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セクハラは慰謝料請求だけが有効な解決方法とは限らない?

セクハラに遭っている場合の対処法としては、そのセクハラを行っている加害者本人に対する「慰謝料請求」を思い浮かべる人が多いのではないかと思われます。

しかし、慰謝料の請求はあくまでも「金銭」の支払いを求める行為に過ぎず「セクハラを止めさせる」行為ではありませんので、加害者に慰謝料請求を支払わせたからといって必ずしもセクハラがなくなるとは限りません。

セクハラの加害者本人に慰謝料請求を行うことで加害者が反省して悔い改めるようであればセクハラが止むかもしれませんが、仮に相手方が「金払えば済むんだろ?」と考えているような輩であった場合には慰謝料の支払いがあったとしてもセクハラが継続する可能性も考えられるのです。

そこで今回は、セクハラの対処法として慰謝料請求は妥当な解決方法といえるのか、またセクハラの対処法としての慰謝料請求や他の方法にはどのような手段が考えられるのか、という点について考えてみることにいたしましょう。

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セクハラの責任はセクハラの「加害者」だけでなく「会社」にも発生することを理解しておく

セクハラの対処法としての慰謝料請求やその他の方法の有効性を考える前提として、セクハラの責任はそのセクハラを行った「加害者本人」だけでなく、そのセクハラに適切に対処しない「会社(使用者・雇い主)」にも発生するということを理解してもらわなければなりません。

セクハラという行為は、それを受ける労働者(多くの場合は女性労働者)の就業環境に著しい障害を及ぼすだけでなくその被害者の精神および肉体に重大な苦痛を与えることもある悪質性の高いハラスメント行為と言えます。

この点、労働契約法においては使用者(会社・雇い主)には従業員の生命や身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をしなければならない義務が定められていますし(労働契約法5条)、いわゆる男女雇用機会均等法(※正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下単に「男女雇用機会均等法」といいます))の第11条においては事業主(会社・雇い主)には性的な言動を受けた労働者からの相談に応じ適切な対応措置をとることが義務付けられていますから(男女雇用機会均等法第11条1項)、仮にセクハラ行為に対して会社が何ら有効な措置を取らないような場合には、その会社はこれらの法律上の義務に違反してセクハラを受けている労働者の権利を不当に侵害しているということになります。

【労働契約法第5条】
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
【男女雇用機会均等法第11条第1項】
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

そのため、前述したように勤務先でセクハラに遭った場合において仮に会社に相談してもその会社が何らの有効な措置を取らない場合には、その勤務先の会社も雇用管理上の義務違反となりますので、セクハラの被害者は会社に対しても権利の侵害を理由とした慰謝料の請求が可能となります。

「セクハラ」と聞くとセクハラの「加害者本人」への慰謝料請求をまず考えがちですが、それ以外にも勤務先の「会社(雇い主)」に対する慰謝料請求も可能であることも理解しておく必要があります。

会社に対してセクハラに関する慰謝料請求を行った場合、その会社がセクハラに対する適切な措置を取らなかったことを反省しセクハラの加害者に適切な対応を取るように社内体制が改善されることもありますので、セクハラの事案によっては「加害者本人」だけでなく「会社」に対する慰謝料請求も考える必要があるかもしれません。

なお、セクハラの相談を受けた会社が具体的にどのような措置を取らなければいけないかという点についてはこちらのページで解説していますので参考にしてください。

▶ セクハラ相談に会社はどんな対応をとる必要があるか

ただし、実際に認められる慰謝料はさほど高額にならないことも理解しておく

前述したようにセクハラに遭っている場合にはそのセクハラの「加害者本人」だけでなく、そのセクハラに適切に対処しない「会社」に対して慰謝料の請求をすることも可能です。

もっとも「慰謝料」の請求ができるからといって、必ずしも高額な慰謝料の請求が認められるわけではありません。

一般の人が「慰謝料」と聞くと数百万から数千万円の金額を想定しがちですが、精神的な被害を受けたとして慰謝料を求める場合、仮に裁判所がその請求を認めたとしてもその認定される慰謝料の相場は数万円から数十万円が一般的です。

被害者の労働者の生命が危ぶまれるほどに執拗な悪質性の高いセクハラで実際に何らかの被害が発生しているような場合にはそれなりの高額な慰謝料が認められるかもしれませんが、一般的な嫌がらせ程度のセクハラの場合には慰謝料が認められるとしても数万円から数十万円程度が相場です。

