勤務先の会社から解雇された場合に、会社から支給される離職票を確認してみると「自己都合」の退職として処理されている場合があります。
このような事案では、会社が解雇した本人に内緒でこっそり「自己都合」と離職票に記載する場合と、本人を説得して退職届(退職願)を書かせたうえで形式的に自己都合退職にしたうえで「自己都合」と離職票に記載する場合の2つのケースが考えられますが、いずれにせよ「自己都合で退職した」という事実が書類上で残されてしまうわけですから、退職後の手続きで一定の不都合が発生することになります。
具体的には、離職票の退職理由が「会社都合」の場合には退職後すぐに雇用保険の失業手当(失業給付)を受給することができる反面、「自己都合」の場合はその申請を行ってから3か月経過した後(※正確にはハローワークに手続きをして7日経過した後の日から3か月経過後)でなければ失業手当(失業給付)を受給することが出来ないなどの不利益を受ける場合が労働者が不都合を受ける代表的なケースとして挙げられます。
このように、離職票の退職理由が「自己都合」か「会社都合(解雇)」かは、労働者側にとって非常に重要な効果を発生させることになりますので、本来は「解雇」されているにもかかわらず離職票に「自己都合」と事実と異なる記載をされた場合に具体的にどのように対処すれば良いかをあらかじめ知っておくことは非常に重要です。
また、それ以前の問題として「解雇」された場合にどのような行動をとれば離職票に「自己都合」と記載されないで済むかを知っておくことも無駄ではないと考えられます。
そこで今回は、会社から「解雇」された場合に離職票に「自己都合」で退職したと記載させないためにはどのようにすればよいか、また、本来は「解雇」されたにもかかわらず「自己都合」で退職したと離職票に記載された場合にはどのような対処をとればよいか、といった問題について考えてみることにいたしましょう。
会社が退職理由を「解雇」ではなく「自己都合」にしたがる理由
前述したように、本来は「解雇」による退職であるにもかかわらず「自己都合」と離職票に記載されるケースがあるわけですが、そもそもその理由はどこにあるのでしょうか?
事実と異なることをわざわざ離職票に記載する以上、会社側に何らかのメリットがあるからこそ「自己都合」とわざわざ記載しているはずです。
この点、一番考えられるのは、会社が行った「解雇」が法律的に「不当な解雇」であることを会社側が認識していて、その違法性を隠す目的で「自己都合」による退職としているケースです。
会社が労働者を解雇する場合、その解雇に客観的合理的な理由がありその理由が社会通念上相当と認められる場合でない限りその解雇は「無効」と判断されますので(労働契約法第16条)、ほどんどの解雇は無効と判断されるのが実情です。
仮に解雇が「無効」と判断された場合、会社はその解雇した労働者に解雇した日以降の賃金を支払わなければなりませんし、慰謝料も支払わなければならないことになりますから、多くの会社では労働者を解雇する場合、その解雇という事実を隠して「自己都合」で退職したことにし損害賠償請求されないように保身を図ろうとするのです。
このように、会社が退職理由を「解雇」ではなく「自己都合」にしたがる理由としては、そのほとんどが「解雇」とした場合に労働者から損害賠償請求されることを防ぐことにありますから、逆に考えると本来は「解雇」されたのに離職票には「自己都合」と記載されているような場合には、その「解雇」は違法であり無効と判断される可能性の極めて高いことがわかります。
本来は「解雇」であるにもかかわらず離職票に「自己都合による退職」と記載されないためにはどうすれば良いか?
前述したように、勤務先の会社から解雇されているにもかかわらず会社から支給される離職票を確認してみると「自己都合」の退職として処理されている場合がありますが、このような事案では、会社が解雇した本人に内緒でこっそり「自己都合」と離職票に記載する場合と、本人を説得して退職届(退職願)を書かせたうえで形式的に自己都合退職にしたうえで「自己都合」と離職票に記載する場合の2つのケースが考えられます。
(1)本人に内緒でこっそり離職票に「自己都合」と記載する場合
この点、会社が本人に内緒でこっそり「自己都合」と記載してしまうケースについては防ぎようがありませんので、そのようなケースの場合には後述するように事後的にハローワークで審査請求(異議の申し立て)などの手続きを利用して対処していくほかありません。
(2)本人を説得して退職届(退職願)を提出させたうえで離職票に「自己都合」と記載する場合
一方、会社が解雇を通告した本人を説得して退職届(退職願)を提出させたうえで形式的に自己都合退職にしたうえで「自己都合」と離職票に記載するケースについては、自分が会社側の説得に応じて退職届(退職願)を提出したことがそもそもの原因ですので、対処の仕方によってはそれを防ぐことも可能です。
たとえば、会社が「解雇されたら次の就職の際に雇ってもらえにくくなるから自己都合で退職する方がいいよ」と解雇する労働者を説得して退職届(退職願)の提出を迫る事例が多くみられますが、このような説得は拒否しても全くかまいません。
そもそも、次の就職の面接の際に前の職場で解雇されたことが影響するかというと必ずしもそうとは限りません。場合によっては「自己都合」で退職する方が「我慢できない奴」と判断されて面接で不利に働くこともあるでしょうから、退職の理由が「解雇」か「自己都合」かといった点はどちらか一方が面接で有利・不利といったことは言えないはずです。
