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身に覚えのないセクハラで処分された場合の対処法

このサイトでも他のページで解説していますが、社内でのセクハラについてはその勤務先の使用者(会社・雇い主)に適切な対処をとる義務がありますから、セクハラの被害に遭った場合には、上司や社内に設置された相談室などに相談し、適切な対処をしてもらうことが可能です(※詳しくはこちらのページでご確認ください → セクハラ相談に会社はどんな対応をとる必要があるか)。

しかし、世の中には不道徳な輩もいるもので、このように使用者(会社・雇い主)にセクハラに対処する義務があることを逆手にとって、実際にはセクハラが発生していないにもかかわらず「セクハラに遭った」と会社に虚偽の申告をし、自分が気に入らない上司や同僚などをセクハラの加害者に仕立て上げて降格や退社に追い込むといった不当な行為をしている人間が少なからず存在しているようです。

そこで今回は、セクハラをしていないにもかかわらず、他の社員から「セクハラをした」と無実の罪を着せられてしまい、会社から降格や配置転換、解雇(退職)など不当な処分を受けた場合には具体的にどのように対処すればよいか、といったことについて考えてみることにいたしましょう。

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セクハラの相談を受けた会社は当事者双方から事実関係を聴取する義務がある

セクハラの冤罪で処分された場合の対処法を考える前に知っておいてもらいたいのが、厚生労働省の告示では、労働者からセクハラの相談を受けた使用者(会社・雇い主)に対しては、そのセクハラの事実関係について迅速かつ正確な確認をすることが求められているということです(平成18年厚生労働省告示第615号3‐(3))。

このセクハラ相談を受けた会社に求められる「迅速かつ正確な確認」には、セクハラの相談を受けた相談窓口の担当者や人事部門または専門の委員会等が、セクハラの当事者(被害者と加害者)双方から事実関係を聴取することが求められており、その当事者の主張に違いがある場合には、当事者以外の第三者(他の社員など)からも事実関係の確認を行うことも求められています。

そのため、仮に自分が「セクハラをしていない」と主張しているにもかかわらず、会社がセクハラ被害を受けたと主張する従業員の言葉だけを信じて懲戒処分を行うことは許されません。

このような場合には、会社は当事者以外の第三者(他の従業員など)からも事実関係の聴取を行い、中立的な立場で調査することが必要ですから、仮に会社がセクハラの被害を受けたと主張する人物の言葉だけを信じて懲戒処分を行ったような場合には、そのような一方的な処分は違法なものとなるのです。

事実関係の確認が困難な場合は、労働局など中立的な第三者機関の手続きに解決を委ねる必要がある

また、厚生労働省の告示においては、仮にセクハラの当事者の主張が食い違い、当事者以外の第三者から聴取を行っても事実関係の確認が困難な場合には、労働局の調停を利用するなど第三者機関に紛争処理を委ねることも求められています(平成18年厚生労働省告示第615号3‐(3))。

そのため、たとえセクハラの被害を受けたと主張する人物が「セクハラがあった」と主張し、他の従業員全員も「セクハラはあった」と回答している場合であったとしても、そのセクハラの事実関係の確認が困難である場合には、会社はその状態のまま懲戒処分等を行ってはならず、必ず労働局などの第三者機関に調停の申立を行うなどして事実関係の確認に努めなければ法律違反となります。

この点、自分がセクハラについて無実であるにもかかわらず「セクハラをされた」と濡れ衣を着せられている場合には、セクハラを行ったことが明らかとなる確定的な証拠も存在しないはずですから、そのような場合には必ずセクハラの事実関係の確認が困難となるはずであり、そうであれば会社は必ず労働局などの第三者機関に問題解決を委ねなければならないことになるはずです。

したがって、自分が真実にセクハラをしていないのであれば調査の過程で必ず労働局などの第三者機関が介入するはずであって、そのような第三者機関の介入がなされていないにもかかわらず会社から処分を受けたという場合には、その処分は厚生労働省の告示に違反した違法な処分ということが確実であるといえます。

なお、労働者からセクハラの相談を受けた場合に事業主(会社・雇い主)が具体的にどのような対処を取らないといけないかという点についてはこちらのページで詳細に解説していますので参考にしてください。

▶ セクハラ相談に会社はどんな対応をとる必要があるか

身に覚えのないセクハラで処分された場合の具体的な対処法

以上のように、厚生労働省の出している告示では、セクハラの相談を受けた会社はセクハラの当事者だけでなく、その他の第三者(他の従業員)からも事実関係の聴取を行わなければならず、その聴取によっても事実関係の確認ができない場合には労働局などの調停の申し立てをしてセクハラの事実が確認できた場合でなければそのセクハラの加害者とされる人物に懲戒処分等を与えることはできません。

仮に労働局などの中立的な第三者機関が介入する場合には、セクハラの紛争解決に多く関係してきた専門家が関与することになるのが通常ですから、いくら「セクハラを受けた」と言われたとしても、通常はその主張が虚偽であることは手続の途中で明らかになるはずなのです。

しかし、すべての会社がこのような厚生労働省の告示を理解しているわけではありませんし(※本来は国内の全ての雇い主はこの厚生労働省の告示を理解していなければなりません)、特に顧問弁護士や社会保険労務士と提携していない企業では労働法を遵守していないところは多いですから、セクハラの相談があった場合に十分な調査もせずに処分をしてしまう会社が多いのが現状です。

