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「育児休業(育児休暇)はとれない」と言われたら?

共働きの夫婦が子育てをする場合には、どちらか一方が育休(育児休業・育児休暇)をとって育児に専念する期間が必要となるでしょう。

赤ちゃんが生まれた場合、実家に住んでいて親や親類が育児を手伝ってくれるなら別ですが、親と離れて暮らす都市部の夫婦にとっては保育園を利用できる程度の年齢に育つまで子供から目を離すことはできないのが現実です。

しかし、育児に理解の少ない会社や営利第一主義のブラック企業などでは、育児休業を申し出てもそれを認めてくれなかったり、育休を申し出た従業員に対して減給や降格など不利益な処分を科して嫌がらせをするといった事例も数多く存在しているようです。

そこで今回は、勤め先の会社が育休(育児休業・育児休暇)を認めない場合にはどのような対処をとればよいのか、という点について考えてみることにいたしましょう。

なお、育休ではなく産休(産前休暇・産前休業)の取得を拒否された場合についてはこちらのページを
▶ 「産休(産前休暇)は取れない」といわれたら?
また、産休や育休を申請し又は取得したことを理由として減給や降格、配置転換(配転)などの不利益な取り扱いを受けた場合の具体的な対処法についてはこちらのページを参考にしてください。
▶ 産休や育児休業を理由に給料やボーナスを下げられた場合
▶ 産休や育休の取得を理由に降格や配置転換を命じられた場合

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育休(育児休業・育児休暇)は法律で認められた権利

まず、育休(育児休業・育児休暇)を認めてくれない会社への対処法を考える前に、育休(育児休業・育児休暇)をとることができる権利がどのような法律に基づいて労働者に与えられているのかを知っておく必要があります。

この点、育休(育児休業・育児休暇)は、「労働基準法」と「育児休業法(※正式名称は”育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律”)」という2つの法律に規定されています。

労働基準法における育児休業に関する規定

労働基準法の65条2項では、産後8週間を経過しない女性を就労させることを基本的に禁止していますから、産後8週間を経過しない女性労働者については育児休業(育児休暇)が認められるのは法律上明らかといえます。

産後8週間を経過しない女性労働者が育児休業を申請した場合には、会社はその育児休業の申請を拒否することはできず、必ずその育児休業(育児休暇)を認めなければならないのです。

【労働基準法65条2項】
使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、そのものについて医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。

育児休業法における育児休業に関する規定

育児休業法の第5条では、1歳未満の子供を養育している労働者は事業主(会社・雇い主)に対して育児休業の申し出をすることができると規定されていますので、正社員やアルバイト・パートなど労働形態の違いにかかわらず、原則として全ての労働者は育児休業をとることができると考えられています。

【育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第5条】
労働者は、その養育する1歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる。ただし、期間を定めて雇用されるものにあっては、次の各号のいずれにも該当するものに限り、当該申出をすることができる。(以下省略)

そのため、1歳に満たない子供を養育している労働者は、会社の方針に関係なく育児休業をとることが認められるということになります。

もっとも、”但書”で「期間を定めた労働契約(雇用契約)」の労働者については、一定の要件を満たしていないと育児休業が認められないと規定されていますので、事業主(会社・雇い主)との間で結んだ労働契約(雇用契約)に「契約期間は〇年〇月から○年○月まで」といったように期間が定められている労働者については一定の場合には育児休業が認められない場合もあるということになります。

それでは、具体的にどのような労働者に育児休業の取得が認められることになるのか、「期間の定めのない労働契約」の場合と「期間の定めのある労働契約」の場合とに分けて説明してみることにいたしましょう。

(1)期間の定めのない労働契約(無期雇用契約)の場合

働き始めた時に会社と取り交わした契約書(労働契約書・雇用契約書)に、就労期間の定めがない場合には「期間の定めのない労働契約(雇用契約)」となりますので、そのような「期間の定めのない労働契約(雇用契約)」で働いている労働者が1歳未満の子供を養育している場合には、育児休業の取得が法的に認められることになります。

育児休業の取得が認められるということは、育児休業を認めない会社は法律違反を犯しているということになりますので、会社は「期間の定めのない労働契約(雇用契約)」の労働者から育児休業の申請があった場合には必ずその育児休業を認めなければならないということになります。

もっとも、日雇い労働者や登録型の派遣(仕事が入ったときにだけ連絡が入ってその日だけ働く形態の派遣※スポット派遣など)は契約期間の定めがない労働契約であっても育児休業は認められていませんので注意が必要です(育児休業法第2条1号※勿論、会社が育児休業を認めれば育児休業をとることはできます)。

(2)期間の定めのある労働契約(有期雇用契約)の場合

働き始めた際に会社と取り交わした契約書(労働契約書・雇用契約書)に、就労する期間が「○年○月~○年○月まで」などと一定の期間に定められていているような場合には、その労働契約(雇用契約)は「期間の定めのある労働契約(有期雇用契約)」となります。

