労働者が妊娠した場合には、業種によっては勤務することに支障が出てくるかもしれませんし、出産する際は当然ながら会社を休まないといけないでしょう。
しかし、たとえ労働者がこのような妊娠や出産に関係する事由で働くことが困難になったとしても、その労働者を雇用する使用者(会社)はその妊娠や出産すること理由として女性労働者に降格や減給、解雇などの不利益な処分をすることは認められません。
なぜなら、妊娠や出産に関することを理由に女性労働者に不利益な処分を与えることを認めてしまうと、その処分を受けたくないがために妊娠していることを隠して出勤したり、出産後に万全な体ではないにも関わらず無理をして働いてしまうなど、その女性労働者のみならず胎児や子供にまで健康を確保することができなくなり、ひいては女性を差別する結果となってしまうからです。
主に女性労働者の差別をなくすために制定された法律(いわゆる男女雇用機会均等法)においても、婚姻や妊娠、出産に関係することを理由とする労働者への不利益な処分は明文で禁止されていますので、妊娠や出産を理由とする不利益処分が認められないのは明らかと言えます(男女雇用機会均等法第9条)。
しかし、ブラックな企業や前時代的な企業では、未だに妊娠や出産したことを理由として降格や減給、解雇といった違法な処分がなされているところも少なくありません。
そこで今回は、妊娠や出産したことを理由に、降格や減給、解雇などの処分を受けた場合の対処法などについて考えてみることにいたしましょう。
なお、”結婚”を理由とした退職勧奨(退職を迫られること)や解雇については「社内結婚したことを理由に解雇されたら?」のページでもレポートしていますので参考にしてください。
降格や減給、解雇といった不利益処分をすることができない妊娠・出産に関する事由とは
前述したように、妊娠や出産したことに関する事由を理由として、女性労働者に降格や減給、解雇といった処分を下すことは、法律で禁止されています(男女雇用機会均等法第9条)。
そして、その不利益な処分を下すことができない「妊娠や出産したことに関する事由」としては、次のような事由が挙げられます(男女雇用機会均等法施行規則2条の2)。
・妊娠したこと
・出産したこと
・産前産後の休業をしたこと(※1)
・母子健康法の規定による保健指導・健康診断を受けるため勤務時間の変更措置などを求め又はその措置を受けたこと
・坑内業務その他の危険有害業務に従事できなかったこと
・妊娠中に軽易な業務への転換を申し出たこと
・妊娠中に残業や休日・深夜の勤務をしないことを請求し又は勤務しなかったこと
・産後に育児時間を請求し又は育児時間を取得したこと(※2)
・妊娠又は出産に起因する症状により仕事が出来なかったり、仕事の能率が低下したこと
(※1:妊婦は産前は6週間(双子以上は14週間)の休業ができ、産後は8週間休業させなければません(労働基準法65条)。)
(※2:生後満1年に達しない生児を育てる場合は会社に対して通常の休憩時間とは別に1日2回30分以上の育児時間を請求することができます(労働基準法67条)。)
不利益な処分を下すことができない「妊娠や出産したことに関する事由」としては上記の9つの事由が挙げられていますので、妊娠や出産したことを理由に解雇される場合は勿論のこと(上記の”1.”および”2.”)、たとえば育児休暇を申請したために減給処分を受けたとか(上記の”3.”)、妊娠中のツワリが酷くて仕事の能率が悪くなったとして降格処分を受けた(上記の”9.”)などの場合にも、その処分は法律に違反する処分として無効になると考えられます。
妊娠や出産に関する事由を理由としてすることができない「不利益な処分」とは
前述したように、”妊娠や出産に関する事由”を理由として女性労働者に不利益な処分を下すことは法律で禁止されています(男女雇用機会均等法第9条)が、その「不利益な処分」とは降格や減給、解雇といった処分に限られるものではありません。
それらの他にも、たとえば
- 正社員をパート従業員にすること
- 不利益な自宅待機を命ずること
