仕事中に何らかのミスを犯してしまったり不祥事を起こしてしまったりしたことを理由に、会社から減給(会社によっては「罰金」)を命じられる場合があります。
このような減給(罰金)は「懲戒処分」の手続きとして命じられることになりますが、「懲戒処分」は労働者側に何らかの責められるべき行為が発生したことが直接の原因とされるのが通常ですので、労働者としては自分に責められるべき行為があることからその減給(罰金)を無抵抗に受け入れがちな傾向があります。
しかし、悪質な会社によっては本来は減給(罰金)の懲戒処分が認められないケースであるにもかかわらず労働者の弱みに付け込んで減給(罰金)の懲戒処分を行い、高額な金員を徴収したり、または支払われるべき賃金を支払わないといった事例もあるようですので、懲戒処分による減給(罰金)を受けた場合には、その処分が法的にも手続き的にも正当なものであるのかといった点をよく確認することも必要になってきます。
そこで今回は、具体的にどのような行為の場合に懲戒処分としての減給(罰金)が認められるのか、また、不当な減給(罰金)の懲戒処分を受けた場合には具体的にどのような対処をとればよいのか、といった点について考えてみることにいたしましょう。
懲戒処分による減給(罰金)は「就業規則の規定」が必要
使用者(会社)が労働者に対して「減給(罰金)」を命じる場合には、「懲戒処分」の一つとして行われることになりますので、その「減給(罰金)」の有効性も当然「懲戒処分」としての有効性を満たす必要があります。
この点、使用者(会社)が労働者に懲戒処分を与えるためには就業規則にその根拠が明確に定められていることが必要とされていますので、懲戒処分としての「減給(罰金)」についても、具体的にどのような行為をした場合にその「減給(罰金)」としての懲戒事由にあたるのか、また具体的にどの程度の「減給(罰金)」の処分がなされるのか(例えば賃金の何%とか)といった点について明確に就業規則に定められている必要があります。
(※この点については『懲戒処分はどのような場合に認められるのか?』のページで詳しく解説しています)
そのため、仮に使用者(会社)から「懲戒処分」としての「減給(罰金)」を命じられた場合であっても、その「減給(罰金)」の懲戒処分について明確に就業規則に定められていないような場合には、その「減給(罰金)」の懲戒処分の無効を主張してその撤回を求めることも可能となります。
懲戒処分としての「減給(罰金)」は「客観的合理的な理由」があり「社会通念上相当」といえるような事情がない限り無効
また、使用者(会社)が労働者に対して懲戒処分を行う場合には、その懲戒処分を行うことについて「客観的合理的な理由」があり、「社会通念上相当」といえるような事情がない限り、その懲戒処分は無効と判断されます(労働契約法第15条)。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
そのため、懲戒処分として「減給(罰金)」を命じられた場合であっても、その懲戒処分の原因について「客観的合理的な理由」がなかったり、客観的合理的な理由があったとしても、そのことを理由に「減給(罰金)」という処分を与えることに「社会通念上の相当性」が認められないような場合には、その懲戒処分としての「減給(罰金)」は無効と判断されることになります。
(1)「客観的合理的な理由」がない場合とは?
具体的にどのような場合に「客観的合理的な理由がない」と判断されるのかはケースバイケースで異なりますが、「客観的合理的な理由」については前述したような就業規則の定めがない場合が挙げられます。
就業規則に懲戒処分としての「減給(罰金)」の定めが具体的に明記されていないにもかかわらず、「減給(罰金)」を命じられた場合には、たとえ何らかの責められるべき行為が自分にあったとしても、その「減給(罰金)」の懲戒処分は「客観的合理的な理由」がないものとして無効と判断されるのではないかと思われます。
(2)「社会通念上の相当性」がない場合とは?