このような「期間の定めのある労働契約(有期雇用契約)」で働いている労働者の場合は、次の3つの要件に当てはまる場合に限り育児休業が認められることになります(育児休業法第5条1項1号および2号)。

・雇用されてから1年以上であること
・子が満1歳になる誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれること
・子が満1歳になる誕生日から1年が経過するまでの日(2歳の誕生日)までに労働契約期間が満了し、その契約が更新されないことが明らかでないこと

そのため、例えば2016年の1月1日から「契約期間は2016年の1月1日~2018年の12月31日まで」という契約で働き始めた労働者を例にとると、2017年の1月1日に子供が生まれた場合には、雇用されてから1年を経過しており(※上記の”1.”)、子が満1歳になる2018年の1月1日以後も1年間契約期間が残っていますので(※上記の”2.”)、「2018年の12月31日で契約更新がされない」ということが確実に確定していない限り(会社が2018年の12月31日以降は更新しないといっていない限り)育児休業の申請は認められる(会社は育児休業の申請があった場合は認めなければならない)ということになります。

もっとも、日雇い労働者や登録型の派遣(仕事が入ったときにだけ連絡が入ってその日だけ働く形態の派遣※スポット派遣など)は上記の”1.”~”2.”の要件を全て満たした場合であっても育児休業は認められていませんので注意が必要です(育児休業法第2条1号※※勿論、会社が育児休業を認めれば育児休業をとることはできます)。

(3)育児休業が認められる労働者のまとめ

以上の育児休業の認められる労働者(育児休業が認められるための要件)をまとめると次のようになります。

【契約期間の定めがない場合】
1歳に満たない子供を養育している場合には無条件に認められる
【契約期間の定めがある場合】
1歳に満たない子供を養育している場合で次の①~③全てに当てはまる場合は認められる(※ただし、出産後8週間を超えない期間は無条件に認められる)。
①雇用されてから1年以上経過していること
②子が1歳に達する日以降も引き続き雇用されることが見込まれること
③子が1歳に達する日から1年が経過するまでの日までに契約期間が満了し、かつ、契約が更新されないことが明らかでないこと
(※ただし、日々雇用される者については上記に該当しません。)

以上のように、会社に対して育児休業を請求できるかは、「期間の定めのない雇用契約」と「期間の定めのある雇用契約」の場合で異なりますので、雇用されたときに会社と取り交わした契約書を確認し、自分が「期間の定めのない雇用契約」と「期間の定めのある雇用契約」のどちらであるのか、また、「期間の定めのある雇用契約」の場合には上記”1.”~”3.”の要件を満たしているのか、という点をチェックすることが必要です(※ただし、出産後8週間を超えない期間は無条件に育児休業が認められます)。

自分が上記の要件に照らして育児休業(育休)を取得出来る権利を有していることが明らかであるにもかかわらず、会社側が育児休業を認めない場合には、その会社は法律に違反しているということになりますので、法律的な何らかの対処を行う必要があります。

会社が育児休業を認めない場合の対処法

(1)法律で育児休業の取得が認められていることを説明する

勤務先の会社から育児休業(育休・育児休暇)の取得を拒否された場合には、会社の上司に対して、前述したように育児休業法で育児休業の取得が認められていることを説明するようにしましょう。

会社や上司によっては、法律で育児休業の取得が認められていることを知らない場合もありますので(勿論、本来は知っておくべきですが…)、とりあえず説明して育児休業を認めてもらえるよう説得してみましょう。

普通の会社であれば「ごめん、そんな法律があるなんて知らなかった、すぐに休暇がとれるように取り計らうよ」ということになることが多いですから、意外と簡単に解決する場合もあるでしょう。

(2)育児休業の取得を請求する申入書(通知書)を郵送する

会社や上司に説得を試みても解決しない場合には、「育児休業の取得を請求する申入書(通知書)」を作成し、その書面を会社に郵送する方法で育児休業を請求するようにしましょう。

育児休業(産前・産後休暇)を求める申入書【ひな形・書式】

口頭で説得してらちが明かない場合であっても、書面で通知すれば会社側も「これを無視して休暇を与えないとなんかやばいことになりそうだぞ」と考えて、休暇を認めることも多いです。

また、書面で通知しておけば、後日裁判などになった際に、その書面を証拠として裁判に提出することが可能となりますから、その意味でも文書を作成して郵送する必要性はあるといえます(※但し、証拠として利用する場合は内容証明郵便で郵送しておく必要があるでしょう)。

(3)労働基準監督署に違法行為の是正申告を行う

労働者(社員・従業員)は、使用者(会社・雇い主)が労働基準法に違反する行為を行っている場合には、労働基準監督署に対して違法行為の申告を行うことができ、労働者から違法行為の申告があった場合には、労働基準監督署が会社に対して報告や出頭を求めて調査を行い、違反行為に対する是正勧告や検察への刑事告発を行う場合があります。

【労働基準法104条1項】
事業場に、この法律又はこの法律に基づいて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督署に申告することができる。
【労働基準法104条の2】
行政官庁は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、または出頭を命ずることができる。

