契約社員とアルバイト・パートの違いを皆さんはキチンと説明できるでしょうか?
企業の求人票を見ていると、募集人員のところに「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」などさまざまな雇用形態が記載されているのが一般的ですが、いったいどのような労働者が「正社員」となるのか、「契約社員」や「アルバイト」「パート」というものは具体的にどのような雇用形態をいうのか、わからない人も多いのではないかと思います。
そこで今回は、契約社員と正社員、アルバイト・パートはどう違うのか、という点について考えてみることにいたしましょう。
契約社員・アルバイト・パート・正社員で法律的な違いはない
結論から言うと、「契約社員」「アルバイト」「パート」「正社員」は法律的に全く異なりません。
使用者(会社)と労働者の関係を規定する”労働基準法”という法律にも「契約社員」「アルバイト」「パート」「正社員」を定義する条文は存在していませんから、法律上では全て「労働者」として扱われるにすぎません。
「契約社員」や「アルバイト」「パート」「正社員」といった労働者の区別は、単に一般社会で便宜上使用されている労働者の区別にすぎず、法律上の分類ではないのです。
では、法律上労働者がどのように分類されるかというと、法律上”労働者”は、「期間の定めのない雇用契約(労働契約)」と「期間の定めのある雇用契約(労働契約)」の2つに分類されることになります(民法626条以下、労働基準法137条、労働契約法17条等)。
(※この他に「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(いわゆるパート労働法)」がありますが、”分類”の話とは異なるのでここでは議論しません)
例えば、正社員の場合は終身雇用として雇い入れられるのが通常ですので「期間の定めのない雇用契約(労働契約)」となるのが一般的ですが、たとえ「正社員」であっても契約期間が「○年○月~○年○月まで」などと一定の期間に限られているのであれば「期間の定めのある雇用契約(労働契約)」となり”終身雇用”ではないことになります。
また、「契約社員」の場合は契約期間が「○年○月~○年○月まで」などと一定の期間に限られているのが通常なので「期間の定めのある雇用契約(労働契約)」となりますが、これは”契約が更新されない限り退職しなければならない”ということを意味しますから、契約”社員”という文言であったとしても”非正規労働者”であることに変わりはなく、一般的なアルバイトと何ら変わらないことになるでしょう。
一方、たとえ「アルバイト」や「パート」であっても採用時に契約期間が定められていないのであれば「期間の定めのない雇用契約(労働契約)」となりますから、「アルバイト」や「パート」であっても終身雇用の正社員と同等の法律的な保護が受けられる場合があるということになるのです。
「厚生年金が付けば正社員・契約社員」や「厚生年金が付かないからアルバイト・パート」は間違い
多くの人が「厚生年金に加入しているから自分は正社員(または契約社員)だ」とか、「厚生年金に加入できないから自分はアルバイト(またはパート)だ」と思っているかもしれませんが、これは必ずしも正しくありません。
厚生年金保険は、1日または1週間の所定労働時間が一般の労働者(正社員)の4分の3以上であり、1か月の所定労働日数が一般の労働者(正社員)の4分の3以上ある場合には原則として厚生年金保険に加入することができますから、アルバイトやパートなど非正規労働者であってもこの条件をクリアする場合には厚生年金に加入することは可能です。
そのため、厚生年金保険に加入している労働者の場合であっても「アルバイト」や「パート」として雇い入れられている場合はありますし、厚生年金保険に加入していない場合であっても「正社員」や「契約社員」として雇い入れられていることはあることになります。
このように、厚生年金の加入は単に労働日数や労働時間、就労形態、勤務内容等によって決定されるにすぎず、「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」という労働者の呼称によって決められるものではありませんから、厚生年金の加入と労働者が「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」であるかという点は全く関係がありません。
会社が正社員や契約社員で募集していても、労働日数や労働時間によっては厚生年金の加入対象にならない場合もありますし、逆にアルバイトやパートで募集されていても勤務時間や勤務日数によっては厚生年金への加入ができる場合もありますので、「正社員」や「契約社員」「アルバイト」「パート」といった呼称に惑わされないようにする必要があります。
「雇用保険が付けば正社員・契約社員」「雇用保険が付かないからパート・アルバイト」は間違い
雇用保険は、会社を辞めるなどした場合に失業手当などの給付を受けるための保険で、加入対象者となる場合は雇用保険が毎月の給料から天引きされることになります。
この雇用保険についても前述の厚生年金の場合と同様に誤解している人が多くいますが、「雇用保険に加入しているから自分は正社員(または契約社員)だ」とか、「雇用保険に加入できないから自分はアルバイト(またはパート)だ」というのは明らかな誤りです。
雇用保険は「雇用される労働者」は全て加入対象となるのが原則で、1日の勤務時間が短いパートタイムの労働者であっても、1か月以上雇用され1週間の所定労働時間が20時間以上になる場合は全て雇用保険の加入対象となります。
そのため、仮にパートやアルバイトとして雇われている場合であっても、雇用保険に加入している場合はありますし、逆に正社員や契約社員として働いている場合であってもこの基準以下しか働いていない場合には雇用保険に加入していない場合もあるということになります。