「社会通念上の相当性」に関しては、たとえばあまりにも処分が重すぎる場合が代表的な例として挙げられるでしょう。
たとえば、就業規則に「無断で遅刻を繰り返したとき」という懲戒事由が定められている会社で2回遅刻しただけにもかかわらず高額な「減給(罰金)」を命じられた場合には、客観的には「無断で遅刻を切り返したとき」という懲戒事由に該当することになりますが、2回遅刻しただけで「減給(罰金)」という重い罰金を科すことに「社会通念上の相当性」があったとえいえるかは問題となるのではないかと思われます。
また、たとえば就業規則に「故意または過失により使用者に損害を与えたとき」などといった懲戒事由が定められている会社で仕事上のミスにより物を壊したり会社に損失を与えたりしたような場合にも客観的には懲戒事由に該当する事故が発生したことになりますが(※前述した「客観的合理的理由」はあるといえる)、そのミスが「故意」や「重大な過失」を伴うものでないような場合にまで「減給(罰金)」という重い処分を下しても良いのかという点では疑問が生じますので、「故意」や「重大な過失」がないような仕事上のミスにまで「減給(罰金)」の懲戒処分を与えられたような場合には、「社会通念上の相当性」がないと判断される場合も有るのではないかと思われます。
その他にも、使用者(会社)が労働者に対して懲戒処分を与えることの根拠は「企業秩序の維持」という点にありますので、形式的に就業規則に定められた懲戒事由に該当する事実があった場合であってもその事実によって「企業秩序の維持」が損なわれたというような事情がない場合には、その事実を理由として懲戒処分としての減給(罰金)が行われたとしても、「社会通念上の相当性がない」と判断される可能性があるものと思われます。
たとえば、「社内の風紀を乱したとき」という懲戒事由がある会社で、既婚者の従業員と不倫した事実がある場合には「不倫」という行為は形式的には「風紀を乱す」という行為ととらえられますが、その「不倫」によって他の従業員の就業環境が害されるような企業秩序が乱される状況というのはあまり考えられませんので「社内で不倫をした」ということだけを理由に懲戒処分による減給(罰金)を与えられたような場合には「社会通念上の相当性がある」といえるかは疑問です。
仮に社内の複数の既婚者と不倫をして業務に障害を発生させるような事情がある場合には「企業秩序を乱した」をいうことになりますから「社内の風紀を乱したとき」という懲戒事由で減給(罰金)を行うことも認められるかもしれませんが、単に「不倫」をしたというだけで懲戒処分を受けた場合には「社会通念上の相当性がある」とは言えずその撤回を求めることも可能になるのではないかと思われます。
懲戒処分として減給(罰金)を命じられた場合の対処法
以上のように、懲戒処分としての「減給(罰金)」には就業規則にその根拠となる定めが必要であり、仮にそのような定めがあったとしても、その懲戒処分としての「減給(罰金)」を命じることに「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が認められない場合には、その無効を主張して減給(罰金)の撤回を求めることができます。
なお、懲戒処分としての減給(罰金)に客観的合理的な理由や社会通念上の相当性がないことを理由にその撤回を求める場合の具体的な方法としては以下のようなものが挙げられます。
(1)申入書(通知書)を送付する
使用者(会社)から懲戒処分としての減給(罰金)を受けた場合に、その懲戒事由に該当する事実について「客観的合理的な理由」がなかったり、「社会通念上相当」と認められるような事情もないような場合には、その懲戒処分の撤回を求める申入書(通知書)を作成し、文書(書面)という形で撤回を求めるのも一つの方法として有効と考えられます。
口頭で「客観的合理的な理由のない懲戒処分は無効だ!」とか「社会通念的に考えて相当といえないような懲戒処分を撤回しろ!」と抗議して受け入れられない場合でも、文書(書面)という形で正式に抗議すれば、企業側が考えを改めてその処分を撤回するかもしれませんし、内容証明郵便で送付すれば「弁護士にでも相談したんじゃないだろうか」というプレッシャーを与えることが出来ますので、通知書という文書の形で通知することも一定の効果があると思われます。
なお、この場合に会社に送付する申入書(通知書)の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。
(2)労働局に紛争解決援助の申立を行う
全国に設置されている労働局では、労働者と事業主の間に発生した紛争を解決するための”助言”や”指導”、”あっせん(裁判所の調停のような手続)”を行うことが可能です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第1項)。
都道府県労働局長は(省略)個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該個別労働関係紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができる。
この点、使用者(会社)から懲戒処分としての減給(罰金)を受けた場合に、その懲戒事由に該当する事実について「客観的合理的な理由」がなかったり、「社会通念上相当」と認められるような事情もないような場合にも、「不当な減給(罰金)の懲戒処分を撤回しろ!」と主張する労働者と「お前が懲戒事由に該当するような行為をしたのが悪いんだ!」と主張する会社側との間に”紛争”が発生しているということになりますので、労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能になります。
労働局に紛争解決援助の申立を行えば、労働局から必要な助言や指導がなされたり、あっせんの手続きを利用する場合は紛争解決に向けたあっせん案が提示されることになりますので、会社側が労働局の指導等に従うようであれば、それまでの態度を改めて不当な懲戒処分による減給(罰金)の処分を撤回する可能性も期待できるでしょう。
なお、この場合に労働局に提出する紛争解決援助の申立書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。
(3)弁護士などに依頼し裁判や調停を行う
上記のような手段を用いても解決しなかったり、最初から裁判所の手続きを利用したいと思うような場合には弁護士に依頼して裁判を提起したり調停を申し立てるしかないでしょう。
弁護士に依頼するとそれなりの費用が必要ですが、法律の素人が中途半端な知識で交渉しても自分が不利になるだけの場合も有りますので、早めに弁護士に相談することも事案によっては必要になるかと思われます。