「解雇予告手当を支払えば自由に解雇できる」は間違いです!

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ec72557403f644f38ae628764a1584b5_s

最近はだいぶ少なくなってきたようですが、今でも「解雇予告手当を支払えば従業員を解雇しても良い」と間違って理解している企業の経営者や役職者(上司)は少なからずいるようです。

確かに、労働基準法には「労働者を解雇する場合に解雇予告手当を支払うことにより解雇予告の日数を短縮することが出来る」という趣旨の記載がされています(労働基準法第20条)。

【労働基準法第20条】

第1項 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
第2項 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。
第3項(省略)

しかし、この法律は使用者(会社・雇い主)が従業員を解雇する場合において、「解雇予告の義務」と「解雇予告手当を支払うことによる解雇予告日数の短縮」について規定したものであって、解雇予告を支払えば従業員を自由に解雇してよいとは一切規定されていません。

どのような解釈の立場をとったとしても、この条文からそのような結論を導き出すことはできませんので、「解雇予告手当を支払えば自由に解雇できる」は明らかな間違いといえます。

スポンサーリンク

使用者が労働者を解雇するためには「客観的に合理的な理由」が必要で、さらにその理由が「社会通念上相当」と認められるものであることが必要

そもそも、使用者(会社・雇い主)が労働者(従業員)を解雇する場合には、その解雇する理由について「客観的に合理的な理由」が存在していることとともに、その解雇の理由が「社会通念上相当」と認められる場合でなければ、その解雇は無効となります(労働契約法第16条)。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

どのような解雇が「客観的に合理的な理由」があって「社会通念上相当」といえるかという点についてはケースバイケースで異なりますし、ここで説明できるほど簡単でもありませんのでここでは詳述しませんが、法律の条文上「客観的に合理的な理由」だけでなく「社会通念上相当」と重ねて規定されていることから、解雇が厳しく制限されている(いったん雇い入れた労働者を解雇することはよほどのことがない限り難しい)ことがわかるでしょう。

このように、日本の労働法令上は、使用者(会社・雇い主)が雇い入れた労働者(従業員)を自由に解雇することは認められていないということは理解しておいてもらいたいと思います。

「解雇予告手当を支払えば解雇してよい」は明らかな間違い

冒頭で説明したとおり、「解雇予告手当さえ支払えば解雇しても良い」というのは明らかな間違いです。

前述したとおり、労働基準法の第20条には「労働者を解雇する場合に解雇予告手当を支払うことにより解雇予告の日数を短縮することが出来る」という趣旨の記載されていますが(労働基準法第20条)、これは使用者(会社・雇い主)が従業員を解雇する場合における「解雇する場合は30日以上の解雇予告をしなければならないという義務」と「解雇予告手当を支払うことによって解雇予告日数を短縮できるという特例」を規定した法律に過ぎません。

あくまでも法律上「有効」な解雇がなされた場合において、その「有効」な解雇をする場合に必要な解雇予告に関して、解雇予告手当を支払うことにより解雇予告の日数を短縮することが出来るということを規定しているものにすぎないのです。

条文を読んでもらえばわかると思いますが、解雇予告手当を支払えば「解雇予告の日数を短縮できる」とは記載されていても「解雇予告手当を支払えば解雇してよい」とは一切書かれていないのがわかるでしょう。

解雇予告手当を支払っても無効な解雇が有効になるわけではない

前述したように使用者が労働者を解雇する場合には「客観的合理的な理由」があり「社会通念上相当」と言えるものでない限り、その解雇は”無効”と判断されるのですから、そもそも”無効”な解雇に対して解雇予告手当を支払ったとしても、その”無効”な解雇が”無効”であることに変わりはありません。

”無効”である解雇が、解雇予告手当を支払うことによって”有効”になる根拠はありませんし、そのような解釈をすること自体無理があります。

解雇予告手当は、あくまでも法律上「有効」な解雇がなされた場合において、その有効な解雇を行う場合に解雇予告手当を支払うことで解雇予告日数を短縮できると規定したものにすぎません。

もともと「無効」な解雇に解雇予告手当を支払えばその「無効」な解雇が治癒されて「有効」になるというものではないのです。

「昔は解雇予告手当を支払えば解雇できた」は明らかな誤解

他のサイトやブログを見ていると、「日本では昔は解雇予告手当を支払えば解雇することが出来たが、労働契約法の第16条が制定されてから解雇ができなくなった」といった記述が稀に見受けられますが、これも間違っています。

確かに労働契約法に第16条のいわゆる「解雇権濫用の法理」が規定されたのは比較的最近ですが、労働契約法の第16条が規定される以前から日本では解雇が厳しく制限されています。

労働契約法の第16条が規定される以前は、解雇に関する明確な規定がなかったこともあり、また労働基準法に解雇予告手当の規定があるのも一つの理由として「解雇予告手当を支払えば解雇してよい」という間違った解釈が一般的に広がっていました。

そのため、使用者による勝手な解雇が横行していたのですが、当時は労働契約法の第16条のような解雇を規定した明確な法律がなかったために、労働者の解雇が争われた裁判では、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない限り権利の濫用として無効である」という法理論(解雇権濫用の法理)を適用して会社の行った解雇を無効と判断し、労働者の保護が図られていたのです。

しかし、法理論はあくまでも裁判所(三権分立の司法)が導き出した答えに過ぎず、法律という国会(三権分立の立法)の立法過程を経たものではありませんので、民主主義の観点から立法の必要が生じ、上記の「解雇権濫用の法理」を法律にまで昇華することによって労働契約法の第16条が制定されたというのが立法の経緯になります。

なぜこのような小難しい説明をここでしているかというと、「昔は解雇予告手当を支払えば解雇できた」といった間違った情報が広まると、使用者(会社・雇い主)が労働者を酷使する根拠の一つとして使われる恐れがあるからです。

「昔は解雇予告手当を支払えば解雇してよかった」という認識が広まってしまうと、「昔は解雇予告手当を支払えば解雇できたんだから、少しぐらいのサービス残業は我慢しろよ」とか「昔は解雇予告手当を支払えば解雇できたんだから、解雇されないだけありがたいと思え」などと使用者が労働者を隷従させる口実として使用するかもしれません。

また、労働者の方としても「昔は解雇予告手当を支払えば解雇できた」と使用者から言われれば、「解雇されないだけありがたい」と考えて無理な労働も我慢するような精神状態になってしまうことも少なからずあるのではないかと思います。

しかし、上記で説明したとおり、日本では労働契約法の第16条が制定される以前から、解雇は「合理的な理由」が存在し「社会通念上相当」と認められるものでない限り無効と判断されていましたし、解雇予告手当を支払えば解雇できたというようなこともなかったのが事実ですから、その点を誤解しないようにしてもらいたいと思います。


スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

関連トピックス