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サービス残業は有利子負債を増やすだけって経営者は気付いてる?

滅私奉公の概念が根強く残る日本では現在でもなおサービス残業が広く横行しているようです。

サービス残業は弱い立場にある労働者を無休で働かせる行為であって絶対にあってはならないものといえますが、企業の経営者の側からするとサービス残業は「全くコストを発生させない労働力」であって会社の利益に直結するものといえますから、零細中小企業に限らず大企業にまでサービス残業を強制させ又は黙認する事例が後を絶たないのです。

しかし、このように一見すると企業側にまったくコストを発生させない労働力のように見えるサービス残業も、見方を変えると実は労働者にサービス残業を強要又は黙認することによって会社は大きなリスクを抱えることになり、そのリスクの解消には多大なコストが必要になることがわかります。

なぜなら、サービス残業は本来支払わなければならない時間外手当を支払っていない状況であることに代わりありませんから、その支払っていない残業代が「負債」として会社に蓄積されていくことになるからです。

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サービス残業で支払われていない残業代は企業にとっては「有利子負債」になる

サービス残業が行われている状況は「本来支払われなければならない残業代が支払われていない状況」ということが出来ますので、サービス残業が行われている限り、そのサービス残業をしている労働者がそのサービス残業にかかる残業代を請求してきた場合には、使用者(会社・雇い主)は確実にその残業代を支払わなければなりません。

そのため、サービス残業で支給していない残業代は「支払わなければならないのに支払っていないお金」ということになり、「返さなければならないのに返していないお金」という一般の「借金」とその性質は全く異なりませんから、サービス残業で支給していない残業代はその企業(使用者)にとって「負債」となります。

また、残業代の未払いが発生している場合にはその支払い期日から商事法定利率の年6%が遅延損害金として付与されますので(商法第514条)、サービス残業を強制または黙認している使用者は、「年6%の遅延損害金の付いた負債(借金)」を抱えているのと同じ状態にあるということがいえます。

このように、「サービス残業」や「残業代」という言葉だけを聴いただけではイメージがあまりわかないかもしれませんが、サービス残業という形で支給されていない残業代は使用者(会社・雇い主)の側から考えると「有利子負債」ということになります。

サービス残業の場合「過去2年分」の未払い残業代が有利子負債となる

前述したようにサービス残業による未払い分の残業代は年6%の利息(遅延損害金)を発生させる有利子負債ということが言えますが、サービス残業の未払い残業代の場合には、この有利子負債は過去2年分が永遠に存続していくことになります。

残業代の消滅時効期間は「2年」と考えられていますので(労働基準法第115条)、サービス残業を行った労働者は過去2年間の残業代をさかのぼって会社に請求することが出来ます。

そのため、サービス残業を強制または黙認している会社は、過去2年分の未払い残業代に該当する金額を永遠に「有利子負債」として抱えていく状況になっているといえます。

未払い残業代については「付加金」も請求できるから、実質的には「発生している未払い残業代の2倍の有利子負債」となる

付加金については『付加金って何?』のページで解説していますのでここでは詳述しませんが、未払い残業代がある場合に企業に懲罰的に請求することが出来るお金のことを言います。

労働者が使用者に対して未払いとなっている残業代を裁判を通じて請求する場合には、付加金としてその未払い残業代と同一の金額を加算して請求することが可能です。

例えば未払いになっている残業代が10万円あり、これを裁判で請求する場合には付加金として別に10万円を請求することが出来ますから、そのサービス残業を強いている会社は20万円を支払わなければならないことになります。

このように、サービス残業を強いている又は黙認している会社は、そのサービス残業にかかる未払い残業代を裁判で請求された場合には、未払いとなっている過去2年分の残業代の2倍に相当する有利子負債を抱えているということになります。

ほんの少しのサービス残業であっても合計すれば莫大な「有利子負債」となる

前述したようにサービス残業に基づく未払い残業代は「年6%」の利息(遅延損害金)が付与される「有利子負債」ということができますが、消滅時効の期間を考えれば労働者は「過去2年分」の未払い残業代を請求することが出来ますので、労働者一人ひとりのサービス残業の時間は短くてもそれを合計すれば膨大な金額となります。

たとえば時給800円で1日4時間勤務するパート従業員のおばさんが毎日勤務開始時刻より30分前に出社して作業の準備を行い、勤務終了後も30分間作業の後片付けをしているものの残業代が支給されていない状況を想定してください。

この勤務開始前の30分間と勤務終了後の30分間は通常の勤務時間を超えて働いていることになりますから、会社は本来このパートのおばさんに合計60分間分の時間外手当として800円を支払わなければなりません。

1日あたり800円ということは月に20日勤務したと仮定すると1か月あたり16,000円、1年であれば192,000円となり年間20万円近い未払い残業代が発生しているということになり、前述したように未払い残業代の時効は2年であることを考えると、このようなパート労働者がいる企業ではパート労働者一人あたりその2年分にあたる約40万円の未払い残業代があるということになります。

