勤務先の会社から解雇された場合には、会社から解雇予告手当が支払われるのが通常です。
これは、労働者が突然会社から解雇された場合、生活費に不足を来してしまい生活が困難になることが想定されるからです。
会社側の一方的な解雇が法律上当然に認められるわけではありませんが、仮に会社が行う解雇が法的に適正なものであったとしても、労働者の保護のため解雇予告手当を支払わなければならないと定められているのです。
もっとも、解雇される側の労働者からしてみれば、人生のうちそうそう何度も解雇されることもないでしょうから、実際に解雇された場合に、いつ解雇予告手当が支払われるか、金額はいくら支払われるのか、などといった点がよくわからないことも多いと思われます。
そこで今回は、会社が労働者を解雇した場合に支払われる解雇予告手当は、いつ支払われるのか、また、いくら(何円)支払われるのか、などの点について考えてみることにいたしましょう。
解雇予告とは?
解雇予告手当の時期や金額を考える前提として、「解雇予告」の意味を理解しておかなければなりませんので、念のため解雇予告の意味を説明しておきます。
労働基準法という法律では、使用者(会社)が労働者(従業員)を解雇しよとする場合は少なくとも解雇する日の30日前に解雇の予告をしなければならないと規定されていますので、この予告が「解雇予告」となります(労働基準法第20条)。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。(後段および但書は省略)
例えば、会社が従業員Aを6月末で解雇しようと考えている場合には、5月31日までにAに対して「6月末で解雇しますよ」と伝えなければならないということになります。
なお、解雇の予告は「確定的な解雇の意思を予告したもの」でなければならず、具体的に「〇月〇日をもって解雇する」というような明確な表現がない限り解雇の予告をしたとは認められないことになります。
解雇予告手当とは?
従業員を解雇する場合の「解雇予告」は使用者(会社)側の義務ですから、もし使用者(会社)側が労働者を解雇する30日前にこの解雇予告をしない場合には、使用者(会社)は解雇する労働者(従業員)に対して30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法第20条)。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。(但書は省略)
このときに使用者(会社)が支払う30日分以上の平均賃金のことを「解雇予告手当」といいます。
もっとも、解雇予告の日数は、平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができますので、会社側が支払う解雇予告手当の金額によっては解雇しようとしている日を短縮したり、場合によっては30日分の平均賃金を支払うことにより即座に解雇することができることになっています(労働基準法第20条項)。
前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。
例えば、会社が従業員Aを6月末で解雇しようと考えている場合には、5月31日までにAに対して「6月末で解雇しますよ」と伝えなければなりませんが、10日分の平均賃金を支払えば6月10日に解雇予告を行って6月30日付で解雇することもできますし、30日分の平均賃金を支払えば6月30日に解雇の通告を行うことにより6月30日付で即時に解雇することも可能となります。
解雇予告手当は給料とは全く別のもの
なお、もちろんこの解雇予告手当は給料(給与)とは全く別のものとなりますので、使用者(会社)が労働者(従業員)を解雇する場合は給料(給与)とは別に解雇予告手当を支払わなければなりません。
たとえば、会社が従業員Aを6月末で解雇しようと考えている場合には、10日分の平均賃金を支払うことにより6月10日に解雇予告を行って6月30日付で解雇することも可能ですが、6月30日まではその会社の従業員として在籍していることになりますので当然、6月分の給料も全額支払わなければなりません。
解雇予告手当は「いつ」支払われるか?
解雇予告手当は「解雇の効力が発生する日」までに支払われなければなりませんので、使用者(会社)から”実際に解雇される日”に解雇予告手当が支払われることになります。
”実際に解雇される日”であって、”解雇予告を受けた日”ではありませんので間違えないようにしてください。
例えば、会社が従業員Aを6月末で解雇しようと考えている場合に10日分の平均賃金を支払うことにより6月10日に解雇予告を行って6月30日付で解雇する場合は「解雇の効力が発生する日」は”6月30日”となりますから、会社は解雇予告手当を6月30日までに支払わなければならないことになります。
また、この場合、会社が30日分の平均賃金を支払うことにより6月30日に解雇の通告を行って6月30日付で即座に解雇する場合も「解雇の効力が発生する日」は”6月30日”となりますから、6月30日に従業員Aに解雇の通告をすると同時に30日分の解雇予告手当を支払わなければならないことになります。
解雇予告手当は「いくら」支払われるか?
