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退職にともなう帰郷に必要な旅費が会社から支給されない場合

実際の賃金・休日等が面接や労働契約書の内容と異なる場合』のページでも解説していますが、実際に受け取っている賃金や休日などの労働条件が面接や労働契約書(雇用契約書)で明示された労働条件と異なる場合には、その労働者は契約期間の有無にかかわらず直ちに退職することが可能です(労働基準法第15条2項)。

そしてこの場合、労働者の退職の原因は雇い主である使用者側にありますから、退職する労働者がその会社に就職するために引っ越しをしていて退職に伴って実家に帰るなど帰郷する必要が生じた場合には、その帰郷するのが退職日の14日以内であればその帰郷の為の旅費を会社に対して請求することが可能となります(労働基準法第15条3項)。

【労働基準法第15条】
第1項~2項(省略)
第3項 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない

もっとも、面接の際に説明した内容や労働契約書に記載された労働条件よりも低い労働条件の賃金や休日等しか与えないような使用者はブラックな体質をもった企業である可能性が高いので、帰郷の為の旅費を請求したとしても素直にその支払いに応じることはないのではないかと思われます。

そこで今回は、労働者が労働基準法第15条2項の規定に基づいて退職し、同条3項に基づいて帰郷の為の旅費を請求しても支払われない場合の対処法について考えてみることにいたしましょう。

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労働基準法第15条3項の帰郷の為の旅費が支払われない場合の対処法

(1)申入書を送付する

実際の労働条件が面接時の説明や労働契約書(雇用契約書)に記載された労働条件や待遇と異なることを理由として退職した場合に労働基準法第15条3項に基づく帰郷のための旅費の支払いがなされない場合には、帰郷の為の旅費の支払いを求める申入書を作成し使用者に送付してみるのも一つの方法として有効と考えられます。

口頭で「〇〇しろ」と要求して埒が明かない場合であっても、文書(書面)という形で改めて正式に請求すれば、雇い主側としても「なんか面倒なことになりそう」と考えて労働条件を契約のとおりに修正することもあり得ますし、内容証明郵便で送付すれば「裁判を起こされるんじゃないだろうか」というプレッシャーを与えることが出来ますので、改めて申入書(通知書)という形の文書で通知することもあながち無駄ではないと思われます。

なお、この場合の申入書の記載例はこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 契約書と異なる待遇で退職する際の帰郷にかかる旅費の請求書

(2)労働基準監督署に違法行為の是正申告を行う

使用者(会社※個人事業主も含む)が労働基準法に違反している場合には、労働者は労働基準監督署に対して違法行為の是正申告を行うことが可能で(労働基準法第104条第1項)、その場合、労働基準監督署は必要に応じて臨検や調査を行うことになるのが通常です(労働基準法101条ないし104条の2)。

【労働基準法第104条第1項】
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

この点、実際の労働条件が面接時の説明や労働契約書(雇用契約書)に記載された労働条件・待遇と異なることを理由として退職した労働者が入社前に居住していた住所に帰郷する必要が生じ退職から2週間以内に帰郷する場合は使用者がその旅費を負担することが労働基準法の第15条3項で義務付けられていますから、使用者がその旅費を支払わない場合にはその使用者は労働基準法違反となりますので、労働基準監督署に対する違法行為の是正申告を行うことも可能となります。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する違法行為の是正申告書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 契約書と異なる待遇で退職する際の旅費に関する労基署の申告書

ちなみに、この労働基準法第15条3項に違反する使用者は同法120条によって30万円以下の罰金に処せられることになりますので、労働基準監督署に違法行為の是正申告を行うことによって労働基準監督署が検察に送検し刑が確定した場合にはその使用者は犯罪を犯した企業ということになります。

(3)労働局に紛争解決の援助の申立を行う

全国に設置されている労働局では、労働者と事業主の間に発生した紛争を解決するための”助言”や”指導”、”あっせん(裁判所の調停のような手続)”を行うことが可能です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第1項)。

【個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第1項】
都道府県労働局長は(省略)個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該個別労働関係紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができる。

この点、実際の賃金や休日などの労働条件が面接や労働契約書(雇用契約書)で説明された労働条件と異なることを理由として退職しその退職に際して帰郷にかかる旅費の支払いがなされない場合についても、帰郷の為の旅費をもらえない労働者とその旅費の負担を拒絶する事業主との間で”紛争”が発生しているということになりますから、労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能となります。

労働局に紛争解決援助の申立を行えば、労働局から必要な助言や指導がなされたり、あっせんの手続きを利用する場合は紛争解決に向けたあっせん案が提示されることになりますので、事業主側が労働局の指導等に従うようであれば、会社側がそれまでの態度を改めて帰郷の為の旅費を支払うようになる可能性もあるでしょう。

なお、この場合に労働局に提出する紛争解決援助申立書の記載例については『契約書と異なる待遇で退職する際の旅費に関する労働局の申立書』のページに掲載していますので参考にしてください。