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仕事上のミスで壊した物の弁償費用を給料から天引きされた場合


割れた美術品

仕事上のミスというものは、誰しも一度は経験したことがあるでしょう。

軽いミスなら笑って済ませるものもあるかもしれませんが、場合によってはお客様の財産などに損害を与え会社が弁償したりする場合もあるかもしれません。

かくいう私も、引越し屋の仕事中に荷物を落としたり、ビルの清掃の現場で大理石の灰皿を落として割ってみたりと様々なシチュエーションで損害を与えまくってきた経歴があります。

ところで、仕事上のミスで勤務先の設備を壊してしまったり顧客や取引先に損害を与えてしまった場合に、勤務先の会社がミスを犯したその当人に弁償費用を請求したり、給料からその弁償費用を差し引いたりすることがあります。

しかし、給料は生活していくうえで必要不可欠なものであり、たとえ自分のミスであっても給料から差し引かれてしまっては、家賃や光熱費、食費といった生活費に不足する事態に陥り大変なことになってしまいます。

そこで、ここでは仕事上のミスで会社に損害を与えてしまった場合に、その損害費用や弁償費用を自分が負担しなければならないのか(会社が払った弁償費用を負担しなければならないのか)、また会社が弁償費用を給料から天引きすることは認められるのかという問題について考えていくことにしましょう。

※なお、仕事上のミスを理由にその発生した損害額を「弁償費用の天引」として給料から差し引かれた場合ではなく、そのミスを理由に懲戒処分として「罰金」や「減給」を命じられることによって給料から一定の金額を差し引かれたような場合にはこちらのページを参考にしてください。
▶ 仕事上のミスで罰金を給料から差し引かれた(減給)場合
▶ 仕事のミスを理由とした減給(罰金)の懲戒処分への対処法

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軽過失の場合は損害を負担する必要はない

まず、たとえ仕事上のミスであったとしても、それが軽度のミス(軽過失)である場合にはその損害費用を負担しなければならない義務はありません。

軽過失とは、「通常その仕事をしていれば起こっても仕方が無いようなミス」と言い換えることもできるような、一般的なミスをいいます。

具体的には、ウェイトレスが皿を落として割ってしまったり、コンビニの店員がお釣りの金額を間違えて多く渡したり、工場の作業員が作業手順を間違って工作機械を壊してしまったり、トラックの運転手が運転を誤って事故を起こしてしまうなどのミスが挙げられます。

前述した私がやった昔のミスのように、引っ越しの荷物を落として壊したり、掃除中に灰皿や花瓶を落として割ったというようなものも「軽過失」と考えて問題ないでしょう。

このようなミスが一定程度起こるということは、その仕事の性質上避けられないと判断されますので、たとえ自分の不注意からそのようなミスを犯し損害が発生した場合であっても、労働者である従業員はその損害を会社に弁償する必要はないというのが法律上の一般的な考え方になります。

これは、会社は従業員の労働によって利益を受けているので、その仕事に内在するような通常起こりうる損害についてはその損害を会社が負担すべきであるという考えに基づくものです。

従業員の労働によって利益を受けているくせに、いざ従業員がミスして損害が出たら従業員にその損害を弁償させるというのでは、会社は利益だけ貪ってリスクを全く負わないということになり不平等です。

そのため、その仕事に内在するミス(損害)については会社側がその損害を負担するべきであるということになるのです。

重過失の場合は損害を負担しなければならない場合もある

前述のように軽度な過失の場合には、その損害は会社側が負担すべきものと考えられますが、どんなミスの場合にもミスを犯した労働者が損害額を負担しなくても良いということにはなりません。

ミスを犯した労働者に重大なミス(重過失)がある場合には、そのミスによって生じた損害を会社に弁償しなければならないと判断されることもあります。

「重過失」と「軽過失」の線引きは難しいので一概には言えませんが、例えば工事現場で重機のオペレーターが上司から「今日は川が増水しているから面倒だけど対岸に渡るときは橋の方から回り込むように」と指示されており現場にいた他の作業員や現場監督などからも「危ないから渡ったらダメだ」と注意を受けているにもかかわらず「これくらいの水量なら大丈夫」と周りの制止を振り切って重機を川に乗り入れたところ重機が川に水没して故障してしまったというような場合や、銀行員が銀行の融資基準に従って判断すれば取引先の会社が倒産することが明らかであるにもかかわらず同僚や上司の助言や指示を無視してその取引先に融資を続けた結果その取引先が倒産し融資した金額の回収が不可能になったというような場合には、「重過失」と判断されその損害額について会社に弁償しなければならないということもありうるでしょう。

