このページでは、上司(会社)の承諾を得ず無断で残業したことを理由に会社が残業代や休日出勤手当など時間外労働に基づく割増賃金を支払わない場合に、労働局に対して紛争解決援助の申立を行う場合の申立書の記載例(ひな型・文例・書式)を公開しています。
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上司(会社)に無断で残業したことを理由に会社が残業代を支払わない場合における労働局への紛争解決援助申立書の記載例
〇〇労働局長 殿
個別労働関係紛争の解決に関する援助申立書
(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条に基づく)
平成〇年〇月〇日
申立人(労働者)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
住所 神奈川県横浜市保土ヶ谷区〇〇町〇番〇号
氏名 磯賀詩伊乃
電話番号 080-****-****
被申立人(事業主)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
所在地 東京都台東区〇〇町〇番〇号
名称 株式会社モクニンシステム
代表者 日床都伊江代
電話番号 03-****-****
1 紛争解決の援助を求める事項
上司の承諾を得ないで行われた時間外労働についても時間外労働の割増賃金を支払うよう、事業主に対する助言・指導を求める。
2 援助を求める理由
被申立人は、一般企業向け会計システムを開発している従業員58名の株式会社であり、台東区の本社ビルにおいてシステム開発及び運営事業を営んでいる。
申立人は、平成〇年〇月にシステム開発担当社員として入社し、既存の会計システムの保守業務を担当していたが、昨年○月に新システムの開発を目指すグループの責任者に任命されたことから、既存システムの保守と新システムの開発の2つの業務を兼務する状態で勤務している。
被申立人の会社では、就業規則で「残業や休日出勤をする場合には上司の承認を受けること」と定められているが、申立人は新システムの開発が遅れていたことに加えて従来のシステムに発生した不具合への対応が必要となったため、忙しさのあまり事前申請を忘れて残業や休日出勤をすることが度重なるようになり、事後報告で済ませることも多くなった。
この時間外労働については、従前は事後申告したとおりの割増賃金が支払われていたが、同年○月支払い分から、事前承認を受けていない残業や休日出勤については「上司の事前承認を得ること」と規定した就業規則に違反することを理由に、時間外の割増賃金が支払われなくなった。
しかし、申立人が残業や休日出勤をしなければ処理できないような業務を抱えていることは上司の○○もあらかじめ承知しているし、作業報告書も毎週末に上司に提出していることから申立人が時間外労働を行っていることは被申立人も認識しているはずであるから、申告者が時間外労働をしたことについて被申立人は「黙認」していたか「黙示の承認」を与えていたということがいえる。
また、被申立人が作成したシステム管理マニュアルには、システムに不具合が生じた場合には時間外労働時間であっても早急に対応することが明文で規定されているから、システムに不具合が発生した場合の対応に要した残業や休日出勤については、申立人が時間外労働を行うことを被申立人の側であらかじめ承諾していたものといえる(大林ファシリティーズ事件・最高裁平成19年10月19日に同旨)。
したがって、たとえ就業規則に「時間外労働を行う場合は上司の承認が必要」と規定されているとしても、被申立人と申立人との関係においては、申立人が残業することについて”黙認”又は”黙示の承認”あるいは”あらかじめの承諾”があったものといえるから、上司の承認がないことを理由に時間外労働の割増賃金を支払わない被申立人の行為は、その支払いを規定した労働基準法37条1項に違反する。
3 紛争の経過
申立人は昨年○月に新システムの開発を目指すグループの責任者に任命されたことから、既存のシステムの保守と兼務する必要性に迫られ、極端に業務が増えることになった。
申立人は残業や休日出勤をする場合には上司の承認を受けることが就業規則で定められていることを認識していたが、新システムの開発が遅れていたことに加えて従来のシステムに発生した不具合への対応が必要となったため、忙しさのあまり事前申請を忘れることが多くなり、上司の承認を得ないまま残業や休日出勤をすることが度重なるようになった。
