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異性からの嫌がらせはセクハラ?それともモラハラ?

勤務している職場で異性から嫌がらせを受けた経験がある人は多いと思います。

「嫌がらせ」は一般的に考えれば「いじめ」といえますので職場における嫌がらせは「モラハラ(職場いじめ)」となりますが、その嫌がらせの内容によっては「セクハラ」と判断できるような「モラハラ(職場いじめ)」もあるのが実情です。

たとえば、男性が太っている女性に対して「デ〇!」とか「ブ〇!」などとバカにする言動は「モラハラ(職場いじめ)」となり得ますが、その「デ〇」や「ブ〇」という言動を受けた女性が性的な羞恥心を感じるような場合には、その「デ〇!」や「ブ〇!」という言動が「セクハラ」と判断される余地もあると考えられるでしょう。

このように、職場における「嫌がらせ」と一口に言ってもその態様は様々ですので、「嫌がらせ」の内容によっては「モラハラ(職場いじめ)」と判断されるものもあれば「セクハラ」と判断されるものもあり、その境界線は非常にあいまいです。

そこで今回は、異性から受ける嫌がらせが「モラハラ(職場いじめ)」であるか「セクハラ」であるかを判断する基準などについて考えてみることにいたしましょう。

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モラハラとセクハラの違いの判断基準

前述したように「モラハラ(職場いじめ)」と「セクハラ」の境界線はあいまいな部分がありますが、法律の条文を見ながら考えるとその判断は比較的簡単ですので、まずハラスメントに関する条文を理解するところから始めましょう。

(1)ハラスメント行為は全て労働契約法の第5条が適用されることになる

職場におけるハラスメントには、まず労働契約法の第5条が適用されることになります(※「労働基準法」ではなく労働契約法の第5条ですので間違えないように)。

【労働契約法第5条】
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

職場における「嫌がらせ」はそれが「モラハラ」であろうと「セクハラ」であろうと、はたまた「パワハラ」であろうと、その嫌がらせを受ける労働者に精神的又は肉体的なダメージを与える行為となりますので、その嫌がらせを受けた労働者はその「生命」や「身体等」の「安全を確保しつつ労働すること」が困難になる可能性があります。

したがって、職場で労働者による「嫌がらせ」が発生した場合には、その会社はそのような嫌がらせを止めさせる法律上の義務があることになりますから、職場で「嫌がらせ」を受けた場合にはその「嫌がらせ」が「モラハラ」「セクハラ」「パワハラ」のどれであろうと、その会社に対して「嫌がらせを止めさせろ!」と要求することが出来ますし、これに会社が適切に対応しない場合にはその会社は労働契約(雇用契約)上の義務違反となりますから会社に対して慰謝料等の損害賠償請求を行うことも可能となります。

(2)ハラスメント行為に「性的な言動」が含まれる場合には「セクハラ」として男女雇用機会均等法の第11条も適用されることになる

前述したように、職場で「嫌がらせ」が発生した場合には、その嫌がらせが「モラハラ(職場いじめ)」「セクハラ」「パワハラ」のどれであろうと労働契約法第5条の対象となり、会社にはその「嫌がらせ(ハラスメント行為)」に適切に対処しなければならない義務がありますから、その「嫌がらせ」の被害者は「労働契約法第5条」に基づいて会社に対し「嫌がらせを止めさせろ!」と要求することができます。

もっとも、その「嫌がらせ(ハラスメント行為)」の中に「性的な言動」が含まれる場合には、この「労働契約法第5条」だけでなく「男女雇用機会均等法の第11条」に基づいて会社に対して「嫌がらせを止めさせろ!」要求することが出来ることになります。

男女雇用機会均等法の第11条はいわゆる「セクハラ」が発生した場合における会社の対処義務を定めた規定ですが、男女雇用機会均等法の第11条1項では、職場で「性的な言動」を受けた労働者が「労働条件に尽きる不利益を受け」たり、「就業環境が害され」たような場合には、会社にその問題に適切な対処をすることが求められています。

