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退職届を撤回したことを理由に減給や降格させられた場合の対処法

退職届(退職願)を会社に提出した後に何らかの気持ちの変化が生じ、退職届(退職願)を撤回したいと思って悩んでいる人は比較的多いのではないでしょうか。

退職の意思表示を撤回したい場合には、会社の上司などに提出した退職届(退職願)を撤回をしたい旨の意思表示を行い、会社と相談のうえ退職の意思表示を撤回し従前の職務に戻るのが一般的ですが、会社によっては「退職の撤回は認めるけど給料は減らさせてもらうよ」とか「退職の撤回は認めるけど平社員から再スタートしてもらうよ」などと退職の撤回に条件を付ける場合があります。

このように会社に言われてしまうと、退職届(退職願)を提出した側の労働者としては「退職届(退職願)を提出した」という負い目があることからその条件を認めて給料の減額や降格を受け入れてしまう人が多いようですが、退職の撤回が認められるのであれば従前の労働条件が回復されないとおかしいですし、仮に平社員の初任給からスタートしなければならないとすれば、退職の撤回をせずに退社して再度同じ会社に再就職するのと実質的に変わりないことになってしまい不合理に感じます(※このような場合、会社は退職の撤回に応じると言ってはいるものの実質的には退職の撤回を認めずにいったん退社させて再就職させているのと同じになるでしょう)。

そこで今回は、退職届(退職願)を撤回する際に会社から減給や降格を求められた場合にはそれに応じなければならないのか、また、退職届(退職願)を撤回したことを理由として減給や降格をさせられてしまった場合には具体的にどのような対処をすればよいのか、といった問題について考えてみることにいたしましょう。

【「退職届」と「退職願」は違う?】
※なお、他のサイトやブログで「退職願」を提出した場合は退職の撤回はできるが「退職届」を提出した場合は撤回できないという記述が散見されますが、このような記述は明らかに間違っていますので誤解のないようにしてください(※詳細は『”退職届”と”退職願”は違う?同じ?退職の撤回の問題点』のページで解説しています)。

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退職届(退職願)の撤回に会社が条件を付けることはできない

退職届(退職願)を会社に提出した場合、その会社に「退職について特別の手続きが必要とされていない場合」には「退職届(退職願)を受領する権限を有する者」にその退職届(退職願)が到達した時点で、「退職届の受理に一定の手続が必要とされている場合」には「その手続きが終了した時点」で、退職の効果が発生してしまいますから、その時点以降は退職の意思表示の撤回は認められません。

なぜなら、労働者が提出する退職届(退職願)は、労働者が使用者の同意を得なくても辞めるとの強い意志を有している場合でない限り「労働契約の合意解約の申込」と解釈されているからです(※過去の裁判例でも同様に判断されています→全自交広島タクシー支部事件:広島地裁昭和60年4月25日)。

退職届(退職願)の提出が基本的に「労働契約の合意解約の申込」と考えられる以上、その申込みに対する「承諾」がない限り退職届(退職願)の撤回は自由ですが、退職届(退職願)が「退職届(願)の受理権限を有する者まで到達」したり、「退職に必要な手続きが終了」した場合には、その合意解約の”申込み”に対する会社側の”承諾”が有効に行われたと判断されますから、その時点で退職の効果が確定的に発生することになり、それ以降の退職届(退職願)の撤回は認められないということになるのです。

※なお、退職届(退職願)を撤回することができるのかという点についてはこちらのページで詳細に解説しています。
▶ 退職届・退職願を撤回することはできるのか?

