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インフルエンザで上司に休めと言われたら休まないといけない?

冬場の季節に仕事をするうえで一番気を付けたいのは、インフルエンザに罹患することではないでしょうか?

インフルエンザは風邪と症状が似ていますが、その本質はウイルス性の伝染病といえますので対処を誤ると命の危険も生じさせてしまう可能性のある危険な病気であるといえます。

ところで、インフルエンザは咳などで容易に感染を広げてしまうことからインフルエンザに罹患した際には休職の届を出し、症状が改善するまで会社を休むのが一般で気ではないかと思われますが、場合によっては会社側からインフルエンザに罹患したことを理由に休職を命じられることがあります。

しかし、インフルエンザの症状も人それぞれですから人によってはインフルエンザに罹患したとしても通常の業務に従事できる人もいるかもしれませんし(※現実的には少ないと思いますが…)、周りに人がいないような職場では周囲の従業員に感染を広げてしまう心配もないといえるため、そのような職場では休職に応じなければならない義務はないようにも思えます(※もちろん、あくまでもインフルエンザに罹患した本人が出勤するのを望んでいるのが前提です)。

また、派遣や契約社員、バイト・パートなどの労働形態で働く人は、休職した日数分の給料が減らされてしまう可能性もありますから、可能な限り働きたいと思う人も多いのではないかと思われます。

そこで今回は、インフルエンザ(風邪などその他の病気も含む)に罹患したことを理由として使用者(会社※個人事業主も含む)から休職を命じられた場合には会社を休まないといけないのか、という点について考えてみることにいたしましょう。

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従業員の病気や怪我を理由に使用者は休職を命じられるか?

インフルエンザに罹患して会社から休職を命じられた場合の対処法を考える前提として、まず、労働者が病気に罹患したことを理由として使用者が休職を命じることが出来るのか、という点を考える必要があります。

労働者が病気に罹患したことを理由に休職を命じることが法律上強制されていないのであれば、労働者がインフルエンザに罹患したことを理由に休職を命じられたとしても、実際に会社を休むかはその労働者が自由に決めて問題ないと考えられるからです。

この点を明確に規定した法律はありませんので判断基準は過去の判例や裁判例によることになりますが、過去の判例では、その労働者が他の業務に従事できるかできないか、また、職種が限定されているかいないか、で判断が分かれているようです。

例えば、Aという業務に従事している労働者が怪我や病気に罹患しAという業務に従事できない場合には、基本的にその労働者は会社との間で結んだ労働契約を履行していないということになりますので、会社はその労働者にその怪我や病気が治癒してAという業務に従事できるようになるまで会社を休むよう休職の命令を出すことが出来ると考えられます。

しかし、このような場合であっても、Aという業務に従事している労働者が職種が限定されていない労働契約である場合には、会社はその労働者にA以外の業務を与えなければならない義務がありますから「Aという業務に従事できないなら休職しろ」とは命じられず、Aという職種以外の例えばBやCといった他の職種を提示し、そのBやCの業務に勤務できないような場合しか休職を命じることはできないと考えられます。

具体例で例えると、「営業職」に従事している労働者が病気になり「営業職」に従事することが出来なくなった場合であれば、その労働者が一般職として入社し会社から営業職に就くことを命じられて営業職で勤務している場合にはたとえその労働者が「営業職」に従事できなくなったとしても営業職以外の職種で勤務できる限りその労働者は労働契約に違反していることにはなりませんから、営業職以外の職種(例えば事務職など)を与えてその職種に従事することが出来ない場合でない限り、会社は休職を命じることはできないものと考えられます。

一方、最初から「営業職」に職種を限定されている場合には、その限定された「営業職」という職務に従事できなくなるとその労働者は労働契約に違反している状態ということになりますから、会社側はその限定された職種に従事できなくなった労働者に対して直ちに休職を命じることが出来るということになります。

なお、この点については会社からの配転命令を拒否できるかという問題点とほぼ同じ考え方になりますので、上記の説明であまり理解できないという人はこちらのページを参考にしてください。

▶ 人事異動や配転命令を拒否することはできるのか?

