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職能資格(等級)の引き下げにより降格させられた場合

「職能資格」とは、例えば就業規則で労働者に等級が設けられており、勤続年数や労働者の有する技能や能力、経験などに応じてその等級が引き上げられ労働者の社内での地位に変更が生じるようなシステムになっている場合をいいます。

たとえば、勤続年数が3年までは10等級、3年から5年までが9等級、勤続40年で3等級などと就業規則に定められ、その勤続年数によって社員としての変更が生じる場合が代表的です。

このような職能資格を設定している会社ではその等級に応じて賃金も上昇するのが一般的ですが、賃金の変動は必ずしもこの「職能資格」の制度とは関係ありませんので、職能資格(等級)に賃金が連動していない会社があっても特に問題ありません。

ところで、このような「職能資格」を制度化している会社では、稀に会社側の裁量的な判断によって等級を変更し事実上労働者の社内での地位が引き下げられる場合があります。

しかし「職能資格」の等級等が引き下げられることは事実上「降格」を意味しますから、会社側が一方的に「職能資格」の等級等を変更し、労働者の地位を引き下げ降格させることが認められるかという点に疑問が生じます。

そこで今回は、「職能資格」が制度化されている会社において使用者(会社)側の一方的な判断で職能資格を変更し労働者を降格させることは認められるのか、また会社が一方的に職能資格を変更し降格させられてしまった場合には具体的にどのような対処をとればよいのか、といった点について考えてみることにいたしましょう。

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職能資格の制度は「就業規則」または「労働契約」の定めが必要

「職能資格」を制度化して労働者の地位を等級等によって区別する場合には「就業規則」もしくは「個別の労働契約(書)」にその「職能資格」の具体的な等級等を明記し、その「職能資格」が会社の制度として制度化され労働契約(雇用契約)の内容になっている必要があります。

なぜなら、労働者の地位を定める根拠が「就業規則」や「個別の労働契約」に定められていなければ、その「職能資格」の制度自体が労働者との間で結んだ労働契約(雇用契約)の内容とはならないため労働者をその「職能資格」で規律させることができないからです。

「職能資格を変更」して「降格」させるには「就業規則の変更」または「労働者の個別の同意」が必要

前述したように、使用者(会社)が社内で職能資格を設定して労働者の地位を決定する場合には「就業規則」もしくは「個別の労働契約(書)」にその「職能資格」の具体的な等級等が定められていることが必要です。

そうすると、使用者(会社)が「職能資格を引き下げ」て労働者を「降格」させる場合には、「就業規則の変更」もしくは「労働者の個別の同意」が必要になるということになります。

なぜなら、就業規則や労働契約で制度化された「職能資格」を、その制度化された基準に達したと認められて労働者が取得したのであれば、その「職能資格」の制度自体が変更されない限り、その労働者がいったん取得した「職能資格」を失うことは理論的にあり得ないからです。

例えば、勤続年数が3年までは10等級、3年から5年までが9等級、勤続40年で3等級などと勤続年数で等級に変更が生じるような「職能資格」の定めがある会社では、勤続5年に達することにより9等級になりますが、勤続年数を減少されることは理論的にできませんので、会社がその9等級になった労働者を10等級に「降格」させたいのであれば、その職能資格の制度が就業規則に定められている場合には就業規則の「職能資格」の定めを「勤続5年までは10等級」などと書き換えるか、その職能資格の制度が個別の労働契約(書)で定められている場合にはその職能資格の引下げの対象となる労働者との個別の労働契約を修正して等級を引き下げるしかありません。

また、たとえば特定の技能の有無によって等級が定められているような会社ではいったん取得した技能を失うということは通常考えられませんから(※加齢や怪我の後遺症で従来の技能が失われることはありますが…)、そのいったん取得した技能に対応する等級等を引き下げて「降格」させる場合にも就業規則や個別の労働契約の変更が必要ということになるでしょう。

このように、「職能資格」を「引下げ」ることによって労働者を「降格」させる場合には、その職能資格の制度が就業規則に定められている場合には就業規則の変更を行うか、その職能資格の制度が個別の労働契約(書)で定められている場合には個別の労働契約を変更するかしない限り、その「職能資格の引下げによる降格」はその対象となる労働者を拘束しない(降格は無効になる)ことになります。

