人事異動や配転命令を拒否することはできるのか?

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

地球儀とサラリーマン

営業職から工場勤務になったり、現場の作業員から営業所の事務職に配属替えがなされるなど、企業の人事異動(配置転換)は一般的に行われているものと思います。

この配置転換を求める配転命令(人事異動)は、勤務地の変更をともなう場合は「転勤」とも呼ばれますが、会社の都合で労働者に職種や勤務地の変更を促すものですから、労働者にとっては相当に負担となるものでもあります。

そのため、場合によっては会社の行う配転命令に従わず、今までと同じ職種や職場で働き続けることはできないのだろうかと思い悩んでいる人も多いのではないでしょうか?

そこで、ここでは人事異動(配転命令)を拒否することはできるのか?という問題について考えてみることにいたしましょう。

【配転と出向、転籍の違い】

人事異動のうち、勤務先の会社内で職務内容や勤務地の変更が行われることを「配転」や「配置転換」と言います。一方、勤務先の会社に社員としての地位を残したまま(在籍したまま)の状態で別の会社で働くことを「出向」といい、勤務先の会社から籍を抜いたうえ(いったん退職したうえで)で別の会社で働くことを「転籍」といいます。「配転」は元の会社内での人事異動にとどまるので比較的影響は少ないといえますが、「出向」の場合は元の会社に籍はあるものの働く場所が別の会社になるため「配転」より影響は大きく、また「転籍」の場合はいったん勤務先の会社を”退職”して新しく別の会社に”就職”することになるためその影響は極めて大きいものになるのが通常です。

なお、配転命令に類似する出向命令や転籍命令を拒否できるかという問題については

出向命令を拒否することはできるのか?

転籍命令を拒否することはできるのか?

のページを参考にしてください。

スポンサーリンク

雇用契約で職種や勤務地が限定されている場合は基本的に拒否できる

使用者(会社・雇い主)と労働者(従業員)の間で結ばれる労働契約(雇用契約)には通常、従事する職務の種類や内容、勤務地などが記載されていると思います。

このように、労働契約(雇用契約)において職種や勤務地が限定されている場合には、会社はその限定された職種や勤務地とは異なる職種や勤務地への人事異動を命じることは基本的にできません。

しかし、その反面、労働契約(雇用契約)で職種や勤務地が限定されていない場合には、労働者が従事する労働の種類・場所などを決定する権限は使用者(会社・雇い主)に委ねられていると考えられますので、会社は基本的に自由に人事異動(配転命令)を命じることができ、労働者はその人事異動(配転命令)を拒否することは出来ないと考えられます。

このように、人事異動(配転命令)の有効性は労働契約(雇用契約)の内容に左右されることになりますので、会社から人事異動(配転命令)を受けた場合には、入社する時に会社と取り交わした労働契約書(雇用契約書)の控えを机の引き出しから引っ張り出して来て内容を確認するようにしましょう。

労働契約書(雇用契約書)に職種や勤務地を限定するような記載がある場合は基本的に人事異動の命令を拒否することができますが、職種や勤務地が限定されていないのであれば人事異動(配転命令)を拒否することは一定の例外(口述します)を除いて難しいと考えた方が良いかもしれません。

なお、”職種”や”勤務地”が限定されている場合は正当な理由の有無にかかわらず会社の人事異動命令を拒否することができますので「なんで人事異動に応じられないんだ?」と聞かれたとしても理由を回答しなければならない義務はありませんし、「なんとなく行きたくない」という理由でも人事異動を拒否することが可能となります。

≪ワンポイントアドバイス≫

もっとも、この”職種”の限定は、特殊の技能や資格を有する者(医者や看護師、アナウンサーなど)に限られるとされるのが通常ですので、高度な専門性を有しない職業の場合にはたとえ労働契約書(雇用契約書)に職種を限定する定めがあったとしても、他の職種への配転命令が出されればそれを拒否することはできないと思われます。

また、特殊な技能や資格を有するとされる者であっても職種の限定が認められなかった事例もありますので注意が必要です(アナウンサーの職種限定を認めなかった事例:九州朝日放送事件・最高裁平成10年9月10日)。

