このページでは、有期雇用契約の契約期間が満了した後も引き続きその職場で就労を継続し使用者(会社)から特段の異議を受けなかったため「黙示の更新」により「無期雇用契約(期間の定めのない雇用契約)」として契約が更新されている状況であるにもかかわらず、使用者(会社)から「有期雇用契約」で契約し直すように執拗に求められたり、一方的に「有期雇用契約」に契約を変更されてしまった場合に、労働局に対して紛争解決援助の申立をする場合の申立書の記載例(ひな形・書式)を公開しています。
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有期雇用契約の契約期間が満了し民法第629条第1項の「黙示の行使」によって「無期雇用契約(期間の定めのない雇用契約)」として更新されている場合において会社側から有期雇用契約に強制的に契約の変更を求められる問題に関する労働局の紛争解決援助申立書の記載例
(1)会社から有期雇用契約への変更に同意するよう執拗に求められている場合の申立書の記載例
〇〇労働局長 殿
個別労働関係紛争の解決に関する援助申立書
(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条に基づく)
平成〇年〇月〇日
申立人(労働者)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
住所 東京都葛飾区〇〇六丁目〇番〇号〇〇マンション〇号室
氏名 高進志多代
電話番号 080-****-****
被申立人(事業主)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
所在地 東京都文京区〇〇七丁目〇番〇号〇〇ビル〇階
名称 株式会社ヤトイドメ機械
代表者 辺幸四郎
電話番号 03-****-****
1 紛争解決の援助を求める事項
有期雇用契約への変更について執拗に同意を求める行為を止めさせるよう事業主に対する助言・指導を求める。
2 援助を求める理由
被申立人は、食用ガエルの皮を自動で剥ぎ取る家庭用カエル自動皮むき器「カエール・ムケール」を製造する従業員222名の株式会社であり、文京区に本社事業所があるほか埼玉県の秩父市に工場が設置されている。
申立人は、平成〇年〇月に「契約期間1年」のアルバイト従業員として被申立人に入社し、秩父市の工場(秩父工場)において「カエール・ムケール」の検品作業に従事していたが、有期雇用契約の契約期間が満了した〇月末日になっても契約更新の話が一切なかったことから契約が自動更新されるものと思い込み、契約期間が満了した○月末日以降も引き続き従前どおりに出社し従前どおりの作業に従事していた。
この有期雇用契約の契約期間満了後の申立人の就労については被申立人から異議等は述べられていないことから民法第629条1項の黙示の更新により従前と同一の労働条件で期間の定めのない雇用契約として契約が更新されたものと考えられるが、被申立人は申立人に対して執拗に有期雇用契約で契約をし直すように求め続けている。
しかしながら、民法第629条1項の黙示の更新により契約が更新された場合には期間の定めのない雇用契約として契約が継続されることになるから、これを有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)に変更することは労働条件の不利益変更にあたり労働契約法第3条1項または同法第8条に基づいて労働者の個別の合意(同意)を要するものといえ、労働者がその合意(同意)を拒否することも認められるべきであるといえる。
したがって、被申立人の申立人に対して執拗に有期雇用契約への変更を求める行為は労働契約法第3条1項の趣旨を無視した違法性を帯びる行為であるといえる。
3 紛争の経過
申立人は有期雇用契約の契約期間が満了してから1週間が経過した平成○年〇月○日、上司の〇〇から会議室に呼び出され、「契約期間が満了していたからこの契約書にサインして」と雇用契約書を提示されて署名押印を求められたが、その内容を確認したところ「契約期間1年」と記載された「期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)」に関する契約書だったことから、これに署名捺印することを拒否した。
しかしその後も数日おきに上司の〇〇に会議室に呼び出されるようになり、「有期雇用契約が満了したんだから有期雇用契約として更新されるのが当たり前だろう」「このままだと雇止めになるよ」「黙示の更新の場合は従前の有期雇用契約が更新されるんだから黙示の更新の後も有期雇用契約になるのが当然だろう」などと、執拗に「契約期間1年」の有期雇用契約が記載された雇用契約書に署名捺印することを求められるようになった。
そのため申立人は、「有期雇用契約への変更を拒否する旨の通知書」を作成し○月○日付で郵送することにより書面の形でその変更を拒否する旨被申立人に通知したが、その後も度々会議室に呼び出され、有期雇用契約の契約書に署名捺印するよう執拗に求められ続けている。
4 添付資料
・有期雇用契約の契約書の写し 1通
