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自己都合なのに会社都合の退職にしてもらうことは可能か?

自分の意思で会社を退職する場合には退職届(退職願)を会社に提出して退職の意思表示を行うことになりますが、これは一般に「自己都合退職」と呼ばれます。

一方、不況によるリストラや懲戒処分など何らかの事情が原因で会社から強制的に退職を命じられる場合には一般に「解雇(会社都合の退職)」ということになります。

この「自己都合による退職」と「解雇(会社都合による退職)」は、どちらも会社を退職することには違いはありませんが、そのいずれかによってその後の影響に若干の違いが生じます。

たとえば失業手当(失業給付)の受給に関する場面です。

失業手当(失業給付)を受給する場合には、解雇の場合を含め「会社都合による退職」の場合には失業手当(失業給付)の受給申請を行った後、7日間の待機期間が経過後すぐに失業手当(失業給付)が支払われることになるのが一般的ですが(※ただし、労働者の責めに帰すべき重大な理由によって解雇された場合(重責解雇場合)を除きます)、「自己都合による退職」の場合には申請を行って7日間の待機期間が経過した後さらに3か月間の給付制限期間が経過した後でなければ失業手当(失業給付)は支給されないことになっています。

(※この点の詳細はハローワークの『ハローワークインターネットサービス – 失業された方からのご質問(失業後の生活に関する情報)』のページで詳細に解説されています)

また、実際に失業手当(失業給付)を受け取る場合の受給期間も、一般の離職者と倒産や解雇等による離職者の間ではその期間に大きな開きが設けられています(例えば被保険者期間が10年未満の受給者の場合、一般の離職者では90日しか受給することができませんが、解雇などの離職者の場合5年以上被保険者期間があれば120日間受給することが出来ます)。

このように、失業手当(失業給付)の給付を受けようとする場合には、「自己都合による退職」の場合の方が「会社都合による退職」の場合よりも不利になる場合があるのです。

では、このような不利益を避けるために、本当は「自己都合」で退職するにもかかわらず、会社に依頼して「会社都合」による退職にしてもらうことは可能でしょうか?

本来の退職理由が「自己都合」であっても、会社が作成する離職票の退職理由の項目に「解雇」や「会社都合」と記載してもらえば「自己都合による退職」の場合よりも3か月早く失業手当(失業給付)を受給することが出来ますし、雇用保険の被保険者となっていた期間によってはその失業手当(失業給付)を受給できる期間も長くなりますから、「自己都合」による退職の場合よりも「会社都合」による退職の方がより多くの失業手当(失業給付)を受給することが出来るようになるため問題となります。

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「自己都合退職」を「会社都合退職」にしてもらうことが出来ないわけではないが…

前述したように、失業手当(失業給付)を受給する場面においては「自己都合による退職」の方が「会社都合による退職」の場合よりも不利に働きますから、失業手当(失業給付)を受給する場面に限って言えば「会社都合による退職」の方が有利と言えます。

そのため、実際は「自己都合」で退職する場合であっても、退職する際に会社にお願いして離職票に退職理由を「解雇」などと記載してもららうことで「会社都合による退職」にしてもらうことはできないかが問題となりますが、会社がそれを承諾するのであればできないこともないでしょう。

しかし、「自己都合」で退職するにもかかわらず「会社都合の退職」と事実とは異なる退職理由を離職票に記載してもらう行為は、次のような法的問題を生じさせるためしない方が安全ですし、すべきではありません。

失業手当(失業給付)の不正受給として問題になる可能性

仮に、本来は「自己都合」で退職したにもかかわらず、会社に依頼して「解雇」などの「会社都合による退職」と離職票に記載してもらい、その真実とは異なる離職理由の記載された離職票を提出して失業手当(失業給付)の受給申請を行い給付を受けた場合には、事実とは異なる申告に基づいて失業手当(失業給付)を受給したということになります。

これは不正行為によって失業手当(失業給付)を受給したということに他なりませんから、失業手当の不正受給として問題となる可能性があります。

具体的には、失業手当(失業給付)の不正受給が行われた場合には、それ以降の失業手当(失業給付)の支給が停止されるとともに、それまで受給した失業手当(失業給付)相当額に加えて、その受給した失業手当(失業給付)の2倍に相当する金額の返還が命じられる場合があります(※結果的に受給した金額の3倍の金額の返還が命じられることになります)。

(※なお、失業手当の不正受給に関してはハローワークの『ハローワークインターネットサービス – 不正受給の典型例』のページで詳細に解説されています。)

このように、実際は「自己都合」で退職したにもかかわらず会社に依頼して「解雇」などの「会社都合による退職」と離職票に記載してもらって失業手当(失業給付)を受給する行為は不正受給と判断される可能性があるためすべきではないといえるでしょう。

詐欺罪として問題となる可能性

また、実際には「自己都合」で退職しているにもかかわらず、会社に依頼して「解雇」などの「会社都合による退職」と離職票に記載してもらったうえで失業手当(失業給付)の需給を申請する行為は、刑法の詐欺罪(刑法第246条1項)に該当し起訴される可能性もあるため問題です。

【刑法第246条1項】
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

前述したように、失業手当(失業給付)の受給については、雇用保険の受給期間によってその受給できる期間に違いが生じますから、「自己都合」による退職の場合よりも「会社都合」による退職の場合の方が、その雇用保険の被保険者期間の長さによっては実際に受給できる失業手当(失業給付)の総額が多くなる場合があります。

そう考えると、仮に実際は「自己都合」で退職したにもかかわらず、失業手当(失業給付)を多く受け取ることが目的で会社に「解雇」など「会社都合」による退職であったと事実とは異なる離職票を作成してもらい、その事実とは異なる虚偽の離職票をハローワークに提出して失業手当(失業給付)の需給を申請する行為は、事実とは異なる離職票を用いることによりハローワークを欺いて「失業手当」という財物を交付させるということになりますから、刑法の詐欺罪を構成する余地があります。

したがって、本来は「自己都合」であるにもかかわらず会社に依頼して離職票に「会社都合による退職」と記載する行為は詐欺罪に該当し処罰されることにつながりますので、すべきではないということになるでしょう。

このように、事実とは異なる退職理由を離職票に記載してもらう行為は、たとえ会社がそれを承諾した場合であっても様々な法律上の問題を生じさせることになりますのですべきではありません。

仮にそのような行為をしてしまった場合には、犯罪行為として処罰される可能性のあることも肝に命じておくべきではないかと思います。