労働契約(雇用契約)に「人事異動(配転命令)を行うことができる」旨の定めがある場合は、基本的に人事異動)配転命令)を拒否できない

多くの会社では、入社時や契約更新時に労働者との間で取り交わす労働契約書(雇用契約書)に「会社は、業務の都合上必要がある場合には、出張、配置転換、転勤を命ずることができる」といった規定を定めている場合が多いです。

このような規定が定められている労働契約(雇用契約)では、労働者はあらかじめ人事異動(配転命令)があることを承諾していると言えますので、会社が一方的に配転命令を行ったとしても、労働者はそれを拒否することは基本的にできないと考えられます。

(※ただし、あくまでも基本的にできないというだけの話であって、後述するように例外的に配転命令を拒否できる(配転命令が無効と判断される)場合も多いですので誤解のないように。)

この点、前述した労働契約(雇用契約)で職種や勤務地を限定している場合との関係が問題となりますが、労働契約(雇用契約)で職種や勤務地が限定される場合には、人事異動(配転命令)の範囲も、その労働契約(雇用契約)で限定された職種や勤務地の範囲内でのみ認められると考えるのが通常です。

たとえば、入社時の契約で職種が”設計士”、勤務地が”東京”と定められている労働契約書に「会社は業務の都合上必要がある場合には、出張、配置転換、転勤を命ずることができる」という定めがある場合には、”霞が関本社ビル”から”八王子工場”への配転命令については拒否できませんが(※勤務地が東京都内であり労働契約書に記載されているから)、”相模原工場”への転勤や本社内でも”営業職”への配転命令は拒否できるということになります(※勤務地が都外であったり職種が異なれば労働契約書に記載された内容に反することになるから)。

法令や労働協約、就業規則に違反する配転命令は拒否できる

前述したように、労働契約(雇用契約)において配転命令が許容される場合には基本的に配転命令を拒否することはできませんが、その場合であっても、配転命令が法令や労働協約、就業規則に反するものである場合には拒否することができます。

たとえば、労働組合に加入している社員の労働組合への参加を妨害するために他の事業所に転勤を命じるような配転命令は、不当労働行為を禁止した労働組合法第7条という”法令”に違反することになりますので、そのような転勤命令(配転命令)は拒否することができると考えられます。

人事異動や配転命令が”労働者の仕事と生活の調和”を損なうものであったり”権利の濫用”と判断される場合には拒否できる

前述したように、労働契約(雇用契約)において人事異動や配転命令が許容される場合には基本的にその人事異動や配転命令を拒否することはできません。

しかし、その場合であっても、人事異動や配転命令が労働者の生活に配慮しないものであったり、権利の濫用と判断される場合には、その人事異動や配転命令を拒否することが可能です。

【労働契約法3条】

第3項 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、または変更すべきものとする。

第5項 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

具体的には、次に挙げるような場合には人事異動(配転命令)が権利の濫用と判断されると考えられます(東亜ペイント事件・昭和61年7月14日)。

① 業務上の必要性がない場合
② 人員の選択に合理性がない場合
③ 配転命令が他の不当な動機や目的を持ってされた場合
④ 労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合
⑤ その他特段の事情のある場合

たとえば、親や子供の介護が必要だったり子供の育児に支障が出るような場合には、仮に雇用契約書や就業規則に「会社は転勤を命じることができる」と記載されている場合であっても、転勤を伴う人事異動(配転命令)は労働者の仕事と生活の調和を損なうものであり、また権利の濫用として無効と判断されるケースもあるでしょう。

もっとも、どのような場合に生活との調和を損なうと判断されたり、権利の濫用と判断されるかはケースバイケースで異なりますので、上記の①~⑤に当てはまると思われる場合は弁護士などの法律専門家に速やかに相談に行くことをお勧めします。

