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「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」が危険な理由

使用者(会社)が労働者(従業員)を解雇する場面においては「普通解雇」と「懲戒解雇」の2種類がありますが、労働者側からしてみれば「懲戒解雇」で解雇されるよりも「普通解雇」で解雇される方が「まだマシ」と考えるのが通常です。

なぜなら、「懲戒解雇」で解雇される場合には労働者が懲戒処分に該当するような何らかの「非違行為」をしたことが前提となっていますので、「懲戒解雇」で解雇されたことはすなわち「何らかの非違行為をした」という不名誉な事実が公然と確定されてしまうからです。

これに対し、「普通解雇」で解雇される場合には、その解雇の原因は会社側にあるのが通常であり必ずしも労働者にとって不利益な事実とはなりませんから、多くの労働者は「懲戒解雇」よりも「普通解雇」で解雇される方が「まだマシ」と考えるのです。

たとえば、次の会社の採用試験を受ける場合などに「前の会社は何故辞めたの?」と聞かれることは避けられないと思いますが、その場合に「リストラ(普通解雇)で辞めさせられました」と回答するのと「懲戒処分を受けて懲戒解雇されました」と答えるのでは、前者の方が後者の場合よりも合格しやすいのは当然ですので、「懲戒解雇」よりも「普通解雇」で解雇される方がデメリットがより少ないということがいえます。

この他にも、例えば「普通解雇」の場合は解雇予告手当や退職金が支給されることになりますが、「懲戒解雇」の場合にはこれらの金銭も請求されないのが通常ですので、その点を考えても「懲戒解雇」よりも「普通解雇」の方が「まだマシ」ということが云えるでしょう。

(※なおこの「普通解雇」と「懲戒解雇」の違いについては『懲戒解雇と普通解雇の違いとは?』のページでも詳しく解説しています)

ところで、会社が労働者を解雇する場合に、本来は懲戒処分に該当し「懲戒解雇」とすべきところを、前述したような「懲戒解雇」のおける不利益を考えて、あえて「普通解雇」で解雇しようとしてくる場合があります。

これは一見すると労働者のことを考えて親切心から「普通解雇」にしてくれているような感じも受けますが、そのような処理をしてくる会社がすべての場合に労働者のことを考えて「普通解雇」で「解雇してくれている」訳ではありません。

なぜなら、本来は「懲戒解雇」すべき労働者に対してあえて「普通解雇で解雇してあげる」と恩着せがましく解雇を通告してくる会社(上司)は、本来は違法で無効な解雇を隠す意図があって「普通解雇」で解雇されることを受け入れるように仕向けている場合があるからです。

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「解雇事由」に該当する事実が発生した場合であっても全ての場合に会社が解雇しても良いわけではない

懲戒解雇と普通解雇の違いとは?』のページやこのサイトの他のトピックのページでも解説していますが、会社が労働者を「解雇」する場合には、仮にその解雇に相当する「解雇事由」が発生したとしても、そのことをもってすべての場合に労働者を解雇しても良いということにはなりません。

使用者(会社)が労働者(従業員)を解雇する場合にはその解雇が「普通解雇」の場合には就業規則等に記載された「普通解雇事由」に、その解雇が「懲戒解雇」の場合には就業規則等であらかじめ明示された「懲戒事由」に該当する事実が発生したことが第一義的に必要ですが、その「解雇事由」に該当する事実が発生すればすべての場合に会社がその労働者を解雇して良いわけではなく、その事実が発生したことに基づいて解雇することに「客観的合理的な理由」があり「社会通念上相当」といえる事情が無い限り、その解雇は無効と判断されるというのが法律上の考え方となります(労働契約法第16条)。

【労働契約法第16条】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

したがって、仮に就業規則に明示された「普通解雇事由」が発生したり、「懲戒事由」として定められた非違行為を労働者が行った事実があったとしても、その「解雇事由」に該当する労働者を解雇することが「客観的に合理的」といえる場合で、その解雇することが「社会通念上相当」といえるような事情がある場合に限って会社はその労働者を解雇することが出来るということになります。

一般の人の多くは「就業規則に規定された解雇事由にあたるのは明白だから解雇されても仕方ない」と理解しているようですが、それは明らかな間違いであって、会社が労働者を解雇する場合にはたとえその労働者に避難されるべき非行があったとしても、無条件に解雇できるわけではなく、解雇することに「客観的合理性」や「社会通念上の相当性」が無い限りその解雇は権利の濫用として無効と判断されることになりますのでその点を誤解しないようにしてもらいたいと思います。

