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倒産して未払いになった賃金の立替払制度とは?

勤めている会社が倒産すると、最悪の場合、給料が支払われなかったり退職金が支給されなかったりという事態に遭遇することもあるかもしれません。

そんな時に利用したいのが、独立行政法人労働者健康福祉機構が行っている「未払い賃金の立替払制度」です。

未払い賃金の立替払制度は、企業の倒産が原因で賃金や退職金が受け取れない労働者のために、国が労働者に対してその未払い賃金や退職金の一定範囲を支払うという制度です。

この未払賃金立替払制度を利用すれば、会社が倒産した場合にも給料や退職金の「取りっぱぐれ」を最小限に抑えることができますので、万が一の場合に備えて覚えておくことも損ではないでしょう。

そこで今回は、会社が倒産した場合に未払い賃金や退職金の立替が受けられる「未払い賃金の立替払制度」についてレポートすることにいたしましょう。

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未払い賃金の立替払制度とは?

未払い賃金の立替払制度とは、事業主が倒産したことを理由に給料や退職金が未払いになっている労働者を保護するため、国の外部機関である独立行政法人労働者健康福祉機構が倒産した事業主に代わって未払いの賃金や退職金の一定範囲に相当するお金を支給する制度です(賃金の支払の確保等に関する法律第7条)。

事業主が倒産したために、給料や退職金が未払いになっている労働者は、労働者福祉機構に申請をすることで、未払い賃金総額の80%にあたる金額を受領することができます。

未払い賃金の立替払制度を利用するための要件

未払い賃金の立替払制度を利用するためには、いくつかの要件がありますので、順にみていきましょう。

① 事業主が「倒産」したこと

未払い賃金の立替払制度を利用するには、賃金や退職金の未払いとなっている事業主が「倒産したこと」が必要です。

ここでいう「倒産」とは「法律上の倒産」と「事実上の倒産」の2種類があり、未払い賃金の立替払制度を利用するためには、賃金や退職金の未払いとなっている事業主が「法律上の倒産」か「事実上の倒産」のいずれかに該当していることが必要です。

ア) 法律上の倒産をしたこと

法律上の倒産とは、事業主が裁判所から「破産手続の開始」「特別清算手続の開始」「再生手続の開始」「更生手続の開始」の決定・命令を受けた場合をいいます(賃金の支払の確保等に関する法律第7条・賃金の支払いの確保等に関する法律施行令2条1項1ないし3号)。

イ) 事実上の倒産をしたこと

※事実上の倒産とは、事業活動に著しい支障を生じたことにより労働者に賃金を支払えない状態になったことについて労働基準監督署長の認定があった場合のことをいいます(賃金の支払いの確保等に関する法律施行令2条1項4号)。
具体的には、「①事業活動が停止し、②再開する見込みがなく、③賃金支払能力がない状態になった」という場合に、労働基準監督署長が倒産の認定を行います(賃金の支払いの確保等に関する法律施行規則8条)。

 

なお、労働基準監督署長に対する倒産の認定は、退職した労働者が行う必要があります。

労働基準監督署長に対する倒産の認定申請は

①電子申請による方法
②労働基準監督署の窓口に申請書を提出する方法
③労働基準監督署に申請書を郵送する方法

の3とおりがあり、具体的な申請方法や申請書のひな形は、「電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ」のサイトでダウンロードすることが可能です。

事実上の倒産認定申請|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

② 事業主が「労働者災害補償保険の適用事業の事業主であって、1年以上にわたって事業活動を行ってきていること」

未払い賃金の立替払い制度を利用するためには、賃金や退職金が未払いとなっている事業主が

「労働者災害補償保険の適用事業の事業主であって、1年以上にわたって事業活動を行ってきていること」

が必要です(賃金の支払の確保等に関する法律第7条、同法律施行規則7条)。

1人でも労働者を雇用した事業主は、労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業の事業主となり、労災保険への加入が法律で義務付けられていますので(公務員を除く)、事業主が法律違反を犯していない限り、通常は全ての事業主この要件に当てはまることになります。

なお、事業主が労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業の事業主であるか否かは、厚生労働省のサイトで検索・確認することが可能です。

労働保険適用事業場検索|厚生労働省

③ 「事業主」は法人・個人を問わない

前述したように、未払い賃金の立替払制度を利用することができるためには、働いている事業所の「事業主」が倒産し、労災保険の適用を受けている必要がありましたが、この「事業主」は「法人」だけでなく「個人」であっても問題ありません。

たとえば、大企業で正社員として働いている場合だけでなく、親方が一人で営んでいる造園屋でアルバイトしている場合や、親戚が経営している喫茶店にパートとして働いている場合なども、その造園屋や喫茶店が潰れてしまい給料が未払いになっている場合には、未払い賃金の立替払制度を利用することが可能です。

④ 破産等の申立日または労働基準監督署長の認定日の6か月前の日から2年以内に退職したこと

前述したように、未払い賃金の立替払制度を受けるためには、事業主が「倒産」したことが必要です。

この「倒産」には「法律上の倒産」と「事実上の倒産」がありましたが、未払い賃金の立替払制度を利用する労働者は、その倒産した事業所をその倒産の6か月前から倒産の後2年以内に退職していることが必要です。

そして、この退職期間の基準となる日は

法律上の倒産の場合は・・・破産、再生、更生、特別清算の各申立日

事実上の倒産の場合は・・・労働基準監督署長に対する倒産の事実についての認定申請日

となっています。

例えば、倒産したA社が裁判所に破産の申立を行ったのが2013年の6月1日であったとすると、未払い賃金の立替払制度を利用できるのは、A社を2012年12月1日から2015年5月31日までに退職した人に限られることになります。

これは、未払い賃金の立替制度は「倒産」を理由に賃金や退職金の未払いが発生した場合にその労働者を保護することが目的であり、「倒産以外」の理由で発生した賃金などの未払いについては保護の対象外としていることから、「倒産」の原因となった退職者を「倒産した日の6か月前から倒産した日の2年後まで」の期間に限定する趣旨であると考えられます。

立替払いがなされる金額

未払い賃金の立替払制度を申請した場合に受け取れる立替払い額は、未払いとなっている賃金または退職金の80%となっています。

ただし、未払い賃金の総額が下の表に挙げた一定の限度額を超える場合は、その限度額の80%の支給となります。

退職日における年齢未払賃金総額の限度額実際に受け取れる未払賃金額
45歳以上370万円296万円
30台以上45歳未満220万円176万円
30歳未満110万円88万円

未払い賃金の立替払制度の申請方法

未払い賃金の立替払いの申請については独立行政法人労働者健康福祉機構のサイトで確認することができます。

また、立替払いの申請書(請求書)なども同サイトからダウンロードすることが可能です。

未払賃金の立替払事業|独立行政法人労働者健康福祉機構

外国人であっても未払い賃金の立替払制度の利用ができる

未払い賃金の立替払制度は、倒産した事業主に雇われている「労働者」を対象とする制度であり、その「労働者」には日本人だけでなく外国人も含まれます。

そのため、留学生のアルバイトや外国人実習生・研修生などであっても、雇われている事業主が法律上または事実上の倒産を行い、賃金の未払いが発生している場合には、未払い賃金の立替払い制度の利用が可能です。

なお、未払い賃金の立替払制度の外国人向けパンフレットについても独立行政法人労働者健康福祉機構のサイトからダウンロードすることが可能です。

外国人向け各種パンフレットのダウンロード|独立行政法人労働者健康福祉機構