勤務している会社が法律に違反する行動をとっていることを知った場合には、会社内部のコンプライアンス室に内部通報を行ったり、監督官庁の行政機関に違法行為の告発を行ったり、最終的にはマスコミなどに会社の違法行為を申告して会社に違法行為を白日の下に明らかにさせるといった行動に出る人もいるでしょう。
しかし、このような内部告発が行うと、会社の社会的信用は失墜し業績にも響いてくるため、会社が内部通報者に対して報復として減給や解雇といった不利益な処分を行う事例が多くみられます。
このような不当な報復措置から内部告発者を守るために制定されたのが「公益通報者保護法」という法律で、このような内部通報者への解雇や減給といった処分が行われても、一定の要件を満たしている場合にはその解雇や減給といった処分を無効にすることができると定められています。
そこで今回は、どのような要件を満たせば会社から内部通報者への解雇や減給といった処分を無効とすることができるのか、公益通報者保護法で定められた内部通報者を保護するための要件について考えてみることにいたしましょう。
内部通報者が保護される要件
前述したとおり、内部通報者に対して会社が解雇や減給などの報復処置を行った場合であっても、公益通報者保護法という法律に定められた要件に当てはまる場合には、その解雇や減給を無効にすることが可能です(公益通報者保護法3条)。
内部告発者が保護される要件は、①勤務先の会社への告発(企業内告発)の場合、②監督官庁への告発の場合、③マスコミや一般市民に対する告発の場合、の3つの告発の種類においてそれぞれ次のとおり定められています。
①勤務先の会社への内部告発の場合
1.法令違反行為が行われていると思ったこと
2.法律違反行為が行われようとしていると思ったこと
勤務先の会社のコンプライアンス室などに内部告発を行った場合(企業内告発の場合)には、その内部通報をする際に「法律に違反する行為が行われている」と思っていたか「法律に違反する行為が行われようとしていた」と思っていれば、たとえ会社から内部告発の報復として解雇や減給の処分を受けたとしても、その解雇や減給の処分を無効とすることが可能です。
勤務先への内部告発は会社内で処理することができるため、仮にその告発内容に誤りがあったとしても(告発者が勘違いで告発をしていたとしても)、会社外に漏れる心配はないので会社が受ける不利益も少なくて済みます。
そのため、告発者が単に「法律違反行為が行われている又は行われようとしている」と『思っていた』のであれば告発者は保護されるということになります。
②監督官庁などの行政機関への内部告発の場合
1.法律違反行為が行われていると信じたことに相当の理由があること】
2.法律違反行為が行われようとしていると信じたことに相当の理由があること
監督官庁などの行政機関への内部告発の場合には、①の企業内での内部通報の場合と異なり、会社の外に告発するものとなりますので、①の場合よりも会社が受けるダメージは大きくなります。
そのため、「法律行為が行われ又は行われようとしている」と「信じたこと」に『相当の理由』がなければ、仮に会社が報復措置として解雇や減給をしてきても、それを無効にすることはできません。
①の企業内での内部告発は「法律行為が行われ又は行われようとしている」と『思っていた』のであれば保護されましたが、②の行政機関への内部告発の場合は、単に『思っていた』だけでは足らず、そう思っていたことに『相当な理由』がなければ保護されないことになっています。
①の企業内での内部告発より②の行政機関への告発の方が、より会社に与えるダメージが大きいので、それだけ慎重に判断して内部通報を行わなければ保護されないということになります。
③マスコミや一般市民への内部告発の場合
1.法律違反行為が行われていると信じたことに相当の理由があること
2.法律違反行為が行われようとしていると信じたことに相当の理由があること
3.「1.」「2.」に加えて、次のいずれかに該当すること
イ)「①の企業内での告発」または「②の行政機関への告発」の内部告発をすれば解雇その他の不利益な処分を受けるという相当な理由がある場合
ロ)「①の企業内での告発」の内部告発をすれば会社が証拠隠滅を図るという相当な理由がある場合
ハ)会社から「①の企業内での告発」および「②の行政機関への告発」の告発をしないよう正当な理由なく命じられた場合
二)書面やメールなどで「①の企業内での告発」をした日から20日を経過しても会社から調査を行うという連絡がなされず又は正当な理由がなく調査を行わない場合
ホ)個人の生命身体に危害が発生し又は急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
マスコミや一般市民に対して内部告発を行う場合には、不特定多数の人に会社の違法行為が広められることになりますから、会社内部でとどまる①の場合や、特定の行政機関でとどまる②の場合よりも、より慎重に考えてから行動を起こすことが求められます。
そのため、③のマスコミや一般市民への内部告発の場合には、「法律違反の行為が行われ又は行われようとしている」と思ったことに『相当な理由』があっただけでは足りず、上記イ~ロに挙げたような切迫した事情がない限り、内部通報者は保護されないことになっています。
いきなりマスコミにリークする内部告発は危険
以上のように、内部告発する相手先によって、内部告発者が保護される要件が異なっていますので、まず最初は会社内に設置してあるコンプライアンス室など(適当な部署がない場合は上司や社長に申告するなど)に違法行為の通報をするのが通常の内部通報の手順となります。
違法行為があったからと言って、いきなりマスコミに駆け込んだり、ブログやYouTubeに違法行為の画像などをアップロードする行為は、正当性がないと判断され保護の対象とはならない可能性があります。
そのため、最初は会社に対して違法行為の通報を行い、それでも会社が動かないときに行政官庁に通報を行い、行政機関も何ら対応しないような場合に最終的にマスコミや一般市民に対して違法行為の通報を行うべきと言えるでしょう。