会社によっては、残業を行う際に残業の届け出や上司の承認を受けることが義務づけられているところがあります。
このような会社では、就業規則に残業を行う際は一定の手続を踏むことが定められていることが多く、その手続きを経ないで残業をした場合にはそれに関する残業代は支払わないとしている会社も多いようです。
しかし、会社の業務として残業を行ったにもかかわらず、手続きをしなかっただけで残業として認められなかったり、情緒の承認がないだけで残業代が支払われなかったりするというのは、労働者にとっては理不尽な結果となってしまいます。
会社側も労働者の残業で利益を受けておきながら、手続きをしなかったことだけを理由に残業代を支払わないというのでは、労働者との間の公平性に疑問が生じます。
そこで、今回は社内規定などで決められた届出申請をすることなく残業を行った場合に、残業代は支払われるか?という問題について考えることにいたしましょう。
会社で決められた申請手続きを経なくても、残業代請求が認められる場合
会社によっては、就業規則によって残業をする場合には上司への事前申請が必要だったり、所定の用紙に残業する旨を記入して上司の承認を得ることが義務付けられている場合があります。
しかし、このような就業規則の規定があった場合でも、会社や上司の「黙示の指示(暗黙のうちに残業を支持していること)」や「黙示の承認(暗黙のうちに残業を承認していること)」があったりする場合には、その就業規則の規定は
「不当な時間外手当の支払いを防ぐための工夫を定めたものに過ぎず、事前承認がないからといって時間外手当の請求権が失われることを意味する規定ではない」
と考えることができますので、たとえ就業規則に定められた事前の承認手続きを経ていない場合であっても残業代の請求が認められると考えられます。
参考判例:昭和観光事件(大阪地裁平成18年10月6日労判930号)
どのような場合に、「黙示の承認」や「黙示の指示」があったと言えるか
どのような場合に、「黙示の承認」や「黙示の指示」があったと言えるかはケースバイケースですが、たとえば
「上司に残業することを伝えたが何の返答もなかった(残業はダメと異議を唱えなかったケースなど)」というような場合は「黙示の承認」と判断される可能性がありますし、
また「仕事の量が多いため残業することが常態化しているような職場で、上司や会社側がその残業しなければ処理しきれないという状態を認識している」ような場合には、会社側が残業することを「黙示に指示」していると判断されるであろうと推測されます。