- 昇進・昇格などの人事考課において不利益な評価を行うこと不利益な配置転換を行うこと
- 妊娠・出産した労働者が派遣労働者の場合に、派遣労働者を
- 受け入れている派遣先の会社が派遣の受け入れを拒むこと
などがあります(労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針第四-3-(2))。
妊娠や出産に関する事由を理由とした降格・減給・解雇などの不利益な処分を受けた場合の対処法
上記のように、妊娠や出産に関する事由を理由とした降格・減給・解雇などの不利益な処分は法律に違反するものとして無効になると考えられます。
しかし、ブラックな企業ではそんなことはお構いなしに妊娠や出産した女性労働者に対して不利益な処分を下すことも多いかもしれません。
そこで、そのような妊娠・出産に関する事由を理由にして不利益な処分を受けてしまった場合にどのような対処法を採れば良いのかを考える必要があります。
1.不利益な処分が法律に反し無効であることを書面で通知する
まず、妊娠や出産に関する事由を理由に不利益な処分を行うことは、前述したような男女雇用機会均等法という法律で禁止されていることを説明しましょう。
それでも会社側が不利益な処分を撤回しない場合は、書面を作成して改めて会社に対してその不利益な処分が法律に違反することを通知(送付)します。
≫妊娠・出産を理由に受けた不利益処分の無効・撤回通知書【ひな形・書式】
書面で通知する理由は、後日裁判になった際に、「自分がその処分に同意していないこと」を証明したり「会社側が法律に反することを知りながらあえて処分を下した」ということを証明することができるようにするためです。
口頭で抗議するより、文書を作成して郵送しておけば「書面」という形で残りますので、裁判の際に証拠として提出することが可能となります(※ただし、証拠として残す場合は内容証明郵便などで送付する必要があるでしょう)。
なお、受けた不利益処分が「解雇」の場合には、結婚を理由に解雇された場合の対処法を参考に対応することもできると思います。
2.労働局に会社の違法行為に対する援助・指導・勧告を求める
事業主が男女雇用機会均等法に違反することを行っている場合には、各都道府県に設置されている労働局に対して、違法行為に対する援助・指導・勧告を求めることが可能です(男女雇用機会均等法17条)。
労働局が「事業主の違法行為に対する援助・指導・勧告の求め」は労働局への強制力を持っているわけではありませんので、必ずしも労働局が事業主への指導や勧告などを行う訳ではありません。
事案によっては労働者に対する助言(アドバイス)だけで終わってしまうこともあると考えられます。
しかし、労働局から事前確認の電話が一本入っただけでも会社側が退職勧奨や解雇を撤回する可能性もありますので、労働局に援助・指導・勧告を求める要望書を提出しておくことも無駄とは言えないでしょう。
なお、労働局に対する援助・指導・勧告を求める要望書の定型の書式は見当たりませんので、「労働基準監督署に提出する違法行為の是正申告書」を参考に同様の書式に記載して提出しておけば問題ないと思います。
3.早めに弁護士などの法律専門家に相談する
会社が結婚を理由に退職を迫ったり、解雇したりする場合には、その退職勧奨(退職を迫ること)や解雇は明らかな法律違反(男女雇用機会均等法9条2項)といえます。
そのため、このような退職勧奨や解雇を受けてしまい、会社に交渉しても会社がそれを止めない場合には、早めに弁護士などの法律専門家に相談し、適切な対処を取る方が解決への最短の近道になる可能性が高いです。
法律の知識がないまま会社と交渉し続けると、あらぬ揚げ足を取られ、後になって裁判で不利な状況に陥ってしまうということも考えられますので、依頼する市内は別にして、早めに法律専門家に相談しておくことも無駄ではないと思います。
なお、結婚や妊娠、出産を理由に退職することを迫られている(強要されている)場合については、『「会社を辞めろ」と強要されたら?退職勧奨(肩たたき)の対処法』のページも参考にしてください。