広告

給料の支払方法は、法律で事細かに定められているという話

労働の対価として受け取る給料(賃金)ですが、その支払い方法については法律で事細かに定められています。

これは、給料(賃金)の支払い方法などを雇い主が自由に行うことができるとしてしまうと、雇い主が何かの理由を付けてピンはねしたり、支払時期を遅延させたりして労働者の生活を脅かす恐れがあるためです。

そこで、ここでは法律で定められている給料(賃金)の支払い方法についての決まりごとなどについて考えていくことにいたしましょう。

広告

「通貨」で支払わなければならない

給料(賃金)は「通貨」で支払われなければなりません(労働基準法24条)。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(但書省略)(労働基準法24条)

「通貨」とは、1万円札・5千円札・2千円札・千円札・500円玉・100円玉・50円玉・10円玉・5円玉・1円玉を言いますので、給料(賃金)の支払いは現金での給付が原則です。

「通貨」で支払う必要があるため、給料(賃金)を「現物給付」で行うことは違法となります。

たとえばミカン農家のアルバイトで、アルバイト代の日当8000円を8000円分のミカンで支払うというようなものは、たとえその受け取るミカンが8000円を超える場合(市場に持ち込めば9000円以上で買い取ってもらえるような場合)であっても違法となります。

なので、もしあなたが働いている雇い主が、給料を現物給付で支払おうというような場合には、 「現金で支払えよ」 と文句を言って現金で支払わせることができることになります。

なお、給料の銀行口座への振込は、厳密には「現金給付」にはあたりませんが、確実に支払われることが約束されているため例外的に認められています(労働基準法24条但書)。

「直接」支払われなければならない

給料(賃金)は、「直接」本人に支払われなければなりません(労働基準法24条)。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(但書省略)(労働基準法24条)

そのため、たとえ未成年者のアルバイト代であっても、その働いた本人(その未成年者本人)に給料が支給されなければ違法となります。

「その全額」が支払われなければならない

また、給料(賃金)は、その全額が支払われなければなりません(全額払の原則:労働基準法24条)。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(但書省略)(労働基準法第24条)

「全額が支払われなければならない」 とは、支払われるべき給料(賃金)から、何かの理由を付けて金額を差し引いたりすることができないということを意味します。

たとえば、日当1万円の引越しのアルバイトをしているときに、荷物を落として時価3000円相当の壁掛時計を壊してしまったとしましょう。

この場合に、雇い主が「落とした時計の代金は弁償してもらうから、アルバイト代から3000円差し引かせてもらうぞ」といって1万円から3000円を差し引いた7000円をアルバイト代として支払うのは違法となります。

そのため、たとえその時計を落としたことについて100%自分に落ち度があったとしても、雇い主に対して「アルバイト代の1万円を全額支払ってください」ということができます。

また、たとえば月給20万円の正社員の仕事で、5万円の給料の前借をしていたとしても、会社側が今月分の給料から前借分の5万円を差し引いた15万円を支給するのは違法となります。

このような場合は、会社はいったん給料全額の20万円を支払った後、改めて前借分の5万円を請求して5万円を回収するという手順を踏まなければなりません。

そのため、もしも会社側が給料の前借分を差し引いた金額を支給するような場合には、たとえ給料の前借をしていたとしても「給料の全額を支払ってください」と抗議することが可能です。

なお、給料から社会保険料(健康保険・年金)や所得税などが控除される場合がありますが、これらについては法律で特別に控除することが認められていますので(労働基準法24条1項後段)違法とはなりません。

▶ 仕事上のミスで壊した物の弁償費用を給料から天引きされた場合

全額払いの原則の例外

上記のように、給料は原則として労働者に対してその「全額」が支払われなければなりませんが、例外として次のような場合には「労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのないもの」と判断されて賃金との相殺が認められる場合があります。