前述したように未払い残業代は年6%の利息(遅延損害金)の付与される「有利子負債」ですから、このような会社はパート一人あたり40万円の有利子負債を抱え続けているということになるのです。

一人あたり40万円とすれば10人なら400万円、100人なら4000万円です。

さらに、未払い残業代についてはそれと同額の付加金(※付加金が何かわからない人は『付加金って何?』のページをご覧ください)の請求も可能ですから、仮に裁判になった場合に支払わなければならない金額はその2倍の金額となり、100人では8000万円となり約1億円近い有利子負債を抱えていることになります。

地方の中小企業でもサービス業などであれば100人規模のパート労働者を雇用している会社など少なくないと思いますが、そのような会社の全てがパート労働者に勤務時間の前後30分程度のサービス残業をさせるだけで1億円規模の有利子負債が発生することになるわけです。

このように、就業の前後にたった30分のサービス残業を強いるだけでも、その会社は莫大な有利子負債を抱えることになるということをどれだけの経営者が認識しているでしょうか?

現時点で未払い残業代が顕在化していないからといって今後も請求されないという保証はない

前述したように、サービス残業を労働者に強制または黙認している企業は、そのサービス残業をしている従業員の人数に応じて莫大な有利子負債を抱えていることになります。

現状でサービス残業を強いている又は黙認している会社は、そんなことは百も承知でサービス残業を継続しているのかもしれませんが、現時点で残業代の請求がなされないからと言って今後も請求がなされないとは思わない方が良いと思います。

たしかに、昔であれば労働者が残業代に関する法律に精通していたわけではありませんしその対処法も知らなかったと思いますから、サービス残業に不満を感じていても実際にそれを請求した事例は多くないかもしれません。

しかし、インターネットの普及した現在では残業代請求に関する記事は腐るほどネット上にあふれていますから(このサイトもその一つですが…)、サービス残業の残業代が請求できることなど興味さえあればすぐに検索して知ることが出来ます。

付加金についても同様で、昔であれば弁護士など法律の専門家しか知らなかったよう法律の規定もネットを使えば誰でも知ることが出来ますから、「裁判で未払い残業代を請求すれば付加金も加えて2倍の金額をもらえる」と考える人は今後ますます増えてくるでしょう。

そして、いったん請求する人が出始めるとその情報はSNSなどを通じて一斉に拡散されますから、場合によっては爆発的に残業代請求が広がることも考えられます。

そうなったときにどれぐらいの企業が持ちこたえられるでしょうか?

就業前後の30分程度のサービス残業だけで数千万円から数億円規模の支払いが必要となるのですから、その影響は想像しただけでも空恐ろしいものがあります。

金融機関からの融資に影響する可能性

前述したようにサービス残業における未払い残業代は有利子負債となりますから、本来であれば企業のバランスシートのうち負債に分類されるべきものです。

とは言っても、日本の企業で未払い残業代を貸借対照表の負債の項目に計上している企業があるとは通常考えられませんから、多くの会社は貸借対照表上で確認できない「未払い残業代」とそれと同額の「付加金」というを莫大な有利子負債を「こっそり」抱えているということになります。

しかし、いつまでもこのような状況が続くかは疑問です。

たとえば、未払い残業代を貸借対照表に記載する必要がないとしても、銀行が融資を行う際にその融資先の企業における未払い残業代の有無を確認してバランスシートに反映させ、融資をする際の判断基準の一つにすることは十分に考えられるのではないでしょうか。

仮に国がサービス残業を抑制するための政策の一つとして金融機関が融資を行う際に未払い残業代の有無を確認するよう義務付けた場合、未払い残業代があると莫大な有利子負債があることを理由に融資が受けられなくなるでしょう。

金融機関に未払い残業代の有無をチェックさせれば行政の負担にはなりませんから、国が金融機関に対してこのような指導を行い、金融機関に未払い残業代の有無をチェックさせ間接的にサービス残業を抑制する手段をとる可能性は十分考えられます。

このような場合には金融機関への融資の申し込みの際にサービス残業を行っていることがネックとなりますから、サービス残業を放置している企業は融資が受けられなくなり資金繰りが行き詰まる可能性があることも認識しておくべきでしょう。

最後に

以上のように、サービス残業にかかる未払い残業代を「有利子負債」と考えれば、そのサービス残業を強いている又は黙認している企業にとって重大なリスクが潜在化していることがわかります。

企業の経営者はサービス残業をさせることで「バカな労働者をタダで働かせて儲かったラッキー」と思っているのかもしれません。

しかし、実際には「有利子負債」という名の大きな落とし穴を自分の足元に掘ってしまっているということにそろそろ気付いた方が良いのではないかと思います。