の写しを、「休職期間中の賃金が支払われていないこと」を明らかにするために「休職期間中の給与明細書」の写しを、「会社に対して休職期間中の賃金の支払いを求めたこと」を明らかとするために「休職期間中の賃金の支払いを求める申入書」の写しを添付することにしています。
ちなみに、「休職期間中の賃金の支払いを求める申入書」の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。
▶ 妊娠を理由とする違法な休職期間中の賃金の支払いを求める申入書
なお、裁判所における裁判と異なり、労働局への紛争解決援助の申立に証拠書類の添付は必須ではありませんので、紛争の事実を証明できるような文書や電子データ(画像や音声・画像記録など)がない場合には添付書類の項には「特になし」と記載して申立てをしても構いません。
(※「写し」を添付するのは後で裁判などに発展した際に「原本」を使用することがあるからです。労働局への申立に証拠の原本は特に必要ありませんから、提出する書類(又はデータ)のコピーを取って、そのコピー(写し)を提出する方が無難です。)
様式について
労働局に対する援助の申立書に定型の様式は設けられておらず、各都道府県の労働局によってその様式が異なっているようです。
上記の様式で提出しても問題ないと思いますが、たとえば東京労働局で使用されている申立書の様式は東京労働局のサイトからダウンロード(Word)できますので、その様式を使用して提出するのもいいのではないかと思います(東京労働局で使用されている様式を他の労働局で使用しても受け付けてもらえると思います)。
もっとも、実際に労働局に対して援助の申立書を提出する場合は、申し立てを行う労働局に事前連絡や相談を行う場合が多いと思いますので、その相談する際に労働局で申立書のひな形をもらうなどした方が良いでしょう。