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セクハラと強制わいせつ、軽犯罪法、迷惑防止条例違反の違いは?

セクハラの対処法についてはこのサイトでも『セクハラに遭った場合の対処法』のページなどで解説していますが、「セクハラ」と「強制わいせつ罪」あるいは「軽犯罪法違反」「迷惑防止条例違反」の違いが判らない人が多くいるようです。

「セクハラ」と「強制わいせつ罪」「軽犯罪法違反」「迷惑防止条例違反」の違いが判らないとしても、セクハラがいけない行為であることは明白ですので、特に説明する必要性もないかもしれませんが、これらの違いを知っておくことによってセクハラの具体的な判断基準が認識しやすくなる可能性もありますので、「セクハラ」と「強制わいせつ罪」「軽犯罪法違反」「迷惑防止条例違反」の違いを改めて文章に起こしておくことも意味があるのではないかと思われます。

そこで今回は、「セクハラ」と「強制わいせつ罪」「軽犯罪法違反」「迷惑防止条例違反」の具体的な違いについて考えてみることにいたしましょう。

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セクハラとは?

セクハラの判断基準については『これってセクハラ?(セクハラの判断基準とは)』のページで詳細に解説していますのでここでは詳述いたしませんが、セクハラとは具体的には男女雇用機会均等法(正式名称は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)の第11条1項に規定された「性的な言動」を伴う行為によって労働者が「労働条件につき不利益を受け」たり「就業環境が害される」ことを指します。

【男女雇用機会均等法第11条第1項】
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

この男女雇用機会均等法第11条のいう「性的な言動」が具体的にどのような言動を指すのかという点については明確ではありませんが、厚生労働省の指針(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針※厚生労働省の告示(平成18年厚生労働省告示第615号))では、男女雇用機会均等法のいう性的な言動は「性的な発言」と「性的な行動」の2つに分類され、「性的な内容の発言」には「性的な事実関係を尋ねること」や「性的な内容の情報を意図的に流布すること」等が、「性的な行動」には「性的な関係を強要すること」や「必要なく身体に触ること」「わいせつな図画を配布すること」等が該当すると解釈されていますので、このような行為がいわゆる「セクハラ」と判断されることになります。

【性的な言動とは? 】
「「性的な言動」とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指し、この「性的な内容の発言」には、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等が、「性的な行動」には、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等が、それぞれ含まれる。」
(※「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)2 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容」より引用)

なお、「セクハラ」は男女雇用機会均等法の第11条がその根拠となる行為になりますが、同条の条文を見てもわかるとおり、男女雇用機会均等法第11条の規定はあくまでも「事業主」に対して性的な言動である「セクハラ」に起因する問題が職場で発生しないよう求める規定であって、その職場で働く労働者に対して直接「セクハラ」をしないよう求める規定ではありません。

勿論、セクハラはその被害を受ける労働者の人格権を侵害する違法な行為ですので、セクハラ行った加害者の労働者は不法行為責任(民法709条)等による損害賠償請求の対象となりますが、そういった損害賠償等の慰謝料請求が可能となるのは民法等の一般法の規定によるものであり、男女雇用機会均等法や労働基準法、労働契約法などいわゆる労働法で禁止されているものではないのです。

そのため、仮にセクハラの加害者がセクハラ行為を行ったとしても、そのセクハラ行為自体を禁止する法律はなく、罰則規定も存在していませんので、そのセクハラ行為が後述する強制わいせつ罪や軽犯罪法もしくは各都道府県の迷惑防止条例に抵触しない限り、セクハラの加害者に刑事罰は科されないということになります(※ただしセクハラが不法行為であることには変わりないので慰謝料を請求されるという民事罰は受けることになります)。

「強制わいせつ」と「セクハラ」の違いとは?

