このページでは、妊娠したものの通常どおりの職務に従事することが可能であるにもかかわらず会社から不当に休職を命じられた場合に、その休職期間中の賃金が支払われなかったことを理由として労働基準監督署に違法行為の是正申告を行う場合の申告書の記載例(ひな形・文例)を公開しています。
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通常どおり就労することに支障がないにもかかわらず妊娠したことを理由に休職を命じられ休職期間中の賃金が支払われなかったことを理由として労働基準監督署に違法行為の是正申告を行う場合の申告書の記載例
〇〇労働基準監督署長 殿
労働基準法違反に関する申告書
平成〇年〇月〇日
申告者
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
住所 大阪市阿倍野区〇〇三丁目〇番〇号〇〇マンション〇号室
氏名 宇美益代
電話番号 090-****-****
違反者
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
所在地 大阪市北区〇〇六丁目〇番〇号
名称 株式会社マタニティー・ノーワーキング
代表者 安益三
電話番号 06-****-****
労働基準法104条1項に基づき、下記のとおり労働基準法に違反する事実を申告いたします。
記
1 当事者
違反者は、柿の種のあられとピーナッツの個数を自動的に計算するスマートフォン向けアプリ「柿の種チェッカー」を開発及び配信する従業員77名の株式会社である。
申告者は、平成〇年〇月にシステムエンジニアとして入社し、本社営業所においてアプリケーション開発業務に従事している。
2 労働基準法に違反する事実
申告者は平成○年○月ごろ、妊娠したことが判明したため上司である〇〇にその旨報告を行ったが、通常業務に従事することに特段の支障がなく出産予定日の直前まで働くつもりでいたことから、当面の間は産前休暇の申請をする予定がないことを伝えた。
これに対し上司の〇〇は「産前休暇を取る場合は早めに連絡して」と回答し妊娠を祝福してくれたが、その数日後の〇月下旬、申告者は上司の〇〇から会議室に呼び出され、違反者の幹部数人から「妊娠した場合は健康上の心配もあるから、明日から出産後半年が経過するまでの期間について産前産後の休職をとるように」と告知され、休職を命じられた。
この違反者からの休職の指示について申告者は不本意ではあったが抵抗することもできなかったため渋々違反者の命令に従い、その翌日から産後半年が経過するまでの期間について休職したが、妊娠したものの通常どおりの職務に従事できる申告者をその意思に反して合理的な理由のないまま休職を命じた違反者の行為はその権利を濫用するものといえるから(労働契約法第3条4項ないし5項、民法第1条2項ないし3項)、その休職した期間のうち労働基準法第65条で就労させることが禁じされている期間以外の期間については、違反者の責めに帰すべき事由による休業と考えるべきである。
したがって、申告者が休職した期間のうち労働基準法第65条で就労させることが禁じされている期間以外の期間については、民法第536条第2項に基づいて申告者はその休職期間中の賃金支払請求権を失わないといえるが、違反者はその休職期間中の賃金を一切支払っていない。
3 是正措置の申立
違反者の行為は、労働基準法26条に違反する。よって、速やかに調査を行うとともに是正措置をとられるよう求める。
4 添付資料
・休職を命じた辞令書の写し 1通
・休職期間を含む○月から〇月分までの給与明細書の写し 1通
5 備考
本件申告をしたことが違反者に知れると勤務先で不当な扱いを受ける恐れがあるため、違反者に対しては申告者の氏名を公表しないよう求める。
以上
※官公庁ではすべての書類をA4で統一していますので、A4用紙でプリントアウトするようにしてください。
(1)「当事者」の欄
当事者の欄は、会社やご自身の会社の業務に合わせて適宜書き直してください。
なお、匿名で申告したい場合は申告者の欄は空欄のまま提出しても構いません。
(2)「労働基準法に違反する事実」の欄
労働基準法に違反する事実の欄には、使用者(会社)からどのような労働基準法に違反する行為を受け、どのような不利益を受けているのかといった点についてある程度具体的に記載します。
上記の事例では、妊娠した女性労働者が従来の業務に従事することに支障がなく本人も就労することを望んでいるにもかかわらず会社が本人の意思に反して休職を命じられていることから、そのような場合の休職期間は「会社の都合による休業」と考えられますが、そうであれば休職を命じられた労働者は民法第536条2項に基づいて賃金の支払請求権を失わないことになり会社はその休職期間中の賃金を支払わなければならないところ、会社はその休職期間中の賃金を1円も支払っていないため、会社都合の休業期間中の休業手当の支払義務を規定した労働基準法第26条に違反することになるというようなことを記載しています。
なお、妊娠した労働者については、労働基準法第65条で産前産後の一定期間就労させることが禁止されていますのでその期間については会社が妊娠した女性労働者に対して休職を命じることは法律上問題になりませんが、その期間以外の期間にまで、本人が就労することに支障がないにもかかわらず、特段の理由がないのに休職させることは、会社は権利の濫用によって違法に休職を命じていることになるものと考えられます。
※この点についての詳細はこちらのページで詳しく解説しています。
(3)「是正措置の申立」の欄
是正措置の申立の欄には、会社の行為が労働基準法の何条(何項)に違反するのかを記載します。
この事例では、使用者(会社※個人事業主も含む)が労働者に休職を命じなければならない理由がないにもかかわらず、合理的な根拠がないまま休職を命じており、その休職期間は使用者の都合による休業と変わりないことになりますが、その休職期間中の賃金が支払われないことは使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合の休業手当の支給を規定した労働基準法の第26条に違反することになりますので「労働基準法第26条に違反する」という文章にしています。
なお、労働基準監督署に対する違法行為の是正申告は会社が労働基準法の何条に違反しているかが前提となりますので、どの条文に違反するか分からない場合は労働基準監督署に相談に行って聞いてみるか、事前に弁護士などの法律専門家に相談する方がいいかもしれません。
(4)「添付書類」の欄
添付書類の欄には、労働基準法違反の事実を証明するような書類等があれば、その書類等の名称と添付する通数を記載します。
労働基準監督署への違法行為の是正申告は裁判所における裁判と異なりますから添付書類は必ずしも添付する必要はありませんが、使用者の労働基準法違反を証明するような書類(※画像や動画の記録などの電子データでもよい)がある場合には添付書類として提出してください。
上記の文例では、「会社から休職命令を受けたこと」を明らかとするために「休職命令の辞令書」の写しを、「休職期間中の賃金が支払われていないこと」を明らかとするために「休職期間を含む○月分から〇月分までの給与明細書」の写しを添付することにしています。
なお、添付書類として提出する文書の「原本」は、後に裁判になった際に使用する可能性がありますので、労働基準監督署に対しては原本ではなく「写し(コピー機で複写したもの)」を提出するようにした方が良いでしょう。
(5)「備考」の欄
労働基準監督署への違法行為の是正申告は、労働基準監督署には氏名を明らかにしつつも会社には匿名にして申告することも可能です。
是正申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は削除しても構いません。
なお、上記の記載例のように記載して提出した場合、労働基準監督署が調査を行う場合は”一般的な臨検”として調査が行われるものと思われます。
なお、この妊娠を理由に不当な休職を命じられて休職期間中の賃金が受けられない問題についての詳細はこちらのページを参考にしてください。