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内定者研修の目的が実務の習得ならブラックの確率は上がる?

卒業シーズンも間近に迫った昨今、学生の皆さんも慌ただしい毎日を送っているのではないかと思います。

ところで、4月に就職を控えている学生さんの中には、既に就職先の会社が実施する「内定者研修(入社前研修)」に参加したという人も多いのではないでしょうか?

この「内定者研修(入社前研修)」、その内容については「懇親会」的なものや「慰安旅行」的なものから「実際の業務に直結する教育訓練」的なものまで様々なものがあるようですが、もしもみなさんが受けた内定者研修(入社前研修)の目的が「実際の業務に直結する教育訓練的なもの」にあったような場合には、もしかしたらその会社に就職することは考え直した方が良いかもしれません。

なぜなら、内定者研修の目的が実際の仕事に役立てば役立つ内容であるほど、その会社がブラック企業である確率が高くなるからです。

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出席が強制される内定者研修(入社前研修)は違法

内定者研修(入社前研修)をする会社はブラック企業なの?』のページでも書いていますが、内定者研修(入社前研修)への出席を強制的に内定者に求めることは、法律上の問題を発生させる違法なものと考えられます。

なぜなら、内定者研修(入社前研修)への出席が強制させられているのであれば、その研修に出席している内定者はその会社の「指揮命令下」に置かれているということができますが、会社が内定者を「指揮命令下」においているということはすなわち「労働」させているということになりますので、会社はその内定者(労働者)に対して「実労働時間」として賃金を支払わなければならないからです。

この点、内定者研修(入社前研修)を実施している会社で、その研修に出席した内定者に対して賃金を支払っている会社はほとんど無いのが日本の現状といえますから、内定者研修(入社前研修)を実施している会社のほとんどが「支払わなければならない賃金を支払っていない」ことになり、法律に違反する違法な会社ということになります。

 

「実際の業務に直結する教育訓練」的な研修は本来「入社後」に行われるべきもの

前述したように、内定者研修(入社前研修)が強制的な場合には、その研修は「業務」であり、その出席を強制された内定者は「労働」をしている状態にあることに他なりませんから、その内定者研修(入社前研修)に出席した内定者に対しては労働基準法に従った賃金が支払われなければならないということになります。

このように考えると、賃金を支払わない「無給」の内定者研修(入社前研修)が許されるのは、その参加が義務付けられていない「懇親会」的なものや「慰安旅行」的なものである場合に限られるということになります。

なぜなら、その研修の内容が「実際の業務に直結する教育訓練的なもの」であった場合には、仮にその内定者研修(入社前研修)への出席が「任意」であったとしても、多くの内定者は他の新入社員との能力に差がつくことを恐れて内定者研修(入社前研修)に出席することが事実上強制されてしまうからです。

このように、内定者研修(入社前研修)の内容が「実際の業務に直結する教育訓練的なもの」である場合には、それを「入社前」に「賃金を支払わずに」行うことは、事実上「研修という名の業務」を「無給」で内定者に強いることを「強制」することになりますから、「実際の業務に直結する教育訓練的なもの」が含まれる研修は、その内定者が「入社する前」に行うのではなく「入社した後」に行うべきものであるといえるでしょう。

「入社後」であれば当然その研修を受ける労働者に賃金を支払うでしょうから、内定者が入社した後に「社内研修」として「実際の業務に直結する教育訓練」を行えば良く、なにも法律に違反してまで内定者の「入社前」に「実際の業務に直結する教育訓練」を行う必要性は無いはずです。

 

入社前に「実際の業務に直結する教育訓練」的な研修を行う会社の真意は「内定者のタダ働き」という犠牲のもとに「経費を削減」することにある

以上のように、内定者研修(入社前研修)において「実際の業務に直結する教育訓練」を行うことは、出席が任意であるはずの内定者に事実上出席を強制させ、支払わなければならない賃金を支払わずに内定者に「研修」という名の「労働」を強制させる違法な行為につながります。

では何故日本の多くの会社では、このような違法性を帯びる内定者研修(入社前研修)を行っているのでしょうか?