一方、「強制わいせつ」とは、暴行や脅迫という手段を用いて行われるわいせつな行為をいいます(刑法第176条)。

【刑法第176条】
13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

刑法で規定される犯罪の成立要件を説明すると長くなるのでここでは簡単にしか説明しませんが(※詳しく知りたい方はコンメンタールや専門書などを読んでください)、わいせつな行為を行うに際して「暴行」又は「脅迫」という手段を用いているかいないかがこの強制わいせつ罪の判断基準となります。

たとえば、男性が自分の性器を女性の手に触らせる行為を例にすると、女性の手をつかんで強引に自分の性器を触らせたような場合には「女性の手をつかんで強引に」という行為が暴行性を帯びていると判断できますのでその「暴行」の度合いによってはこの強制わいせつ罪に該当すると思われますが、そのような暴行を用いるのではなく例えば女性の背後から「こっそりと近づいて」自分の性器を押し当てたような場合には暴行性がありませんから通常は強制わいせつ罪には問われないと考えられます(このような場合は後述する軽犯罪法か迷惑防止条例違反ということになるでしょう)。

では、セクハラと強制わいせつの違いはどこにあるのでしょうか?

この点、前述したセクハラの場合には「性的な言動」によって「就業環境が害される」事実があればそれでセクハラに該当することになるところ、強制わいせつ罪が構成要件としている「わいせつな行為」は「性的な言動」に含まれるのは明白ですので、強制わいせつ罪として処罰されるわいせつな行為を会社内で行ったことによって就業環境が害された場合には当然その行為はセクハラに該当することになります。

一方、セクハラに該当する「わいせつな行為」であっても、それが「暴行」や「脅迫」を伴わない場合には、「セクハラ」には該当したとしても「強制わいせつ罪」には問われないということになります。

たとえば前述の「会社で自分の性器を女性労働者の手に触らせる」行為を例にとると、性器を触らせる行為自体は前述した男女雇用機会均等法第11条にいう「性的な言動」の「性的な行動」に該当し性器を触らせられた女性労働者は「就業環境が害される」と考えられますので「女性の手をつかんで強引に」触らせようと「こっそりと近づいて」性器をくっつけようとその行為自体が「性的な行為」としてセクハラに該当することになります。

他の例で考えると、たとえば会社のパソコンで勤務時間中にエロサイトを閲覧しているだけのような場合では、その行為自体は「わいせつな行為」と言える余地がありその行為によって他の労働者の「就業環境が害される」余地はあるものの「暴行」や「脅迫」を用いてエロサイトを見ているという状況はありえませんので、男女雇用機会均等法第11条にいう「性的な言動」として「セクハラ」に該当する可能性が高い半面、「強制わいせつ罪」には該当しないということがいえます。

「軽犯罪法違反」と「セクハラ」の違いとは?

軽犯罪法とは「さまざまな軽微な秩序違反行為に対して拘留、科料の刑を定める日本の法律(軽犯罪法-wikipediaより引用)URL→https://ja.wikipedia.org/wiki/軽犯罪法)」であって、刑法で処罰されないような軽重な犯罪を規定する法規範となります。

軽犯罪法には様々な行為が明記されていますが、セクハラに該当する「性的な言動」に分類されるような行為としては軽犯罪法の第20号に挙げられている「公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出」する行為が該当するのではないかと考えられます(軽犯罪法)。

【軽犯罪法第20号】
公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者

この点、男女雇用機会均等法第11条の「性的な言動」には「性的な行為」が含まれますから、会社で露出した体の部位が「しり」であったり「もも」や「その他身体の一部」であったとしても、それを見せられた相手の労働者の「就業環境が害される」ようであればセクハラに該当するものと解されます。

ただし、セクハラの場合はあくまでもその性的な言動を受けた労働者の「就業環境が害される」ことが必要ですので、たとえば太ももに皮膚病を持っている労働者が昼休みに太ももに薬を塗るためにズボンを下した場面を想定すると、太ももを露出する行為は「性的な行動」と判断される余地はありますのでそれを見た労働者が「就業環境を害される」と感じた場合にはセクハラに該当することもあるかもしれませんが、それを見た労働者が「就業環境を害される」と感じない場合にはセクハラには該当しないことになります。

一方、軽犯罪法の場合には「公衆の目に触れるような場所」で「公衆にけん悪の情を催させるような仕方」で「もも」を露出すれば足り、それを見せられた相手が「就業環境を害された」かどうかは関係ありませんので、休み時間に太ももを露出した場合にはそれが「公衆の目に触れるような場所」で「公衆にけん悪の情を催させるような仕方」でなされたような場合には、軽犯罪法に抵触する余地はあるということになります(※ただし休み時間に薬を塗るために太ももを露出したからという理由で軽犯罪法で検挙されるかというとそれはたぶんないと思います)。

「迷惑防止条例」と「セクハラ」の違いとは?