このように、雇用保険の加入は単に労働日数や労働時間等によって決定されるにすぎず、「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」という労働者の呼称によって決められるものではありませんから、雇用保険に加入しているかという点と労働者が「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」であるかという点は全く関係がありませんので注意してください。
求人票に正社員や契約社員で募集がされていても、労働日数や労働時間によっては雇用保険の加入対象にならない場合もありますし、逆にアルバイトやパートで募集されていても勤務時間や勤務日数によっては雇用保険への加入ができる場合もありますので、「正社員」や「契約社員」「アルバイト」「パート」といった呼称に惑わされないように気を付ける必要があります。
「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」は、単に会社側が勝手に区別しているだけ
上記のように、厚生年金や雇用保険に加入しているか否かは「正社員」や「契約社員」「アルバイト」「パート」といった雇用形態とは全く関係ありませんから、「正社員」や「契約社員」「アルバイト」「パート」といった言葉は単なる労働者を選別するための”呼称”にすぎないことになります。
使用者(会社)と労働者(従業員)の関係は、法律上は「期間の定めのない雇用契約(労働契約)」と「期間の定めのある雇用契約(労働契約)」の2つに分類されるだけですから、重要なのは自分が会社と契約している雇用契約が「期間の定めのない雇用契約(労働契約)」なのか「期間の定めのある雇用契約(労働契約)」なのか、という点だけです。
仮に「正社員」として雇われていたとしても、契約期間が「○年○月~○年○月」というように限定されている場合は契約が更新されない限り退職しなければならないのが原則的な取り扱いとなりますから、終身雇用ではない「非正規従業員」と言えます。
逆に、「パート」や「アルバイト」で雇われていたとしても、契約期間が定められていない場合には”終身雇用”で働いているということになりますから「正規従業員」といえるでしょう。
(※ただし、例えば人員整理などの裁判では”正社員”で雇われた労働者と”アルバイト”で雇われた労働者が双方とも”期間の定めのない雇用契約”である場合には、”アルバイト”として雇い入れた労働者よりも”正社員”として雇い入れられた労働者の方がより保護される結論になる場合もあります)
また、「契約社員」は”社員”という文言が入っているので”正社員”に準じた地位があると勘違いしている人が多いようですが、”契約期間が定められている”という点では”非正規社員”と判断できますから、「契約期間の定められているパートやアルバイト」と何ら法的な地位は変わらないということができます。
このように、重要なのは自分が会社と契約している雇用契約が「期間の定めのない雇用契約(労働契約)」なのかあるいは「期間の定めのある雇用契約(労働契約)」なのかという点だけなのであって、決して「正社員」や「契約社員」「アルバイト」「パート」という”呼称”ではありません。
「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」の区別は法律上規定されているわけではなく、単に会社側が独断と偏見で自由に「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」と区別しているだけにすぎませんので、誤解のないようにしてください。
なぜ求人票や労働契約書に「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」と区別されているか?
では、なぜ企業が従業員を募集する際に「正社員」や「契約社員」「アルバイト」「パート」などと区別するかというと、それは「アルバイト」や「パート」と記載するよりも「契約社員」や「正社員」と記載して求人を行う方がより多くの応募者を募集できると考えているからです。
前述したように、法律上は「期間の定めのない雇用契約(労働契約)」と「期間の定めのある雇用契約(労働契約)」の2つに分類されるだけですから、「正社員」であっても契約期間の定めのある”非正規労働者”である場合もありますし、「アルバイト」や「パート」であっても期間の定めのない”正規労働者(終身雇用)”であることはあるわけです。
また、「正社員」や「契約社員」であっても雇用保険や厚生年金保険に加入できない場合はありますし、「アルバイト」や「パート」であっても雇用保険や厚生年金保険に加入できる場合もあるわけです。
しかし、多くの一般の人はそのような事実を知りませんから、「アルバイト」や「パート」の募集よりも「契約社員」や「正社員」として募集がかけられている求人の方が”正規労働者”の募集だと勘違いして応募することが多いのでしょう。
企業としては、応募してくる人が多ければ多いほど優秀な人材を選択できる確率が上がりますから、「期間の定めのある雇用契約」として非正規労働者を募集する場合でも「正社員」や「契約社員」などと求人票に記載して募集することが多いのです。
重ねて言いますが、「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」の区別は会社側が会社側の判断で勝手に区別しているだけであって、法律上「正社員」「契約社員」「アルバイト」「パート」の違いが明確に規定されているわけではありません。
「正社員」であっても契約期間のある”非正規労働者”である場合もありますし、「アルバイト」や「パート」であっても終身雇用であったり雇用保険や厚生年金の加入が認められる場合がある反面、「正社員」や「契約社員」であっても雇用保険や厚生年金保険の加入対象とならない場合も存在しています。
求人票や雇用契約書(労働契約書)に「正社員」や「契約社員」と記載していれば、”終身雇用”で”正規労働者”として雇われているというのは明らかな誤解ですので勘違いしないようにしてください。