会社が解雇の違法性を認識している場合には、労働者が解雇を受け入れやすいように誘導する場合がある

前述したように、就業規則などに規定された「解雇事由」に該当する事実が発生した場合であっても、会社はその「解雇事由に該当する事実」だけをもって解雇することはできず、その「解雇事由に該当する事実」があったことを理由として解雇することが「客観的合理的な理由」がありその理由を根拠に解雇することが「社会通念上相当」と認められる場合でない限り、その労働者を解雇することはできず、仮に解雇したとしても裁判になればその解雇は権利の濫用として無効と判断されることになります。

この会社が労働者を解雇する場合に必要となる解雇理由の「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」が具体的にどのようなものをいうのかという点についてはケースバイケースで異なり、ここで説明できるほど簡単ではありませんので詳述しませんが、終身雇用が国民生活の安定において重要な位置づけとされている現在の日本では、解雇理由に「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」が認められるのは極めてまれなケースであり、「普通解雇」などで代表的なリストラの場合であれば会社の経営状況がよほど悪化している場合であったり、「懲戒解雇」の場合には極めて悪質な非違行為があった場合などに限られるのが現状ですので、「解雇」の裁判においては「客観的合理性」や「社会通念上の相当性」が無いと認定され解雇が無効と判断されるケースがほとんどです。

そのため、会社が労働者を解雇する場合には、労働者が解雇を拒否して裁判などに持ち込まれないように、労働者が解雇を受け入れやすいような方向に状況を誘導する辞令が多くみられます。

そしてその代表例が、このページのタイトルにしている「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」と恩着せがましく解雇を伝えるケースです。

「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」が危険な理由

前述したように、会社が労働者を解雇する場合には、その多くは裁判になれば「客観的合理的な理由」がなく「社会通念上相当」であるとも認められないと認定されて無効と判断されるのがほとんどです。

そのため、会社が労働者を解雇する場合には後で裁判などに訴えられて「無効」と判断されるリスクを少しでも少なくするために、労働者に対して解雇に不満を持たないような説得を試みる場合があるのです。

その代表例が「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」などと恩着せがましく言う行為で、このように会社から言われてしまうと、前述したように「懲戒解雇」よりも「普通解雇」の方が不名誉ではなく再就職する際の面接でも回答しやすいことから、多くの労働者は「懲戒解雇よりも普通解雇にしてもらう方がマシだろう」と考えて解雇を受け入れて裁判で争うようなこともしなくなるでしょう。

しかし、そもそも会社が労働者を「懲戒解雇」する場合には就業規則で規定した「懲戒事由(懲戒解雇事由)」が発生しただけでなく、その事由に基づいて懲戒解雇することについて「客観的合理的理由」があり「社会通念上相当」と認められない限りその懲戒解雇は無効と判断されるのが原則です。

そのため、仮に「懲戒解雇」で解雇されたとしても後で裁判になればほとんどの場合その解雇を無効にすることが可能ですから、よほど悪質な故意や悪意をともなう非違行為でもしていない限り「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」などと恩着せがましくいわれて「普通解雇」にしてもらう必要もないわけです。

このような場合、なぜ会社が「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」などといって説得するかというと、最初から「懲戒解雇で解雇する」とか「普通解雇で解雇する」と告知してしまうと労働者から反発を受けて裁判に発展するリスクがあるからです。

最初から「懲戒解雇で解雇する」とか「普通解雇で解雇する」と告知するよりも「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」と告知する方が労働者側が「処分が軽くなった」と錯覚し解雇を容易に受け入れてくれることから「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」などと恩着せがましく解雇を通知している考えられるのです。

もっとも、会社によっては純粋に解雇される労働者のことを思って「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」と処分をできるだけ軽くしようと試みる会社もあるかもしれません。

しかし、悪質な会社によっては「懲戒解雇」や「普通解雇」が適法に認められる場面ではないにもかかわらず、単なる「人減らし」のために「解雇事由」が発生したということを根拠に違法な解雇を行い、その解雇を労働者に受け入れさせることが目的で「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」とあたかも処分を軽くしてあげたようなふるまいをする場合も有るのが実情です。

したがって、仮に会社から「本当なら懲戒解雇だけど普通解雇にしてあげる」と恩着せがましく言われて解雇されようとしている場合には、無条件にその解雇を受け入れるのではなく、本当に自分が懲戒解雇に相当するような非違行為を行っているのか、また、その非違行為を行ったことが事実であったとしても、そのことを理由に解雇という重い処分を下されることに「客観的合理的な理由」があり「社会通念上相当」といえるのかという点をよく考えてみる必要があると思われます。

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