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社員旅行の積立金は退職する際に返してもらえるか?

社員旅行の積立金や社内貯蓄の預貯金、従業員に貸与される機材の返還を担保させる保証金など、「積立金」「保証金」「貯蓄金」などの名目で会社が給料から一定額を天引きする場合があります。

このような「積立金」「保証金」「貯蓄金」などの名目で使用者(会社・雇い主)が労働者(社員・従業員)から預かっているお金は、本来は労働者のものといえますから、その労働者が退職する場合には労働者に返還されなければならない性質のお金です。

しかし、一般的な雇い主はこのような積立金などのお金を退職する従業員に返還していないことが多いですし、また退職する従業員の方も「積立金を返して」と請求しない場合も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、このような「積立金」「保証金」「貯蓄金」の名目で給料から天引きされたお金は退職する際に返してもらえるのか、また、返してもらえるとしても会社側が返還を拒否する場合にはどのような対処法を採ればよいかといったことについて考えてみることにいたしましょう。

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「積立金」「保証金」「貯蓄金」などの名目の金品は退職する際に返してもらうことができる

「積立金」「保証金」「貯蓄金」などの名目で会社に預けている(多くの場合は毎月の給料から天引きされている)金品は、退職する際に返してもらう権利があります。

これは労働基準法にも明文で規定されていますので、会社は労働者が退職する際は「積立金」「保証金」「貯蓄金」などの名目で労働者から受け取ったお金を、その退職する労働者に返還しなければなりません(労働基準法第23条第1項)。

【労働基準法23条1項】
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

そのため、例えば毎月の給料から3,000円ずつ「社員旅行の積立金」が積み立てられており、10か月分(30,000円)が積み立てられている時期に退職した場合には、退職する際に「社員旅行の積立金の30,000円を返してください」と勤め先の会社に請求すれば、会社は退職の日から7日以内にその全額(この事例では30,000円)を返還しなければならないことになります。

なお、この点についてはこちらのページでも解説していますので参考にしてください。

▶ 退職する際は通常の給料日の前に給料を受け取れるって本当?

ちなみに、この労働基準法23条の規定に違反する使用者(会社・雇い主)は「30万円以下の罰金」に処せられますので、退職する際に会社が積立金などの返還をしない場合には、その会社は「犯罪」を犯しているということになります(労働基準法120条)。

返さなければならない積立金等の金額に争いがある場合は、双方とも争いのない部分を直ちに返還しなければならない

また、「積立金」「保証金」「貯蓄金」などの金品を返してもらう際に、その金額に使用者(会社・雇い主)との間で争いがある場合であっても、使用者はその争いのない部分を7日以内に支払わなければなりません(労働基準法23条2項)。

【労働基準法23条2項】
前項の賃金又は金品に関して争いがある場合においては、使用者は、異議の無い部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。

たとえば、毎月の給料から3,000円ずつの「社員旅行の積立金」が10か月間で合計30,000円積み立てられているという場合に、使用者(会社・雇い主)の側が「積み立てられているのは9か月分だから27,000円のはずですよ」と言って金額を争っている場合であっても、使用者は退職の7日以内に最低でも「27,000円」は即座に返還しなければならないことになります。

積立金等を返してもらえないときの対処法

① 積立金等の返還を求める請求書(通知書)を送付する

前述したとおり、「積立金」「保証金」「貯蓄金」などの名目で会社が預かっている金品は、退職する際に労働者に返還されなければなりませんが、会社に対して返還するように請求しても、会社側が返還に応じない場合があります。

そのような場合は、まず書面で請求書を作成し、会社に郵送するようにしましょう。

退職時に積立金などの返還を請求する通知書【ひな形・書式】

書面で請求する理由は、後日裁判などになった際に証拠として提出できるようにするためです。

口頭で「返せ」と言ったとしても、裁判になったときには「言った、言わない」の話になって水掛け論で終わってしまいます。

その点、書面で請求しておけば、その書面をコピーして裁判に証拠として提出することが可能となりますので、必ず書面で請求しておくようにしましょう(なお、裁判の証拠として使用する場合は普通郵便ではなく内容証明郵便などで送付するほうが無難です)。

② 労働基準監督署に違法行為の是正申告を行う

労働基準監督署では、労働基準法に違反する行為を行っている会社があることの申告を受けた場合には、その法律に違反している会社に対して臨検や調査、逮捕や送検などを行うことが可能です。

この点、前述したように、退職する際に在職中に積み立てられた積立金を返還しないという行為も、労働基準法の第23条に違反することになりますから、労働基準監督署に違法行為の是正申告を行うことで監督署の臨検や調査を促すことが可能となります。

仮に違法行為の是正申告によって労働基準監督署が臨検や調査を行うことになれば、会社側がそれに従う形で積立金の返還に応じる可能性がありますので、労働基準監督署に違法行為の是正申告を行うことも解決方法の一つとして有効でしょう。

≫ 退職時の社内旅行積立金の返還に関する労基署の申告書の記載例

もっとも、違法行為の是正申告を行っても必ずしも監督署が調査を行うとは限りませんし、会社が監督署の調査に不服がある場合には積立金の返還に応じない場合もありますから、そのような場合には後述するように弁護士などに相談して裁判などで解決を図るほかないでしょう。

③ 労働局に紛争解決援助の申立を行う

全国に設置されている労働局では、労働者と事業主の間に紛争が発生した場合に当事者の一方からの申立によって紛争解決のための”助言”や”指導”、”あっせん”に基づく解決案の提示を行うことが可能です。

この点、退職の際に会社が社内旅行の積立金を返してくれないという事案も、労働者と事業主の間に”紛争”が発生しているということができますから、労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能となります。

≫ 退職時の社内旅行積立金の返還に関する労働局の申立書の記載例

労働局への援助申立によって労働局から出される”指導”や”助言”、あっせんの”解決案”などに会社側が応じるようであれば、会社側が返還を拒んでいる積立金が返還される場合もありますので労働局への紛争解決援助の申立も解決方法の一つとして有効でしょう。

もっとも、労働局の紛争解決援助の手続きに強制力はありませんので、会社側が労働局の示す”指導”や”助言”、あっせんの”解決案”に応じないような場合には、後述するように弁護士などに相談して裁判などで解決を図るほかないでしょう。

④ 弁護士などの法律専門家に相談する

上記のような手続きを行っても会社側が積立金などの返還に応じない場合には、弁護士などの法律専門家に相談し、裁判などを通じて解決を試みることを考える必要もあるでしょう。