「セクハラされた仕返しに慰謝料を取りたい」と考える気持ちは十分理解できますが、慰謝料請求にそれほど過度な期待は抱かない方が良いのではないかと思います。

慰謝料請求は金銭を請求するものであってセクハラを「止めさせる」ものではない

前述したようにセクハラの被害についてはそのセクハラの「加害者本人」やセクハラに適切に対処しない「会社」に対して慰謝料を請求することが可能です。

しかし、慰謝料の請求はあくまでもセクハラを受けた被害者の受けた不利益を事後的に「金銭」と代用品で埋め合わせるものに過ぎませんので、セクハラ行為を「止めさせる」ことにつながるかというと必ずしもそうではありません。

勿論、加害者本人や会社に対して慰謝料を請求することによって加害者本人が悔い改めてセクハラを止めたり、会社がそれをきっかけに社内体制の整備を実施してセクハラに適切に対処するようになる可能性は考えられます。

しかし、前述したように仮に裁判で慰謝料の請求が認められたとしても、一般的な社内のセクハラ行為で実際に認定される慰謝料の金額は数万円から数十万円程度が相場ですから(※勿論ケースによっては数百万以上の慰謝料が認められる可能性もあります)、悪質な加害者や会社によってはその程度の慰謝料の支払っても構わないと考えて、加害者本人がセクハラを継続したり、会社が適切な対処を取らない可能性も考えられます。

このように考えると、慰謝料の請求をすること自体がセクハラの防止や根絶に有効かという点については疑問が生じます。

一般の人はセクハラと聞くと慰謝料の請求を真っ先に考えがちですが、慰謝料の請求はあくまでも「金銭」を請求することであって、直接そのセクハラを止めさせるものではないということを理解しておいてもらいたいと思います。

セクハラに関する慰謝料請求以外の対処法とは?

慰謝料の請求はあくまでも「金銭」を請求することであってセクハラを直接止めさせるものではありませんから、「セクハラを止めさせる」ことを最優先に考えている人にとっては必ずしも有効であるとはいえません。

では、セクハラ自体を止めさせるにはどのような方法があるかというと、以下のような方法が考えられます。

(1)裁判でセクハラの差し止めや仮処分を求める場合

裁判所の裁判と聞くと金銭の支払いを求める裁判を想定しがちですが、それ以外にも裁判の相手方(被告)に対して一定の行為の禁止を求める差し止め請求や仮処分の申し立てなどの裁判も存在しています。

これらのセクハラ行為の差し止めや禁止の仮処分の請求が認められた場合には、裁判所からそのセクハラの加害者本人に対してその裁判で認められた範囲におけるセクハラ行為の禁止が命じられることになりますので、「セクハラを止めさせたい」と考えている人にとっては有効な対処法となります。

もっとも、裁判で差し止めや仮処分を求める場合には弁護士に依頼するのが通常だと思いますので、実際に依頼する弁護士とよく協議してどのような訴えを提起するか決めればよいと思います。

(2)労働審判を利用する場合

労働審判都は裁判所で行われる裁判の一種で、原則3日の期日で結審されることから比較的短期間で解決が見込める使い勝手の良い裁判手続きであるのが特徴です。

また、一般の裁判の場合には「〇〇を支払え」とか「〇〇を行え(又は行うな※差し止めや仮処分の場合))」などと一定のお金や行為を命令する判決が出されることになりますが、労働審判の場合はこれらに限らず一定の体制の整備や人間関係のコミュニケーションの円滑化も審判の内容に盛り込むことが出来ますので、一般の裁判では判決に盛り込めない内容も裁判所から解決策として提示してもらえるなど有利な点も多いのが特徴です。

たとえば、セクハラの場合を例にとると、前述した慰謝料請求の場合には「金〇〇円を支払え」と、また(1)の差止や仮処分の場合には「〇〇を禁止する」とか「〇〇せよ」などといった一定の行為だけが命じられる判決が出されることになりますが、労働審判の場合には一定の慰謝料の請求が認められるとともに具体的なセクハラ行為を禁止することが命じてもらうこともできますし、会社が労働審判の相手方の場合には会社側に一定のセクハラ防止策を構築するよう命じてもらうことも可能となります。

このように、労働審判を利用する場合には前述した慰謝料請求に合わせてセクハラという一定の行為を禁止したり、会社の社内整備の改善を盛り込むこともできますので、セクハラなどの被害の救済と合わせて一定の社内体制の整備も求めていきたいような事案では非常に有効な手続きということが出来るでしょう。