答えは簡単。入社後に教育訓練を行うと、その教育訓練期間中にその労働者に支払わなければならない賃金が「一切利益を生み出さない経費」として会社の損失になるからです。

内定者が入社した後は当然、その内定者は新入社員としてその会社の労働者となっていますから、その労働者に教育訓練を行う場合はその教育訓練を実施した時間についても会社に賃金を支払う義務が生じます。

しかし、新入社員が教育訓練を受けている期間についてはその新入社員は会社の戦力として利益を一切生み出しませんから、その教育訓練を受けている新入社員に対して支払わなければならない賃金は単なる「一切利益を生み出さない経費」になり、会社の損失につながります。

一方、「実際の業務に直結する教育訓練」を内定者が入社する前に内定者研修(入社前研修)として行う場合には、内定者研修(入社前研修)に出席する内定者は「無給」で「実際の業務に直結する教育訓練」を受けてくれますから、その「教育訓練中に支払わなければならない賃金」という「一切利益を生み出さない経費」が発生しないことになり、会社はその「教育訓練中に支払わなければならない賃金」という経費を負担せずに済むことになります。

これはいわば、「内定者のタダ働き」という犠牲のもとに会社が「経費を削減」していることに他なりません。

「入社後」に教育訓練を行うとその期間中の賃金が「経費」として損失になりますから、その損失を回避する目的のために内定者に「タダ働き」をさせて即戦力にしているだけなのです。

内定者に「実際の業務に直結する教育訓練」を受けさせたいのであれば、新卒を採らずに中途採用で経験者を雇えば良いだけ

前述したように「実際の業務に直結する教育訓練」的な研修を行う会社の真意は「内定者のタダ働き」という犠牲のもとに「経費を削減」することにあるのは明白です。

この点、内定者の中には「企業が採用した人材に即戦力になってもらいたいと思うのは当然じゃないか?」と思う人もいるかもしれませんが、それは正しくありません。

なぜなら、内定者に「即戦力」になってもらいたいのであれば、そもそも「新卒」という「未経験者」ではなく、「中途採用」で「経験者」を募集すれば済む話だからです。

「中途採用」で「経験者」を採用すれば、その「中途採用者」はすでに「即戦力」としての能力を有していますから、支払った賃金に見合うだけの利益を会社に生み出してくれるでしょう。

そうであれば、内定者研修(入社前研修)として「実際の業務に直結する教育訓練」をする必要性もなく、内定者にタダ働きをさせるという違法行為にもつながりませんから、企業が「即戦力」を雇いたいのであれば、「新卒」ではなく「中途採用」で「経験者」を雇い入れればよいのです。

では何故企業が「中途採用」ではなく「新卒」を採用したがるかというと、「中途採用」で「経験者」を採用してしまうと支払わなければならない賃金が高くなるからです。

「新卒」と「中途採用」の「経験者」では当然「新卒」の方が給料は安く済みますから、あえて未経験者の「新卒」を採用し、その新卒者の「タダ働き」という犠牲の下に内定者研修(入社前研修)で「実際の業務に直結する教育訓練」を行い、新卒者を中途採用者(経験者)と同等の即戦力にまで能力を向上させているのに過ぎないのです。

内定者に「実際の業務に直結する教育訓練」を行う会社は、コンプライアンスの意識が低く、利益率が低い生産性も悪い会社である可能性が高い

以上のように、内定者研修(入社前研修)で「実際の業務に直結する教育訓練」を行う会社は、支払わなければならない賃金を支払わず、内定者に「タダ働き」を強いることによって会社の経費を削減することも厭わない会社であり、中途採用で経験者を雇うこともままならない資金的に余裕のない会社であるといえます。

