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仮眠や待機時間には実労働時間として賃金が支払われるか?

夜警の警備員などは、警備時間中に仮眠時間が設けられている場合があります。

たとえば、勤務時間が午後5時から翌朝の7時までとなっている場合であっても、そのうち6時間が仮眠時間として設けられているといった感じです。

また、工場や現場での作業などの場合には、作業の都合上、仕事中に待機時間が設けられ、その時間は何の仕事もしないでただ事務所などで待機するといったことも行われている場合があります。

ところで、このような仮眠時間や待機時間は、労働時間に含まれるのでしょうか?

会社によっては、このような仮眠時間や待機時間を労働時間として認めず、その時間にあたる賃金を支払わない場合もありますが、仕事上発生する仮眠時間や待機時間であるため賃金が支払われないのは理不尽な取扱いのようにも思えます。

そこで今回は、仮眠時間や待機時間は実労働時間に含まれるのか、という問題について考えてみることにいたしましょう。

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仮眠や待機時間であっても「会社の指揮命令下」に置かれている場合には「実労働時間」にあたる

仮眠機関や待機時間が実労働時間に含まれるかどうかは、作業の準備時間や作業着への着替えの時間と同様に、その時間が「使用者(会社)の指揮命令下に置かれているか」という点で判断されます。

作業の準備や掃除、着替えや準備体操の時間は労働時間となるか?

そのため、たとえ仮眠時間や待機時間をとることが認められている場合であっても、その仮眠時間や待機時間に外出することを禁じられていたり、緊急時における対応を義務付けられている場合には「会社の指揮命令下」にあると判断されるため、その時間は「実労働時間」に含まれることになります(大星ビル管理事件|最高裁平成14年2月28日)。

そして、仮眠時間や待機時間が「実労働時間」と判断されるのであれば、たとえ仮眠時間や待機時間とされる場合であっても、使用者(会社)はその時間について賃金(時間外手当)を支払わなければならないということになります。

(1)仮眠時間の場合

警備員などの仮眠時間については、その仮眠時間に緊急時の対応や電話への応答が義務付けられている場合には、たとえ仮眠時間に一度も呼び出しや電話連絡がなかったとしても「労働時間」になると考えられます。

このような仮眠中の警備員は実際には眠っていて仕事をしていないとしても、緊急時には対応することが義務付けられていますし、連絡が入れば対応することが必要とされているため、業務から完全に解放されているというわけではなく、あくまでも会社の管理下(指揮命令下)にあると言えますので、仮眠中の時間は実労働時間と判断されるのです。

そして、仮眠中の時間が実労働時間と判断されるということは、仮眠中の時間についても賃金が支払われなければならないということになります。

(2)待機時間について

待機時間についても警備員の仮眠時間と同様に考えて問題ありません。

作業の狭間にある待機時間(手待ち時間)についても、その時間待機しているということは待機時間終了後直ちに作業に取り掛かることが会社側から義務付けられているということがいえますので、仕事から完全に解放されているということにはなりませんから待機時間についても実労働時間に含まれるということになります。

たとえば、ショップの店員にお昼の休憩が1時間与えられている場合に、休憩時間にお客が入った場合は対応が義務付けられているような場合には、その休憩時間は”待機時間”であって休憩時間ではありませんので、たとえその1時間の休憩時間にお客が1人も来店しなかったとしても実労働時間としてその1時間にあたる賃金(法定時間を超える場合は時間外労働の割増賃金)を会社に請求できるということになります。

実労働時間に含まれる限り、たとえ待機の時間で実際に働いていない時間があったとしてもその時間全てにおいて賃金が支払われなければならないということになります。

仮眠や待機時間に賃金(時間外手当)が支払われない場合の対処法

前述したように、仮眠や待機時間とされる時間であっても、その時間が会社の指揮命令下に置かれているということができ、何らかの対応が義務付けられている場合には、労働時間として賃金(時間外労働の割増賃金)の支払いを請求することができます。

しかし、全ての会社が法律を遵守しているとは限りませんので、仮眠や待機時間について賃金(時間外労働の割増賃金)を支払わない会社については何らかの対処が必要となります。

(1)仮眠や待機時間の賃金(時間外労働の割増賃金)の支払いを求める請求書を郵送する

上司などに仮眠や待機時間が労働時間に含まれることを説明しても賃金(残業代※時間外労働の割増賃金)を支払わない場合には仮眠や待機時間の賃金(時間外労働の割増賃金)の支払いを求める請求書を郵送してみるのも一つの方法として有効です。

特に、請求書を内容証明郵便などで送付すれば「こいつ、ほっといたら弁護士なんかに相談して厄介なことになるかもしれないな」と考えてあっさり支払うかもしれませんし、内容証明郵便でコピーをとっておけば後で裁判になった際に「仮眠(待機)時間が労働時間に該当することを説明してもなお支払ってくれなかった」ということを証明する証拠にすることもできますので書面で郵送することは大きな意義があります。

なお、この場合に会社に送付する請求書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 仮眠や待機時間に関する時間外手当の支払請求書【ひな形・書式】