この点、前述したように、労働基準法の65条2項では産後8週間を経過しない女性を就労させることを基本的に禁止していますから、産後8週間を経過しない女性労働者が育児休業を申し出たにもかかわらず会社が育児休業(育児休暇)を与えない場合には労働基準法違反となり、労働基準監督署に違法行為の是正申告を行うことが可能です。

労働基準監督署に申告することによって労働基準監督署の調査や是正勧告が行われれば、よほど悪質な会社でない限り労働基準監督署の指導に従うのが通常ですので、会社側が育児休業を認めることになるでしょう。

なお、労働基準監督署に違法行為を申告する際に提出する「違法行為の申告書」に定型の書式はありませんので、ワードなどの文書作成ソフトで適宜に作成すればよいと思います。

もっとも、作成方法が分からないという人もいると思いますので、そういった場合はこちらのページに記載したものを参考にして下さい。

育児休業に関する労働基準監督署への違反申告書の記載例

労働基準監督署に提出する違法行為の是正申告書の書き方

(3)労働局に紛争解決の援助を申し込む

育児休業に関する事項について労働者と事業主の間に紛争が生じた場合には、各都道府県に設置されている労働局に対して「紛争解決の援助の申し込み」をすることが可能です(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第52条の3ないし同条の4)。

【育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第52条の4】
第1項 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
第2項 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他の不利益な取り扱いをしてはならない。

会社が育児休業(育児休暇)を与えてくれないという場合も、労働者と事業主に「紛争」が生じているということができますから、労働局に対して「会社が法律に違反して育児休業(育児休暇)を与えてくれないんです、何とかしてください!」と「援助の申し込み」を行うことができます。

援助の申し込み(申立)を受けた労働局は、必要に応じ労働者や事業主に対して助言や指導を行いますので、解決への糸口を見つけることも可能でしょう。

この「紛争解決の援助の申し込み」は通常、書面を提出して行いますが、その書面に定型の書式はありません(都道府県の各労働局で様式が異なっています)のでワードなどの文書作成ソフトで適宜な書面を作成してかまいません。

ちなみに、東京労働局のサイトから東京労働局で使用されている援助申立書の様式をダウンロードすることが可能です(※東京以外でもこの様式を使用して申し立てを行っても問題ないと思います)。

様式 | 東京労働局

もっとも、何をどう書けばよいか分からない人もいると思いますので、次のページに掲載した雛形を参考にしてください。

育児休業に関する労働局への紛争解決援助の申立書の記載例

なお、この労働局に対する援助の申し込み(申立)に費用は必要ありません(無料)ので、気軽に利用できると思います。

ちなみに、「紛争解決の援助の申し込み」の申立書(申込書)の書き方がどうしてもわからないという人は、最寄の労働局に行けば丁寧に教えてもらえると思います。

(4)労働局に調停の申し立てを行う

また、育児休業に関する事項について労働者と事業主の間に紛争が生じた場合には、各都道府県に設置されている労働局に対して「紛争解決の援助の申し込み」とは別に「調停」を申立をすることも可能です(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第52条の5)。

【育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第52条の4第1項】
都道府県労働局長は、第52条の3に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。

そのため、会社が育児休業(育児休暇)を与えてくれないという場合には、前述した労働局に対する「紛争解決の援助」とは別に労働局に対して「調停」を申立てることもできます。

実際には労働局に対して「紛争解決の援助」か「調停」のどちらか一方を申立てるのが通常だと思いますが、「紛争解決の援助」を申立てても解決しない場合に改めて「調停」を申立てることも可能です。

なお、この労働局の行う調停は、裁判所で行われる調停とは異なり無料で利用することができますので、経済的に余裕がないという人は裁判所ではなく労働局の行う調停を利用する方が良いかもしれません。

なお、労働局に申し立てる「調停」は通常、調停申立書を作成して労働局に提出することになりますが、定型の書式などはありませんので適宜の申立書を作成して提出しても問題ありません。

もっとも、労働局に対して提出する調停申立書のひな型は厚生労働省のサイトのこちらのページからダウンロードすることが可能ですので、こちらで公開されている様式を使用する方が良いでしょう。

≫ 職場でのトラブル解決の援助を求める方へ |厚生労働省

なお、調停申立書に記入する事項については、労働局に対する「紛争解決援助の申立書」と特に変わりはありませんので、こちらで公開している記載例を参考に、上記厚生労働省のサイトからダウンロードできる申立書に記入していけばよいでしょう。

≫ 育児休業に関する労働局への紛争解決援助の申立書の記載例

(5)弁護士などの法律専門家に相談する

以上のような対処法をとって問題が解決しない場合や、上司が怖くて会社と交渉したり文書を郵送することもできないというような場合には、なるべく早い段階で弁護士などの法律専門家に相談することも必要です。

弁護士などの法律専門家(司法書士・社会保険労務士も含む)であれば、前述した労働基準監督署や労働局に対する援助の申し込みについても、相談に行けば最善の解決方法を教えてもらえますし、裁判になった場合には代理人となって解決に導いてくれるでしょう。