(1)過払い賃金を精算するための調整的な相殺

労働者に支払った賃金に過払いが生じていた場合はその過払いになった賃金相当額を労働者から返してもらうことがありますが、その場合に翌月の給料から過払い分を差し引いて回収することがあります。

このような賃金の調整的な相殺は、あらかじめ労働者に予告されるとか、相殺されるの金額が多額でないなど、労働者の経済生活を脅かす恐れがない場合には、給料全額払いの原則の例外として認められることがあります(福島県教組事件:最高裁昭和44年12月18日)。

(2)労働者の同意がある場合

労働者の同意を得て行う賃金の相殺については、その労働者の同意が

「労働者の自由意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合」には給料全額払いの原則の例外として認められる場合があります(日新製鋼事件:最高裁平成2年11月26日)。

例えば前述の例で、会社側が労働者側の合意を取り付けてアルバイト代から時計の弁償費用3000円を差し引いて7000円をアルバイト代として支給する場合(「時計を壊したのは100%お前が悪いからバイト代から3000円を差し引いてもいいか」と聞かれて「はい、3000円を差し引いてかまいません」と答えている場合)などが考えられます。

しかし、このように雇い主と労働者が給料から弁償費用などを差し引いて支給することに合意している場合であっても当然にその給与から弁償費用を差し引いて支給することが合法となるわけではなく、「労働者の合意が労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限って有効」と考えられています(日新製鋼事件:最高裁平成2年11月26日)。

「合理的な理由が客観的に存在する」という言い回しは理解しにくいかもしれませんが、簡単にいえば、「本人(労働者側)が自由な判断で(会社側に強制されずに)給料から差し引くことに承諾した」と言えるような理由が「本人以外から見ても明らかである場合」と考えることができると思います。

したがって、たとえ本人が「3000円を差し引いてもいいですよ」と言っている場合であっても、他の人が見てその本人の言葉が本心から言っているのだと判断できる合理的な理由がない場合は、給料から3000円差し引くことは違法となります。

もっとも、このあたりの判断は微妙に難しいものがありますので、詳しい判断基準については弁護士などに相談する方がよいでしょう。

(3)解雇無効期間中の賃金から中間収入を控除する場合

会社から解雇された後、会社に解雇無効の裁判を起こして勝訴した場合には、解雇期間中の給料を会社に対して請求することができます。

例えば1月1日に解雇され、7月1日に解雇無効の裁判で勝訴したような場合には、解雇されていた1月から6月までの給料を会社が支払わなければならないことになります。

しかし、この解雇期間中に解雇された労働者が他の仕事について賃金を受け取っていたような場合には、会社はその労働者が他の仕事によって得ていた賃金相当額を解雇期間中の賃金から差し引いて支払うことが認められています(民法536条2項)。

たとえば、前述の例で解雇された労働者が受け取るべき解雇期間中の賃金が120万円(月給20万円×6か月分)であった場合に、2月1日から5月31日までの4か月間別の会社で月給15万円の給料を受け取っていたとすると、解雇無効の裁判で敗訴した会社は解雇期間中の賃金として支払うべき給料である120万円から労働者が別の会社から受け取っていた60万円を差し引いた(相殺した)60万円を支払えばよいということになります。

このような解雇期間中の中間収入については、平均賃金の6割を超える部分の相殺であれば、労働者の生活安定を害する恐れがないことから全額支払いの原則に反せず有効と判断される可能性があります(米軍山田部隊事件:最高裁昭和37年7月20日)。

給料(賃金)は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払われなければならない

給料(賃金)は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないと法律で決められていますので(労働基準法24条2項)、給料日がまちまちであったり(今月は10日だけれども来月は25日が給料日だったりする場合)、給料日が2カ月に1回などと言うような会社は、法律違反を行っている会社ということになります。

最後に 以上のように、給料(賃金)の支払い方法などは法律(労働基準法)で厳しく定められています。

そのため自分が働いている会社が上記の決まりを守っていないような場合には、その改善を求めて労働基準監督署などに相談に行くことも考えた方がよいかもしれません。