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会社の公式ツイッターでの不適切ツイート、なぜ問題になる?

先日、「いい年こいて、仕事しろよハゲ」と某携帯電話会社の公式ツイッターアカウントでツイートされたことが話題に上っていましたが、従業員がこのような不適切なツイートをすることが具体的にどのような法律に基づいて問題とされるのか、皆さんお判りでしょうか?

「いい年こいて、仕事しろよハゲ」という文言の中には特定のお客の個人情報が含まれているわけではありませんし、会社の業務に直接支障が出ような表現があるわけでもありませんから、「いい年こいて、仕事しろよハゲ」とツイートすることよって誰にどのような損害を与えることになるのか、という点がイマイチ分かりにくいのではないかと思います。

たとえば、仕事上知ったお客の個人情報を自分のツイッターアカウントでつぶやく場合(例えば不動産屋で働く従業員が訪れた芸能人夫婦が下見した物件をツイートしたするなど)を考えてみると、お客の個人情報を公にさらしてしまっているのでそのお客に対して多大な迷惑と損害を与えることになりますし、勤務している会社の信用面も失墜させることになりますから不法行為(民法709条)として法律的に問題があることは明らかです。

また、食品を扱う業務でその衛生状態を損ねるような画像を撮影して自分のツイッターアカウントでつぶやくなどの場合(例えば、コンビニの店員が冷蔵庫に寝そべった場面を撮影しツイートするなど)を考えてみても、会社の衛生環境や信頼を損ねるものであって会社の業務に直接支障をきたすことになりかねませんから同様に不法行為(民法709条)として法律的に問題があることはわかるでしょう。

もちろん、「いい年こいて、仕事しろよハゲ」という文言の中には、年齢を重ねた人物をさげすむ表現(「いい年こいて」の部分)や、仕事をしていない人を侮辱する表現(「仕事しろよ」の部分)、外見上のコンプレックスを持つ人に対する侮蔑の表現(「ハゲ」の部分)などが含まれていますから、「いい年こいて、仕事しろよハゲ」という文言自体は道徳的に考えて適切とは言えません。

しかし、「いい年こいて、仕事しろよハゲ」という文言によって特定の誰かを傷つけているわけではありませんし、「いい年こいて、仕事しろよハゲ」という文言によって会社の衛生状態が損なわれたり(社員にハゲが多くても不潔な会社とは言えない)、会社の信用が害される(社員にハゲが多ければ倒産するというわけではない)ということにはなりませんから、「いい年こいて、仕事しろよハゲ」という文言の何が法律的に問題になるのかという点に疑問が生じるのです。

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会社に対する信義則違反となる

この点、「いい年こいて、仕事しろよハゲ」という言葉は特定の個人を中傷するものではなく、会社の業務を妨害するものでもありませんから、民法709条の不法行為には該当しません。

【民法第709条】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害したものは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

では、「いい年こいて、仕事しろよハゲ」という文言がどのような法律によって問題になるかというと、労働契約法という法律の第3条の第4項に抵触することになります。

労働契約法の第3条4項には労働者と使用者の”信義誠実の原則”が規定されています。

【労働契約法第3条第4項】
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

信義誠実の原則とは、簡単に言うと「権利を行使するときにはその権利を行使される相手方の期待に沿う形で行使しないといけない」というような原則のことをいいます。

労働契約法第3条4項には「信義に従い誠実に」「義務を負う」と規定されていますので、会社の公式アカウントを管理している従業員は、そのツイッターでつぶやく内容について、会社の信頼を損ねないという「信義」に従って「誠実」な内容をつぶやかなければならない「義務」を負っているということになるわけです。

そう考えると、この会社の従業員が公式ツイッターを利用して「いい年こいて、仕事しろよハゲ」とつぶやく行為が法律的に問題があるのがわかるでしょう。

会社としては、その会社の公式ツイッターアカウントを管理している従業員が「信義に従い誠実に」つぶやいてくれるものと信じて任せていたのに、その義務を裏切って「いい年こいて、仕事しろよハゲ」という道徳的に問題のある言葉を”会社の公式アカウント”でつぶやいてしまっているのですから、この社員は会社の期待を裏切って(信義誠実の原則に違反して)不適切なツイートをしていることになります。

そのため、たとえ特定の個人の個人情報をさらしたり直接会社の営業に支障をきたすようなツイートでなかったとしても、そのツイートをすることが会社から受けた信頼を裏切るようなものである場合には信義誠実の原則に違反するものとして労働契約法の第3条4項に違反することとなるのです。

このように、会社の公式アカウントを管理している従業員は、不適切なツイートをしないであろうという信頼を会社から与えられていることになります。

そのため、自分のアカウントであれば単なる”冗談”で済まされるようなツイートでも、会社の公式アカウントで不適切な発言をすることは法律的に問題となる場合があるので十分注意する必要があるでしょう。