使用者(会社・雇い主)は、正当な理由がない限り従業員を解雇することはできません。
そして、この解雇するために必要な「正当な理由」は、「客観的に合理的」なものでなければならず、また「社会通念上相当」と認められるものでなければなりません。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効である。
ところで、会社によっては、「他の社員より能力が劣る」とか「業務成績が悪い」といった理由で従業員を解雇している事例が見受けられます。
このような「能力が劣る」または「成績が悪い」というような従業員は、会社側から見れば会社の売り上げに貢献しない労働力であり、給料に見合う働きをしていない労働力と言えますから、一見すると「能力が劣る」「成績が悪い」といった解雇理由も正当な理由として認められそうな気がします。
しかし、このような「能力が劣る」とか「勤務成績が悪い」といった解雇の理由は、使用者側の勝手な判断基準で理由づけされたものであり、このような理由による解雇を認めてしまえば、使用者側が労働者を自由に解雇することにもつながって行く懸念があります。
そこで今回は、「能力が劣る」とか「勤務成績が悪い」といった理由で労働者を解雇することができるのか?という問題について、またそのような解雇を受けた場合の対処法について考えてみることにいたしましょう。
「能力不足」を理由とする解雇は原則として認められない
結論から言うと、「能力が劣る」とか「勤務成績が悪い」といった「能力不足」を理由とした解雇は、基本的に認められません。
なぜなら、「能力が劣る」とか「勤務成績が悪い」といった評価は通常、他の社員と比較することで能力を計るものであり、他の社員と比較する場合は必ず評価が下回る社員が出てくることになるわけですから、結果的に会社は全ての社員を解雇することができるようになってしまうからです。
たとえば、従業員が10人しかいない会社で、「毎年、勤務成績がビリの社員を解雇する」という制度が認められてしまうと、他の社員との比較で勤務成績がビリになる社員は毎年必ず発生しますから、10年後には10人の社員のうち9人を解雇することが可能になってしまい、実質的に会社による無差別の解雇を認めてしまう結果となってしまうでしょう。
このように、「能力が劣る」とか「勤務成績が悪い」といった「能力不足」を理由とした解雇は、無効と判断されることになる可能性が高いと言えます。
就業規則に解雇事由として「労働能率が劣り、向上の見込みがないとき」との規定が定められている場合
会社によっては、就業規則に解雇する事由として「労働能率が劣り、向上の見込みがないとき」と規定されている場合があります。
このような就業規則の規定がある場合に、「能力不足」を理由とした解雇が認められるかが問題となりますが、このような規定がある場合であっても、単に労働能力が平均的な水準に達していないからといって解雇が有効となるものではありません。
なぜなら、仮にその社員の能力が平均的な水準に達していない場合であっても、体系的な教育や指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もありますし、配置転換などを行ってその労働者の能力に見合った職種に就かせることも可能ですから、そのような措置を取らずに単に「能力が平均的な水準に達していない」との理由で解雇することは、権利の濫用ということもできるからです。
そのため、たとえ就業規則に「労働能率が劣り、向上の見込みがないとき」という解雇事由が規定されている場合であっても、「平均的な水準に達していない」というだけでは不十分であり、「著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないとき」でなければ解雇することはできないと考えられています。
参考判例:セガ・エンタープライゼス解雇|裁判所判例検索
「能力不足」を理由に解雇された場合の対処法
前述したように、「能力が劣る」とか「勤務成績が悪い」といった「能力不足」を理由とする解雇は、会社側が事前に能力が向上するような社内教育を行ったり、能力に見合った職種に配置転換するなど、その従業員の解雇を回避する努力を行った後でなければ容易に認められるものではありません。
そのため、そのような能力向上のための教育や能力に見合う配置転換など解雇回避に関する処置がなされていない状況で解雇の通告を受けた場合には、会社に対してその解雇が権利の濫用であって無効であると主張することが可能です。
解雇を無効であると主張する方法としては、まず「解雇無効通知書」を会社に送付する方法が一般的です。
そして、この「解雇無効通知書」を送付しても会社が解雇を撤回しない場合は、弁護士など法律の専門家に相談し、裁判手続きで無効を主張したり解雇されなければ受け取っていたであろう賃金の請求するなど検討する必要があるでしょう。
なお、会社に対して「解雇無効通知書」送付する場合には、後日裁判になった場合に証拠として使用するため、内容証明郵便で送付する方が賢明です。
なお、会社が後になって解雇の理由を変更してくるのを防ぐため、解雇の通告を受けた時点で会社に対し「解雇の理由を記載した証明書」の交付を請求しておく必要もあるでしょう。
また、解雇された場合には、次の点にも注意することが必要です。