これらの上司に無断で行った残業については、必ず事後に上司の○○に報告し、毎週末上司に提出する報告書にも記載していたため、上司の事後承認を受けているものと思っていたが、平成○年○月支払い分の給与から「事前承認のなかった」として事前承認を受けていない残業については時間外労働の割増賃金が支払われなくなった。
この上司の承認のない残業については、「業務報告書に記載して事後報告していること」「その報告書に何らの注意も受けなかったこと」「システムの管理マニュアルにトラブル発生時には時間外であっても随時対応することが記載されていたこと」などの事情があったことから、申立人が残業することについて”黙認”又は”黙示の承認”あるいは”あらかじめの承諾”があったものといえるため、たとえ上司の承認がなかったとしても時間外労働の割増賃金は支払われるべきである(大林ファシリティーズ事件・最高裁平成19年10月19日に同旨)、と再三にわたって上司の○○や被申立人の幹部(○○部長等)などに抗議したが、被申立人はその態度を改めようとしない。
そのため申立人は、平成○年○月○日に同日付の「未払いとなっている時間外労働の割増賃金を支払いを求める申入書(請求書)」を内容証明郵便で送付したが、被申立人は現在に至るまで一切支払おうとしない。
4 添付資料
・タイムカードの写し ○通
・給与明細書の写し ○通
・上司の承認印が押されている上司に提出した作業報告書の写し ○通
・システムに不具合が発生した場合には随時対応することを定めたマニュアルの写し 1通
・未払いとなっている時間外労働の割増賃金を支払いを求める申入書(請求書)の写し 1通
以上
※官公庁ではすべての書類をA4で統一していますので、プリントアウトする際はA4用紙を利用するようにしてください。
※「援助を求める理由」の欄について
援助を求める理由の欄には、会社との間にどのような違法行為に基づく紛争が生じているのかという点を記載します。
上記の事例では、就業規則に規定されたとおり上司の承認を受けずに残業を行ったことについては非があるものの、上司の承諾を受けていないといっても、作業報告書を提出しているから残業をしたことは上司も知っているし、その残業に上司が文句を言わなかったのは残業を黙認した(黙示の承認を与えた)ことになること、また、作業マニュアルに「システム障害が発生した場合は時間外であっても随時対応すること」が定められているから、会社側もシステム障害が発生した場合には従業員が残業をすることはあらかじめ予定しているはずである、という理屈で上司の承認を受けずに行った残業について時間外手当の割増賃金を支払わない会社は違法であるという趣旨の文章にしています。
なお、過去発生した「大林ファシリティーズ事件」という判例でもこのような理屈で残業代の支払いが認められていますので、そのような判例があることを示すために「(大林ファシリティーズ事件・最高裁平成19年10月19日に同旨)」と文中に挿入しています。
※紛争の経過の欄について
紛争の経過の欄には、会社との間でどのような交渉をしてきたかということを記載します。
※添付書類の欄について
※添付書類は必ずしも添付が必要なものではありませんので、添付できる資料がない場合には「4」の項目は削除しても構いません。
上記の事例では、”残業や休日出勤をしたこと”を明らかにするため「タイムカードの写し(コピー)」を、また、”その残業や休日出勤の全てに時間外手当が支払われていないこと”を明らかにするため「給与明細書の写し(コピー)」を、さらに、”上司が残業があったことを認識していた”ことを明らかにするために「上司の承認印が押されている上司に提出した作業報告書の写し」を、”会社がマニュアルによって残業することを事前に指示していた”ことを明らかにするために「システムに不具合が発生した場合には随時対応することを定めたマニュアルの写し」を添付書類としています。
なお、「未払いとなっている時間外労働の割増賃金を支払いを求める申入書(請求書)」は無くても良いと思いましたが、説明を尽くしても会社が応じてくれなかったという点を強調する方が良いと思いましたので事前に書面で請求することにし、その書面の写し(コピー)を添付するものとして記載しています。
ちなみに、「未払いとなっている時間外労働の割増賃金を支払いを求める申入書(請求書)」の記載例については『無断残業を理由とした不払い残業代の請求書【ひな形・書式】』のページを参考にしてください。