SNSの全盛期は過ぎ去ったのかもしれませんが、ツイッターやフェイスブック、ブログのいずれかを利用している人も多いのではないでしょうか?
コミュニケーションツールとして有効なこれらSNSやブログですが、使い方を誤ると大変な事態を引き起こす可能性があることは注意すべきです。
コンビニのバイトが冷蔵庫に寝そべるなどの、いわゆる「バカッター」が代表例ですが、このような明らかに「バカ」と呼べるものだけではなく、例えば勤務先での愚痴をブログやツイッターに投稿したりする場合にも会社から何らかの処分(最悪の場合解雇とか)を受けてしまう可能性があります。
たとえば、パン工場で働いている従業員が「うちの工場では床に落ちたパンを拾い上げてラインに載せているよ」とブログやツイッターに投稿した場合を想定しましょう。
このような投稿は、会社の衛生面に問題があることを想像させますから、その投稿を読んだ一般消費者はその会社が製造するパンを購入することに抵抗を感じ、その投稿がネット上で拡散するにしたがって売り上げが減少し会社は甚大な損失を被る可能性があります。
そのため、もしもこのような投稿をした人間が自分であることが勤務先の会社に知れてしまった場合には、会社側から何らかの処分が下されることもあるでしょう。
しかし、「単なる悪口」として投稿したのではなく、会社の不正を暴くためにあえてこのような投稿をした場合には、たとえその投稿によって会社に損害が発生した場合であっても、会社はその投稿を行った従業員を処罰することはできなくなります。
なぜなら、その投稿が会社の内部不正を明らかにして一般消費者の被害を少なくするためのものである場合には、その投稿は「内部告発」として法律で保護されることになるからです。
内部告発者(内部通報者)を保護するために制定された「公益通報者保護法」には、内部告発を行った労働者が使用者(会社・雇い主)から解雇や降格、減給処分を受けた場合、その内部告発が一定の要件を満たす正当なものである場合には、その受けた処分が無効になると規定されています(公益通報者保護法3条、4条、5条)。
そのため、ネット上に投稿した会社の悪口が「内部告発」としての意味合いを持っている場合には、たとえその投稿により会社に損害が発生したとしても、会社から解雇などの懲戒処分を受けることはないといえます。
なぜブログやツイッターに投稿することが「内部告発」にあたるのか、いまいちピンとこない人も多いかもしれませんが、公益通報者保護法が規定する内部告発は
② 監督官庁に対する内部告発
③ マスコミや一般市民(消費者)に対する内部告発
の3種類があり、ブログやツイッターに投稿するということは一般市民が容易に知ることができる状態を作り出すことに他なりませんから、③の「マスコミや一般市民(消費者)に対する内部告発」の1つとして公益通報者保護法が規定する内部告発に該当することになります。
しかし、公益通報者保護法で保護されるのは、ブログやツイッターにした投稿が「内部告発(内部通報)」である場合に限られますので、その投稿が「単なる悪口(愚痴)」の場合には保護の対象とはなりません。
この点、ブログやツイッターへの投稿が「単なる悪口(愚痴)」なのか、それとも正当な理由がある「内部告発」なのかを判断する基準は公益通報者保護法に定められており、内部告発(内部通報)は「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的」ではないことが求められています(公益通報者保護法2条)。
たとえば、前述の例で、「パン工場で床に落ちていたパンを拾い上げてラインに載せていた」という投稿が、その落ちたパンを拾い上げたのが先輩社員でありその先輩社員をおとしめるために投稿したような場合には「不正の目的」や「他人に損害を加える目的」と判断されて内部告発として認められず、その投稿を理由とした解雇などの処分を無効とすることはできない結果その処分を受け入れざるを得なくなる可能性もあると言えます。
一方、工場で床に落ちたパンを拾い上げて出荷するという行為が常態化しており、その不正行為を再三に渡って報告しているにもかかわらず、会社がその不正を改善しないためやむを得ず「パン工場で床に落ちていたパンを拾い上げてラインに載せていた」という投稿をしたような場合には、不正な目的や他人に損害を与える目的はないと言えますから、正当な内部告発と判断され、仮にその投稿をしたことにより会社から解雇などの処分を受けたとしても、その処分を無効にすることができるでしょう。
もっとも、ブログやツイッターに会社の悪口を投稿する場合には、「内部告発をしよう」と思って投稿する人はまれで、一般的には単なる憂さ晴らし程度の気持ちで投稿することが多いはずです。
そして、仮にこのような人が公益通報者保護法で保護されようとする場合には、公益通報者保護法に規定された要件を満たすことを証拠に基づいて証明する必要がありますが、その証拠はブログやツイッターに投稿する前から保存しておかなければならないようなものであるため、単なる憂さ晴らし程度の気持ちで投稿している人が証拠を提出し、公益通報者保護法で保護されることを理由に会社から受けた解雇などの処分を無効にすることは極めて困難になると思われます。
以上のような理由から、気軽な気持ちでブログやツイッターに会社の悪口を投稿してしまうことは、その程度によりけりですが、その投稿によって会社が大きな損害を受けるような場合には解雇などの処分を受けることもありうるということになるでしょう。
もっとも、懲戒処分として解雇などの処分を行うにはそのような処分事由が就業規則などに規定されていなければなりませんし、解雇されるほどの投稿でないにもかかわらず会社がことさらに解雇という重い処分を下すというような事例もありますので、公益通報者保護法とは別の次元で解雇が無効と判断される余地もあり得ます。
そのため、もしブログやツイッターに投稿したことにより会社から解雇や減給、降格などの処分を受けた場合には、その処分が適当なものなのか、弁護士などの法律専門家に相談して対処法を考えることが、トラブル解決の近道になると言えるでしょう。
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