インフルエンザで休職を命じられた場合は?

以上のように、職種が限定されている雇用契約の場合には、その限定された職種に従事できないような病気等に罹患した場合には会社から休職を命じられると会社を休まないといけないでしょうし、仮に職種が限定されていない労働契約の場合であっても、従事している職種を他の職種に変更しても勤務できないような場合には、会社から休職を命じられたら会社に出勤できないものと考えられます。

では、このような法律的な考え方があることを前提にすると、インフルエンザに罹患した場合にはどのようになるでしょう?

インフルエンザに罹患した場合、39度以上の高熱が出ることが多いですが、人によっては39度程度の熱が出ても働くことが出来るという人がいるかもしれませんし、大事なプロジェクトが進行していて「どうしても会社を休みたくない」と無理をして会社に出勤したいと考える人もいるかもしれません。

このように本人が無理をして出勤できるのであれば、職種が限定されているかいないかに拘わらず、労働契約に違反して就労できないという状況になりませんから、会社が休職を命じることはできないのではないかとも思えます。

しかし、インフルエンザの場合には、仮に自分では業務に従事できると思っていても、会社から休職を命じられた場合には基本的にそれに従って休職に応じるべきであろうかと思われます。

なぜなら、事業主にはその雇用する労働者に対する安全配慮義務が課せられているからです。

この場合の安全と健康への配慮義務は、そのインフルエンザに罹患している労働者本人に対する安全と健康への配慮義務と、それ以外の労働者に対する安全と健康への配慮義務の2つに分かれます。

(1)本人に対する安全と健康への配慮義務

使用者(雇い主)は、その雇用している労働者の健康や安全を確保できるよう必要な配慮をしなければならない義務を負っています(労働契約法第5条)(労働安全衛生法第3条第1項)。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。(労働契約法第5条)
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。(労働安全衛生法第3条第1項)

このような会社側の労働者に対する安全と健康への配慮義務を考えると、仮にこの義務に違反して労働者の健康を損ねてしまった場合には、会社側は安全配慮義務違反としてその責任を負わなければならないことになります。

そのため、労働者がインフルエンザに罹患してしまった場合には、たとえ本人が「大丈夫」と言っていたとしても、会社側としては安全と健康への配慮義務に違反することはできませんし、本人の健康を考えて休職を命じるのも合理性がありますから、労働者としては休職命令に従っておとなしく会社を休む方が良いと思われます。

もっとも、症状が軽くマスクなどをして就業に差し支えないようなケースであれば会社としても安全配慮義務に違反することにはならないので出社しても差し支えないでしょう。

(2)他の社員の安全と健康への配慮義務

前述したように、事業者はその雇用している労働者の健康や安全を確保できるよう必要な配慮をしなければならない義務を負っていますが(労働契約法第5条、労働安全衛生法第3条第1項)、これは何もけがや病気に罹患している本人だけに対するものではありません。

そのり患した病気が伝染する性質を有する疾病の場合には、他の従業員に病気が広がらないように配慮する義務も当然含まれることになります。

この点、労働安全衛生法の68条および労働安全衛生規則第61条では「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」の就業を「禁止」することが事業者に義務付けられていますが、インフルエンザの疾病自体はその「病毒伝ぱのおそれのある伝染病」には含まれていません。

【労働安全衛生法第68条】
事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。
【労働安全衛生規則第61条】
第1項 事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない。ただし、第一号に掲げる者について伝染予防の措置をした場合は、この限りでない。
一 病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者
二 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかった者
三 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかった者
第2項 事業者は、前項の規定により、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない。

ですから、インフルエンザに罹患したこと事実をもってのみこの労働安全衛生規則第61条を根拠にして会社がその労働者に対して休職を命じることはできませんが、無理に出社して他の従業員に伝染してしまう危険を考えれば、他の労働者を保護する観点から出社を控えるよう休職を命じることに合理性があると判断できる場合もあるかもしれません。

ですから、あくまでもケースバイケースで考えるしかありませんが、インフルエンザに罹患したその症状や他の社員への影響等を考慮して休職命令が合理的な範囲にとどまる場合には、休職の指示に従って数日間休まなければならない場合もあると思われますが、マスクをするなど他の社員への伝染の危険を排除できる場合は、会社としてもその労働者の出社を拒否できないケースもあろうかと思われます。

ただの風邪の場合は?