これは言い換えると、会社の利益の為なら労働者(従業員)に犠牲を強いることも厭わない法令順守(コンプライアンス)の意識が低い会社であって、人件費に十分なお金を回すだけの資金を稼ぎ出す能力のない利益率の低い会社ということができますから、結果的に利益を生み出す能力の低い生産性の悪い会社であるといえます。

そもそも、その会社の生産性が高いのであれば利益率も高くなり会社に潤沢な資金が用意されているでしょうから、仮に内定者研修を行うとしてもその出席を強制させるのであれば出席者に賃金が支払われるでしょうし、「実際の業務に直結する教育訓練」などは内定者が入社した後に「新人研修」として実施するはずであって法令違反のリスクを冒してまで入社前に内定者研修として行うこともないはずです。

このように、内定者研修(入社前研修)で「実際の業務に直結する教育訓練」を行う会社というものは、端的に言って利益を生み出す能力の低い会社であってコンプライアンス意識の低い会社ということが明白であるといえます。

内定者研修が実際の仕事に役立つほどその会社がブラック企業である確率が上がる理由

以上で説明したとおり、内定者研修(入社前研修)で「実際の業務に直結する教育訓練」が行われた場合には、その会社は「利益率が低く生産性も悪くてコンプライアンス意識も低い会社」ということが言えます。

このような会社に就職するとどうなるかというと、生産性が悪いことから残業や休日出勤といった長時間労働は当たり前となり、利益率も低いことから賃金や残業代が法令どおり支払われない可能性も高くなり、コンプライアンス意識も低いことからパワハラや解雇などの労働トラブルも日常茶飯事ということになるのは明らかです。

これはつまり「ブラック企業」そのものといえますので、内定者研修(入社前研修)で「実際の業務に直結する教育訓練」が行われれば行われるほど、その会社がブラック企業である確率は高くなるといえます。

「当社では実際の業務に役立つ研修を行い入社時には即戦力としてスタートできます!」と自負している企業は多いですが、冷静に考えてみるとそれは「私どもの会社はブラック企業です!」と宣言していることに他ならないのです。

 

最後に

以上はあくまでも私の個人的な意見に過ぎないものですので、上記の意見に賛同できない方も多いかもしれません。

しかし、このページや『内定者研修(入社前研修)をする会社はブラック企業なの?』のページでも説明しているとおり、内定者研修はその実施内容によっては法律に違反する違法なものとなるのは明らかです。

ですから、もしこのページを読んでいる人が入社試験前の学生さんであるならば、自分が入社試験を受ける会社が内定者研修(入社前研修)を行っている会社か否かは会社を選択するうえでの一つの基準にした方が良いのではないかと思います。

また、仮にこのページを読んでいる人が入社を控えた卒業間近の学生さんであるならば、入社後数年経過したときに「内定者研修の内容が実際の業務に役立ったか」を思い出してもらいたいと思います。もしその時点で自分が働いている会社がブラック体質を持っていると思う人がいる場合には、おそらくその人は内定者研修で「実際の業務に直結する教育訓練」を受けていたことに気付くのではないかと思います。

また、もしこのページを読んでいる人が入社から数年経過した社会人でブラック企業に就職してしまったことを後悔しているとすれば、「内定者研修の内容が実際の業務に役立ったか」を思い出してみると、上記の意見が正しいとわかってもらえるのではないかと思います。

 

以上のように、内定者研修(入社前研修)で「実際の業務に直結する教育訓練」が行われた場合、つまり内定者研修の内容が実際の仕事に役立てば役立つほどその会社がブラック企業である確率は高くなると考えられます。

毎年4月になると街で「内定者研修が役に立った!」と喜ぶ新入社員さんの笑顔を見ることも少なくありませんが、このような事実を考えると「あーこの人はこれから苦労するんだろうな…」と憂鬱にならざるを得ません。