会社によっては、就業規則などの社内規定で残業をすることが禁じられている場合があります。
このような会社では、残業をすること自体が社内規定違反となりますから、基本的に残業を行っても残業代請求が認められることはありません。
しかし、そうは言っても、仕事の状況などのよってはどうしても残業が避けられないというようなシチュエーションも場合によってはあり得る話です。
そのような、残業をしなければならない状況に追い込まれた末に行った残業についても、「社内規定で禁じられているから」という理由で一律に残業代請求が否定されてしまうのは、会社のために残業した労働者にあまりにも酷な結果となってしまうような感じもします。
そこで今回は、社内規定で残業が禁じられている会社で残業をした場合に残業代請求が認められることはないのか、という問題について考えてみることにいたしましょう。
社内規定で残業が禁止されている場合は、原則として残業しても残業代請求は認められない
就業規則などの社内規定で残業することが禁止されている場合には、残業すること自体が社内規定に違反することになりますから、基本的に残業代請求が認められる余地はないと考える方が良いでしょう。
会社側の「黙示の承認」や「黙示の指示」がある場合には、残業代請求が認められる場合もある
就業規則などに「残業する場合には事前承認を経るなど一定の申請手続きが必要」と規定されている場合では、会社側に「黙示の承認」や「黙示の指示」が認められる場合には残業代請求が認められることになります。
▶ 定められた承認手続を経ないで行った残業の残業代請求の可否
▶ 会社に無断で残業した場合、残業代は支払われるか?
「黙示の承認」とは、上司に残業したい旨を申告した際に上司から何も言われなかったというような場合が例として挙げられます。
このような場合、本来であれば上司は「残業は社内規定で禁じられているから残業してはいけません」と注意するはずですが、それをしなかったということは残業することを黙認していると判断されるため、残業代請求が認められる可能性があります。
「黙示の指示」とは、たとえば残業しなければ処理しきれない業務量を処理するよう指示されたためやむなく残業した場合などが挙げられます。
このような場合、通常の能力であれば処理しきれない分量の業務量であることは会社側も認識していたと考えられ、その仕事量を処理するよう命令しているのですから、会社側が労働者に対して「残業してでも処理しろよ」と暗黙のうちに命令していると判断されることから、残業代請求が認められる可能性があります。
しかし、このような場合であっても、必ずしも残業代請求が認められるわけではなく、残業が必要になった場合の代替措置が就業規則で定められていてその「代替措置の履行が徹底して行われている場合」や「上司が複数回にわたって帰るよう指示しているにもかかわらず残業した場合」などには、残業代請求が否定される可能性があります。
(1)「代替措置」が定められている場合
たとえば、社内規定で残業が禁止されており、「残業が必要な場合は他の社員に引き継ぐ」などと代替措置が規定され、そのような引継ぎ(代替措置)が社内で徹底されているにもかかわらず、それを無視して残業したような場合には、残業代請求が否定される可能性もあります。
参考判例:神代学園ミューズ音楽学院事件(東京高裁平成17年3月30日労判905号)。
(2)度重なる帰宅の指示を無視して残業したような場合
また、上司が何回も帰るように注意したにもかかわらず、その注意を無視して残業を行ったような場合には、会社側の黙示の指示や黙示の承認があったと考えることは難しいため、残業代の請求が否定されることがあるでしょう。
ただし、このような場合であっても、残業しなければ処理しきれない仕事量を与えられていたりする場合には、会社側から残業することの「黙示の指示」があったと判断されて残業代の請求が認められる余地はあると思いますのでケースバイケースで判断するしかないでしょう。
参考判例:リゾートトラスト事件(大阪地裁平成17年3月25日)