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懲戒解雇を理由とした退職金の不支給に関する労働局の申立書

このページでは、懲戒解雇を理由に退職金が支払われなかったり減額させられた場合に、退職金の全額の支払いを求めて労働局に紛争解決援助の申立をする場合の申立書の記載例(ひな形・書式)を公開しています。

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なお、この書式例(ひな形例)は当サイト管理人が個人的な見解で作成したものです。この書式例(ひな形例)を使用して生じる一切の損害につき当サイトの管理人は責任を負いませんのでご了承のうえご使用ください。

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懲戒解雇を理由に退職金が支払われない(または減額された)ことを理由に労働局に紛争解決援助の申し立てをする場合の申立書の記載例

(1)退職金の不支給の規定が就業規則に定められていないことを理由とする場合


〇〇労働局長 殿

個別労働関係紛争の解決に関する援助申立書
(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条に基づく)

平成〇年〇月〇日

申立人(労働者)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
住所 福岡市博多区〇〇二丁目〇番〇号〇〇マンション〇号室
氏名 原哲世
電話番号 080-****-****

被申立人(事業主)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
所在地 福岡市中央区〇〇二丁目〇番〇号〇〇ビル〇階
名称 株式会社ゼンガクハラワン・システムズ
代表者 原和奈伊乃
電話番号 06-****-****

1 紛争解決の援助を求める事項

 退職金を全額支払うよう事業主に対する助言・指導を求める。

2 援助を求める理由

 被申立人は、洗濯物の乾き具合を瞬時に識別するスマーとフォン向けアプリ「もう乾いとると?」を開発・配信する従業員224名の株式会社である。
 申立人は、平成〇年〇月にアプリケーションエンジニアとして被申立人に入社し、スマホ向けアプリの不具合修正業務に従事していたが、上司との意見の相違があったことに腹を立てて暴言を吐いて罵倒したことから同月末日をもって申立人を懲戒解雇された。なお、この懲戒解雇に際して被申立人からは退職金が一切支払われていない。
 しかしながら、仮に申立人の行為が懲戒解雇に相当するような行為であったとしても、退職金の支給規定が存在する会社において使用者が懲戒解雇する労働者に退職金の不支給が認められるのは、懲戒解雇の場合に退職金が不支給となることが就業規則に明確に定められその不支給が労働契約の内容となっていることが必要であるはずであるが、被申立人の就業規則にはそのような定めは見当たらない。
 したがって、被申立人が懲戒解雇を理由に退職金を支払わない行為は労働契約上の根拠のない無効なものであるといえる。

3 紛争の経過

 申立人は平成○年○月○日、会議中に上司と意見が対立し激高したことから上司の〇〇に対して暴言を与え上司の名誉を著しく損なったことから同月末日をもって被申立人を懲戒解雇されたが、会議で懲戒解雇の場合には退職金は支払わないと決まったと理由で支払われるべき退職金が一切支払われなかった。
 これに対して申立人は、就業規則に懲戒解雇の場合に退職金を不支給とすることについて明確な規定がなかったことから、就業規則に定めがない以上たとえ懲戒解雇であっても退職金を支払うべきである旨抗議したが、被申立人一切聞き入れようとしなかった。。
 そのため申立人は、平成○年○月○日付の「退職金の不支給の撤回を求める申入書」を作成して被申立人に文書の形で改めて撤回を求めたが、現在に至るまで退職金は一切支払われていない。

4 添付資料

・懲戒解雇の辞令書の写し 1通
・退職金の不支給を決定した辞令書の写し 1通

以上


※官公庁ではすべての書類をA4で統一していますので、プリントアウトする際はA4用紙を利用するようにしてください。

(2)懲戒解雇の原因となった行為が「永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為に該当するもの」ではないことを理由とする場合


〇〇労働局長 殿

個別労働関係紛争の解決に関する援助申立書
(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条に基づく)

平成〇年〇月〇日

申立人(労働者)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
住所 福岡市東区〇〇六丁目〇番〇号〇〇マンション〇号室
氏名 波良稲彩世
電話番号 080-****-****

被申立人(事業主)
〒 〇〇〇-〇〇〇〇
所在地 福岡市中央区〇〇二丁目〇番〇号〇〇ビル〇階
名称 株式会社タイショクキンゼロ・システムズ
代表者 尾母江登毛世
電話番号 092-****-****

1 紛争解決の援助を求める事項

 退職金を全額支払うよう事業主に対する助言・指導を求める。

2 援助を求める理由

 被申立人は、洗濯物の乾く時間を瞬時に予測するスマーとフォン向けアプリ「いつ乾くと?」を開発・配信する従業員818名の株式会社である。
 申立人は、平成〇年〇月にアプリケーションエンジニアとして被申立人に入社し、スマホ向けアプリの不具合修正業務に従事していたが、上司との意見の相違があったことを理由に退職を決意し後任者に仕事の引継ぎをしないまま平成○年〇月○日付の退職届を提出し同日以降の出社を一切拒否してしまったことから被申立人の配信するアプリの不具合修正作業に重大な遅延を生じさせてしまった。
 そのため、申立人は被申立人から職場放棄を理由として懲戒解雇処分として退職を処理されてしまうことになったが、被申立人は懲戒解雇の場合は退職金を支払わない決まりになっていると主張して退職金を一切支払っていない。
 しかしながら、仮に被申立人の就業規則に懲戒解雇の際に退職金を不支給とする根拠が明確に定められていたとしても、その就業規則を根拠に使用者が懲戒解雇した労働者に対して退職金を支払わないことが認められるのはその懲戒解雇の原因について「永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為に該当するもの」と認められるような行為が存在した場合に限られると考えるべきものであるはずである(日本高圧瓦斯工業事件:大阪高裁昭和59年11月29日に同示)。
 この点、申立人が後任者への引継ぎなしに退職した行為が仮に懲戒解雇に相当するものであったとしても、その行為自体が「永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為に該当するもの」といえるような悪質性の高いものであったとはいえないはずである。
 したがって、被申立人が懲戒解雇を理由に退職金を支払わない行為は労働契約上の根拠のない無効なものであるといえる。