もっとも、労働審判の場合も実際に申立を行う場合には弁護士か司法書士に依頼するのが通常と思われますので、セクハラ被害を労働審判で解決しようと思う場合には相談する弁護士や司法書士とよく協議して審判にどのような解決方法を盛り込みたいのかを考えていく必要があるでしょう。

(3)労働局の紛争解決援助の申し立てを利用する場合

セクハラに遭った場合の対処法』のページでも解説していますが、セクハラの被害において会社がそのセクハラに適切な措置を取らないような場合には労働局に紛争解決援助の申立を行うことができ、その申立を行った場合には労働局から必要な助言や指導、勧告を出されることになっており(男女雇用機会均等法17条)、必要に応じて調停の手続きも実施されることになっています(男女雇用機会均等法18条)。

そのため、仮にセクハラの被害を会社に相談しても適切な措置が取られないような場合には、労働局に紛争解決援助の申立を行って労働局から必要な助言や指導、勧告などを出してもらうことも解決方法として有効かと思われます。

労働局の紛争解決援助の申立の手続きでは労働法に精通した専門家がその手続きに関与することになっていますので、セクハラの改善に向けた有効な措置の指導が命じられたり、会社が慰謝料の請求に応じない場合にはその解決に有効な解決案が出されることも期待できますので、弁護士や司法書士に依頼せずに問題を解決したいと思う場合には有効な解決手段の一つとなるでしょう。

前述した慰謝料請求や裁判による差止・仮処分、労働審判などは手続きの実施に専門的な知識を必要としますので弁護士や司法書士に依頼するのが一般的ですからその手続き費用に加えて弁護士や司法書士に依頼する費用(報酬)が必要となりますが、労働局の紛争解決援助の申立は無料で利用することができますので、費用の面で考えても利用する価値は高いと思われます。

ただし、労働局の紛争解決援助の申立の制度はあくまでも事業主である会社を紛争の相手方として申立てる手続きですから、セクハラの「加害者本人」を相手方として申立てることはできません。

セクハラの「加害者本人」を相手方として労働局の紛争解決援助の申立をりようすることはできませんので、あくまでも「加害者本人」に慰謝料を支払わせたり「加害者本人」に直接セクハラ行為を禁止させたいと考えているような場合にはこの労働局の紛争解決援助の申立は必ずしも適した解決方法とはならないので注意する必要があります。

(4)ADRを利用する場合

ADRとは裁判外紛争解決手続の略称で、裁判所以外の場所で法律専門家を交えた状態で当事者同士の話し合いを行う手続きをいいます。

詳細は『職場いじめ・社内いじめを受けている場合の対処法』のページで解説していますのそちらを参考にしてもらえればと思いますが、具体的には紛争の当事者の間に弁護士などの法律専門家が入り、当事者と弁護士等の3者間で話し合いの場を持つのがこのADRの手続となります。

このADRを利用する場合には、セクハラの「加害者本人」に弁護士を交えた3者間でセクハラを止めさせるような話し合いをするだけでなく、セクハラに適切に対処しない「会社」に弁護士を交えた3者間で話し合いを行ったり、「加害者本人」と「会社」に弁護士等を交えた4者間で話し合うなど、その事案にあった自由な話し合いができますので、前述した裁判所の裁判や調停ではうまく解決できない事案でもADRによって解決の道筋が見えてくることも有り得るでしょう。

また、セクハラなど紛争解決後も同じ職場で顔を合わせるようなトラブルでは、裁判などを利用するとその後の職場で気まずくなったりする場合も有りますし、セクハラに適切に対処しない会社を相手取って裁判を行ったり労働局に申立を行った場合には、会社での立場に不安を感じる人もいるかもしれませんから(※注1)、そのような人にとっては単なる話し合いの場の提供に過ぎないADRの手続きは適しているかもしれません。

(※注1:セクハラに適切に対処しない会社を訴えたり労働局に紛争解決援助の申立を行ったことを理由として会社がいじめの被害者に減給や降格などの不利益な処分をすることは違法で無効と判断されます。)

最後に

以上のようにセクハラの対処法はセクハラの「加害者本人」に対して慰謝料を請求する以外にも様々な解決方法が用意されていることがわかります。

「セクハラ行為を止めさせたい」と考えている人にとっては必ずしも慰謝料請求が適しているとは限りませんが、上記のような様々な手続きを選択して様々な解決方法を求めていくことも可能ですので、各被害者自身が具体的にどのような解決方法を求めているのかという点を熟慮し最適で最大限の効果を得られる解決方法を選択することがトラブル解決への近道になるのではないかと思われます。