もっとも、「労働契約(書)の変更」には個別の労働者の同意が必要になりますから、結局は会社が「職能資格の引下げ」によって労働者を「降格」させる場合には、「職能資格」が就業規則に定められている場合には「就業規則の変更」が、「職能資格」が個別の労働契約(書)に定められている場合には「その降格の対象となる労働者の同意(合意)」が必要になるということになるのです。

【職能資格の制度を就業規則によって定めている会社で就業規則を変更することなく個別の労働者との労働契約によって職能資格を引き下げることはできるか?】
 この場合、職能資格を就業規則で定めている会社で、その就業規則を変更することなくその引下げの対象となる個別の労働契約(書)を変更することにより職能資格を引き下げることができるか、という点が問題になりますがこれはできません。
 なぜなら、労働契約法の第12条では「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその基準に達しない部分について無効になる」と定められていますので、職能資格を定めている就業規則に基準から引き下げた職能資格をその引下げの対象となる労働者の労働契約(書)に定めたとしても、その引き下げられた部分の職能資格は就業規則の基準に達しないものとして無効と判断されるからです。
【労働契約法第12条】
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

職能資格の引下げを理由に降格させられた場合にチェックすべき点

(1)「就業規則が変更されているか」をチェックする

以上で説明したように、使用者(会社)が「職能資格」を引き下げることによって労働者を「降格」させる場合には、「職能資格」が就業規則に定められている場合には「就業規則の変更」が、「職能資格」が個別の労働契約(書)に定められている場合には「その対象となる労働者の同意(合意)」が必要ということになります。

そのため、「職能資格」を引き下げられることによって「降格」させられてしまった場合には、「就業規則が変更されているか」という点や「職能資格の変更に同意したか」という点を確認する必要があります。

もっとも、「職能資格」が制度化されている会社ではそのほとんどが就業規則に「職能資格」の制度を定めているのが一般的ですので、事実上は、就業規則が変更されているかという点をチェックし、就業規則が変更されていなかったり、就業規則の変更に瑕疵がなかったか、といった点をチェックすることが必要になると考えられます。

もし仮に、就業規則の変更がなされずに職能資格が引き下げられて降格させられているような場合には、その職能資格の引下げに基づく降格には労働契約上の根拠が存在しないことになりますから、その無効を主張して撤回を求めていくことも可能といえます。

(2)就業規則の変更が労働者に「周知」されているかもチェックする

使用者(会社)が就業規則を変更して労働者の労働条件を不利益に変更する場合には原則として労働者の合意を得ることが必要であり(労働契約法第9条)、また使用者(会社)は労働者に対して労働契約の内容を書面を交付するなどして理解させる義務があります(労働契約法第4条)。

【労働契約法第9条】
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
【労働契約法第4条】
第1項 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
第2項 労働者及び使用者は、労働契約の内容(省略)について、できる限り書面により確認するものとする。

また、使用者(会社)が労働者の合意を得ないで就業規則を変更し労働者の労働条件を不利益に変更することも例外的に認められていますが、労働者の合意を得ないで就業規則を労働者の不利益に変更する場合にも、その変更後の就業規則が労働者に周知されていなければなりません(労働契約法第10条)。

【労働契約法第10条】
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(但書省略)

したがって、仮に使用者(会社)が「職能資格」を引き下げるために就業規則を変更した場合には、その就業規則の変更に関する労働者の合意の有無にかかわらず、その「職能資格が引き下げられた後の就業規則」を労働者が「周知」しているということになります。

もし仮に「職能資格が引き下げられた後の就業規則」について「降格」させられる労働者が周知していなかったとすれば、その就業規則の変更には労働契約法第4条もしくは同法10条の周知義務に違反する事実があったことになりますので、その就業規則の変更は瑕疵があったものとして有効性に問題が生じることになりその無効を主張して撤回を求めていくことも可能といえます。