では、インフルエンザではなく普通の「風邪」の場合はどうでしょうか?

風邪の場合はインフルエンザのように感染力も高くなく、症状もインフルエンザほどひどくならないのが一般的だと思われますので、風邪を引いたぐらいで会社が休職を命じるのは大げさすぎるようにも思えます(※もちろん本人が風邪で休みたいと望んでいる場合は別です)。

この場合の判断基準も明確ではありませんが、最終的にはケースバイケースで会社側が休職を命じることに合理性があるかという点で判断されるもの思われます。

風邪の症状が軽く本人に出社する意思があって本人の健康に害がなく他の労働者への感染の恐れも低いというような場合であれば前述した健康への配慮義務に違反することもないと考えられますので、そのような軽い風邪の場合にまで会社側が休職するよう命じる場合には、その命令は合理性がないと判断される可能性もあるでしょう(合理性がないと判断されればその休職命令は権利の濫用で違法(無効)となり、そのような休職命令に応じる必要がないということになります)。

もっとも、例えば保育園や幼稚園、医療機関といった顧客の健康を優先して考えなければならないような職場では、仮に症状の軽い風邪であっても子供や患者などへの感染を考えて使用者側が休職命令を出すことに合理性があると判断される可能性もありますので、一概に「軽い風邪だから休職命令なんて無視してよい」と判断してしまうのは少々危険かもしれません。

(※軽い風邪の場合でも会社は休職命令を出して構わないという意味ではありません。例えば保育園や医療機関ではなくコンビニなどの店員が風邪を引いた場合などはマスクをすれば顧客への感染もある程度防ぐことが出来ると思いますので、コンビニの店員に「風邪ひいたなら休め」というような休職命令が出される場合は(あくまでも個人的な意見としてですが…)合理性がないと判断されるのではないかと思います)

そのため、風邪など軽微な疾患で会社から休職を命じられた場合には、その休職命令が前述したような判断基準に照らして合理性のあるものかという点を十分に検討することも必要になるのではないかと思われます。

適法な休職命令を無視して出社するとどうなる?

以上のように、会社側の出す休職命令に法律上有効で合理性がある場合には、会社の行う休職命令は有効と考えられますので、その休職命令に従って会社を休まないといけないでしょう。

仮にこの場合に会社の命令を拒否して無理に出社した場合にはどうなるかというと、そのような場合には会社の命令に従わないものとして懲戒処分などに該当する可能性もあるので注意する必要があります。

そのため、インフルエンザで会社から休職を命じられた場合には、その休職命令が合理的な範囲である限りその命令に従った方が良いのではないかと思われます。

休職命令が違法であったり合理性がない場合

前述したように、会社側の休職命令が適法で合理性がある限りその命令に従って休職しなければならないと考えられますが、会社の出す休職命令が違法であったり合理性がないような場合には、その休職命令に従う必要はありませんし、休職命令に従ったとしてもその休職期間中の賃金の支払いを請求することができます。

なぜなら、会社側の休職命令が違法であったり合理性がない場合には、その休職は「会社の都合による休業」と同じになりますから、その休職期間中の賃金の請求をする権利を失わないからです。

たとえば、インフルエンザで特段の事情がないにもかかわらず1か月以上の休職を命じたり、完治したにもかかわらず復職を認めなかったりする場合にはその休職命令は違法と判断される可能性が高いので、その休職期間中の賃金を請求することが出来ると思われます。

なお、この場合の具体的な対処法についてはこちらのページを参考にしてください。

▶ 病気や怪我が治ったのに休職を命じられた場合の対処法

▶ 会社の都合による休業日、その日の賃金を請求できる?

▶ 会社都合の休業で休業手当が支払われない場合の対処法