(2)労働基準監督署に違法行為の是正申告を行う

使用者(会社)が労働基準法に違反する行為を行っている場合には、労働基準監督署に違法行為の是正申告を行うことで監督署の会社に対する臨検や調査を促すことができます。

この点、仮眠や待機時間が労働時間に含まれるにもかかわらず、会社が残業代(時間外手当)を支払わないという場合も、時間外労働をさせた場合は割増賃金を支払わなければならないと規定した労働基準法第37条1項に違反することになりますので、労働基準監督署に違法行為の是正申告を行うことが可能です。

違法行為の是正申告によって労働基準監督署から臨検や調査が行われ、会社の違法行為が明らかになれば会社が仮眠や待機時間について残業代を支払わないということを改善するかもしれませんので、監督署への違法行為の是正申告によって間接的に会社から仮眠や待機時間の時間外手当を支払ってもらうことが期待できるようになる可能性があります。

もちろん、違法行為を”申告”するだけですので手数料などの費用は全く発生しません。

もっとも、労働基準監督署は基本的に労働基準法に違反しているかいないかを調べる機関であって、監督署が労働者の代わりに未払いの賃金(この場合は仮眠や待機時間の時間外労働に関する割増賃金)を請求してくれるわけではありませんので、監督署の臨検や調査によっても会社が支払わない場合には、後述する裁判などを提起して請求していく必要があります。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する違法行為の是正申告書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 仮眠・待機時間の賃金不払の労働基準監督署の申告書の記載例

(3)労働局に紛争解決援助の申し立てを行う

各都道府県に設置された労働局では、労働者と事業主の間に紛争が発生した場合に、当事者の一方からの申立があればその紛争解決に向けた”助言”や”指導”、裁判所における調停に似た手続きである”あっせん”の手続きを行うことが可能です。

この点、仮眠や待機時間が労働時間に含まれるにもかかわらず会社が残業代(時間外手当)を支払わないというトラブルについても、労働者と会社(事業主)の間に紛争が発生しているということがいえますので、労働局に対して紛争解決援助の申立や”あっせん”の申立をすることができます。

会社側が労働局の援助の申立やあっせんに応じるような場合には、第三者を交えた話し合いが可能となりますので、まともな会社であれば違法性を認識して仮眠や待機時間の賃金を支払うようになるでしょう。

なお、この労働局の援助申立やあっせんの手続きも無料となっていますので経済的に余裕がないという人も安心して利用することができると思います。

もっとも、労働局の紛争解決援助における助言や指導、あっせんで示される解決案は裁判と異なり強制力がありませんので、会社が労働局の示す指導や解決案に従わない場合は、後述する裁判などを提起して請求していく必要があります。

なお、この場合に労働局に提出する紛争解決援助申立書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 仮眠や待機時間の賃金不払いに関する労働局の援助申告書の記載例

(4)ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する

ADRとは、弁護士などの法律専門家が紛争の当事者の間に立って中立的立場で話し合いを促す裁判所の調停のような手続きのことをいい、裁判所以外で紛争を解決することを目的としていることから裁判外紛争処理手続とも呼ばれています。

当事者同士での話し合いで解決しないような問題でも、法律の専門家が間に入ることによって要点の絞られた話し合いが可能となることや、専門家が間に入ることで違法な解決策が提示されることがないといったメリットがあります。

また、裁判所に行くのに抵抗があるような人でも利用しやすいといった精神的なメリットや、裁判所の調停よりも少ない費用(調停役になる弁護士などに支払うADR費用、通常は数千円~数万円)で利用できるといった経済的なメリットもあります。

会社が仮眠や待機時間について時間外手当を支払わないという問題もADRを利用して話し合いをもつことで会社側が姿勢を改善し、残業代を支払うようになるかもしれませんので、ADRも一つの解決方法としては適当かもしれません。

なお、ADRの利用方法は主催する最寄りの各弁護士会などに問い合わせれば詳しく教えてくれると思いますので、興味がある人は電話で聞いてみると良いでしょう。

(5)弁護士などの法律専門家に相談する

労働基準監督署への違法申告や労働局での話し合いなどでも解決しない場合には、弁護士などの法律専門家に相談し、通常の民事訴訟や労働審判、裁判所における調停などの手続きを利用して会社に仮眠や待機の時間で発生した時間外手当(割増賃金)を請求していくほかないでしょう。

弁護士などに依頼するとそれなりの報酬を支払う必要がありますが、その報酬以上に時間外手当が発生している場合には裁判などをするメリットもあるでしょう。

なお、裁判によって時間外手当を請求する場合には不払いとなっている残業代のほかに”付加金”という不払いになっている金額と同額の制裁金も請求することも可能です。

そのため、裁判で時間外手当を請求する場合には、示談交渉などで請求する場合の2倍の金額を請求できることになりますので、勝訴する可能性が高い場合には弁護士などの専門家に裁判を行ってもらうと会社が付加金を支払うことを嫌って早期に和解に応じてくることも期待できるでしょう。