解雇予告手当として支払われるのは、解雇予告が短縮される日数分の”平均賃金”です。
解雇される従業員(労働者)の”基本給”や”月給”、”雇用契約書に記載された日給”などではありませんので注意してください。
解雇予告手当として支払わなければならないこの”平均賃金”は、解雇の事由が発生した日(解雇の通告がなされた日)の前3か月間に実際に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額となります。
そのため、この場合に仮に6月10日に解雇予告を行うとすると10日分の解雇予告手当をしは支払わなければなりませんから、その場合の解雇予告手当は90,210円(9,021円×10日)となります。たとえば、会社が従業員Aを6月末で解雇しようと考えて6月10日に解雇予告しようとしている場合には、5月分・4月分・3月分の給料の総額を3月4月5月の総日数で除した金額が解雇予告手当となりますから、5月・4月・3月分の給料がそれぞれ30万円、25万円、28万円だったとすると「(30万円+25万円+28万円)÷(31日+30日+31日)」という計算式から「83万円÷92日=9022円」となり1日分の平均賃金は9,021円となります。
また、仮に解雇予告をしないで6月30日に即座に解雇する場合には、270,630円(9,021円×30日)の解雇予告手当を支払わなければならないということになります。
なお、この平均賃金の算出の基礎となる過去3か月間の賃金には、残業代や交通費などは含まれることになりますが、ボーナスは含まれませんのでご注意ください。
たとえば、前述の例で日給10,000円のアルバイトをしている人が過去3か月間に20日働いていたとすると「20万円÷92日=2173円」となり1日分の平均賃金は2,173円と算出されますが、平均賃金の下限となる「賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の60%(20万円÷20日×0.6)」の計算式から算出される6,000円を下回るため、この場合の平均賃金は6,000円となります。
そのため、この場合仮に6月10日に解雇予告を行う場合には6万円(6,000円×10日)が解雇予告手当となり、また、仮に解雇予告をしないで6月30日に即座に解雇する場合には18万円(6,000円×30日)が市は割らなければならない解雇予告手当となります。
解雇予告を支払ったからといって、当然に解雇が有効となるのではない
解雇予告手当を支払えば自由に従業員を解雇できると勘違いしている経営者や会社がたまにありますが、それは明らかに間違いです。
▶ 「解雇予告手当を支払えば自由に解雇できる」は間違いです!
使用者(会社)が労働者(従業員)を解雇する場合には正当な事由がなければなりませんから、たとえ解雇予告手当を支払ったとしても解雇すること自体に客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であると認められる場合でなければその解雇は法律的に無効と判断されます(労働契約法16条)。
▶ 解雇予告(手当)なしに突然解雇された場合の対処法
解雇に納得できない場合の解雇予告手当の処遇
前述したように解雇予告手当の支払いの有無と解雇自体の法律的な有効性は全く関係がりませんから、解雇予告手当を受け取ったからといってその解雇が法律的に有効となるものではありません。
しかし、解雇に納得がいかないにもかかわらず解雇予告手当を受け取ってしまうと、会社側から「解雇に納得がいかないのになんで解雇予告手当受け取ったんだよ?解雇予告手当を受け取ったのは解雇を認めたからだろ?」などと不要なツッコミを受けてしまう可能性があります。
そのためもし仮に会社から解雇予告手当が支払われた場合であっても、その解雇に納得がいかないような場合は、解雇予告手当を受け取らないようにした方がよいと思われます。
なお、銀行振込などで強制的に解雇予告手当が送金されてきた場合には、その送金されてきた解雇予告手当を会社に返金するか、法務局に供託するなどしておくようにしておいた方が無難です。