会社によっては、懲戒解雇の事由として「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」を就業規則に定めている場合があります。
そのため、このような規定の定められている会社では、例えば痴漢で逮捕された場合には、この「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当するとして懲戒解雇の処分を受けることになるでしょう。
しかし、痴漢は犯罪ではあるものの会社で仕事を行うこととは全く別の問題であり、私生活上の問題で会社を解雇されるのは、理屈が通らないような気もします。
そこで今回は、痴漢などの犯罪で逮捕されたことを理由に解雇したりすることに問題はないか、という問題について考えてみることにいたしましょう。
「逮捕→即解雇」が全ての場合で認められるわけではない
前述したとおり「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」というような事由が就業規則の懲戒解雇事由として規定されている会社では、痴漢に限らず犯罪を犯して逮捕された時点で、会社から懲戒解雇処分が下されることになるでしょう。
しかし、痴漢などの犯罪は会社の組織や業務とは全く関係のない問題ですから、会社とは無関係の問題で従業員を解雇することは、会社が許容される範囲を超えて労働者を解雇しているともいえます。
そのため、過去の裁判例においても、犯罪行為が会社の業務とは無関係であることを一つの理由として、逮捕されたことを理由になされた懲戒処分としての解雇や休職処分が無効と判断されているものがいくつかあります。
たとえば、痴漢行為で逮捕拘留された労働者が懲戒処分として無期休職処分を受けた事案では、仮に痴漢行為で逮捕されたことで職場が混乱することが予測されたとしても、女性従業員が極めて少ない部門への配置転換も可能であり、量刑も懲役6月以下または罰金50万円以下と比較的軽微な犯罪であり保釈の可能性もあることから、逮捕されたことをもってなされた懲戒処分(この事例の場合は休職処分)が無効と判断されています(山九事件・東京地裁平成25年5月23日)。
また、他人の住居に無断で侵入したことで逮捕された労働者を懲戒解雇した事案では、「会社の組織、業務等に関係のない私生活の範囲内で行なわれたものであること、受けた刑罰が罰金2,500円の程度に止まったこと、逮捕された労働者の地位も作業の工員ということで指導的なものでないこと」などの理由から就業規則に懲戒解雇事由として定められた「会社の体面を著しく汚した」とまで評価することはできないとして、解雇が無効と判断されています(横浜ゴム事件・最高裁昭和45年7月28日)。
このように、たとえ犯罪行為を行って逮捕された場合であっても、それが企業秩序を損なうなど重大な犯罪と言えるようなものでない場合には、逮捕されたことをもってなされた懲戒(解雇)処分が無効と判断される場合もあると言えます。
逮捕されたことを理由に解雇された場合の対処法
前述したように、逮捕されたことをもって即座に懲戒処分として解雇されるというのは、裁判で争えば無効となる可能性が高いと言えます。
そのため、もし犯罪を犯してしまい解雇された場合には、その解雇の無効を主張して解雇の撤回を求めるのも一つの方法です。
また、自分で会社と交渉しても解雇の撤回がなされないような場合は、早めに弁護士など法律専門家に相談することが解決への近道となるでしょう。