しかし、これを逆に考えると、退職届(退職願)が「退職届(願)の受理権限を有する者まで到達」していなかったり、「退職に必要な手続きが終了」していないような場合には、退職の撤回は自由に認められることになります。

なぜなら、前述したように退職届(退職願)の提出が、労働者が使用者の同意を得なくても辞めるとの強い意志を有している場合でない限り「労働契約の合意解約の申込」と解釈されている以上、退職届(退職願)が「退職届(願)の受理権限を有する者まで到達」していなかったり「退職に必要な手続きが終了」していないような場合には、その合意解約の”申込み”に対する会社側の”承諾”が有効に行われていないと判断されるからです。

退職届(退職願)の提出に対する会社側の承諾が行われていない状態であれば、退職の効果は発生していないことになりますから、退職届(退職願)を撤回することは労働者の自由ということになります。

したがって、たとえ退職届(退職願)を提出したとしても、その、退職届(退職願)が「退職届(願)の受理権限を有する者まで到達」していなかったり「退職に必要な手続きが終了」していないような場合には、退職届(退職願)を撤回することは労働者側が決めてよいことになりますから、会社側が退職届の撤回を拒否したり、退職届の撤回に条件を付けることも許されないことになります。

「退職届の撤回を認めてほしいなら減給や降格を受け入れろ」と言われても受け入れる必要はない

前述したように、提出した退職届(退職願)が「退職届(願)の受理権限を有する者まで到達」していなかったり「退職に必要な手続きが終了」していないような場合には、退職届(退職願)という労働契約(雇用契約)の「合意解約の申込み」に対する会社側の「承諾」が未だなされていないということになりますから、会社側の承諾がなくても自由に退職届(退職願)を撤回し、従前の職務に復することが可能といえます。

したがって、仮に会社から「退職届の撤回を認めてほしいなら減給や降格を受け入れろ」と言われたとしてもそのような要求は一切無視してかまわないということになります。

なぜなら、提出した退職届(退職願)が「退職届(願)の受理権限を有する者まで到達」していなかったり「退職に必要な手続きが終了」していないような場合には、労働者の側で一方的に退職の意思表示を撤回してよいのですから、そもそも自由に撤回してよい行為のために「減給」や「降格」などといった労働者の不利益となるような労働条件の変更を受け入れなければならない義務もないからです。

また、仮にその撤回の条件として命じられた「減給」や「降格」が懲戒処分としての「減給」や「降格」であったとしても、そもそも自由に撤回できる退職届(退職願)を撤回したからといって懲戒処分の対象になるはずがありませんから、仮に懲戒処分として「減給」や「降格」が命じられた場合にはその懲戒処分自体無効なものとなるでしょう。

※なお、退職届(退職願)を撤回したことを理由に懲戒処分としての「減給」や「降格」を命じられた場合にはこちらのページも参考にしてください。
▶ 減給(罰金)の懲戒処分を受けた場合の対処法
▶ 懲戒処分によって降格させられた場合の対処法

このように、仮に会社側から退職届(退職願)の撤回を認める条件として一方的に「減給」や「降格」を命じられたとしても、そのような命令は労働者の同意のない労働条件の不利益変更となり無効と判断されますから、その「減給」や「降格」の無効を主張してその撤回を求めることもできることになります。

退職届(退職願)を撤回したことを理由として強制的に減給や降格させられた場合の対処法

前述したように、提出した退職届(退職願)が「退職届(願)の受理権限を有する者まで到達」していなかったり「退職に必要な手続きが終了」していないような場合には退職届(退職願)の撤回は自由にできますから、それにもかかわらず退職届(退職願)を撤回したこと理由として会社が減給や降格を命じることは明らかに理由がありません。

しかし、悪質な企業によってはそのような法律上の強制力や根拠が存在しないことを認識しながら、退職届(退職願)を提出した労働者の弱みに付け込んで、退職届(退職願)を撤回した労働者に対して強制的に減給や降格を行う場合がありますので、そのような場合には労働者の方も何らかの対処が必要となってきます。

(1)とりあえず「退職届の撤回通知書」を提出しておく

前述したように、提出した退職届(退職願)が「受理権限を有する者まで到達」していなかったり「退職に必要な手続きが終了」していないような場合には、会社の承諾を得ることなく自由にその退職届(退職願)を撤回することが可能です。