3 紛争の経過

 申立人は平成○年○月○日、会議中に上司の〇〇と意見が相違し口論になったことからその場で退職届を作成し、同日付で退職する旨記載された退職届を提出してすぐに帰宅しそれ以降一切出社しなくなった。
 その数日後、申立人には、被申立人から後任者に引き継ぎ等を全くしていなかったためアプリの不具合修正作業が全く停止してしまう事態に発展してしまい約3日間アプリの配信ができなくなるという損害が発生したことを理由として申立人が退職届を提出した日時付で懲戒処分されたという旨記載された辞令書と、懲戒解雇の場合には退職金は支給されないという就業規則の定めに従って退職金も不支給になった旨記載された通知書が郵送された。
 これに対して申立人は、被申立人に電話をして懲戒解雇については受け入れても良いが退職金の不支給には納得できない旨抗議したが、被申立人は一切退職金の不支給の決定を撤回しなかった。
 そのため申立人は、平成○年○月○日付の「退職金の不支給の撤回を求める申入書」を作成して被申立人に文書の形で改めて撤回を求めたが、現在に至るまでその退職金の不支給の決定は撤回されていない。

4 添付資料

・懲戒解雇の辞令書の写し 1通
・退職金の不支給を決定した辞令書の写し 1通

以上


※官公庁ではすべての書類をA4で統一していますので、プリントアウトする際はA4用紙を利用するようにしてください。

申立書記載の要領

「援助を求める理由」の欄について

援助を求める理由の欄には、会社側がどのような法律違反もしくは労働契約違反行為を行っていて、どのような解決方法を求めているのか、といったことを記載します。

上記の記載例では、(1)の記載例では懲戒解雇の場合であっても退職金を不支給とする場合にはその不支給に関する事項が就業規則に定められ労働契約上の根拠が存在していることが必要であるにもかかわらず、そのような就業規則の定めなしに退職金が支払われないことが労働契約に違反するとしてその無効を主張し退職金の全額の支払いを求める趣旨の文章にしています。

一方、(2)の記載例では、懲戒解雇の際に退職金を不支給とする旨の定めが就業規則に明確に規定されている場合であっても、懲戒解雇の場合に退職金を不支給とすることが認められるのは懲戒解雇の原因について「永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為に該当するもの」と認められるような行為が存在した場合に限られるべきであるという解雇の裁判例(日本高圧瓦斯工業事件:大阪高裁昭和59年11月29日に同示)を示したうえで、そのような悪質な不信行為ではなかったことを理由に退職金の支払いを求める趣旨の文章にしています。

なお、懲戒解雇を理由に退職金が支払られなかったり減額された場合の対処法についてはこちらのページで解説していますので参考にしてください。

▶ 懲戒解雇を理由に退職金が不支給になった場合の対処法

「紛争の経過」の欄について

紛争の経過の欄には、会社との間の紛争がどのようなきっかけで発生し、会社側とどのような交渉を行ってきたのか、その経緯を記載します。

上記の事例では、懲戒解雇と退職金の不支給が命じられた際にその不当な退職金の不支給を撤回するよう口頭で抗議したものの撤回されなかったことから申入書(通知書)を郵送する形で改めて撤回を求めたが現在に至るまで撤回されていないことなどを記載しています。

「添付資料」の欄について

添付資料の欄には、会社との間で発生している紛争の内容を証明するような資料があれば、その資料を記載します。

上記の記載例では、「懲戒解雇されたこと」を明らかとするために「懲戒解雇の辞令書」の写しを、「懲戒解雇を理由に退職金が支払われなかったこと」を明らかとするために「退職金の不支給に関する通知書」の写しを、また「書面で退職金の不支給の撤回を求めたこと」を明らかとするために「退職金の不支給の撤回を求める申入書」の写し添付することにしています。

なお、この場合に添付する「退職金の不支給の撤回を求める申入書」の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

懲戒解雇を理由とした退職金の不支給の撤回を求める申入書

ちなみに、裁判所における裁判と異なり、労働局への紛争解決援助の申立に証拠書類の添付は必須ではありませんので、紛争の事実を証明できるような文書やデータ(画像や音声・画像記録など)がない場合には添付書類の項には「特になし」と記載して申立てをしても構いません。

(※「写し」を添付するのは後で裁判などに発展した際に「原本」を使用することがあるからです。労働局への申立に証拠の原本は特に必要ありませんから、提出する書類(又はデータ)のコピーを取って、そのコピー(写し)を提出する方が無難です。)

様式について

労働局に対する援助の申立書に定型の様式は設けられておらず、各都道府県の労働局によってその様式が異なっているようです。

上記の様式で提出しても問題ないと思いますが、たとえば東京労働局で使用されている申立書の様式は東京労働局のサイトからダウンロード(Word)できますので、その様式を使用して提出するのもいいのではないかと思います(東京労働局で使用されている様式を他の労働局で使用しても受け付けてもらえると思います)。

様式 | 東京労働局

もっとも、実際に労働局に対して援助の申立書を提出する場合は、申し立てを行う労働局に事前連絡や相談を行う場合が多いと思いますので、その相談する際に労働局で申立書のひな形をもらうなどした方が良いでしょう。