このページでは、本来は懲戒処分が与えられるべきケースでないにもかかわらず仕事上のミスを理由として会社から減給(罰金)の懲戒処分を受けた場合に、その減給(罰金)の処分の撤回を求める申入書(通知書)の記載例(ひな形・書式)を公開しています。
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仕事上のミスを理由とした減給(罰金)の撤回を求める申入書の記載例
(1)懲戒事由や懲戒処分の種類及び程度が就業規則に明確に定められていないことを理由に撤回を求める場合
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇〇〇 殿
減給の懲戒処分の撤回を求める申入書
私は、貴社から平成○年○月○日付辞令書により、懲戒処分を理由として○月支払い分の給与から金〇円が差し引かれる減給を命じられました。
しかしながら、使用者が労働者に対して懲戒処分を命じるためには、その原因となる「懲戒事由」や懲戒処分の「種類」及び「程度」が就業規則に明確に記載されることによって、その懲戒権の根拠が労働契約の内容になっていることが必要であり(労働基準法第89条9号及び国鉄札幌運転区事件昭和54年10月30日判決に同示)、そのような就業規則の定めがなされていない場合には、たとえ懲戒処分に相当するような非違行為が労働者に生じた場合であっても使用者は労働者に対して懲戒処分を命じることはできないものと考えられます。
この点、貴社は、私が仕事上の過失により貴社に損害を与えた事実をもって懲戒処分を命じておりますが、そのような仕事上のミスを理由とした懲戒処分を是認するような、たとえば「故意または過失により使用者に損害を与えたとき」などといった「懲戒事由」は貴社の就業規則には定められていないようですし、仮にそれに準ずるような懲戒事由が定められていたと考えても、貴社が命じた減給という懲戒処分の「種類」や、貴社が私の給与から差し引いた金〇円の根拠となるような懲戒処分の「程度」については貴社の就業規則には見当たりません。
したがって、貴社が命じた減給の懲戒処分は労働契約上の根拠のない無効なものといえますから、直ちに当該懲戒手続による減給処分を撤回するよう申し入れ致します。
なお、当該無効な減給の処分に基づいて賃金から差し引かれた金員がある場合にはその全額を直ちに返還していただくよう要請いたします。
以上
平成〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇‐〇
〇〇 〇〇 ㊞
※給料から減給(罰金)分が差し引かれる前に通知を郵送する場合には「なお書き」の部分は削除してください。
(2)仕事上のミスが繰り返されたわけではない(企業の秩序を乱していない)ことを理由とする場合
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇〇〇 殿
減給の懲戒処分の撤回を求める申入書
私は、貴社の平成○年○月○日付辞令書により、○月支払い分の給与の10分の1の減給に関する懲戒処分を命じられました。
しかしながら、使用者が労働者に対して懲戒処分という制裁を与えることができる根拠は企業秩序を維持することによって企業の円滑な運営を図る点にありますから(関西電力事件最高裁昭和58年9月8日に同示)、たとえ労働者において就業規則に定められた懲戒事由に該当するような行為があった場合であっても、その行為によって企業の秩序維持が損なわれた事実がない場合には企業秩序違反行為とはなりませんから、かかる行為をもって懲戒処分を命じることは、その行為の性質や態様その他の事情に照らして客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当な事由のない権利を濫用するものとして無効と判断されるものと考えられます(労働契約法第15条)。
この点、貴社は、私が貴社の所有する機械を破損させたことを理由に就業規則の第○条〇号に規定された「故意または過失により使用者に損害を与えたとき」という懲戒事由に該当すると判断し減給の懲戒処分を命じておりますが、確かに私が自らの不注意によって貴社の機械を破損させたことは事実であるものの、同様のミスによる破損を繰り返し発生させたわけではなく、その仕事上のミスによって企業の秩序を損なったというような事実も存在しませんから、かかる企業秩序違反行為に該当しない行為をもって形式的に懲戒事由にあてはめることによって命じられた懲戒処分は客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当であるとも思えません。
したがって、貴社が命じた減給の懲戒処分は権利を濫用する無効なものといえますから、直ちに当該懲戒手続による減給処分を撤回するよう申し入れ致します。
なお、当該無効な減給の処分に基づいて賃金から差し引かれた金員がある場合にはその全額を直ちに返還していただくよう要請いたします。
以上
平成〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇‐〇
〇〇 〇〇 ㊞
※給料から減給(罰金)分が差し引かれる前に通知を郵送する場合には「なお書き」の部分は削除してください。
(3)仕事上のミスがその仕事に内在するようなミスであった(企業の秩序を乱していない)ことを理由とする場合
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇〇〇 殿
減給の懲戒処分の撤回を求める申入書
私は、貴社から、平成○年○月○日付辞令書により、懲戒処分を理由として○月支払い分の給与から金〇円を差し引く減給を命じられました。
しかしながら、使用者が労働者に対して懲戒処分という制裁を与えることができる根拠は企業秩序を維持することによって企業の円滑な運営を図る点にありますから(関西電力事件最高裁昭和58年9月8日に同示)、たとえ労働者において就業規則に定められた懲戒事由に該当するような行為があった場合であっても、その行為によって企業の秩序維持が損なわれた事実がない場合には企業秩序違反行為とはなりませんから、かかる行為をもって懲戒処分を命じることは、その行為の性質や態様その他の事情に照らして客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当な事由のない権利を濫用するものとして無効と判断されるものと考えられます(労働契約法第15条)。