このように、職能資格を引き下げられることに降格がなされた場合には、変更された就業規則の内容について「周知」されていたかといった点についても十分確認する必要があるといえます。

職能資格の引下げを理由に降格させられた場合の対処法

以上のように、職能資格の引下げによって降格させられてしまった場合には、「就業規則の変更がなされているか」や「変更後の就業規則が周知されていたか」などを確認することが必要で、そのような点に何らかの瑕疵がある場合には、職能資格の引下げの無効を主張して撤回を求めて行く必要があります。

なお、職能資格を引き下げられることにより降格させられた場合において、就業規則が変更されていなかったり就業規則の変更に瑕疵があるような場合の具体的な対処法としては以下のような方法が考えられます。

(1)申入書(通知書)を送付して撤回を求める

職能資格を引き下げられることにより降格させられた場合において、就業規則の変更がなされていなかったり、就業規則の変更がなされていたとしても変更後の就業規則が周知されていなかったような場合には、その職能資格の引下げが労働契約上の根拠がないことを説明し降格の撤回を求める”申入書(通知書)”を作成して使用者に送付してみるのも一つの方法として有効と考えられます。

口頭で「就業規則の変更を伴わない職能資格の変更は無効だ撤回しろ!」とか「変更後の就業規則が周知されていないから職能資格の引下げは無効だ撤回しろ!」と抗議して埒が明かない場合であっても、文書(書面)という形で改めて正式に通知すれば、企業側としても「なんか面倒なことになりそう」と考えて降格を撤回するかもしれませんし、内容証明郵便で送付すれば「弁護士に相談に行ったんじゃないのか?」とか「裁判を起こされるんじゃないだろうか」というプレッシャーを与えることが出来ますので、改めて通知書という形の文書で通知することも一定の効果があると思われます。

また、申入書(通知書)を送付しその写しを保管しておくことで「撤回を求めた」という事実や「撤回を求めても拒否された」という事実を有体物で残しておくことができますので、将来的に裁判になった場合に使用する証拠を作るという意味でも申入書(通知書)を送付する意味はあると思います。

なお、この場合に会社に送付する申入書(通知書)の記載例についてはこちらのページに掲載したものを参考にしてください。

職能資格の引下げによる降格の撤回を求める申入書

(2)労働局に紛争解決援助の申立を行う

全国に設置されている労働局では、労働者又は使用者(会社)の一方からの申し立てに基づいて、労働者と事業主の間に発生した”紛争”を解決するための助言や指導、あっせん(裁判所の調停のような手続)を行うことが可能です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第1項)。

【個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条1項】
都道府県労働局長は(省略)個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該個別労働関係紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができる。

この点、就業規則の変更がなされせず、または変更後の就業規則が労働者に周知されないまま就業規則が変更されて職能資格が一方的に引き下げられる手段によって労働者が降格させられているような場合についても、「就業規則の変更を伴わない職能資格の変更は無効だ撤回しろ!」とか「変更後の就業規則が周知されていないから職能資格の引下げは無効だ撤回しろ!」と抗議と主張する労働者と「職能資格は有効に引き下げられている」と主張する企業との間に”紛争”が発生しているということになりますので、労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能になります。

労働局に紛争解決援助の申立を行えば、労働局から必要な助言や指導がなされたり、あっせんの手続きを利用する場合は紛争解決に向けたあっせん案が提示されることになりますので、使用者(会社)側が労働局の指導等に従うようであれば、会社側がそれまでの態度を改めて不当な降格を撤回する可能性も期待できるでしょう。

なお、この場合に労働局に提出する紛争解決援助申立書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

職能資格・等級の引下げによる降格に関する労働局の申立書

(3)弁護士などに依頼し裁判や調停を行う

上記のような手段を用いても解決しなかったり、最初から裁判所の手続きを利用したいと思うような場合には弁護士に依頼して裁判を提起したり調停を申し立てるしかないでしょう。

弁護士に依頼するとそれなりの費用が必要ですが、法律の素人が中途半端な知識で交渉しても自分が不利になるだけの場合も有りますので、早めに弁護士に相談することも事案によっては必要になるかと思われます。