しかし、退職届(退職願)の撤回を申し入れているにもかかわらず会社側から「減給する」とか「降格する」とか言われて時間が経過してしまうと、その間に会社側が提出された退職届(退職願)を受理権限のある役職者まで到達させたり、退職の効力発生に必要な手続きを済ませてしまう恐れがあります。

仮にそうなってしまった場合、退職届(退職願)の提出による労働契約の合意解約の申込みの意思表示に会社側が承諾の意思表示をしたことになってしまい退職の効果が確定的に発生してしまいます。

退職の効果が確定的に発生してしまうと、会社側が「退職の効果は生じてしまったから退職を撤回するなら再就職という取り扱いになって平社員の給料からスタートするよ」と言われてしまった場合反論することが難しくなりますから、そのような会社側の行為を防止する必要があります。

そのため、このような場合にはとりあえず「退職届の撤回通知書」を会社に提出しておくほうが無難です。

退職届(退職願)を撤回したいと思い立った時点ですぐに「退職届の撤回通知書」を提出しておけば、少なくともその時点以降に会社側が提出された退職届(退職願)を受理権限のある役職者まで到達させたり、退職の効力発生に必要な手続きを済ませてしまったとしても退職届(退職願)の撤回の効力は有効に発生することになりますから、会社側が退職届(退職願)に対する承諾の意思表示を発生させることを阻止することができます。

なお、「退職届の撤回通知書」という”書面”で提出する理由は、後日裁判になった場合に証拠として利用する必要があるからです。

口頭で「退職届を撤回します」と言ったとしても「言った」「言わない」の水掛け論になってしまいますから、「退職届(退職願)の撤回」は「退職届の撤回通知書」という形の書面で行うようにするとともに、可能な限り普通郵便ではなく内容証明郵便で送付する必要があるでしょう。

なお、この場合に会社に送付する退職届の撤回通知書の記載例はこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

退職届の撤回通知書【ひな形・書式】

(2)労働局に紛争解決の援助申立を行う

全国に設置された労働局では事業主と労働者の間に紛争が発生した場合には、当事者の一方からの申立があれば、その解決のための”助言”や”指導”、”あっせん(裁判所の調停のようなもの)”を行うことが可能です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条ないし第5条)。

この点、提出した退職届(退職願)が「受理権限を有する者まで到達」していなかったり「退職に必要な手続きが終了」していないにもかかわらず、会社側が退職届(退職願)の撤回に減給や降格の条件を付けたり、労働者の意思に反して強制的に減給や降格を命じているような場合にも、会社と労働者の間に”紛争”が発生したということができますので、労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能となります。

会社側が労働局の”助言”や”指導”、”あっせん”による解決案に従うようであれば、会社が退職届(退職願)の撤回にすみやかに応じ、その撤回に減給や降格の条件を付けたり強制的に行った減給や降格の処分を撤回することも期待できますから、労働局に紛争解決援助の申立を行うことによって問題解決が図れる場合もあるでしょう。

なお、この労働局の紛争解決援助の申立は無料で利用することができますが、裁判と異なり強制力はありませんので、会社側が労働局の指導などに従わない場合は、後述する裁判などで解決を図るほかないでしょう。

なお、この場合に労働局に提出する紛争解決援助申立書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にして下さい。

▶ 退職届の撤回を理由とした減給や降格に関する労働局の申立書

(3)弁護士など法律専門家に相談する

上記のような対処行っても会社が退職届(退職願)の撤回を理由とした減給や降格を改めない場合には、弁護士などの法律専門家に相談するしかありません。

弁護士に依頼して示談交渉や裁判を行うとそれなりの費用が発生しますが、法律の素人が乏しい知識で交渉しても解決するのは難しいと思いますので、早めに弁護士に相談する方が無難です。