【男女雇用機会均等法第11条1項】
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

したがって、職場で受けた「嫌がらせ」に「性的な言動」が含まれており、かつその「性的な言動」に基づく「嫌がらせ」によりその嫌がらせを受ける労働者が「労働条件につき不利益を受け」たり「就業環境が害され」たというような事実がある場合には、その労働者は会社に対して「嫌がらせを止めさせろ!」と要求することが出来ますし、これに会社が適切に対応しない場合にはその会社は労働契約(雇用契約)上の義務違反を理由として会社に対して慰謝料等の損害賠償請求を行うことも可能となります。

(※なお、具体的にどのような行為が「性的な言動」に該当し「労働条件に不利益を受け」たり「就業環境が害され」たと判断できるのかといった点については『これってセクハラ?(セクハラの判断基準とは)』のページで詳しく解説しています。)

このように、「嫌がらせ」に「性的な言動」が含まれない場合には「労働契約法第5条」に基づいて会社に対して「嫌がらせを止めさせろ!」と請求することができますが、「嫌がらせ」に「性的な言動」が含まれておりその嫌がらせを受ける労働者が「労働条件につき不利益を受け」たり「就業環境が害され」たというような事実がある場合には、その「労働契約法第5条」に加えてさらに「男女雇用機会均等法第11条」に基づいても会社に対して「嫌がらせを止めさせろ!」と請求することができるということになります。

(3)モラハラ(職場いじめ)とセクハラの違いの判断基準

前述したように、職場における「嫌がらせ」は全て「労働契約法第5条」の射程範囲内ということができますので、「セクハラ」も「モラハラ(職場いじめ)」もすべて「労働契約法第5条」に基づいて解決を図ることが出来るということが出来ます。

一方、その「嫌がらせ」に「性的な言動」が含まれる場合には「男女雇用機会均等法第11条1項」の射程範囲内ということもできますので、「嫌がらせ」に「性的な言動」が含まれておりかつその嫌がらせを受けた労働者が「労働条件につき不利益を受け」たり「就業環境が害され」たというような事実がある場合に「セクハラ」として「男女雇用機会均等法第11条1項」に基づいて解決を図ることもできるということが出来ます。

このように考えると、職場における「嫌がらせ」が「モラハラ(職場いじめ)」か「セクハラ」か判断する基準は、その「嫌がらせ」の中に「性的な言動」が含まれているか、またその「性的な言動」によって労働者が「労働条件につき不利益を受け」たり「就業環境が害され」た事実があるか、という点に尽きるということになります。

すなわち、職場で「嫌がらせ」を受けた場合に、その「嫌がらせ」の中に「性的な言動」が含まれており、その「性的な言動」によって「労働条件につき不利益を受け」たり「就業環境が害され」た事実がある場合には、その「嫌がらせ」は「セクハラ」と判断できるでしょう。

一方、職場で「嫌がらせ」を受けた場合であっても、その「嫌がらせ」の中に「性的な言動」が含まれていない場合にはその「嫌がらせ」は「モラハラ(職場いじめ)」となりますし、仮にその「嫌がらせ」の中に「性的な言動」が含まれていたとしても、その「性的な言動」によって「労働条件につき不利益を受け」たり「就業環境が害され」た事実がなかった場合には、その「嫌がらせ」は「セクハラ」ではなく「モラハラ(職場いじめ)」と判断されることになると考えられます。

なお、これをフローチャートで表すとこのような感じになります。

Q:職場で受けた嫌がらせに「性的な言動」が含まれているか?
A:含まれているA:含まれていない
Q:労働条件に不利益を受けたか?
A:受けたA:受けていない
Q:就業環境が害されたか?
A:害されたA:害されていない
セクハラセクハラモラハラモラハラ

セクハラとモラハラの区別はそれほど重要ではない

上記で説明したように、職場における「嫌がらせ」は、その「嫌がらせ」の中に「性的な言動」が含まれているかや、その「性的な言動」によって「労働条件につき不利益を受け」たり「就業環境が害され」た事実があったか、といって点で「モラハラ(職場いじめ)」か「セクハラ」かが区別されることになります。

もっとも、職場で発生した「嫌がらせ」について、それが「セクハラ」であるか「モラハラ(職場いじめ)」であるかを正確に区別することはそれほど重要ではありません。

なぜなら、前述したように職場で「嫌がらせ」が発生した場合には、その会社はその「嫌がらせ」が「セクハラ」であろうと「モラハラ(職場いじめ)」であろうと、その嫌がらせに適切に対処する義務を負っているからです。

職場で「嫌がらせ」が発生した場合には、その「嫌がらせ」が「セクハラ」であろうと「モラハラ(職場いじめ)」であろうと会社に対してその嫌がらせを「止めさせろ!」と請求することが出来ますし、会社がその労働者の求めに適切に対処しない場合には会社に対して労働契約(雇用契約)上の義務違反として慰謝料等の損害賠償請求も可能となりますから、その「嫌がらせ」を「セクハラ」であるか「モラハラ(職場いじめ)」であるかを厳密に区別する必要性はそれほどありません。

あるとすれば、会社に対して対応を請求する場合に「労働契約法第5条」を根拠にするか「男女雇用機会均等法第11条1項」を根拠にするかという点ですが、このような専門的な選別は「嫌がらせ」のトラブルを労働局に相談する場合には労働局の手続きに関与する専門家が教えてくれますし、弁護士や司法書士に解決を依頼する場合にはその法律専門家が根拠とする法律を選択しますから、労働法に精通していない一般の労働者がそこまで神経質になってその区別をつける必要性はあまりないでしょう。

大事なのは、職場で「嫌がらせ」を受けた場合には、それが「モラハラ(職場いじめ)」であろうと「セクハラ」であろうと(もちろんパワハラであろうと)、その会社は適切に対処する法律上の義務を負っているという点であり、会社に対して「嫌がらせを止めさせろ!」と請求することが出来る点であって、仮に会社が適切に対応しない場合には会社に対して損害賠償請求などを求めることも可能となるという点です。

職場における「嫌がらせ」についてはこのように会社に対して対応を求めることが出来るという点を知っていることが重要ですから、その嫌がらせが「モラハラ(職場いじめ)」か「セクハラ」かの区別については、会社が対応しない場合に改めて労働局や弁護士などに相談する際に考えればよいのではないでしょうか。

なお、職場で嫌がらせを受けている場合の具体的な対処法についてはこちらのページを参考にしてください。

セクハラに遭った場合の対処法

▶ 職場いじめ・社内いじめを受けている場合の対処法

ちなみに、「嫌がらせ」を行っている「加害者」本人に対して責任を追及したり損害賠償請求を行う場合は、前述した「労働契約法」や「男女雇用機会均等法」ではなく民法の709条を根拠として慰謝料請求などをするのが一般的ですので、その「嫌がらせ」が「モラハラ(職場いじめ)」か「セクハラ」かを区別する必要性はほとんどないのではないかと思われます。

(※「嫌がらせ」を行っている「加害者」本人に対して慰謝料等の請求をする場合はその「嫌がらせ」によって何らかの損害等を受けたか否かが重要ですから、その「嫌がらせ」がモラハラかセクハラ化を区別する必要はありませんし、そもそも労働契約法や男女雇用機会均等法は「労働者と会社」の間の権利義務を規定した法律であって「労働者と労働者」の間の権利義務を規定した法律ではありませんから、その「嫌がらせ」が「モラハラ(職場いじめ)」か「セクハラ」かを区別する必要性はないと考えられます。)