もっとも、裁判になった場合に「重過失」と判断されるのは「故意」と同視できるような極めて悪質な過失(たとえば酔っぱらって事故を起こしたとか、危険ドラッグを服用して意識が飛んでいる状態で物を壊したとか)に限られ、通常の仕事上のミスはほとんどの場合「軽過失」と判断されますので、発生した損害を労働者が弁償しなければならないのは極めて稀なケースと考えて差し支えありません。

ただし、悪質な会社によっては裁判になった場合に「軽過失」と判断されるようなミスであっても、会社(上司)の勝手な解釈で「お前のミスは重過失にあたるから弁償しろ」と主張する場合もあるようです。

しかし、日常生活で使用する一般的な「重過失」「軽過失」と、この仕事上の弁償が必要か否かの「重過失」「軽過失」はその判断基準がまったく異なりますから、「一般的には重過失といえるから自分のミスも重過失だろう」と安易に判断するのは危険ですので注意するようにしてください。

どのようなミスが「重過失」と判断されるか正確なところはケースバイケースで何とも言えませんので、過失の判断に迷う場合には個別の案件に応じて弁護士など法律専門家に相談する方が良いでしょう。

給料から損害額を天引きするのは違法

以上のように、仕事上発生したミスは故意と同視できるような悪質なミスでない限り「軽過失」と判断されますので、たとえそのミスによって損害が発生したとしてもその損害を労働者が弁償するひつようはありませんが、仮に「重過失」と判断されるミスによって損害が発生した場合には、その損害額について会社に賠償しなければならないということもあり得ることになります。

しかし、賠償しなければならないからと言って、会社が給料からその損害額を天引きすることは違法です。

なぜなら、給料はその「全額」を「直接」その労働者に支払わなければならないと法律に定められていますし(労働基準法24条)、会社側が労働者に対して持っている債権(この場合はミスによって発生した損害金)と給料との相殺も禁じられているからです(労働基準法17条)。

使用者は、前借金その他労働することを条件とする前借の債権と賃金を相殺してはならない。(労働基準法17条)
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(以下、省略)(労働基準法24条1項)

そのため、たとえその仕事上のミスが悪質で「重過失」と判断される場合であっても、会社は給料からその損害額を天引きすることはできません。

たとえば、勤務中に酒を飲み酔っぱらいながら美術館の清掃をしていたところ、酔いが回って飾ってあった時価数万円の壷を落として割ってしまったため勤務先の清掃会社が美術館にその壷の時価相当額を弁償したとします。

この場合、「仕事中に酒を飲んで酔っ払った」ことを理由に「重過失」と判断される可能性が高いため、その労働者は会社が負担した数万円の損害金を会社に賠償しなければならないと思われます。

しかし、たとえこのような場合であっても、会社はその労働者に対し給料を全額支払わなければならず、給料からその損害金を差し引くことはできません。

このような場合、会社はその労働者の給料を全額支払ったうえで、改めてその労働者に「お前のやったことは重大な過失にあたるから落として割った壷の代金○万円を支払いなさい」と請求しなければならないのです。

給料というものは、生活していくうえで不可欠なものというべきものですから、たとえ重大な過失があって弁償しなければならない場合であっても、給料から天引きすることは認められないのは当然の帰結といえます。

労働者の同意があっても給料からの天引きは違法

では、給料から会社が被った損害額を天引きすることに労働者が同意している場合はどうなるでしょうか?

たとえば前述の例で、「壷が割れたのはお前が勤務中に酒を飲んで酔っ払っていたからだろう、給料から壷の代金を天引きするけどいいな?」と会社が質問し「ハイ、僕が酒を飲んだから悪いのです、天引きして構いません」とミスを犯した労働者が天引きに同意したとします。

このような場合には、給料から損害額を天引きすることは認められるでしょうか?

天引きされる側の労働者が給料の天引きに同意していることから、労働者の保護は必要ないとも考えられるので問題となります。

この点、天引きされる側の労働者が同意していることから、会社側が給料から会社が被った損害額を天引きできることも認められてよいようにも考えられます。

しかし、労働者というものは会社から日々の生活費となる給料をもらっているわけですから、労働者としては会社の機嫌を損ねてはまずいと考えて、本当は天引きされるのは嫌だけれども渋々認めてしまうということもあるはずです。

また、会社側は労働者が仕事を失ってしまう不安に付け込んで、「給料からの天引きを認めないと査定に響くよ、リストラの対象になっていいの?」といったふうな言動で労働者を追い込めば、自分のミスで落ち度もあることから多くの人は嫌とは言えないでしょう。

このように、労働者の同意があったとしても、はたしてその同意が本当にその労働者の正直な気持ちの上での同意と言えるかは疑問が残るのが通常です。

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