そこで、そのような不十分な調査によって身に覚えのないセクハラ問題で会社から処分された場合には、以下のような手段を用いて自分の地位を守るとともに、会社での地位の回復に努める必要があります。

(1)会社に対し「セクハラの事実がないこと」および「事実関係の確認が不十分なままなされた処分が違法であること」を書面で通知する

前述したように、セクハラの相談を受けた使用者(会社・雇い主)は、当事者だけでなくその他の第三者(他の従業員)からも聴取をしなければならず、それでも事実関係の確認が困難な場合には労働局の調停などを利用するなど第三者機関に紛争処理を委ねることが必要ですから、そのような手続きを経ずに一方的になされた社内での処分(降格や配置転換、解雇などの懲戒処分)は違法になる可能性が非常に高くなります。

そのため仮にそのような手続を経ずに処分が出された場合には、書面にそのような処分が厚生労働省の告示に違反していることを記載して会社に郵送することも解決方法の一つとして有効です。

なお、この場合に会社に対して送付する通知書の記載例(サンプル)についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 虚偽のセクハラを理由とした処分を撤回するよう求める申入書

前述したように、国内にはセクハラの相談があった際ににどのような対処をとればよいかということを熟知していない会社は多いのが現状ですから、そのような厚生労働省の告示があることを伝えることで会社側が自身の処分に違法性があることを認識し、処分を撤回する可能性もあるでしょう。

また、後に裁判になった場合には、「裁判までに会社とどのような交渉をしてきたのか」という点も重要な要素となりますが、あらかじめ”書面”で会社に対して違法性を認識させる通知をしていたことが証明できれば、後の裁判を有利に運ぶことができます。

書面で通知しておけば、その書面のコピーを取っておけば証拠として提出できますし、内容証明郵便で発送しておけば確実に証拠として使用できますから、”書面”を作成して処分の撤回を求めることは意味があると思われます。

(2)労働局に紛争解決援助の申立を行う

全国に設置されている労働局では、事業主(会社・雇い主)と労働者との間に紛争が生じた場合には、その当事者の一方からの申立に基づいて、紛争解決のための必要な助言や指導を行い、当事者からの申請があればあっせんの手続きを行うことが可能です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第1項、同法第13条第1項)。

【個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第1項】
都道府県労働局長は、個別労働関係紛争(省略)に関し、当該個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該個別労働関係紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができる。
【個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第5条第1項】
都道府県労働局長は、前条第一項に規定する個別労働関係紛争(省略)について、当該個別労働関係紛争の当事者(省略)の双方又は一方からあっせんの申請があった場合において当該個別労働関係紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会にあっせんを行わせるものとする。
【個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第13条第1項】
あっせん委員は、紛争当事者から意見を聴取するほか、必要に応じ、参考人から意見を聴取し、又はこれらの者から意見書の提出を求め、事件の解決に必要なあっせん案を作成し、これを紛争当事者に提示することができる。

この点、セクハラの事実が無いにもかかわらず「セクハラがあった」という虚偽の申告に基づき、厚生労働省の告示に沿った確認手続きも実施されないまま一方的な処分が出されたような場合には、その処分を受けた労働者(この場合はセクハラの加害者とされている労働者)と会社(使用者・雇い主)との間で、その処分の適法性に紛争が生じているということになりますから、労働局に紛争解決援助の申立を行うことが可能となります。

なお、この場合に労働局に提出する申立書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ セクハラ冤罪で受けた処分に関する労働局の援助申立書の記載例

仮にこの申立により労働局から助言や指導がなされたり、あっせん案が出されるような場合には、会社側が労働局の助言や指導、あっせん案などに従って違法な処分を撤回することも考えられますので、セクハラ冤罪によって受けた不利益処分を回復する手段の一つとして有効ではないかと思われます。

なお、この労働局への紛争解決援助の申立は「労働者」と「事業主(会社・雇い主)」との間に発生した紛争のための手続きであり、「セクハラを受けた」と虚偽の主張している「セクハラの被害を受けたと主張している人」は当事者とはなりませんので注意してください。

あくまでも、「会社の処分が違法である」ということを労働局に申し立てるものに過ぎず、労働局が「セクハラがあったか無かったか」を判断してくれるわけではありませんので誤解のないようにしてください。

(3)弁護士に依頼して裁判や調停を行う

会社に自分はセクハラをしていないということを説明しても処分が取り消されない場合には、弁護士に相談して裁判所における訴訟手続きや調停の手続きを利用して地位の回復(処分の撤回)を求めることも考える必要があります。

弁護士に依頼する場合には、「会社に対して処分の撤回を求める裁判や調停」の他にも、「セクハラを受けたと虚偽の主張をしている人物に対して慰謝料を請求する裁判」などもありますし、裁判や調停以外にも労働審判といって原則3回の期日で結審する訴訟手続きもありますから、その自分の置かれている状況や処分の内容に即して適当な手続きを選択することも可能です。

セクハラの冤罪で違法な処分を受けた場合には、そのままにしておいても自分が受けた不利益は元に戻りませんし、その会社に引き続き勤務していく場合には退職するまで延々とその冤罪による不名誉が付きまとうことになります。

そのような不都合を回避するためにも、身に覚えのないセクハラで処分を受けた場合には、早めに弁護士などの法律専門家に相談することが必要でしょう。