迷惑防止条例都は各都道府県ごとに制定された条例で、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止」することを目的として定められた法規範になりますが、例えば東京都の迷惑防止条例では公共の場所等で他人の体に触ることが禁止されていますので(いわゆる痴漢行為)、これがセクハラとどう違うのかが問題となります。

【東京都迷惑防止条例第5条第1項】
何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。
第1号 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。

この点、前述したように男女雇用機会均等法第11条の「性的な言動」には「性的な行為」が含まれますから、この軽犯罪法にいう「人の身体に触れる」行為は「性的な行為」としてセクハラに該当する余地はあります。

しかし、セクハラの場合には、その「性的な行為」を受けた労働者が「就業環境を害される」ことが必要ですから、例えば職場で男性労働者が女性労働者の「身体に触れ」た場合にその女性労働者が「就業環境を害される」ほどに嫌悪感を覚えたような場合にはその「身体に触れる」行為はセクハラに該当することになりますが、「身体を触」られた女性労働者が「就業環境を害される」ほどに嫌悪感を覚えなかったような場合にはセクハラには認定されないことになります。

一方、迷惑防止条例では「正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような」状況で「人の身体に触れる」行為自体が構成要件となっていますので、そのような状態で女性労働者の体に触ったような場合には、仮にその女性労働者の「就業環境が害されなかった」としても、迷惑防止条例違反に該当する余地はあるということになります。

最後に

以上のように、「セクハラ」と「強制わいせつ罪」「軽犯罪法違反」「迷惑防止条例違反」ではその想定している行為そのものが異なりますので、「セクハラ」に該当する行為であっても「強制わいせつ罪」や「軽犯罪法違反」「迷惑防止条例違反」に該当しない行為は存在することになります。

これを逆に考えると「強制わいせつ罪」や「軽犯罪法違反」「迷惑防止条例違反」に該当しない行為であっても「セクハラ」に該当する場合はあるということができます。

たとえば、職場で「バナナ」を食べる行為自体は「性的な言動」には該当しませんので「セクハラ」には該当しませんし、「バナナ」を食べる行為自体にわいせつ性はなく暴行や脅迫を用いるわけでもないので「強制わいせつ罪」にも該当せず、体の部位を露出するわけでもないので「軽犯罪法違反」にも当たらないし、他人を触るわけでもないので「迷惑防止条例違反」にも該当しないといえます。

しかし、例として適当ではないかもしれませんが、たとえばそのバナナを男性の性器に見立てて女性労働者の前でそのバナナを嘗め回すように口に含んだとすれば、その行為自体にわいせつ性はあっても暴行や脅迫はないので「強制わいせつ罪」に該当せず、体の部位を露出するわけでもないので「軽犯罪法違反」にも当たらないし、他人を触るわけでもないので「迷惑防止条例違反」にも該当しないと考えられますが、このような性的な行為を想起させる行動は「性的な言動」の「性的な行為」にあたることは明らかですから、そのバナナをなめる行為よってそれを見た労働者の就業環境が害されるような場合には男女雇用機会均等法第11条で規定されるセクハラと判断され、会社内での懲戒処分の対象となったり慰謝料等の請求がされる場面も有り得るということになるでしょう。

このように、「強制わいせつ罪」や「軽犯罪法違反」「迷惑防止条例違反」に該当しない行為であってもセクハラとして問題になる場合はありますから、職場での「性的な言動」には十分注意することが必要といえます。