・有期雇用契約への変更を拒否する旨の通知書の写し 1通
以上
※官公庁ではすべての書類をA4で統一していますので、A4用紙でプリントアウトするようにしてください。
(2)会社が一方的に有期雇用契約に変更してしまった場合の申立書の記載例
〇〇労働局長 殿
個別労働関係紛争の解決に関する援助申立書
(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条に基づく)
平成〇年〇月〇日
申立人(労働者)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
住所 東京都葛飾区〇〇六丁目〇番〇号〇〇マンション〇号室
氏名 高進志多代
電話番号 080-****-****
被申立人(事業主)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
所在地 東京都文京区〇〇七丁目〇番〇号〇〇ビル〇階
名称 株式会社ヤトイドメ機械
代表者 辺幸四郎
電話番号 03-****-****
1 紛争解決の援助を求める事項
労働者の合意のない有期雇用契約への変更を撤回するよう事業主に対する助言・指導を求める。
2 援助を求める理由
被申立人は、食用ガエルの皮を自動で剥ぎ取る家庭用カエル自動皮むき器「カエール・ムケール」を製造する従業員222名の株式会社であり、文京区に本社事業所があるほか埼玉県の秩父市に工場が設置されている。
申立人は、平成〇年〇月に「契約期間1年」のアルバイト従業員として被申立人に入社し、秩父市の工場(秩父工場)において「カエール・ムケール」の検品作業に従事していたが、有期雇用契約の契約期間が満了した〇月末日になっても契約更新の話が一切なかったことから契約が自動更新されるものと思い込み、契約期間が満了した○月末日以降も引き続き従前どおりに出社し従前どおりの作業に従事していた。
この有期雇用契約の契約期間満了後の申立人の就労については被申立人から異議等は述べられていないことから民法第629条1項の黙示の更新により従前と同一の労働条件で期間の定めのない雇用契約として契約が更新されたものと考えられるが、被申立人はその黙示の更新によって更新された契約を一方的に「契約期間1年」の有期雇用契約に変更している。
しかしながら、民法第629条1項の黙示の更新により契約が更新された場合には期間の定めのない雇用契約として契約が継続されることになるから、これを有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)に変更することは労働条件の不利益変更にあたり労働契約法第3条1項または同法第8条に基づいて労働者の個別の合意(同意)を要するところ、申立人が契約の変更に合意(同意)した事実は一切ない。
したがって、被申立人が申立人の合意(同意)を得ずに「期間の定めのある雇用契約」を「期間の定めのある雇用契約」に変更した行為は労働者の同意を得ない労働条件の不利益変更に該当するから、労働契約法第3条1項または同法第8条に違反し権利の濫用として無効であるといえる。
3 紛争の経過
申立人は有期雇用契約の契約期間が満了してから1週間が経過した平成○年〇月○日、上司の〇〇から会議室に呼び出され、「契約期間が満了していたからこの契約書にサインして」と雇用契約書を提示されて署名押印を求められたが、その内容を確認したところ「契約期間1年」と記載された「期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)」に関する契約書だったことから、これに署名捺印することを拒否した。
その後の○月○日、申立人は上司の〇〇から再び会議室に呼び出されて「契約期間1年で契約が更新されたから」と告知され、従前の契約期間満了日の翌日付で契約が更新されたことにされている「1年の契約期間で契約を更新する」と記載された辞令書を交付された。
これに対して申立人は、「黙示の更新によって期間の定めのない雇用契約として更新されていること」を説明して理解を求めた一切聞き入れられることがなかったため、○月○日付の「有期雇用契約への変更の撤回を求める申入書」を作成し被申立人に郵送したが、その後も現在に至るまで契約期間1年とした有期雇用契約への変更は撤回されていない。
4 添付資料
・有期雇用契約の契約書の写し 1通
・有期雇用契約で契約を更新した旨記載された辞令書の写し 1通
・有期雇用契約への変更の撤回を求める申入書の写し 1通
以上
※官公庁ではすべての書類をA4で統一していますので、A4用紙でプリントアウトするようにしてください。
※「援助を求める理由」の欄について
援助を求める理由の欄には、会社側がどのような法律違反行為を行っているのか、といったことを記載します。
上記の記載例では、有期雇用契約の契約期間が満了したものの会社から契約の更新について何も告知がなかったことから契約は更新されるものと思い込み、契約期間満了後も通常通り出社して従前どおりの作業に従事した事実と、それに対して会社から「契約期間が満了しているから出社するな」などといった異議を受けなかった事実を記載し、そのような事実がある場合には民法第629条1項により「黙示の更新」として従前の労働条件と同一の契約が更新されたことになることを、また「黙示の更新」として契約が更新される場合には「有期雇用契約」ではなく「無期雇用契約(期間の定めのない雇用契約)」として契約が更新されることを、「黙示の更新」の事実があった前提問題として記載しています。