この点、貴社は、私が仕事中に車両事故を起こしたことを理由に就業規則の第○条〇号に規定された「故意または過失により使用者に損害を与えたとき」という懲戒事由に該当すると判断し減給の懲戒処分を命じておりますが、当該車両事故は故意や重大な過失によって引き起こされた事故ではありませんから、その事故を起こしたこと事実をもって懲戒処分を与えることは社会通念上相当とは思えません。
また、車両を運転する業務において一定程度の事故が発生することはその業務の性質上避けられず業務に内在する事故ということもできますから、そのような業務の性質上あらかじめ予測される事故によって企業の秩序が損なわれるということは通常考えらず、かかる企業秩序違反行為に該当しない仕事上の過失をもって形式的に懲戒事由にあてはめることによって命じられた懲戒処分は客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当であるとも思えません。
したがって、貴社が命じた減給の懲戒処分は権利を濫用する無効なものといえますから、直ちに当該懲戒手続による減給処分を撤回するよう申し入れ致します。
なお、当該無効な減給の処分に基づいて賃金から差し引かれた金員がある場合にはその全額を直ちに返還していただくよう要請いたします。
以上
平成〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇‐〇
〇〇 〇〇 ㊞
※給料から減給(罰金)分が差し引かれる前に通知を郵送する場合には「なお書き」の部分は削除してください。
(4)実質的に弁償費用の給料からの天引と変わらないことを理由とする場合
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇〇〇 殿
減給の懲戒処分の撤回を求める申入書
私は、貴社の平成○年○月○日付辞令書により、懲戒処分を理由として○月支払い分の給与から毎月金5千円を10か月間にわたって差し引かれる減給を命じられました。
しかしながら、使用者が労働者に対して懲戒処分を行う場合には、就業規則で定められた懲戒事由に該当することとなる行為の性質や態様その他の事情に照らして客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められる事情がない場合には、その懲戒処分は権利の濫用とし無効と判断されるものと考えられます(労働契約法第15条)。
この点、貴社は私が清掃業務中に顧客の時価5万円相当の花瓶を誤って割ってしまったことを理由として減給の懲戒処分を命じておりますが、命じられた減給の懲戒処分の内容は金5千円を10か月間にわたって給与から差し引くものでありその総額は花瓶の弁償費用である5万円と同額になりますから、その減給の懲戒処分の実質は「弁償費用の天引」に他ならず、労働基準法第24条に規定された賃金の全額支払いの原則を回避することを目的としてたものであって社会通念上相当であるとは思えません。
したがって、貴社が命じた減給の懲戒処分は、その懲戒権を濫用した無効なものといえますから、直ちに当該懲戒手続による減給を撤回するよう申し入れ致します。
なお、当該無効な減給の処分に基づいて賃金から差し引かれた金員がある場合にはその全額を直ちに返還していただくよう要請いたします。
以上
平成〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇‐〇
〇〇 〇〇 ㊞
※給料から減給(罰金)分が差し引かれる前に通知を郵送する場合には「なお書き」の部分は削除してください。
(5)減給の金額が労働基準法第91条の上限金額を超えていることを理由とする場合
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇〇〇 殿
減給の懲戒処分の撤回を求める申入書
私は、貴社の平成○年○月○日付辞令書により、懲戒処分を理由として○月支払い分の給与から金2万5千円を差し引かれる減給を命じられました。
しかしながら、使用者が労働者に対して懲戒処分としての減給を命じられる場合であっても、その減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えたり、その総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないと考えられますので(労働基準法第91条)、その上限金額を超えた部分については労働契約上の根拠のない無効な処分と考えられます。
この点、貴社は私が今月5回にわたって同じ内容の仕事上のミスを犯したことを理由に就業規則の第○条〇号に規定された「故意または過失により使用者に損害を与えたとき」に該当するものとして1回の懲戒事由あたり金5千円の減給(罰金)の処分を5回命じていることからその合計金額は2万5千円となりますが、私の1か月分の賃金支給額は20万円にしかなりませんので、かかる5回の減給処分として金2万5千円を差し引かれた場合にはその金額は労働基準法第91条に規定された上限金額を5千円超過することになります。
したがって、貴社が命じた減給の懲戒処分のうち労働基準法第91条に定められた上限額を超える5千円については根拠のない無効なものといえますから、直ちにその上限を超える部分の減給処分を撤回するよう申し入れ致します。
なお、当該無効な減給の処分に基づいて賃金から差し引かれた金員がある場合には、労働基準法第91条に定められた上限金額を超える部分について直ちに返還していただくよう要請いたします。
以上
平成〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇‐〇
〇〇 〇〇 ㊞
※給料から減給(罰金)分が差し引かれる前に通知を郵送する場合には「なお書き」の部分は削除してください。
※)将来的に裁判になる可能性がある場合は、証拠として残しておくためにコピーを取ったうえで普通郵便ではなく特定記録郵便(場合によっては内容証明郵便)で送付すること。
※)裁判所では全ての書類をA4で統一していますので、後日裁判を起こす可能性がある場合はA4用紙で作成すると後々何かと便利です。