それに、前述したように会社が退職理由を「解雇」ではなく「自己都合」にしたがる理由としては、そのほとんどが退職理由を「解雇」とした場合に労働者から損害賠償請求されることを防ぐことにあり、そもそもそのような場合の「解雇」は法律に違反する無効な解雇と判断される余地の高いものですから、そのような「違法で無効な解雇」を受けたからといって自分の労働者としての価値が下がるわけでもなく、次の面接の際にその違法性をきちんと説明すれば、面接してくれる相手の会社がまともな会社である限り正当に評価してくれるはずでしょう。
したがって、会社が「解雇されたら次の就職の際に雇ってもらえにくくなるから自己都合で退職する方がいいよ」と説得して来るような場合には、そのような説得は単に会社側が自己の保身を図る目的で「自己都合」で退職するように仕向けていると判断できますから、そのような説得に乗せられずに「解雇するなら解雇でもかまわない」というスタンスで退職届(退職願)の提出を拒否すればよいのです。
なお、会社から退職届(退職願)の提出を迫られるという場面は法律的には「退職勧奨を受けている」ということになりますが、そのような退職勧奨を受けた場合の対処法はこちらのページでも詳しく解説していますので参考にしてください。
▶ 「会社を辞めろ」と強要されたら?退職勧奨(肩たたき)の対処法
「解雇」されたのに「自己都合」と離職票に記載されてしまった場合の対処法
以上のように、本来は「解雇」なのに「自己都合」による退職とされないための方法もあるにはありますが、たとえそのような方法を取ったとしても会社が「自己都合」と離職票に記載してしまうこともあり得ます。
そのような場合の対処法としてはハローワークに「審査請求」という異議の申し立てを行うのが代表的です。
(1)ハローワークに行う審査請求(異議申し立て)を行う
ハローワークに行う審査請求(異議の申し立て)とは、雇用契約法第69条に規定されている法令上の手続きのことをいいます(雇用保険法第69条)。
雇用保険における失業手当(失業給付)の支払いの申請はハローワークに行うことになりますが、ハローワークが行うその申請に関する処分(雇用保険法第8条ないし9条)について不服がある場合には、雇用保険審査官や労働保険審査会に審査請求を求めることが認められています(雇用保険法第69条)。
第9条の規定による確認、失業等給付に関する処分(省略)に不服のある者は、雇用保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる。
被保険者又は被保険者であつた者は、いつでも、次条の規定による確認を請求することができる。
厚生労働大臣は、第7条の規定による届出若しくは前条の規定による請求により、又は職権で、労働者が被保険者となつたこと又は被保険者でなくなつたことの確認を行うものとする。
この点、本来の退職理由が「解雇」であれば失業給付の申請をおこなってから7日経過後から失業給付を受けることが出来ますが、離職票に「自己都合による退職」と記載されている場合には、それから3か月経過しなければ失業給付を受けることができませんから、本当は「解雇」であるにもかかわらず「自己都合による退職」と離職票に記載されてしまっているような場合には「失業等給付に関する処分に不服のある者」として雇用保険法第69条に基づく審査請求(異議の申し立て)を行うことが可能となります。
なお、離職理由の判定手続に関する詳細はハローワークのサイトのこちらのページに詳しく掲載されています。
▶ ハローワークインターネットサービス – 基本手当について
(2)審査請求(異議申し立て)する場合の注意点
前述したように、本来は「解雇」であるにもかかわらず「自己都合」と離職票に記載されていることによって失業手当(失業給付)の受給が「解雇」の場合よりも3か月間延ばされてしまうような場合には、審査請求(異議の申し立て)を行うことにより離職票に記載されている退職理由が本来は「解雇」であることを認めてもらうことが可能です。
この場合の審査請求(異議の申し立て)はハローワークに対して申し立てることになりますが、審査請求を行うハローワークはあくまでも中立的な立場で審査を行うことになりますので、審査請求をしたからといって全ての場合に「解雇」と認定してもらえるわけではありません。
離職票に「自己都合による退職」と記載されている場合には、ハローワークの側としても審査請求がなされたからと言って簡単に「解雇」があったと判断することはできませんので、「解雇」があったといえるような資料を提出するのが基本となります。
具体的には、解雇された場合に会社に対して発行を請求できる「解雇理由証明書」を提出したり、会社から退職届(退職願)の提出をするように説得を受けた場合にはその場面を撮影した動画や音声記録などを提出するのが一般的となりますから、会社から解雇されたり解雇された後に退職届(退職願)の提出を促された場合には、そのような事実を明らかとできるようものを保管しておくようにした方が無難でしょう。
なお、解雇理由証明書の発行を請求する方法についてはこちらのページで解説しています。
最後に
以上のように、本来は解雇されているにもかかわらず、離職票に「自己都合による退職」と記載されてしまった場合であっても、ハローワークに審査請求(異議の申し立て)を行うことによって救済される場合もあります。
勿論、前述したように会社から「解雇」された場合には会社の口車に乗せられて退職届(退職願)を提出してしまわないように気を付けることが第一ですが、仮に退職届(退職願)を提出して自己都合退職にさせられてしまった場合であっても審査請求(異議申し立て)を有効に利用することで失業手当(失業給付)をすぐに受け取れる場合もありますので、仮に事実に反して「自己都合による退職」とされてしまった場合にはハローワークに事情を説明して適切な対処を取ってもらうことも考える必要があります。