人事異動や配転命令を拒否する場合の具体的な対応方法

会社から出された人事異動や配転命令に承服できない場合は、会社の出す配転命令に対して明確に異議を表明することが必要です。

異議をとどめず配転命令に従うと、その人事異動や配転命令に承諾したと受け取られかねないので、「その配転命令には承服できません」という意思表示をする必要があります。

もっとも、単に人事異動や配転命令を拒否しているだけでは、会社側から「会社の命令に従わないということは職務違反になる」という理屈で解雇される場合もありますので、通常は配転命令に異議を留めつつ配転命令に従って何らかの対応(会社に配転命令の撤回を求めたり、労働局に援助やあっせんの申立を行ったり、裁判や労働審判で訴えたりすること)をとるということになります。

人事異動や配転命令に異議を留めつつ配転命令に従う場合

人事異動や配転命令に異議を留めつつも、解雇される不都合を避けるためにとりあえず人事異動や配転命令に従う場合は、使用者(会社・雇い主)に対して「配転命令に対する異議通知書」を送付してから人事異動や配転命令に従うようにしましょう。

「人事異動(配転命令)に対する異議通知書」を使用者に送付しないで人事異動や配転命令に従うと、人事異動や配転命令を承諾したと受け取られかねないので必ず送付するようにします。

なお、口頭で人事異動や配転命令に従わない旨を会社に対して通知することも間違いではありませんが、後日裁判になった場合などに「人事異動(配転命令)に異議を出したうえで人事異動(配転命令)に従った」ということを証明するためにも、「異議通知書」という書面で送付するほうが安全だと思います(当然、記録の残る特定記録郵便や内容証明郵便で送付するとともに、通知書の控えも保存しておく必要があります)。

配転命令に対する異議通知書【ひな形・書式】

特定記録 / 内容証明

労働局の紛争解決援助の申立制度を利用する場合

各都道府県に設置された労働局では、労働者と事業主の間に生じた労働トラブルについて必要に応じて助言や指導を行っています(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条※この手続きを「労働局の紛争解決援助の手続」といいます)。

会社側から出された人事異動や配転命令に納得いかない場合も「労働者と事業主の間に紛争が生じている」ということになりますから、労働者と事業主のどちらか一方が労働局に援助の申立を行えば、労働局から紛争解決の助言を受けたり、違法な行為を行っている事業主に対して行政指導を行ってもらうことが可能です。

そして、もし事業主に対する行政指導が行われても問題が解決しないような場合には、労働局に”あっせん”の申し立てを行うことでトラブルの解決を図ることも可能です(※”あっせん”とは裁判所の民事調停のような手続きで、労働局に設置された労働調整委員会が労働者と事業主の間に立って意見聴取や問題解決へのあっせん案を提示するなどする手続です)。

これら「労働局への援助の申立」や「労働局のあっせん」の手続は、全て無料で利用することができますので、会社との話し合いを行っても人事異動や配転命令を撤回しない場合には、労働局に援助やあっせんの申立を行うことも考えた方が良いかもしれません。

なお、労働局に対する「労働局への援助の申立」や「労働局のあっせん」の手続の利用方法については、全国の労働局で相談を受け付けていますので気軽に問い合わせしてみるとよいでしょう。

都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省

ちなみに、労働局に紛争解決援助の申立をする場合の申立書の記載例はこちらのページでご確認ください。

≫ 配転命令(転勤・配置転換)に関する労働局の援助申立書の記載例

人事異動に関する労働局への紛争解決援助の申立書の記載例

※労働局に対する援助の申立書は各都道府県でその様式が異なっていますが、東京労働局のサイトでは東京労働局で使用されている申立書のひな形をダウンロードすることが可能ですので、そちらの様式を使用して申立書を作成しても良いでしょう(東京労働局で使用されている申立書を他の道府県の労働局で使用しても特に問題ないと思います)。

様式 | 東京労働局

弁護士などの法律専門家に相談する場合

上記のように、会社側に配転命令(人事異動)に対する異議や撤回の申し入れを行ったり、労働局に対する援助やあっせんの申し立てを行っても解決しない場合には、弁護士などの法律専門家に相談して裁判や労働審判などの裁判手続きを利用して解決を模索することも必要になるでしょう。

弁護士?司法書士?社労士?労働トラブルの最適な相談先とは?


スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする