「黙示の更新」が認められずに雇止めされたときの対処法


有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)の契約期間が満了した場合であっても、その契約期間が満了した後に労働者が引き続きその職場で就労を継続し、使用者(会社)がそのことを知りながら黙認していた場合には、「黙示の更新」として引き続き契約が更新されたものとして扱われることになります(民法第629条1項)。

【民法第629条第1項】

雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。

例えば、「契約期間1年」で勤務している労働者が契約期間が満了する状況にあるにもかかわらず会社から更新について何も通告されないため「契約が更新されるもの」と考えて契約期間を満了した後もそれまでどおり引き続き勤務し、それに対して上司などから「契約は終わったんだから出社して来るな」などと言われないような場合には、民法第629条第1項の規定により「黙示の更新」として従来と同一の労働条件で契約が更新されたものと判断されることになるわけです(※ただし黙示の更新後は「無期雇用契約(期間の定めのない雇用契約)」となる)。

(※この論点については『契約期間満了後に更新されない場合は雇止め?それとも自動更新?』のページで詳しく解説しています)

もっとも、悪質な会社ではこのような「黙示の更新」が認められる状況であるにもかかわらず、契約期間が満了した労働者に対して契約の更新がされなかったものとして取り扱い、強制的に退職を迫るケースもあるようです。

そこで今回は、有期雇用契約の契約期間が満了し「黙示の更新」が認められるケースであるにもかかわらず、会社から契約期間の満了を理由に雇止め(解雇)された場合には具体的にどのような対応を取ればよいのか、その対象法について考えてみることにいたしましょう。

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「黙示の更新」が認められるにもかかわらず会社が更新を拒否して退職を迫る場合の具体的事例

会社側が「黙示の更新」を認めないケースとしては、たとえば会社が本来は雇止めで契約を解除すべきところを「契約期間が満了していること」に気付かずに引き続き働かせてしまったため、後になって会社側が一方的に契約期間の満了を理由に一方的に雇止めしてしまう場合が考えられます。

このような事例では「黙示の更新」が成立しているため労働者はその契約期間満了後も引き続き契約が更新されたものとして就労することが可能ですが、「雇止めするのを忘れていた」会社側としてはその労働者に退職してもらいたいため「黙示の更新」を認めずに一方的に解雇(雇止め)を命じることがあります。

また、たとえば会社が「契約期間が満了していること」に気付きながら人員不足を懸念して引き続き雇用を継続したもののしばらく経ってから何らかの理由で人員削減が必要となり、「契約期間が満了していたこと」を理由として解雇(雇止め)を迫るケースも考えられます。

このような場合も「黙示の更新」が成立しているわけですが、「雇止めしなかったことを後悔している」会社側としてはその労働者を退職させたいため「黙示の更新」を認めずに「契約期間が満了していたこと」を理由として解雇(雇止め)を迫る場合があるのです。

もちろん、「黙示の更新」は法律上で規定されているものですので、会社側が「黙示の更新」を認めない場合でも民法民法第629条第1項に規定された要件を満たしていれば「黙示の承認」として契約が更新されることになるわけですが、会社側が「黙示の更新」を認めない場合には事実上その会社で勤務することはできませんから、そのような場合には具体的に何らかの対処法が必要となってくることになります。

民法第629条1項の「黙示の更新」によって契約が更新された後の「雇止め」は「雇止め」ではなく「解雇」になる

前述したように、民法第629条1項に基づいて「黙示の更新」が認められて契約が更新されていると認められるケースであるにもかかわらず会社側が「契約期間の満了」を理由として「雇止め」してくるケースがありますが、このような場合の「雇止め」は法理論的にいうと「雇止め」ではなく「解雇」となります。

なぜなら、『契約期間満了後に更新されない場合は雇止め?それとも自動更新?』のページでも解説していますが、有期雇用契約の契約期間が満了して「黙示の更新」により従前と同一の労働条件で契約が更新された場合には、その「黙示の更新」後は「期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)」として契約が継続されることになりますので、使用者(会社)が労働者を強制的に辞めさせることは「解雇」と判断されることになるからです。

そして、「解雇」と判断される以上、労働契約法第16条に基づいてその「解雇」の理由に「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が必要になりますが(労働契約法第16条)、民法第629条1項の「黙示の更新」によって有効に更新された契約を無視して「解雇」することに「客観的合理的理由」や「社会通念上の相当性」が認められることをあり得ませんから、「黙示の更新」を無視して会社から「雇止め(解雇)」された場合には、その解雇は無効と判断されることになります。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

会社が「黙示の更新」を認めてくれないときの対処法

以上で説明したように、「黙示の更新」が成立しているにもかかわらず会社側が「黙示の更新」を拒否して雇止め(解雇)を命じる場合には、その「雇止め」は「解雇」であって労働契約法第16条に基づいて無効と判断されますから、以下のような方法を用いて対処することも考える必要があります。

(1)申入書(通知書)を送付する

「黙示の更新」が成立している状況にあるにもかかわらず、会社が「黙示の更新」を認めないと主張して雇止め(契約期間満了を理由とした解雇)を命じるような場合には、「黙示の更新による契約の更新がなされていること」を理由として記載した「雇止めの撤回申入書」を作成し、「書面(文書)」という形で会社に通知してみるのも一つの方法として有効です。

口頭で「黙示の更新が成立している!」とか「雇止めを撤回しろ!」と請求して埒が明かない場合であっても、文書(書面)という形で改めて正式に通知すれば、会社側が「なんか面倒なことになりそう」とか「裁判を起こされるんじゃないだろうか」と考えて「黙示の更新」を認めたり「雇止め」を撤回する場合もありますので、申入書(通知書)という形の文書で通知することも一定の効果があると思われます。

なお、この場合に会社に送付する申入書(通知書)の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 「黙示の更新」を無視した雇止めの撤回を求める申入書

(2)労働局に紛争解決援助の申立を行う

全国に設置されている労働局では、労働者と事業主の間に発生した紛争を解決するための”助言”や”指導”、または”あっせん(裁判所の調停のような手続)”を行うことが可能です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第1項)。

【個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条】

第1項 都道府県労働局長は(省略)個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該個別労働関係紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができる。

この点、有期雇用契約の契約期間が満了し「黙示の更新」があったと推定される状況であるにもかかわらず会社側が契約期間の満了を理由として雇止め(解雇)を命じるような場合には、「黙示の更新が成立している!」または「雇止めを撤回しろ!」などと主張する労働者と「契約期間は満了した」「黙示の更新は成立していない」と主張する使用者(会社)との間に”紛争”が発生しているということになりますので、労働局に対して紛争解決援助の申立を行うことが可能となります。

労働局に紛争解決援助の申立を行えば、労働局から必要な”助言”や”指導”がなされたり、”あっせん案”が提示されることになりますので、事業主側が労働局の指導等に従うようであれば、使用者(会社)側がそれまでの態度を改めて違法な「雇止め」(※法律上有効に推定される黙示の更新を否定して雇止めすること)を撤回する可能性も期待できるでしょう。

▶ 都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省

なお、この場合に労働局に提出する紛争解決援助申立書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 「黙示の更新」を無視した雇止めに関する労働局の申立書

(3)弁護士などに依頼し裁判や調停を行う

上記のような手段を用いても解決しなかったり、最初から裁判所の手続きを利用したいと思うような場合には弁護士や司法書士に依頼して裁判や調停を申し立てるしかないでしょう。

弁護士などに依頼するとそれなりの費用が必要ですが、法律の素人が中途半端な知識で交渉しても自分が不利になるだけの場合も有りますので、早めに弁護士や司法書士に相談することも事案によっては必要になるかと思われます。

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