そして、そのうえで「黙示の更新」により「期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)」として更新された契約を「期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)」に変更することは「労働条件の不利益変更」にあたり労働契約法第3条1項または同法第8条に基づいて労働者の個別の合意(同意)が必要になることを説明したうえで、(1)の事例では、有期雇用契約に変更することに同意するよう執拗に求められていることは、労働者が同意する義務が無いことについて同意を執拗に求めていることになり違法性があることを、(2)の事例では、有期雇用契約に同意した事実がないにもかかわらず会社が一方的に有期雇用契約に契約を変更してしまったことは労働契約法第3条1項または同法第8条に違反するということを説明する文章にしています。
なお、有期雇用契約の契約期間が満了し民法第629条1項の「黙示の更新」によって「期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)」として契約が更新されているにもかかわらず会社から有期雇用契約への変更や再契約を求められている場合の対処法などについてはこちらのページを参考にしてください。
▶ 「黙示の更新」後に有期雇用契約で再契約するよう迫られた場合
▶ 契約期間満了後に更新されない場合は雇止め?それとも自動更新?
※「紛争の経過」の欄について
紛争の経過の欄には、会社との間の紛争がどのようなきっかけで発生し、会社側とどのような交渉を行ってきたのか、その経緯を記載します。
上記の事例では、(1)の事例では有期労働契約の契約期間満了後に上司に呼び出されて有期雇用契約に契約を変更するように同意を求められ、拒否しても執拗に何度も同意を求められて書面で拒否の通知をしたあとも同意を求められる行為が収まらないことを、(2)の事例では、期間満了後に上司に呼び出されて有期雇用契約の契約書にサインを求められこれを拒否したところ一方的に有期雇用契約で契約が更新されたことされてしまったこと及び書面で撤回を求めても撤回されなかったことなどを記載しています。
※「添付資料」の欄について
添付資料の欄には、会社との間で発生している紛争の内容を証明するような資料があれば、その資料を記載します。
上記の(1)記載例では、「有期雇用契約が満了したこと」を明らかとするために「有期雇用契約の契約書」の写しを、また「文書で契約の変更を迫る行為を止めるよう求めたこと」を明らかとするために「有期雇用契約への変更を拒否する旨の通知書」の写しを、また(2)の記載例では「有期雇用契約が満了したこと」を明らかとするために「有期雇用契約の契約書」の写しを、「黙示の更新があった後に一方的に無期雇用契約から有期雇用契約に契約を変更されたこと」を明らかとするために「有期雇用契約で契約を更新した旨記載された辞令書」の写しを、また「書面で有期雇用契約への一方的な変更を撤回するよう求めたものの撤回されなかったこと」を明らかとするために「有期雇用契約への変更の撤回を求める申入書」の写しを添付することにしています。
なお、この場合に添付する「有期雇用契約への変更を拒否する旨の通知書」と「有期雇用契約への変更の撤回を求める申入書」の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。
ちなみに、裁判所における裁判と異なり、労働局への紛争解決援助の申立に証拠書類の添付は必須ではありませんので、紛争の事実を証明できるような文書やデータ(画像や音声・画像記録など)がない場合には添付書類の項には「特になし」と記載して申立てをしても構いません。
(※「写し」を添付するのは後で裁判などに発展した際に「原本」を使用することがあるからです。労働局への申立に証拠の原本は特に必要ありませんから、提出する書類(又はデータ)のコピーを取って、そのコピー(写し)を提出する方が無難です。)
※ 様式について
労働局に対する援助の申立書に定型の様式は設けられておらず、各都道府県の労働局によってその様式が異なっているようです。
上記の様式で提出しても問題ないと思いますが、たとえば東京労働局で使用されている申立書の様式は東京労働局のサイトからダウンロード(Word)できますので、その様式を使用して提出するのもいいのではないかと思います(東京労働局で使用されている様式を他の労働局で使用しても受け付けてもらえると思います)。
もっとも、実際に労働局に対して援助の申立書を提出する場合は、申し立てを行う労働局に事前連絡や相談を行う場合が多いと思いますので、その相談する際に労働局で申立書のひな形をもらうなどした方が良いでしょう。