勤務先の会社で就労する配属先が変更されることを「人事異動」といいますが、人事異動はその移動の内容によって「配転」、「出向」、「転籍」の3種類に分類されることになります。
この「配転」「出向」「転籍」はそれぞれ内容が異なりますので当然その法律上の効果も異なることになるのですが、「配転」「出向」「転籍」のそれぞれの法律上の違いを正確に理解していない人はあまり多くないようです。
もちろん、人事異動を経験することなく定年まで勤めあげる人も少なくないと思いますので、そのような人にとっては「配転」「出向」「転籍」の違いはそれほど重要ではないかもしれません。
しかし、もし仮に会社から人事異動の辞令を受けた場合に「配転」「出向」「転籍」の法律上の違いを理解しないままその人事異動を承諾してしまうと、想定外の法律上の不利益を受けてしまう結果となり、その後の人生を大きく狂わされてしまう可能性も否定できません。
そこで今回は、人事異動における「配転」「出向」「転籍」の違いについて簡単に説明しておくことにいたしましょう。
「配転」とは?
「配転」とは配置転換のことを云い、配置転換とは、労働者の就労する「配置」が「転換(変更)」されることをいいます。
この「配置」とは、実際に就労する「場所」を意味するのが通常ですが、実際に従事する「職務内容」も「配置」の一種となりますので、具体的な就労場所に変更がない場合であってもその従事する職務に変更が生じる場合には「配転」となります。
たとえば、実際に就労する「場所」が「転換(変更)」される「配転」としては、X社に就職したAさんが、P支店からQ支店に「転勤」される場合や、本社から工場に「転勤」させられる場合などが例として挙げられます。
一方、実際に従事する「職務内容」が「転換(変更)」される「配転」としては、たとえばX社の総務課に就職したAさんが総務課から経理課に「移動」する場合や、現場の作業員から営業職に「移動」になる場合が例として挙げられるでしょう。
このように、実際に就労している「場所」や実際に従事する「職務」に変更(転換)が生じる場合を「配転」や「配置転換」といいます。
この「配転(配置転換)」はあくまでも勤務している会社の内部での「移動」の場合に使われますので、実際に勤務する会社に変更が生じる「出向」や、従業員としての地位に変更が生じる「転籍」とその意味で異なることになります。
「出向」とは?
「出向」とは、現在勤務している会社に籍を残したまま、別の会社の指揮命令下に入ってその別の会社で就労することをいいます。
就労する「場所」に変更が生じたり場合によっては従事する「職務」に変更が生じる点では前述した「配転(配置転換)」と同じですが、その就労する「会社」に変更が生じる点が前述した「配転(配置転換)」と異なります。
例えばXという会社に就職したAさんが、Xという会社に籍を残したまま、Xとは全く異なるYという会社に勤務するような場合が「出向」の代表的な例として挙げられます。
(※一般的には親会社から子会社へといったグループ会社での出向が多いと思いますが、資本関係のない会社間で出向が行われることもあります)
この場合、AさんはあくまでもX社の社員のままですが、実際に働くのはY社であり、Yの会社の指揮命令下に入ってY社の社員として働くことになります。AさんはY社の従業員と一緒にY社の社員の指示に従って働くことになりますのが、あくまでもAさんはX社の社員のままですので、AさんとY社の間に雇用関係は生じません。
「出向」の場合にはあくまでも元の会社に社員としての地位が残されていることになりますので、給料も出向元の会社から支払われるのが一般的ですが、その出向先との契約によっては出向先の会社が給料を支払う場合も有ります(※例えば前述の例でいえばAさんはY社に勤務することになりますがX社の社員であることに変わりないので通常はX社から給料が支払われることが多いですが、X社とY社の間の契約によってはY社から給料が支払われる場合もあります)。
この「出向」はあくまでも出向元の会社に社員としての地位を残すことになりますので、定められた出向期間が経過すれば元の会社に戻されることになります。
社員としての地位が元の会社に残される点でこの「出向」の特徴ですので、社員としての地位が転籍先の会社に変更されることになる「転籍」とはその点が大きく異なることになります(※後述します)。
「転籍」とは?
「転籍」とは、元の会社との労働契約を終了させて、新たな別の会社との間で新たな労働契約を結び勤務する会社を変更することをいいます。
勤務する会社が変更される点では前述した「出向」と同じですが、元の会社との労働契約(雇用契約)を終了させて転籍先の会社と新たな労働契約(雇用契約)を結んでしまう点が大きく異なります。
たとえば、X社に勤務するAさんが、いったんX社を退職してY社に改めて入社しY社の従業員としてY社に勤務するような場合を「転籍」といいます。
この場合、AさんはX社を退職することになりますから、転籍後はAさんとX社に一切の雇用関係は残されないことになりますので、Aさんはそれ以降Y社の社員として勤務していくことになります。
この「転籍」の場合に注意すべき点は、元の会社との労働契約(雇用契約)が終了してしまう点です。
一言で言ってしまうと「転籍」は「解雇」や「自主退職」と同じですから、社員としての地位に変更の生じない「配転」や「出向」の場合とは根本的に異なります。「転籍」の場合にはその労働者としての地位に大きな変更が生じることになりますのでその可否は熟慮して決定する必要があります。
最後に
以上のように「配転」と「出向」と「転籍」はその法律上の性質が全く異なりますし、特に「配転」「出向」と「転籍」の間では全くその法律上の効果が大きく異なります。
「転籍」の場合には元の会社との雇用関係が終了させられてしまうことになりますから、実質的には「解雇」や「退職」と同じです。
一口に「人事異動」といっても「配転」と「出向」と「転籍」ではその法律上の効果が大きく異なることになりますので、もしも会社から「人事異動」を命じられた場合には、その人事異動が「配転」なのか、それとも「出向」なのか、あるいは「転籍」なのか、よく確認したうえで返答するようにしてください。
「配転」と「出向」と「転籍」の違いをよく理解しないまま人事異動に応じてしまうと思いがけない不測の損害を受けてしまうことになりかねませんので十分注意することが必要です。